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低炭素社会実現への道筋

2016年4月21日(木曜日)

1. 地球温暖化対策計画の意義

2020年以降の気候変動対策の国際枠組であるパリ協定が2015年12月に採択されたのを受け、日本政府は地球温暖化対策計画案を3月に発表し、5月に計画を策定する予定である。2030年度に2013年度比26%減という日本の温室効果ガス(GHG)削減目標の達成に向けた対策を定めたもので、日本がどのように低炭素社会を目指すのかを社会や企業に示すものと言える。削減対策に利用される技術・サービス・製品の市場にも影響を及ぼすと考えられ、低炭素ビジネスに携わる企業にとっても重要な意味を持つ。対策計画案における各部門の削減目標と主な対策を【図1】に示す。

【図1】地球温暖化対策計画案における各部門の2030年度削減目標(2013年比)と主な対策
【図1】地球温暖化対策計画案における各部門の2030年度削減目標(2013年比)と主な対策
(出所)地球温暖化対策計画(案)をもとに富士通総研作成

2. エネルギー需給見通しが実現しない場合の影響

GHG排出量の大半は、エネルギー起源のCO2である。よって、エネルギー供給に関する計画は、排出削減目標を決める際の土台になる。日本の2030年目標策定にあたっても、2030年度の長期エネルギー需給見通しが先立って決定された。その中で、電源構成は原子力20~22%、再生可能エネルギー22~24%、石炭火力26%、天然ガス27%、石油火力3%程度とされている。これに基づく排出原単位0.37kg-CO2/kWh(2013年比35%減)は、電気事業における自主的な目標値にもなっている。

しかし、需給見通しにおける電源構成の実現を疑問視する声も多い。原子力の電源比率20~22%は、現在の設備容量と40年という運転期間の上限、そして現実的な設備利用率(70%程度)から考えると高すぎる。また、石炭火力は26%を上回る可能性がある。福島第一原子力発電所の事故を受けてすべての原発が停止していた中で、燃料費が低い石炭火力発電所の新設計画が相次いだ。環境省が新設計画にストップをかける動きもあったが、電力業界による管理強化を条件に容認に転じた。石炭火力発電所の増加による日本の中長期削減目標への影響を分析した研究(注1)によれば、現在公表されている石炭火力発電の新規建設および更新の計画は18GWに及ぶ(2015年11月9日時点)。これが実行されれば、2030 年時点の全電力による供給量の32%が石炭火力由来となり、排出原単位も目標値より悪化する可能性があることが分析されている。

つまり、需給見通しは、エネルギー供給の実際の計画と整合していないことになる。これは、中期目標や温暖化対策計画にも大きな影響を及ぼす。計画案には電力需要側の様々な省エネ対策が含まれており、それらによる削減量は省エネ量と電力の排出原単位で決まるからである。例えば、計画案において39%削減とされている家庭部門では、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)設置による省エネが対策の1つとなっている。2030年には全世帯(5,468万世帯)に設置し、710万トン(CO2換算、以下同)削減すると見積もられている。しかし、排出原単位が目標を約2%上回るだけで、この対策による努力は帳消しになってしまう。

3. クレジット利用の拡大による京都議定書目標達成

実際、京都議定書第一約束期間(2008~2012年)では、電気事業の排出原単位が計画より大きく悪化したことにより排出量が増えた。目標値は、(1)原子力稼働率のさらなる向上、(2)火力電源の運転調整、(3)京都メカニズムの活用を前提として、5ヵ年平均で0.34 kg-CO2/kWh(1990年実績から平均で20%改善)に設定されていた。しかし、主要な対策と位置づけていた原発による電力量の比率が、東日本大震災の前後で約3割から1割以下に低下し、火力が同じく約6割から8~9割まで増加した(注2)。その影響もあり、排出原単位は5ヵ年平均で0.406 kg-CO2/kWhとなった。これは電力事業全体で取得した計2億7430万トン分もの京都クレジット等を反映した数値であるが(注3)、それでも目標値には届かなかった。排出原単位の悪化と電力消費量の増加によって業務や家庭部門で排出量が増加したことで、国の総排出量(注4)は計画を2%上回った。

それでも、政府による京都メカニズム活用の拡大によって第一約束期間の目標は達成された。予定では、京都クレジットの利用は基準年総排出量の1.6%の約2,018万トンであったが、目標達成に必要となった量はその2.5倍近くの4,414万トンであった(注5)。京都議定書の下では、京都クレジットの利用は国内対策を補完するものと位置づけられていたが、明確な割合は決められておらず、結果的には日本の主な削減手段となった(【図2】)。

【図2】京都議定書第一約束期間の削減目標の達成手段内訳
【図2】京都議定書第一約束期間の削減目標の達成手段内訳
(出所)地球温暖化対策推進本部「京都議定書目標達成計画の進捗」より富士通総研作成

4. 目標達成に向けたJCM活用の不透明性

2020年以降の国際枠組においても、市場メカニズム(注6)を目標達成に活用できることになったが、日本の2030年目標は、国内対策のみによる達成が前提である。一方、日本が独自に構築した市場メカニズムである二国間クレジットメカニズム(JCM)について、約束草案(注7)では「獲得した排出削減・吸収量を我が国の削減として適切にカウントする」と記述されている。また、COP21を評価する環境省の資料(注8)では、「JCMも含めた市場メカニズムを削減目標達成に活用することが、パリ協定(中略)に位置づけられた」とされている。

したがって、2030年目標を策定した際の前提と矛盾するという問題はあるが、国内対策による目標達成が難しくなった場合はJCMクレジットが利用される可能性が高い。ここで問題となるのが、利用することのできるクレジットの量である。登録済みおよび登録に向けた手続き中のプロジェクトは14件で、年間平均削減量は1件あたり約240トンと非常に少ない。実現可能性調査や実証事業に範囲を広げると、高効率の石炭や天然ガス火力発電、再エネ発電、CO2回収・貯留(CCS)など、大きな削減量が見込めるプロジェクトも多い。しかし、石炭火力発電やCCSは、国際的な動向から考えるとクレジットの活用が認められるのが困難になることも予想され、JCMによる目標達成への貢献度は未知数と言える。

5. カーボンプライシングの不在

市場メカニズムは、排出削減分に対して発行されたクレジットへの価格付けという形でのカーボンプライシングである。排出者が自ら削減するのに必要なコストと、削減分に相当する量のクレジットの購入コストのうち低い方を負担することで、市場メカニズムは費用対効果の高い削減を実現する。京都議定書第一約束期間では、市場メカニズムの役割が十分に発揮されなかったという批判も多いが、低炭素社会実現の有効な手段として、改善を行った上で今後も活用される。

しかし、日本ではカーボンプライシングの導入に向けた積極的な動きはない。JCMはクレジットの価格付けおよび取引は当面行わず、カーボンプライシングの役割は持たない。温暖化対策計画案では、国内排出量取引制度について「産業に対する負担(中略)の運用評価等を見極め、慎重に検討を行う」と述べているのが唯一の記述である。しかし、新興国も含め海外諸国では、国内排出量取引や炭素税などのカーボンプライシングの導入が進んでいる。また、ビジネス界にも低炭素技術に関する投資判断やビジネス戦略の決定にはカーボンプライシングが不可欠という立場が広がっており、統一の仕組みの下で統一の炭素価格が決められることも求めている。COP21で設立が決定された、国連管理下での市場メカニズムがその役割を果たすと考えられる。JCMの活用に注力する日本であるが、このような世界のカーボンプライシングをめぐる動向も注視すべきである。

6. 低炭素社会構築に向けた軌道修正の必要性

以上のように、現状では2030年目標達成に向けた対策や手段に大きな不確実性があると考えられるが、見直しの機会は用意されている。国内では、電力業界が設立した「電気事業低炭素社会協議会」が、排出原単位の目標について各事業者に自主的な削減目標達成計画と実施状況を提出させ、必要に応じて計画見直しを要求することになっている。気候変動枠組条約の下では、各国目標の見直し(グローバル・ストックテイク)が5年ごとに行われる。目標達成が難しい状況に陥っても、このようなプロセスを通じて軌道修正をすることは可能である。

しかし、前述のような問題を抱えたまま進み、何度も計画を練り直すことは非効率である。そして最も懸念されるのは、それによって日本が低炭素社会構築への道筋をいつまでも描けないことである。COP21を契機に拡大するはずの、低炭素ビジネスのチャンスを日本企業が掴み損ねることにもなり得る。早い段階で削減目標とエネルギー需給計画との整合性をとるための軌道修正やカーボンプライシング導入に向けた検討を開始し、JCMの位置付けも明確にして、日本社会や企業が進むべき道筋を示さなくてはならない。

注釈

(注1) : IGES (2015)「増加する石炭火力発電所が日本の中長期削減目標に与える影響 -電力業界全体の地球温暖化対策に関する枠組みの構築に向けて-」

(注2) : 電気事業連合会(2013)「電気事業における環境行動計画」

(注3) : 京都クレジット等の利用を反映しない場合の排出原単位は5ヵ年平均で0.469 kg-CO2/kWh。

(注4) : 森林吸収と京都クレジットによる削減分を除いた排出量。

(注5) : 実際は、7,440万トンの京都クレジットを利用し、目標(基準年比-6%)を上回る-8.4%を達成した。政府は約1億トン分の京都クレジット調達計画を立ててその通りに実行したため、追加的な調達は必要にならなかった。

(注6) : パリ協定では、「市場メカニズム」ではなく「cooperative approaches(協力的アプローチ)」という名称が用いられている。

(注7) : 各国が自主的に決定して気候変動枠組条約事務局に提出した2020年以降のGHG排出削減目標。

(注8) : 環境省(2016)「COP21の成果と今後」

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【調査・研究】


加藤 望(かとう のぞみ)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2005年 米国デラウェア大学大学院修士課程修了(エネルギー・環境政策学)。NPO法人環境エネルギー政策研究所、公益財団法人 地球環境戦略研究機関を経て、2012年 富士通総研入社。
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