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Fintechの本質的な価値とは何か?

2016年5月27日(金曜日)

2015年、金融業界において最も話題となったキーワードに「Fintech」が挙げられます。Finance(金融)とTechnology(技術)の融合を意味するFintechは、その明確な定義が定まっているわけではありませんが、経済紙や専門雑誌だけでなく一般紙においても幾度となく登場することで急速に普及しています。このようなキーワードは「バズワード(Buzzword)」と呼ばれ、ICTといった変化の速い領域において新たな概念を説明する際にしばしば生み出されます。

一般的にバズワードとなった用語は、急速に注目を集めた後、短期間で世間の関心を失い、忘れ去られてしまうことも少なくありません。Fintechもバズワードとして捉える向きがありますが、このような過程をたどってしまうのでしょうか?

1. 正念場を迎えるFintechサービス

こうした見方を裏付けるかのような出来事が最近になって立て続けに発生しています。2015年末から2016年4月にかけて、市場から有望と目されてきたFintech企業が突然、その事業を停止するといった事例が相次いでいるのです。

2015年12月、磁気カードの情報を1枚の“万能型”カードに集約するサービスを提供していたSTRATOSが突然、そのサービス提供を停止することを発表しました。同社のサービスは、その利用のしやすさ、デザイン性の高さなどから多くのメディアに取り上げられ、注目を集めていたにもかかわらず、事業資金が尽きてしまったのです。幸いにもその後、STRATOSの事業を引き受ける企業が現れ、現在もサービスは継続していますが、Fintechサービスを提供する企業の多くがスタートアップである以上、こうしたリスクとは無縁とは言えません。

また、2016年初頭にはモバイル決済サービスを提供する有力Fintech企業であるPowa Technologiesが事業を停止しました。さらに、2016年3月にはスマートフォンのカメラで運転免許証を撮影して本人確認を行うサービスを提供するJumioもその事業を停止しました。Jumioは、その顧客に米大手航空会社United Airlinesといった大手企業が名を連ねており、また大手ベンチャーキャピタルからも資金提供を受けるなど、これからサービスが順調に拡大していくであろうと誰しもが予想していたのですが、残念な結果となっています。 Jumioの場合もそのサービス自体は大変評価が高いため、Jumioに資金を提供していた投資家で、Facebookの共同創業者であるEduardo Saverin氏が支援を表明しています。

このように、一見すると順調に成長しているように見られる有力Fintech企業もその事業が突然、立ち行かなくなる可能性を秘めています。2016年は、これまでに誕生した有力Fintech企業が今後も継続して事業を推進できるのかを占う、まさに正念場を迎えていくのかもしれません。

2. Fintechがもたらす価値とは?

今後、多くのFintech企業がその事業の継続性といった観点から多くの試練を迎えることになると、こうしたスタートアップを中心とした企業によってもたらされるFintechの価値とは何になるのでしょうか?

前述のようにFintechとは、FinanceとTechnologyの融合であると捉えた場合、重要となるのはTechnologyの発展によりもたらされる提供価値の変化です。周知のとおり、近年のICTを中心としたテクノロジーの発展は、業務効率化やコスト削減にとどまらず、顧客経験価値の向上やそれに伴う売上げ向上にまで及んでいます。ICTを中心としたテクノロジーの活用を伴うFintechにおいても同様に、従来の金融サービスの非効率性を解消したり、付加価値を向上させたりする画期的な金融サービスの登場に寄与しているのです。

例えば、Squareは、スマートフォンに小型のクレジットカードリーダーを挿し込むことで、クレジットカード決済が行える環境を提供するモバイルPOSサービスというビジネスを新たに開拓しました。Squareが登場するまでは、クレジットカード決済の導入にあたって、その信用照会端末の導入価格が高く、また、決済取扱手数料も中小・個人事業主にとっては大きな負担となっていました。しかし、Squareでは、誰もが所有するスマートフォンを端末として利用できることで、その導入価格を大幅に引き下げ、かつ決済取扱手数料も引き下げることで、クレジットカード業界のアクワイアリングビジネスを大幅に変革させたのです。このビジネスモデルは瞬く間に全世界に広がり、日本国内においても競合他社がサービスを開始し、街中でクレジットカード決済が利用できるシーンが拡大したのではないでしょうか。

実は、このように既存のビジネスモデルを大きく変革させたSquareの直近の業績は赤字であり、その事業継続は決して安泰とは言えない状態です。業界は異なりますが、タクシー業界を変革させたUberも同様にその業績が赤字であることが伝えられています。新たなビジネスを切り開き、業界を変革した“ファーストペンギン”であっても、必ずしもビジネスとして成功するとは限らない、別の問題なのです。しかしながら、これら企業が社会に提供している価値は計り知れないものがあります。

3. Fintechサービスのさらなる発展に向けて

今後、Fintechが金融サービスにもたらす変化は、多くの一般の利用者の生活水準を向上させ、より豊かな生活を送ることへの呼び水となるかもしれません。モバイル端末の普及や人工知能の活用など新たなテクノロジーが普及することにより、金融サービスへのアクセスが可能となり、これまでにない新たな金融サービスが登場することで、その生活水準を向上させることが可能となってきています。

例えば、新興国においては、金融機関に口座を持たず、そのサービスを利用したことがない人々が大半ですが、こうした状況を改善するサービスが誕生しつつあります。アフリカ諸国においてマイクロファイナンスサービスを提供してきたKivaの創業者であるマシュー・フラナリーは、Branch Internationalと呼ばれるクラウドプラットフォーム上で利用できる銀行という新たなサービスを立ち上げています。そこでは人工知能を活用して利用者の「信用」を新たに生み出し、ローン提供を行うといったビジネスを検討しています。このほか、フィリピンやコロンビアでサービスを展開するFintechスタートアップLenddoは、新興国の人々に対して融資サービスを提供してきた実績を基に、これまでのデータを分析し、他の低所得者向けローン提供事業者に対して独自の審査アルゴリズムを提供するビジネスを行っています。

今後は、Fintechを活用し、新興国を中心として利用者の生活水準を向上させる取り組みが一般的となっていくでしょう。例えば、ビル・ゲイツが主導する世界最大級の慈善団体であるBill & Melinda Gates Foundationでは、最重要視するプロジェクトの1つにモバイルマネーによる貧困の是正を挙げています。また、2016年4月に世界銀行グループが発表したレポートでは、これら新興国の人々の生活水準向上のためにFintechをはじめとした新たな決済サービスの活用を謳っています。

今後は、こうした新興国から誕生したFintechサービスが世界を席巻することも考えられます。Fintechによりもたらされる金融サービスの変革は、新興国における生活水準の向上をもたらすとともに、世界全体を巻き込む新たなイノベーションの源泉となる可能性を秘めているのです。

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【Fintechとは何か】
金融とテクノロジーの融合は金融サービスを革新的に変化させるのか、それともバブルに過ぎないのか。海外の豊富な先行事例を解説し、金融機関はFintechスタートアップ企業とどのように関わるべきか、ユーザーにとってのメリットは何か、判断する材料を提示。関心が加速度的に高まるFintechを正確に理解し、冷静に考えたいと望む読者に向けた一冊。

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松原 義明

松原 義明(まつばら よしあき)
株式会社富士通研究所アメリカ Research Analyst
2007年富士通総研入社。入社より一貫して金融業界向けのコンサルティング、調査業務に従事。海外金融機関における先進サービスに関する調査業務、国内金融機関におけるソーシャルメディア、スマートデバイス活用に関するコンサルティングを実施。2016年4月より富士通研究所アメリカにてFintechならびに金融サービスの最新動向に関する調査活動に従事。