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古くて新しい、そして進化するAI

2016年3月17日(木曜日)

よりパワフルでスケーラブルになったアーキテクチャやテクノロジーを背景に、ここ数年来、ITに対して新たに大きな期待市場が形成されるようになった。

それは、大規模クラウドであり、ビッグデータであり、ブロックチェーンに代表されるフィンテックであり、AIである。

本稿では、この中のAIに焦点を当てて少し論じてみたい。

1. 古くて新しいAI

AI(artificial intelligence:人工知能)という言葉を久しぶりに耳にしたのは2年ほど前で、当時ビッグデータ活用の有望な発展型の1つとして、その内容は後述するが、知識情報の利活用に関するコンサルティングに着手していたところであった。その時の素直な感想は「AI? なんて古めかしい響き…」であった。

AIは1956年のダートマス会議を端緒とするらしいが、日本での一大ブームは1992年から始まったICOT(Institute for new generation COmputer Technology)第五世代コンピュータ開発で起こり、そのメインターゲットであった推論マシンの開発を多くの研究者や技術者が競い合った。しかし、そのブームもICOTの終結とともに収束し、それと合わせてAIや人工知能という言葉も退潮していったという記憶があったからである。

古めかしいと感じた理由はもう1つあり、それはAIを構成する技術、例えば推論処理にしろ、機械学習にしろ、知識処理にしろ、いずれの技術も高度に発展し、それぞれの分野でクリティカルな応用システム市場を形成しつつあるためである。

例えば、推論処理分野の発展形の1つにBRMS(Business Rule Management System)がある。BRMSは大規模な if ~then処理をコーディングレスで実現しており、複雑な契約オプション体系で構成される、例えば保険契約や通信料金、パッケージ旅行などの料金の見積もりシステムや契約管理に応用されている。BRMSはルールのプログラムコーディングを不要としているため、契約プラン体系の改定や商品差別化のためのオプション追加などに際してシステム変更のためのリードタイムやコストの圧縮を実現している。

機械学習分野では、かつてニューロやファジーという代名詞で大きな期待を担ったが、処理能力の限界などにより家電の制御程度に応用分野が限られていた。それが、飛躍的なコンピュータパワーと様々なアルゴリズムの考案開発によって、その応用分野が広がっているのである。コンピュータによる知識獲得~判断・実行の自動化の実現という魅力的なインセンティブによって自動車の自動運転をはじめ産業・社会の重要な分野でチャレンジが続いており、今日的なAIの定義はこの機械学習であるという説もあるようである。しかしながら、一方では機械学習はすでにレッドオーシャンであるという、機械学習頼みの脆弱性を指摘する声もある。

知識処理(knowledge cluster/process)はAIにとっては不可欠な要素であったが、その実現はAI分野ではないWEBテクノロジーとその基本技術であるデータ/テキスト処理技術によって高度化してきた。知識処理分野での最も大きなエポックの1つはXML(Extensible Markup Language)の開発であろう。XMLによって、例えばテキストデータのような非構造の情報を構造化し、その構成要素それぞれに意味を定義することができるようになった。これにより、疑似的ではあるにせよコンピュータは人間の記述したドキュメントを意味理解できるようになり、これらを分解したり再構成したり、集約したり、相互接続することが可能になった。AIのチャレンジが今日活発な背景には、先に述べた機械学習を中心にした自動化技術開発へのインセンティブもあるが、コンピュータが利用できる情報がWEBによって爆発的に増えたということも重要な背景である。

AI由来かWEB由来かという議論はあまり意味を持たないが、今日期待されているAIというのは、古典的な定義によるAIであったり、また、高度な機械学習という狭い定義であったりではなく、これまでの技術(と今後直近で実現可能な技術)の集大成でチャレンジし得るフロンティアということではないかと考える。そういう意味では、現在も発展途上の1通過点でしかなく、何にチャレンジするかという目利きは大事なポイントであろう。

2. チャレンジの方向は?

AIに限らず、その分野の専門家はその技術の可能性について、無限の可能性を語りがちである。時間軸を無視すれば、それは誤りとは言えないし、もちろん将来に向かう種撒きとしての基礎研究も重要であるが、かつてのICOTが有望な応用分野を見つけられずに終焉したことや、ITフロンティアが往々にしてバズワード化しやすい、この熱しやすく冷めやすい日本のIT文化を考えた時、この業界で活動するコンサルタントとしては、提供する側も利用する側も、それがビジネスへの応用へのチャレンジであるのならば、時間軸を定め、果実を獲得し得る可能性の高い分野を選別する必要があると考える。

(1)自動制御分野

今、AIの応用分野で最も注目を浴びているものの1つはロボットカー、自動運転車であろう。ブレーキシステムのドライバーサポートなど比較的低次の技術についてはすでに商用化されており、完全自動運転についても自動車メーカーをはじめ多くの企業が実験学習をベースとした自動運転アルゴリズムの完成にしのぎを削っている。

自動運転では、その車の持つ性能諸元、交通規則や局所的な道路状況、周りの車や人、気象条件やそれによって影響を受ける物理的なコンディションなど多数の情報を複合的に処理して最適な運転状態を制御する。処理する情報は従来の自動制御とは比較にならない量ではあるが、それでもその範囲は確定的であり、同じ状況であれば次に起こることは同じである「蓋然性が高い」という法則的・再現的な特徴があるためAIに親和的な分野である。

自動運転技術の高度化については、車載できるCPUやメモリの速さや目方など技術的な問題もあるが、公道実験・公道走行に向けた法整備や必要データのクラウドや車間でのやり取りのための通信帯域の確保など、政策的な対策の方に時間が掛かりそうなほどに技術は日進月歩している。

ロボットカーほど経済的インセンティブを持つ自動制御分野というのは現時点ではなかなか見つからないのであるが、「すべての機械はAIによって自動化し得る」というように考えると、医療機器、銀行のATM、店舗のPOSなども機能が全く新しいものになったり、保守を含めたオペレーションコストが今までと全く違う水準になるかもしれない。

(2)パターン認識

技術的に言えば、機械学習もパターン認識も今日的には同義語であり、先の自動運転の構成技術でもあるのだが、改めてパターン認識の意味を考えてみると、直近大きな可能性を持っていると思われる。

パターン認識とは、音声や画像などの信号を解析して、特定のコードや意味として識別する技術で、OCR(Optical Character Recognition:光学文字認識)などが有名である。このOCR技術は、かつては精鋭の研究者やエンジニアが文字の特徴量を解析するアルゴリズムを考案して開発していたのだが、現在では学習データさえ用意できれば、機械学習によってノンコーディングで構築できるようになってきている。

こうした事情は、開発コストに関するブレークスルーになる可能性があり、従来は文字認識のような汎用性の高い分野に限定されていたものが、画像認識のような特定分野向けの利用も視野に入ってきている。実世界をスキャニングしてエンコードしてコンピュータに取り込むことが容易になるということで、店頭情報画像から商品ごとにコーディングされたカタログを製作したり、物流倉庫内のスナップ写真から商品の棚卸をしたりというようなありふれたルーチンがブレークスルーしていく可能性がある。

(3)ナレッジ統合

コンピュータに賢い処理をさせるためには、何らかの方法でコンピュータにその領域の知識を習得させなければならず、その方法がモデルであったりルールであったり学習であったりする。

現在は、人の手間要らずで勝手に知識獲得してくれる機械学習が注目されているが、単純なやり方では少し問題が難しくなると役に立たなくなってしまい、無理に有効化させようとするとコンピュータ処理のためだけのスペシフィックな知識データを開発しなくてはならないという本末転倒な隘路に陥ってしまう。

これを防ぐためには、つまり人の手間を掛けないという方針を維持しつつ知識を獲得できるようにするためには、対象となるドメインの知識情報を予めコンピュータ処理可能なカタチにしておく必要がある。

誤解を恐れずに言えば、これは、例えば製造業の設計開発プロセスに当てはめると設計図や設計仕様書、それを決定するまでの検討ドキュメントや品質検査仕様書やその結果データ等をよりコンピュータが理解しやすいように、そのプロトコルやアーキテクチャを変更していく必要があるということである。「コンピュータのために仕事のやり方を変えろ」などというのは暴言暴論のように聞こえるのだが、グローバルベースの製造業ではこうした取り組みに着手し始めている。

これは、来るべきAI活用を見据えてのことではなく、グローバル生産最適化、設計・製造・品質管理・保守など各ドメイン別の知識の相互利用化、フロントローディングなどシミュレーショナルなプロセスの比重が増えてきていることなどにより、業務アーキテクチャの抜本的な見直しに迫られているからである。

現時点でこうした知識情報がAIで活用されるかどうかは未知数であるが、WEBの世界で形成された技術やデータが今日のAIに不可分になっていることを考えれば、こうした業務アーキテクチャの革新やナレッジの統合の取り組みも次のステージではAIの飛躍に大きく寄与することが予想される。

3. AIの今後

2011年、IBM社のWatsonがTVクイズ番組で人間と対戦して優勝したニュースは衝撃を持って世界中を駆け巡った。そして、この年、日本ではAIで東大入試合格を目指す「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトが始まり、まだ合格水準には至っていないものの、着実な進歩を遂げていると報じられている。また、将棋や囲碁の世界でも対戦ソフトの対戦能力の向上は目覚ましいものがあり、将棋はすでにプロ棋士に戦勝するまでになっており、囲碁ソフトも将棋ソフトにやや遅れながらもプロ棋士同等レベルになりつつある。

こうしたことをもって、いずれ機械が人間に取って代わるとか、AIによって人間は今より1000倍賢くなるといった、センセーショナルな予想をする向きもある。しかし一方では、正しい答えが存在する問題や、最適な状態が定義できる、例えば自動運転などの領域では飛躍的な発展はあるかもしれないが、答えのない問題、問題や意味を創る領域ではAIは役に立たないという意見もある。

現時点で大事なことは、どちらが正しいかと占うよりも、先に述べたように技術や経済合理性を含めて何に使えるかをプラクティカルなレベルで見極めることであり、また、そうした技術と応用によって実現し得る社会システムやビジネスシステムを再設計することであろう。

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渡辺 南

渡辺 南(わたなべ みなみ)
株式会社富士通総研 執行役員 ビジネスアナリティクス事業部長
【略歴】1979年 富士通株式会社入社。1988年株式会社富士通総研へ出向。流通ビジネス分野コンサルタント、ビジネスサイエンス分野コンサルタントを経て現在に至る。
【著書】「差延の戦略」(共著 富士通ブックス 1995年)、「流通ネットワーキング革命」(共著 富士通ブックス 1996年)、「リレーション・プロセス・マネジメント」(共著 ダイヤモンド社 2000年)