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【フォーカス】日本国内におけるFintechサービスのさらなる発展に向けて

2016年5月27日(金曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

Fintechは海外で先行していますが、技術的・社会的な背景や法制度の支援にはどのようなものがあるのでしょうか? 日本で今後、Fintechサービスがさらなる発展を遂げる上で何が必要となるのでしょうか?

本対談では、「日本国内におけるFintechサービスのさらなる発展に向けて」というテーマで、株式会社みずほフィナンシャルグループ リサーチ&コンサルティング業務部の小鈴次長、株式会社富士通総研(以下、FRI)の隈本シニアマネジングコンサルタント、富士通研究所アメリカ(以下、FLA)の松原リサーチアナリストに語っていただきました。進行役はFRI第一コンサルティング本部の長堀本部長です。

1. Fintech の概況/この1年を振り返る

【長堀】
本日は「日本国内におけるFintechサービスのさらなる発展に向けて」というテーマで対談いただきます。まず、この1年のFintechの状況を概観いただけますか?

【隈本】
日本でFintechに関して初めて大きくメディアに取り上げられたのは昨年2月に発行された「週刊 金融財政事情」誌によるFintech特集だと思いますが、背景には金融庁の「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」や、テクノロジーによって金融業界に大きなイノベーションが起こるのではというメガトレンドが底流にあり、これが顕在化したのではないかと思っています。「Fintech」という言葉自体は10年以上前から存在しており、銀行の勘定系システム、営業店端末、ATM、インターネットバンキングといった単純な金融ICTを指して「Fintech」と呼んでいました。海外のレポートなどでも、FintechトップベンダーとしてIBMや富士通、野村総合研究所といった金融関係のシステムを提供するICTベンダーが並んだりします。しかし、近年ではICTを駆使して、利用者の立場でより利便性が高く、革新的で、使い勝手の良い、使っていて楽しい金融サービスを提供することをもってFintechと呼ぶように変わってきているのが特徴です。

銀行、ICTベンダーといった重厚長大産業だけではカバーしきれない、痒いところに手が届かない部分に、様々なベンチャー企業が新しいサービスを届け始めています。例えば、日本ではマネーフォワードやFreee等、様々なベンチャー企業が金融サービスやその関連サービスを手広く提供しています。一方、伝統的な金融機関がFintechサービスに取り組む例も出ています。みずほ銀行様を例に取ると、Fintech企業と銀行が提携するモデルとしては、マネーフォワードと提携して入金消込や給与振込といった中小・小規模事業者向けのサービスを行っていますし、逆に銀行グループ内の経営資源を利用して新しいサービスを開発するモデルとしては、SMART FOLIOのようなロボアドバイザーサービスを提供されており、様々なパターンで利便性が高いサービスが出てきています。一方、ICTベンダーの取り組みとしては、富士通もFIFJ(Financial Innovation For Japan)のような大規模なコンソーシアムを設立していますが、IBM、NTTデータといった各社が様々な取り組みをされているので、ちょうど昨年が日本にとってFintech元年だったかと思います。

【長堀】
2015年は金融機関やFintech企業、ICTベンダーがFintechサービス普及に向けて積極的に動いたことに加えて、政府がこうした動きを後押ししたことが大きいと思います。私も先日、経済産業省にて開催された「産業・金融・IT 融合に関する研究会(FinTech研究会)」に出席しましたが、Fintechに関する様々な論点が包括的に議論されていたのが印象的でした。金融庁においては、日本国内におけるFintechサービスの普及を支援する取り組みを行っていますが、前任のみずほ総合研究所に在任されていた際、金融庁の「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」にメンバーとして参加されていた小鈴様にそのあたりをお話しいただけますか?

【小鈴】
金融規制という観点からは、今年がFintech元年という位置づけになると見ています。Fintech企業の活動が活発化して金融機関もその対応を加速させていく中、わが国の金融規制は伝統的な金融業のあり方を前提とした枠組みとなっており、環境の変化を踏まえた本格的な見直しは行われてきませんでした。特に、銀行グループについては、個人から大企業まで幅広い取引先を持つ経済のインフラという側面もあることから、健全性の維持が強く求められており、営むことができる業務の範囲は法令で列挙されたものに限定されています。したがって、銀行グループが技術の取り込みを目的としてICT企業に出資しようとしても、規制上の制約によって実現できないケースが多いのが現状です。

こうした中、昨年末に取りまとめられた金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」の報告書では、「金融関連IT企業等への出資の容易化」が盛り込まれました。これは、銀行グループが営むことができる業務の範囲について、法令で列挙されていない業務についても、当局による個別の認可のもとで営むことを可能とし、より柔軟な業務展開を認めるものです。

これにより、銀行グループがFintechに対して将来の可能性を見据えた柔軟で戦略的な対応を行うことが可能となるほか、従来の発想では銀行グループの業務範囲ではないと整理されていたものが銀行業務と組み合わせられて、利用者利便の高いサービスの提供につながることが期待されています。

当局による認可にあたっては、銀行グループの財務の健全性に問題がないか、銀行業務のリスクとの親近性があるか、銀行本体にリスクが波及する程度が高くないか、といった従来からの着眼点だけでなく、金融サービスの拡大やサービス提供機会の増加に寄与するか、といったこれまでの金融規制の発想になかった新しい着眼点が加えられています。

金融審議会では、このほかにも、「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」が同じく昨年末に報告書を取りまとめています。その中で、Fintechとの関連で注目すべき事項としては、仮想通貨に関する法規制の導入が挙げられます。

ビットコインをはじめとする仮想通貨は、ほぼリアルタイムで価値の移転が可能で、匿名での利用が可能であることから、マネー・ローンダリング等に悪用されるリスクが指摘されており、国際的に規制導入の要請が高まっています。さらに、わが国では2014年に当時世界最大級の仮想通貨の交換所であったマウントゴックスが破綻するという事例が発生したことを契機に、利用者保護の要請が高まっていることも踏まえ、仮想通貨に対する規制の枠組みを新たに導入する方向性が示されました。

具体的には、仮想通貨と法定通貨の売買等を行う交換所に対して、犯罪収益移転防止法に規定される本人確認等の義務を課すとともに、登録制の下で最低資本金等の財務規制や顧客から預かった資産の分別管理などの規制を課すこととしています。

これらの内容を盛り込んだ今般の改正法案の件名は「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」とされています。これまでは単に「銀行法等の一部改正」とされることが多かったのですが、今回は「情報通信技術の進展等への対応」という目的が明記されており、こうした面からもステージが大きく変わったと感じています。

【株式会社みずほフィナンシャルグループ リサーチ&コンサルティング業務部 次長 小鈴 裕之 氏】
【株式会社みずほフィナンシャルグループ リサーチ&コンサルティング業務部 次長 小鈴 裕之 氏】

【隈本】
Fintechを象徴するような法案名ですね。「IT」ではなく「情報通信技術」なのですね。

【小鈴】
昨年の金融審議会ワーキング・グループの報告書までは「IT」が使われていましたが、法案名となるとやはり「情報通信技術」ということでしょうか。改正法は公布の日から1年以内に施行することとされており、今後は、政省令等の改正が行われることとなります。一日も早く制度を使えるようにすることも大事ですが、実際に制度を利用する金融機関やFintech企業にとって使いやすい制度とすることも、日本のFintechの発展において重要なポイントになるでしょう。

また、規制の見直し以外にも、Fintechの振興に向けた動きが活発化しています。

金融庁は、「平成27事務年度金融行政方針」において、重点施策としてFintechへの対応を掲げており、技術革新がわが国経済・金融の発展につながるような環境を整備する方針を示しています。その一環として、昨年12月には、「Fintechサポートデスク」を設置して、Fintechに関連した事業を営む、または新たに事業を検討中の事業者に対し、主に法令面からのアドバイスを提供するサービスを始めています。

また、日本銀行は今年4月に「FinTechセンター」を設置し、金融実務と先端技術、調査研究、経済社会のニーズなどを結び付ける「触媒」としての役割を積極的に果たしていく意向を表明しています。さらに、自由民主党も、同じく4月に「FinTechを巡る戦略的対応(第一弾)」を発表し、「日本発のグローバルFintech企業・サービスの創出や成長を進める」との方針を打ち出しました。

このように、行政や政治のサイドにおいても、Fintechの重要性に対する認識が高まっています。

2. 海外におけるFintech最新動向

【長堀】
日本でも官民を挙げてFintechの普及に向けた体制が整いつつありますが、先行している米国/欧米の現状はどうでしょうか? 米国のシリコンバレーに駐在して1カ月になる松原さんにそのあたりをお話しいただけますか?

【松原】
まず、海外のFintech事情全体の流れですが、2015年はFintech企業がこれまでになく注目された1年だったと感じています。2014年12月のレンディングクラブの新規上場(IPO)に始まり、主に中小企業や個人向けに資金提供を行うFintech企業が注目を集めました。米国西海岸に拠点を置くユニオンバンクや大手金融機関シティバンクなどは、こうした潮流をいち早く捉えてレンディングクラブと提携するなど、金融機関の伝統的業務にもFintech企業が入り込んできました。マッキンゼー&カンパニーが昨年発行したFintechに関するレポートによると、「グローバルで金融機関の消費者金融に関する利益の6割がFintech企業によってDisrupt(破壊)される」とも言われており、これら融資を行うFintech企業が伝統的な金融機関のビジネスにどう影響を与えていくのかということで注目が集まっています。ヨーロッパでも今年2月にロンドンでFinovate EuropeというFintechベンチャーが集まる世界最大級のイベントが行われましたが、過去最高の参加者を記録したと言われています。出展されたFintech企業によるサービスも、これまでは決済やセキュリティ分野が多かったのですが、ロボアドバイザーで注目が集まる資産運用分野からも多くのFintechサービスが出展され、米国だけでなくヨーロッパでも活況を呈している感があります。

米国に住んでまだ1カ月ほどしか経っていないのですが、このような短期間でもFintechサービスが日常に根付いていることを実感しています。米国は基本的にクレジットカードやデビットカード、または小切手で支払うキャッシュレス文化が根付いています。しかし、現金を使う機会も少なからず存在し、例えば、皆でレストランで会食後に割り勘で支払う場合などが挙げられます。このような場合、スマートフォンを利用して個人間で送金できるFintechサービスを利用して支払いをします。私も先日、現地駐在員と食事をしたのですが、その支払いでは、1人がクレジットカードでその場の支払いを済ませた後、皆でSquare Cashと呼ばれるモバイルPOSサービスを手がけるスクエアが提供している個人間送金アプリを利用して、その場で簡単に支払いを済ませました。この他にも、米国は日本と異なり、小規模の小売店でもクレジットカードが使えることは広く知られていますが、日本のような大掛かりな決済端末を見かけることはなく、スマートフォンやタブレットで代替しています。モバイルPOSと呼ばれるスマートフォンやタブレットに簡易のクレジットカードリーダーを加えたものが主流で、一般的な小売店のPOS端末の代わりとなっています。こちらもスクエアが提供していますが、他社の決済サービスも見かけるなど、Fintechサービスが広く普及していることがわかります。

【株式会社富士通研究所アメリカ Research Analyst 松原 義明】
【株式会社富士通研究所アメリカ Research Analyst 松原 義明】
シリコンバレー(FLA)よりWeb会議で対談に参加

【長堀】
Square Cashのサービスについてもう少し詳しく教えてもらえますか?

【松原】
Square Cashはスマートフォンにアプリをインストールし、手持ちのデビットカードの券面をカメラで撮影すると、カード番号を自動で読み取って登録し、わずか5分程度で利用できる送金サービスです。登録できる口座に関しては、(一部登録できない口座があるようですが、)特に制限がなく、基本的にカードの券面を撮影することで簡単に登録できます。送金された資金は、デビットカードに連動している当座預金に振り込まれます。この場合、一切手数料がかからず、その場で相手に通知が行われるとともに、翌日には送金自体が完了しているので大変便利なサービスです。ちなみにクレジットカードも登録できますが、手数料が3%ほどかかります。このように簡単に利用でき、なおかつデビットカードであれば手数料もかからないので、個人間の割り勘用という形で、私の駐在先である富士通研究所アメリカでは、皆が利用しています。

【小鈴】
利用者視点から大変便利なサービスであることはわかったのですが、Square Cashはどこで収益を上げているのですか?

【松原】
そのあたりが正直なところわかりづらいですね。Square Cashは個人間送金サービスの分野では後発であるため、まずはユーザー基盤を拡大して、多くの利用者の支持を取り付けたいのだと思われます。現在は友人同士で利用を奨めるキャンペーンが行われていて、まずはユーザー基盤を拡大することを目指しているようにも感じられます。

【小鈴】
キャンペーン中ということは、いつかは手数料が発生するのでしょうか?

【隈本】
米国の個人間送金サービスの収益モデルは、手数料モデルに加えてデータを活用した与信やマーケティングモデルが考えられます。米国では、Venmoというペイパルグループが提供するサービスが存在します。若年層を中心に個人間で大いに利用されています。また、米国のグーグルでは、その決済サービスであるGoogle WalletとGmailが連携していて、E-mailにファイルを添付する感覚で送金することができます。どちらも無料で利用でき、ユーザーの生活動線と組み合わさったお金をやりとりするサービスとして広く利用されています。ここからは推測ですが、これらのサービスを無料提供している背景には、まずは、多くの人々が利用する利便性の高いプラットフォームを作り上げることが重要で、プラットフォームを作り上げた後、プラットフォーム上でデータを収集して活用するなどの収益モデルを組み立てていこうとしているのではと考えられます。いずれにせよ収益化自体はなかなか難しい問題かもしれません。

【松原】
こちらのスタートアップ企業はFintechに限らず他業界でも収益化をどうするのかが課題となっているサービスが多々見受けられます。モバイルPOSサービスやSquare Cashを提供しているスクエアも昨年のIPOの際には、その業績が良くないことが取り沙汰されていました。他業界となりますが、シェアリングエコノミーの代名詞とされ、個人の乗用車をタクシー代わりに利用するサービスで有名なウーバー(Uber)も最近のニュースで、昨年は2300億円もの赤字を計上したと言われています。これらの有望なスタートアップ企業は、直近の業績が良くなくても提供しているビジネスの将来性から多くの資金を調達できる側面があります。

【隈本】
サービスを立ち上げている時期なので、営業や研究開発に費用がかかっているということかと思いますが、それがいつ収益化するかは今後大きな論点になってくると思います。

【長堀】
アマゾンも10年近く赤字で、つい最近黒字化しましたが、次々と新しい事業を始めるので、その利益率は依然として低い状態です。伝統的な企業の場合、ずっと低迷した状態とも受け止められかねませんが、そのビジネスの将来性が依然として高く評価されているので、時価総額では世界有数の企業となっています。これら新興企業は、BS/PL、利益率といった従来の経営指標ではその価値を測ることが難しいのではと感じます。ところで、海外のFintechブームの社会的背景や技術的背景には何があるのでしょう?

【株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部長 長堀 泉】
【株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部長 長堀 泉】

【隈本】
Square Cashもそうですが、スマートフォンはインパクトの大きい媒体だったと思います。富士通が1999年に出したスーパーコンピュータと最新のスマートフォンを比べると、今のスマートフォンの性能の方が30倍以上良いのです。イメージとしては、個人の利用者が理化学研究所の「京」を身に着けて生活しているくらいの環境変化が起きた状態です。このようなデバイスが普及することで全国的にFace to Faceの拠点を整備しなくても金融サービスを提供することができます。また、Amazon Web Servicesに代表されるクラウド・サービスが本格普及して、メインフレーム・コンピュータで稼働する大規模な情報システムがなくても、金融サービスに関するアイデアがあり、プログラムを書くことができれば簡単にサービスが実現できます。さらに、データが大量に蓄積されていることも重要なポイントです。ビッグデータ、人工知能(AI)といったキーワードが象徴するように、様々なデータを使って、これまで以上に、個々人を特定したマーケティングや与信判断ができるような環境が整いつつあります。元々、金融業は、現金や手形・小切手といった現物を除けば、取り扱うモノがほぼデータ化されており、その本質的な機能として情報生産機能があることを考えるとデジタル化の影響を受けやすい産業であると考えられます。

また、利用者の価値観の変化も大きいでしょう。米国のメディア企業バイアコムが2014年に発表した「Millennial Disruption Index」というレポートでは、アメリカの1980~2000年生まれのミレニアル世代、これから銀行口座を作ったり、住宅ローンを借りたり、資産運用や老後が気になったりする次代の中心顧客層が何を考えているかというと、7割は「銀行員の話を聞くくらいなら歯医者に行く」であるとか、「グーグルやフェイスブックやアマゾンが金融サービスを提供してくれるなら伝統的な金融機関よりもそちらを利用したい」と考えているのです。普段利用しているデジタルサービスの方が彼らにとって身近だとすると、金融サービスも同じようなかたち、最近の言葉でいうとUX(ユーザー・エクスペリエンス)でないと受け入れられないのではないかという危機感がFintechの潮流の源泉ではないかと思います。

こうしてテクノロジーサイドと利用者サイドで大きな変化が起きていることが、冒頭で述べたように、Fintechの言葉の用法が変化している理由として大きいでしょう。

3. 海外におけるFintechの振興に向けた行政の取り組み

【長堀】
ここまで海外の提供者側、利用者側の視点で話をしてきましたが、ここで両者を支援するための行政の取り組みの話に移りたいと思います。Fintechへの対応において先行していると言われる米国や英国、そしてシンガポールといった諸外国では、Fintechの振興に向けて、行政がどのような取り組みを行っているのでしょうか?

【小鈴】
Fintech企業が最も集積しているのは米国西海岸のシリコンバレーですが、近年の成長のスピードという観点で世界から注目を集めているのは英国ではないかと思います。

英国の金融行為規制機構(FCA)では、2014年10月から「Project Innovate」という取り組みを開始しており、消費者のためにFintechを通じた金融サービスのイノベーションを起こすことを目的とした様々な政策をスタートさせています。具体的には、イノベーションの妨げとなっている規制を調整したり、法律を実際に適用する前に問題がないかを確認したりといったもので、相当な成果が上がったと発表しています。

さらに、Regulatory Sandboxと呼ばれる取り組みも開始されています。これは、革新的な金融サービスを提供するにあたり、すべての規制を即時に適用するのではなく、一定の制限の下で実社会への影響を抑えつつ、安全な実験環境の場を提供するものです。

このような規制や運用面での様々な創意工夫は、ロンドンが国際金融センターとして発展してきた素地になっていると考えられ、現状の地位に安住することなく新たな取り組みを積極的に推進していく姿勢は非常に参考になります。

また、アジア太平洋地域でも、シンガポール金融管理局(MAS)が昨年6月にFintech & Innovation Groupという専門組織を立ち上げているほか、オーストラリアでも、政府の支援の下でシドニーにFintechハブを開設してスタートアップ企業の支援を行うなど、各国でFintechを推進する動きが活発化している状況です。

こうした中、Fintech先進国である米国でも、金融規制当局の1つである通貨監督庁(OCC)が、今年3月にイノベーションの促進に向けて規制環境を整備していく上での8つの原則を示し、それに対して幅広い意見を求めているところです。米国もFintech企業が多く集まる地の利を生かして、規制面での取り組みをさらに推進していくことが見込まれます。

【隈本】
サンドボックスという概念も、ICT業界で多用される考え方であり、Fintechを象徴していますね。

【長堀】
日本のように法制度を制定してから進めていくと、スピード面で他国に後れをとってしまうので、将来起こることをある程度予測して先に制度を変えていくフォワード・ルッキングな法制度が必要であるといった議論を聞いたことがあります。

【小鈴】
金融規制のあり方を考える際には、金融システムの安定性・健全性とイノベーション促進とのバランスのとり方が重要です。イノベーションの促進に偏りすぎた規制を導入した場合、平時には問題がなかったとしても、事業者が破綻した際の利用者や金融システムへの影響等が大きくなることも意識する必要があります。

一方で、時代の変化のスピードは今後さらに加速していくことが予想される中で、金融規制が時代の変化を後追いするといったような状況が続けば、金融が実態経済の足を引っ張ってしまうといった事態になりかねません。そうなると、経済の動きが鈍り、金融の流れも悪くなるという悪循環に陥ってしまいます。社会や経済の変化のスピードにしっかりついていくことができる枠組みを構築することが、金融機関の側にも、金融規制当局の側にも求められていると思います。

4. Fintechの未来

【長堀】
諸外国においてFintech促進に向けた取り組みが進んでいることがわかりました。今後、Fintechはどのような発展を遂げていくのでしょうか? Fintechの未来について、それぞれお話しいただけますでしょうか?

【松原】
先ほども議論になりましたが、今後はFintech企業がそのサービスを継続的に安定して提供できるのかにも注目が向けられると思います。というのも、昨年末から今年の3月にかけて、海外で有望と思われていたFintech企業が3社も立て続けに事業停止してしまったのです。1社はストラトス(Stratos)という会社で、1枚のカードに手持ちの磁気カードの情報をすべて入れて、1枚のカードであらゆる決済シーンに対応できるというサービスを提供していましたが、昨年末に突然、事業を停止すると発表しました。(その後、救済する会社が現れて、事業を再開しました。)2社目は、スクエアのライバルと目されていたポワ・テクノロジーズ(Powa Technologies)という英国のモバイル決済の会社で、こちらは今年の2月に事業を停止し、その技術は他社に売却されてしまいました。3社目はスマートフォンのカメラで運転免許証の写真を撮ると本人認証ができるサービスを提供していたジュミオ(Jumio)という米国のFintech企業でしたが、こちらも今年の3月に日本の民事再生法にあたるChapter 11を申請しています。(会社自体は投資家が救済する方向で進んでいるようです。)いずれも、さらなる成長が見込まれる有力Fintech企業として注目され投資家から多くの資金提供を受け、そのサービスも好評だったのですが、突然事業の停止を発表したのです。いくら利用者にとって使いやすいサービスであったとしてもそれだけで存続するとは限らず、今後はFintech企業の選別が進んでいく気もします。

しかし、Fintechの価値はICTを活用した利便性の高いサービスを提供することで、利用者の利便性向上や、これまで金融サービスにアクセスできなかった人々がアクセスできるようになることにあると考えています。すでに多くの公的機関や慈善団体などがこのような価値に気づいており、例えば、ビル・ゲイツが運営する世界最大の慈善団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団では、新興国において金融サービスにアクセスできない人たちに、スマートフォンを活用したモバイルマネーサービスを提供することを発表しています。また、今年4月には、世界銀行グループがスマートフォンを活用した決済サービスの普及により、これまで金融サービスを利用できなかった人々が金融サービスを利用できるようになることで格差や貧困の是正に役立つ金融包摂(Financial Inclusion)という考えに基づくレポートを発表しています。Fintechサービスの発展は、利用者がより豊かな生活を享受することに寄与する方向へ発展していくものと考えています。

【隈本】
グローバルでも、日本でも、多くのFintechサービスが具体化されるにつれて、より利用者にとって価値あるサービスが選択される段階に入ってくるでしょう。近年の文脈でFintechという言葉が利用され始め、大きく成長したのはリーマンショック以降です。伝統的な金融機関のプレゼンスが低下する一方で、Occupy Wall Street(注1)に代表されるように、金融機関に対するアンチテーゼ、これまでとは違う選択肢として受け入れられてきた側面があります。多くのFintechはリーマンショック以降の景気拡大期に、伝統的な金融機関のプレゼンス低下の間隙を縫って、追い風を受けて拡大してきたところがあると思います。今後、景気後退局面を迎えることがあれば、個々のFintechサービスの真価が問われることになるでしょう。これは必ずしも悲観的な将来を意味するものではありません。

モバイルPOSの分野を例に取ると、先ほどスクエアの業績が芳しくないという話が出ましたが、この分野ではすでにさらに発展的なサービスが登場しています。ポイント(POYNT)やクローバー(Clover)といったサービスでは、Androidベースで動くスマートデバイスのような外見のPOSを提供し、その中で利用できる販売管理、経理、会計、クーポンといったものから、運転資金融資が受けられるものまで、様々なアプリを導入できる仕組みが構築されています。元々は単にスマートフォンを利用してクレジットカード決済を受け入れるサービスだったモバイルPOSが、今ではPOSを中心とした新しいプラットフォームにまで発展しています。

このような例からも分かるとおり、仮に1つのFintechサービスがうまくいかなくても、そのアイデアに新しいアイデアが接ぎ木され、Fintech全体としてはさらに発展していく動きにつながることが期待されます。Fintechに関連する中では「エコシステム」という言葉がよく利用されますが、Fintech企業同士やFintech企業と金融機関がつながっていくことで、全体として新しいものが生まれ、利用者価値が高まっていくことが望まれます。

日本でも、法制面を含めて様々な手立てが整いつつあり、Fintechに対してアクセルを踏んでいける段階に入ったと思います。中でも金融機関の役割は重要ですが、最近日本の金融機関の方々とお話していても“Fail First”といったキーワードを聴くようになってきたので、状況が変わってきているなと感じます。その一方で、金融は基本的に健全で安定的な産業であるべきである点も動かせないので、その折り合いをどこに見つけていくかという点は、具体化の段階に入ったFintechに関して、実務レベルでクリアしていかなければならない課題になるでしょう。

【株式会社富士通総研 シニアマネジングコンサルタント 隈本 正寛】
【株式会社富士通総研 シニアマネジングコンサルタント 隈本 正寛】

【長堀】
最後に、東京オリンピックや東京国際金融センター構想に向けたみずほフィナンシャルグループ様での取り組みなどについてお話しいただけますでしょうか?

【小鈴】
当グループのシンクタンクであるみずほ総合研究所は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の専門委員会である「経済・テクノロジー委員会」に委員として参加しています。本年1月、同組織委員会において、2020年のオリンピックを契機に残すべきレガシーとそのための具体的アクションについての「東京 2020 アクション&レガシープラン 2016中間報告」のとりまとめが行われましたが、同報告では具体的なアクションとして「金融インフラ(技術)の整備」についての提言が盛り込まれています。

これは、例えば、指の指紋や手のひらの静脈、目(虹彩)など複数の生体認証手段に対応可能な共通のプラットフォームを構築し、利用者が選択した認証手段によって、競技会場への入場から会場内外での物やサービスの購入・決済までストレスフリーかつシームレスに実現できる仕組みを導入するというものです。

生体認証技術の統一には相応のハードルがあると予想されますが、オリンピック・パラリンピックの開催は先進的な取り組みを進めていく絶好の契機になるのではないかと考えています。また、その後もこうした取り組みを世の中に普及・定着させ、東京が世界的に見ても最もスマートに各種手続きができる社会にしていくことが重要であり、これらの取り組みは、自由民主党が提言している「日本の強みを活かしたFintech分野の国際標準の主導」を実現していく中でも大変重要になると思います。

みずほ総合研究所は、2014年5月に、日本経済研究センター、大和総研と共同で、「東京金融シティ構想の実現に向けて」という提言も公表しています。これを受けて、2014年9月に、東京都が中心となって「東京国際金融センター」実現に向けた推進会議が設置され、構想実現に向けた様々な課題について継続的に検討が行われている状況です。

その中の1つのプランとして、日本の金融分野の中枢機能が集積する大手町から兜町の一帯を「東京フィナンシャルストリート」と銘打って、官民を挙げて整備していく方針が打ち出されています。Fintechの振興においては、金融機関やFintech企業などが主体的に取り組むべき部分が大きいと考えられますが、このような構想も同時並行的に進んでいけば、そのスピードはより加速していくと思われます。

最後になりますが、日本でFintechが持続的に発展していくためには、金融機関において失敗を恐れないカルチャーが根付いていくことが重要だと感じています。もちろん大きな失敗が許されることではありませんが、小さな失敗を繰り返していくことが大きな成功につながる側面もあると思いますので、行政側も柔軟に受け止めていただきたいと思います。何事もポジティブに捉えてトライしていけるようなカルチャーに変化していくことができれば、全体としてより良い方向に向かって行けるのではないでしょうか。

【長堀】
Fintechの推進に向けて、日本では政府、金融機関、ベンチャー企業、ICTベンダーと4者によるエコシステムが出来上がりつつあります。こうした共創によるイノベーションによって利用者にとってより価値のある金融サービスに生まれ変わることが重要ですね。

(対談日:2016年4月28日)

対談者

対談者(写真左から)

  • 長堀 泉 :株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部長
  • 小鈴 裕之 : 株式会社みずほフィナンシャルグループ リサーチ&コンサルティング業務部 次長
  • 隈本 正寛 : 株式会社富士通総研 シニアマネジングコンサルタント

【株式会社富士通研究所アメリカ Research Analyst 松原 義明】

対談者(シリコンバレー(FLA)よりWeb会議で対談に参加)

  • 松原 義明 :株式会社富士通研究所アメリカ Research Analyst

注釈

(注1) : Occupy Wall Street : 「ウォール街を占拠せよ」2011年9月17日よりアメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン区のウォール街において発生した、アメリカ経済界、政界に対する一連の抗議運動を主催する団体名、またはその合言葉。

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