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温室効果ガス削減80%時代、高まる“蓄電”の役割

2016年6月14日(火曜日)

パリ協定へ対応する形で閣議決定された「地球温暖化対策計画」において、2050年までに現在より80%削減することが言及された。80%削減という大幅な削減では、省エネ、石炭からガスといった、より低炭素型エネルギーへの燃料転換、再生可能エネルギー普及という従来議論されている対応では実現が困難であり、よりエネルギーシステム全体での削減を進めることが必要となる。その観点からも電池を貯めるという蓄電の役割が急速に高まる。本稿では、独自のシミュレーションモデルを用いて、蓄電の重要性について定量的に分析した結果を提示する。

1.パリ協定を契機に本格化する大幅削減社会

2015年11月30日から12月12日まで、パリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においてパリ協定 (Paris Agreement)が採択され、気候変動対策のための国際的な取り組みの方向性が見えてきた。この協定で重要な点は産業革命以前と比較して平均温度の上昇を2℃に抑えることであるが、さらには1.5℃の上昇への抑制に関して言及されたことは大きな驚きをもって迎えられた。

では、気温の上昇を2℃に抑えるために先進国・途上国の排出量をどの程度まで下げる必要があるのだろうか? この問題については、IPCC 5th Assessment Reportにおいて、4つの「代表濃度経路シナリオ(RCP(Representative Concentration Pathways))」(【図表1】)が取り上げられており(注1)、平均気温の上昇を2℃以下に抑える(likely)シナリオとしてRCP2.6シナリオが示されている。

【図表1】 RCPシナリオ排出量シナリオ(PgC/年)
【図表1】 RCPシナリオ排出量シナリオ(PgC/年)
出典)RCP Database (Version 2.0.5) http://www.iiasa.ac.at/web-apps/tnt/RcpDb
各排出シナリオに関しての出典は巻末参照のこと
(注)化石燃料起源CO2排出

この排出量をどの国にどの程度配分するかに関しては、今後の議論に依存するが、RCP2.6シナリオを参照すると、世界の排出量が2020年にピークを迎えるのに対して、日本が含まれるR5OECD(注2)の排出量は、【図表2】の示すように、2010年にはピークを迎え、それ以降は排出量を削減する必要がある。また、2050年の排出量は2000年比で80.6%減という大幅な削減を達成する必要がある。このことは、先進国は2050年に80%前後の削減を目指す社会となることを示唆している。

【図表2】 先進国(R5OECD)と世界排出量RCP2.6シナリオ
【図表2】 先進国(R5OECD)と世界排出量RCP2.6シナリオ
(出典)RCP Database (Version 2.0.5) http://www.iiasa.ac.at/web-apps/tnt/RcpDbvan Vuuren, D., M. den Elzen, P. Lucas, B. Eickhout, B. Strengers, B. van Ruijven, S. Wonink, R. van Houdt, 2007. Stabilizing greenhouse gas concentrations at low levels: an assessment of reduction strategies and costs. Climatic Change, doi:10.1007/s/10584-006-9172-9.
(注)2010 = 1

日本国内においても、パリ協定を契機に、長期的な温室効果ガス削減目標に関して議論が進められている。2016年5月13日に閣議決定した「地球温暖化対策計画」(注3)においても、「長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」と記述されるなど、ゼロカーボン社会実現へ向けての動きが加速化しつつある。

2.80%削減時代でのDispatchability(需要呼応性(注4))という視点の必要性

昨今、発電技術をDispatchable(需要呼応性)とIntermittent(間欠性(注5))という2つの種類に分類し、議論することが増えてきている。需要呼応性とは、電力の需要に応じて発電技術側で出力調整が可能なものを指す。稼働力調整を行うことで電力需要に対して余剰・不足状態が生じることを回避し、同時同量を実現する。一方、間欠性とは、出力調整が困難な電源を指し、代表的なものでは風力発電や太陽光発電がある。これらの電源は、風任せ、太陽任せであり、需要とは関係なく発電が実施される。昨今、急速に増えるこのような不安定型再生可能エネルギーともいえる間欠性電源のため、電力システム全体で同時同量の実現が困難となるシステム不安定化が問題となっている。そのため、このように電源を2つの種類に分けて電力システム安定化の検討を行うことが増えてきている。

さらに、需要呼応性に関して付け加えると、どこまでも電力需要に合わせて調整が利くわけではない。以下に示す4つの視点が重要である。

1)容量利用率制約
発電技術は、発電可能な最大容量の中で自由に発電容量を決めて稼働できるわけではない。例えば、50万kWの発電機を1,000kWという非常に低い利用で稼働させることはできない。

2)稼働率変化制約
有する発電容量の中で利用する容量を瞬時に変化させることはできない。

3)部分容量利用による発電効率
多くの発電技術は、フル容量での稼働の際のエネルギー効率が高い。有する発電容量の使用率が低くなれば低くなるほど、発電効率は低下する。そしてある一定の稼働率を下回ると稼働を続けることができなくなり、稼働停止を行う必要が生じる。

4)再稼働・停止時間
稼働停止するために必要な時間、また停止状態から再度稼働させるまでに有する時間は、電源種別によって大きく異なる。

電力に占める再生可能エネルギーの比率が3割(注6)を超えたドイツなどでは、不安定型再生可能エネルギーに起因する電力システム不安定化を回避するためにガス火力の稼働力を変更させることで対応することが主となっている。しかし、上記に示したことを考慮すると、火力発電のみで電力システムを安定化させることがコスト面で効率的になるとは必ずしも言えない。

電力システムの安定化に関しては、これらの技術レベルでの需要呼応性および間欠性を考慮する必要がある。しかし、最適なエネルギーミックスを決めるための多くのモデル計算では、この2つの特性を加味していないのが現状である。ここでは、富士通総研が有するエネルギー・シミュレーションモデルを用いて、これら2つの特性を加味することで、再生可能エネルギー増加によって電力システム安定化のニーズが高まる中で、蓄電(electricity storage)(注7)がどの程度必要性になるかということについて定量的な評価を実施する。

3.想像以上に拡大が期待できる“蓄電”の役割

今回は、2050年時点で80%の削減(注8)を行うことによる蓄電技術による蓄電量の予測を行ってみた(【図表3】)。まずは青い線を見ると、温室効果ガス削減が高まると同時に指数関数的に蓄電量(注9)が増えていることに注目する必要がある。これは、温室効果ガス削減の進捗により、再生可能エネルギーの普及が進み、その結果、電力システム安定化を目的とした蓄電量が増加することを示している。2050 年には213TWhの蓄電が必要となることを示している。2014年度の発電量が910TWh(注10)であることを考えると、この蓄電量の大きさがわかるであろう。つまり、2050年においては、電力は現在のように発電されたものが(蓄電されずに)同時に消費されるのではなく、いったん蓄電されたのち、電力が不足する場合には蓄電された電力が活用されることが一般的になることを本シミュレーション結果は示している。

赤い線は、上述した需要呼応性を考慮していない場合のシミュレーション結果である。需要呼応性を考慮した青い線と比較した場合、2030年時点で59.0TWh、2050年時点で51.8TWhの蓄電の必要性を過小評価していることとなる。このことより、実際にはより早い段階で蓄電ビジネスの拡大が期待できる。

【図表3】 蓄電量予測
【図表3】 蓄電量予測

参考文献

排出量のシナリオの詳細に関しては、以下の論文を参照のこと。

RCP 2.6:
van Vuuren, D., M. den Elzen, P. Lucas, B. Eickhout, B. Strengers, B. van Ruijven, S. Wonink, R. van Houdt, 2007. Stabilizing greenhouse gas concentrations at low levels: an assessment of reduction strategies and costs. Climatic Change, doi:10.1007/s/10584-006-9172-9.

RCP 4.5:
Clarke, L., J. Edmonds, H. Jacoby, H. Pitcher, J. Reilly, R. Richels, 2007. Scenarios of Greenhouse Gas Emissions and Atmospheric Concentrations. Sub-report 2.1A of Synthesis and Assessment Product 2.1 by the U.S. Climate Change Science Program and the Subcommittee on Global Change Research. Department of Energy, Office of Biological & Environmental Research, Washington, 7 DC., USA, 154 pp.
Smith, S.J. and T.M.L. Wigley, 2006. Multi-Gas Forcing Stabilization with the MiniCAM. Energy Journal (Special Issue #3) pp 373-391.
Wise, MA, KV Calvin, AM Thomson, LE Clarke, B Bond-Lamberty, RD Sands, SJ Smith, AC Janetos, JA Edmonds. 2009. Implications of Limiting CO2 Concentrations for Land Use and Energy. Science. 324:1183-1186. May 29, 2009.

RCP 6.0:
Fujino, J., R. Nair, M. Kainuma, T. Masui, Y. Matsuoka, 2006. Multi-gas mitigation analysis on stabilization scenarios using AIM global model. Multigas Mitigation and Climate Policy. The Energy Journal Special Issue.
Hijioka, Y., Y. Matsuoka, H. Nishimoto, M. Masui, and M. Kainuma, 2008. Global GHG emissions scenarios under GHG concentration stabilization targets. Journal of Global Environmental Engineering 13, 97-108.

RCP 8.5:
Riahi, K. Gruebler, A. and Nakicenovic N.: 2007. Scenarios of long-term socio-economic and environmental development under climate stabilization. Technological Forecasting and Social Change 74, 7, 887-935.

大槻、小宮山、藤井(2015)、「間欠性再生可能エネルギー大量導入時における出力抑制量・蓄電池導入に関する一考察」、電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌) Vol. 135 (2015) No.5 p299-309.

近藤(2012)、「これからのエネルギー技術」、tokugikon , 2012.5.14 no.265, p18-30.

注釈

(注1) : 日本語での各シナリオの概要は、http://www.jccca.org/ipcc/ar5/rcp.htmlOpen a new windowに詳しい。

(注2) : R5OECDは先進国のグループであり、Albania, Australia, Austria, Belgium, Bosnia and Herzegovina, Bulgaria, Canada, Croatia, Cyprus, Czech Republic, Denmark, Estonia, Finland, France, Germany, Greece, Guam, Hungary, Iceland, Ireland, Italy, Japan, Latvia, Lithuania, Luxembourg, Malta, Montenegro, Netherlands, New Zealand, Norway, Poland, Portugal, Puerto Rico, Romania, Serbia, Slovakia, Slovenia, Spain, Sweden, Switzerland, The former Yugoslav Republic of Macedonia, Turkey, United Kingdom, United States of Americaが含まれる。
出典:https://tntcat.iiasa.ac.at/SspDb/dsd?Action=htmlpage&page=aboutOpen a new window

(注3) : http://www.env.go.jp/press/102512.htmlOpen a new window

(注4) : Dispatchableは日本ではあまり馴染みのない言葉で、共通で用いられる和訳がない。ここでは、近藤(2012)の訳を用いる。

(注5) : ここでは、大槻ら(2015)の訳を用いた。

(注6) : http://www.de-info.net/kiso/atomdata01.htmlOpen a new window

(注7) : 我が国では、蓄電と言えば電池をイメージすることが多いが、海外では揚水発電、運動エネルギーに変換し電気を貯めるフライホイールバッテリー、電気分解による水素製造など、多様な蓄電技術を含む。ここでは、この多様な蓄電技術を用いた電気を貯めることを蓄電とする。

(注8) : 2013年比

(注9) : ここでの蓄電量は、蓄電池のみならず電力を用いた電気分解での水素製造、揚水発電量により長期での充電放電サイクルの蓄電技術によるものすべてを含む。シミュレーションでは、技術単位での充電量、各年の充電技術投資費用も算出されるが、ここでは詳細に関しては割愛する。

(注10) : http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/pdf/kaiken_s1_20150522.pdf

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【調査・研究】


濱崎 博(はまさき ひろし)
株式会社富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
MSt (Master of Studies) in Manufacturing, University of Cambridge, Wolfson College, the United Kingdom. MSc (Master of Science) and DIC (Diploma of Imperial College) in Energy Policy, Imperial College Centre for Environmental Technologies (ICCET), Imperial College of Science, Technology and Medicine, University of London, the United Kingdom.
1995年 富士総合研究所(現 みずほ情報総研)入社、1997年 富士通総研経済研究所入社、2007年~2009年 国際公共政策研究センター出向、2009年5月~ 国際公共政策研究センター客員研究員。
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