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【フォーカス】金融システムと情報技術-マイナス金利から金融危機、ブロックチェーンまで最新トピックを斬る-

2016年3月17日(木曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

リーマンショックのような金融危機はどのような要因で起こるのでしょうか? 事前に防ぐために過去の経験を生かすことは可能でしょうか? そして、金融システムの安定のためにICTはどのように役立つのでしょうか?

本対談では、「金融システムと情報技術 ―マイナス金利から金融危機、ブロックチェーンまで最新トピックを斬る―」というテーマで、株式会社富士通総研(以下、FRI)経済研究所の早川エグゼクティブフェローに、ビジネスアナリティクス事業部の中林プリンシパルコンサルタントと佐々木シニアマネジングコンサルタントがお話をうかがいました。

1. マイナス金利の影響をどう考えるか?

【中林】
さて、今ホットな話題はマイナス金利の影響だと思います。明らかに金融機関の損益には不利となりますが、どうしてもマイナス金利に行かなければならないのでしょうか?

【早川】
従来の日銀がやってきた金融緩和は長期国債をどんどん買って行くやり方で、すでに毎月10兆円買っています。国の新規発行国債は40兆弱ですから、今の勢いで日銀が1年間に長期国債を80兆円増やして行くと、国が出す2倍も買っていくことになり、あと1、2年で限界が来ると言われていました。一方、昨年末から今年にかけて一段と原油価格が下がって、物価はさらに下振れてくるので、昨年10月に16年度後半に後ズレさせたばかりの物価上昇2%の達成時期を17年度前半に先送らざるを得ませんでした。こうした状況で、何もしないと2%達成への日銀のコミットメントが疑われる。では追加緩和をやろうとしても、国債をもっと増やすのは限界に近づいていて、そちらは行けない。なので、従来否定的だったマイナス金利へ行った。マイナス金利はヨーロッパでECB(European Central Bank:欧州中央銀行)等がやっていて、マイナス金利が経済に与えるルートは為替ルート中心だと思われているのです。1ドル120円台の頃は、これ以上円安になって物価が上がると国民の反発が強いので、政府には抵抗があったと思いますが、年初から円高が来たこともあり、マイナス金利に行ったのだと思います。
マイナス金利の効果は、イールドカーブ(注1)が全体的に下がることから生まれます。金融機関にとっては収益の減少になりますが、おそらく0.1%という水準では、すぐに預金手数料を取ることはないと思うし、貸出金利を上げるといった話は出てこないので、この程度ならば副作用は少ないと言えます。また、マイナス金利にしたことで、これから日銀が追加の金融緩和ができる体制になりました。従来のやり方では国債はこれ以上買えないから何もできないに近かったけど、-0.1を-0.2、-0.3にすることは可能なので、追加の金融緩和ができるようになったのは大きな変化です。問題はどこまでできるかですが、それは限界があります。-0.1が-0.5になり-1%になると、普通預金に手数料を取る話になるし、収益環境があまり悪くなると、貸出金利が上がったり、安全なお客様にしか貸さない、住宅ローンは低い金利が提示されているけど、審査すると落とされてしまう、みたいなことになる。すると、経済にとってプラスにならないので、自ずと限界があると考えざるを得ないですね。

【早川エグゼクティブフェロー】
【早川エグゼクティブフェロー】

【中林】
日本を取り巻く世界の情勢が変わっている中で、物価2%上昇というコミットメントが公約のように受け取られてしまうのは危険だと思うのですが。

【早川】
3年前に金融緩和を始めたのは、ある種のショック療法だったと思います。皆を驚かせて為替レートや株価に影響を与えるだけでなく、皆の期待や行動に影響を及ぼそうとして、確かに最初の1年はある程度効果がありました。でも残念ながら、それだけで一気に2%は行きませんでした。元々本当に上手く行くかわからない実験的な政策なので、やってみて、どこが上手く行き、どこが上手く行かなかったかを考えて、柔軟に変えていくべきです。でも、それがなくて、いつまでも同じやり方にしがみついている結果、「嘘ばかり」みたいになってしまいました。

【中林】
実際、日銀がマイナス金利を決めてから、世界のマーケットが動揺していますよね?

【早川】
これは第一義的には海外要因なので、日銀が悪いわけではないです。年初の要因の1つは中国の問題で、昨年来続いている株価対策や為替対策に関する中国のミスマネジメントがまた起きてしまったということ。もう1つは中東でサウジとイランが大喧嘩を始め、原油が一段と落ちてしまったということ。そして最近では、アメリカの景気が思ったほど強くないので、金利が順調に上がると思っていたら、そうならず、むしろドル安かもしれないということ。さらにドイツ銀行を中心にヨーロッパの金融機関の問題も出てきました。ただ、海外要因で円高、株安になっているときに日本で何かやっても効果がないと言っていた人はいて、そのとおりになってしまいました。もしかすると日銀がやったこと自体が影響した可能性があるのは、今、市場に芽生えつつある通貨安競争に対する恐怖感です。1930年代の世界恐慌のとき通貨切り下げ競争で酷いことになったので、リーマンショック直後のサミットで通貨切り下げ競争をやめようと世界中で約束したわけですが、最初に約束を破ったのはアメリカで、量的緩和を始めてドル安政策をとりました。先進国同士の握りで、金融緩和の結果で起きた通貨の下落は意図的な通貨誘導ではないとしたのです。本当は金利がゼロになった後での金融緩和は為替を通じるルートが圧倒的に大きいのですが、通貨安競争ではないということにしたわけです。その後、日銀もECBも通貨安政策を始めました。通貨安競争はゼロサムゲームなので、良いことはないけど、大人同士のポーカーなので、それはそれで何とかなったのですが、今年に入って環境が変わってきました。

【佐々木】
どのようなことが起きているのでしょう?

【早川】
1つは、これは抜けられないポーカーではないかということ。アメリカが抜けようとしたら、ヨーロッパも日本も追加緩和しようと言い出す。するとアメリカはドル高になって製造業も調子が悪いので金利を上げられない。もう1つ大きいのが、実は大人のポーカーに全然違う人がいるのに気づいてしまったこと。中国は変動相場制ではないので、自分で相場を決めているのですが、今は元安になって、しかも外貨が流出して外貨準備も減っている。ゆっくり元を下げて行くやり方だと、早く逃げた方が勝ちなので、どんどん資本流出が起こります。資本流出させないためには一発で2、3割下げてしまえばいいのだけど、今、中国が人民元を2、3割下げたとき世界中で何が起こるか考えると、できないでしょう。そこでヨーロッパも日本もマイナス金利で追加緩和だと言うと、中国がますます危なくなるわけです。そういう恐怖感が生まれつつあり、通貨安競争はまずいと思っています。

【佐々木】
ポーカーといいつつ、実は“大人”同士でそういう会話がなされているのでしょうか?

【早川】
それは暗黙の了解で、アメリカが勝手にやっておいて金融緩和の結果だからと言うなら自分もみたいなことが行われていたのです。でも、中国などを考えると、すごくリスクが高いという恐怖感が生まれています。通貨安競争はやめて、成長戦略をきちんとやり、余裕のある国は財政を使う方向に変えようという国際的合意が上海のG20でできると、マーケットは落ち着くのですが、きっとできないでしょう。そうなるとアメリカは助かりますが、日本やヨーロッパは追加緩和できなくなってしまう。中国は多少の資本規制を復活させるしかないと思いますが、面子がつぶれます。この間SDR(Special Drawing Rights:特別引出権)が入ったばかりなのに資本規制をするのかということで、多分まとまらないでしょう。

2. リーマンショックのようなことは、どのような要因で発生するか?

【中林】
中林:金融危機的なものが次に起こるとすると中国が発端ではないかと感じていますが、振り返ると1987年のブラックマンデーや97年のアジアの通貨危機、2008年のリーマンショックと、大体10年おきに起きていて、そろそろではないかと思っています。過去のこういう金融危機を振り返って、事前にコントロールできたと思われますか?

【早川】
それはなかなか簡単ではないと思います。バブルは崩壊する前にわかるかということが、いつも議論になりますが。これについては中央銀行の世界で、Fed (Federal reserve system:連邦準備制度)の考え方とBIS(Bank for International Settlements:国際決済銀行)の考え方の対立があるのです。Fedは「バブルは崩壊するまでわからないから崩壊後に激しく金融緩和等をして解放すればいい」という考え方で、BISは「バブルは様々な指標からわかるので、危ないと思ったら、事前に金融引き締め等で対応すべきだ」という考え方です。

【中林】
中林:リーマンショックのようなことは、どのような要因で発生するのでしょうか?

【早川】
バブルとその崩壊の2つに分けて考える必要があります。バブルの要因は昔から決まっていて、1つ目はユーフォリアという皆の過度な楽観で、その裏には大体物語があります。例えば日本のバブルの大きな背景には、“Japan as No1”で日本経済は世界一になったというのがあり、具体的には“東京金融センター”という物語があったわけです。リーマンについては、冷戦終了後、アメリカが経済的に復活して大きな自信を持ち、ブッシュ政権の“オーナーシップ・ソサエティ”という、社会保障に依存せずに自分で生活を支えていくという政策のもとで、金融革新によって貧乏人でも家が持てる時代が来るという物語も生まれて、サブプライムローンが作られました。2つめは金融緩和の継続です。バブルが起きる時はなぜか経済は調子よく、資産価格は上がっているのに物価は上がらないという特徴があります。そうなると、中央銀行は金融を引き締めないため、長い金融緩和につながります。3つ目が金融機関のモラルハザードです。ユーフォリアがあって、金融緩和が続くと、モラルハザードが起こりやすい。日本でも安易な不動産融資が行われたし、アメリカも安易なサブプライムが行われましたが、規制監督は十分ではありませんでした。つまり、楽観の物語と長い金融緩和とモラルハザードが3つ重なると、ほぼバブルになるのです。
バブルになればどこかで崩壊するわけで、リーマンショックもその1つです。ただ、リーマンショックと日本のバブルの違いは、日本は基本的に銀行ローンでショックが緩慢だったことです。不良債権になっても銀行が追い貸ししている限りは銀行の中で閉じて周りに影響しません。銀行が問題を先送りするため、時間がかかってしまったという負の面と、穏やかにいくという正の面があります。日本はバブル崩壊から金融危機まで7、8年もかかりましたが、よその国には迷惑をかけませんでした。一方、アメリカは証券化したために急性のショックになり、世界中に広がってしまいました。証券化された商品は値段が下がってしまうので、あっという間にロスが出てしまうのです。

3. リーマンショック再来のシミュレーションは可能か?

【中林】
リーマンショックの経験を生かすことは可能でしょうか?

【早川】
その経験をどれだけ生かして行くかというのは簡単ではないですよ。バブルは毎回形を変えて現れると言われます。同じタイプなら簡単には引っかからないけど、必ず姿を変えてくるので、その度に今回は違うと思ってしまうのです。ラインハートとロゴフが書いた「This Time is Different」(邦題「国家は破綻する」)のように。

【佐々木】
バブルが起きないようにするために、あるいは起きても「何とかショック」と言われないようにするためにクリティカルなのは監督制度でしょうか?

【早川】
それは規制監督をしっかりすることと、金融機関自身がリスクを把握する手法が進化していくことの両方だと思います。シミュレーションやストレステスト(注2)もコンピューティングパワーが上がることによって十年前と今ではやれることが違うので、その両方が進んでいかないと難しいですね。規制監督当局が全部知っているという仮定は嘘なので、当局だけに頼るわけにはいかないと思います。ビッグデータもすごく役に立つけど限界もあることを考えておかなくてはいけません。ビッグデータは膨大なデータを集めるけど、時系列的にそれほど長くないデータが多いからです。例えばリーマンショックのような何十年に1回しか来ないものは、その間の長いデータはないですよね。先ほどの「This Time is Different」は何十カ国もの100年くらいのデータを集めて人間が分析したわけですが、データセットがすごく大きければ、もっと精緻な分析ができる可能性があります。ただ問題なのは、先ほどの住宅ローンの証券化商品は事前に考えていたリスクと事後に起こったリスクが全然違ったのです。元々はどういう住宅ローンがデフォルトしたかという個々のデータだったのです。1人1人はデフォルトするかもしれないけども、十分うまく集めて分散してあげると、保険と同じでデフォルト確率は一定範囲に抑えられるのでコストが安くなる、それがサブプライムの話だったわけです。ところが問題は、そのデフォルトデータが実は何十年分ではなく数年分しかなかったということ。

【中林】
しかも景気がよいときのデータですね。

【早川】
景気がよくて不動産価格が上がっている限りは、デフォルトが起こっても、たまたまその人が職を失ったとか、その人が死んでしまったとかいう話で、十分たくさん集めれば完全にヘッジできるので、サブプライムでもリスクはそれほど高くはないということでした。でも実際は、景気が悪くなって、不動産が全体に下がるようになると、そのデータは全部崩壊するわけです。

【中林】
その辺が生命保険と全く違う話なのですね。

【早川】
たくさんデータを集めても長さが十分ないと、そのデータは信頼できないのです。

【佐々木】
長い年数のデータがたまっても、その当時とは状況が全然違っていて同列に分析できないということもありますね。

【早川】
比較的パターン認識で把握できるAIの得意領域や現象は上手く対応できます。秒単位の価格をたくさん集めて、こういうパターンが起きたら次にこういうことが起こるというのでトレードをやるプログラム・トレーディングは得意だけど、長い時系列のたまにしか起こらない大きなショックは、現時点ではビッグデータやAIだけでは対応できません。ただ、コンピューティングパワーも高まっているし、モデルも精緻化しているので、個々の金融機関で自分の持つリスクがどういうものか定量化・見える化することは、十年前と比較にならないくらいできるようになっています。

【佐々木】
コンピューティングパワーの高まりによる統計的なモデルの精緻化に加えて、ストレステストのように人間の知恵、エキスパートジャッジを活用する動きもありますね。

【中林】
そういう危機的状況になったときに、どう行動すべきというのが明らかになってきて、いざそうなったときにどういう行動ができるかを事前に考えられるという意味では、大分進歩してきていると思います。

【中林プリンシパルコンサルタント】
【中林プリンシパルコンサルタント】

4. マクロプルーデンス政策をミクロな視点で考えられないか?

【佐々木】
リーマンショック以降、金融監督としてマクロプルーデンス政策の考え方が出てきましたが、マクロプルーデンス政策をミクロな視点で考えるというのは可能でしょうか?

【早川】
マクロプルーデンスというのは逆で、元々プルーデンス政策はミクロなのです。ただ、ミクロは個別案件のリスクになってしまうけど、リーマンのようなことが起きたときに、このやり方ではダメだというので、マクロプルーデンスという議論が出てきたわけです。ただ、少なくともSIFI(Systemically Important Financial Institution)レベルの人たちは自分で自分のリスクを管理してコントロールできるようにならないと、マクロプルーデンスと言っても始まりません。ストレステストもきちんとやるべきだし、ある程度いろいろな規制もかかるだろうし、単にレギュレーションだけでは絶対無理なので。

【佐々木】
レギューレション・アービトラージ(注3)のようなモラルハザードの問題もありますね。

【早川】
格付け機関もモラルハザードの典型ですね。リーマンのとき、毒饅頭にトリプルAをつけたのは、やっぱりまずい。確かにあの時点のデータで見ると、そんなに大きなリスクはないということだけど、ちょっと考えてみれば、ここ何年間かの調子の良いときのデータで大丈夫かと疑念を抱くはずです。ここが生命保険との違いですね。生命保険なら基本的に分布はほぼ一定と考えればよくて、ゆっくりしか変わらないけど、こちらはどちらかというと地震保険に近い世界なので、過去5年間事故が少なかったから保険料を下げるとやっては絶対いけないですね。

【佐々木】
マクロプルーデンスのいろいろな政策が出てきたのを見ていて、実質的には既存のミクロの規制を厳しくしたもののように思えるのですが。

【佐々木シニアマネジングコンサルタント】
【佐々木シニアマネジングコンサルタント】

【早川】
マクロプルーデンスと言っても、住宅ローンにdebt to income ratio(住宅ローン等の負債と借り手の所得の比率)で制限かけるといった話は昔からあって、マクロプルーデンスは「言うは易く、行うは難し」の典型なのです。ミクロだけではダメなのでマクロプルーデンスが大事だと言うのは簡単だし、誰も反対しませんが、では具体的にどうするかは難しい。Fedは「金融政策でなく規制監督でやりなさい」と言ってマクロプルーデンスが大事だと言うけど、BISは「マクロプルーデンスなんて本当に役に立つのか」と思っている。実際にはシステム全体の話も大事だけど、SIFIの諸君にきちんとリスクコントロールをやらせる枠組みが結果的にはマクロプルーデンスだと思います。

5. Fintechで最も重要なのはブロックチェーン

【中林】
金融システムの安定のためにICTはどのように役立つでしょうか?

【早川】
昔からよく「科学は社会にとって善か悪か」と言われますが、善か悪かという問題ではなく、どちらにでも使われるのです。HFT (High Frequency Trade:超高速取引)が典型ですが、マーケットの歪みを取り除いてefficientにする面とdestabilizeする面があるわけです。相手が新しいテクノロジーを入れて行くのなら、当局も対抗していかないとダメですが。最近、レギュレーションにICTを入れるという話を聞きました。プログラムトレードは価格の様々な分布に変な歪みやパターンが生まれたら、こういうことが起こる、と考えてやるわけだけど、逆に当局もその分布によって何か変なことが起きていると気づくこともあり得るわけです。やる人は金儲けのために徹底的に使うのだから、当局も寝転がっていてはダメですね。

【佐々木】
敵は莫大な利益を得るためにやる。当局は正義のためにやる。難しい戦いですね。

【早川】
まさにハッカーとの戦いと同じことが金融の世界でも起こるのではないですか。ICTは悪い奴も使うだろうから、金融機関自身が身を守るためにも使わなければいけないし、当局ももっと使っていかないといけない。増島雅和さんという金融庁にもおられた弁護士が書いたブロックチェーンの解説がわかりやすいのですが、Fintech(注4)というとビッグデータやAI系の発想をするけど、重要になるのはブロックチェーンではないかと思っています。ビッグデータやAIの応用はトレードも貸し出し審査も様々な情報を集めることによってできるのは誰でもわかりますが、ブロックチェーンは基本的には分散型のブッキングなのです。そう考えると、ビットコインだけでなく、いろいろなことができるわけです。製造業のIoTもそうですが、中央コンピュータで全部制御しようとすると、セキュリティを万全にしなければいけないので、金融機関の勘定系のようにコストがかかる。でも、ブロックチェーンのように分散型でブッキングすれば、誰かに襲われても1つ2つ生き残っていればセーフなのでコストも軽い。逆に、そういうのが出てくることが金融機関にとっては一番恐ろしいのです。AIやビッグデータ系なら、金融機関もそれで武装してというのができますが。

【中林】
金融機関がこれまで事業のコアとして投資してきた勘定系などが競争力にならなくなってしまうということでしょうか?

【早川】
それが一番重要だと思います。金融機関が一番心配すべきは、ああいうものが入ってくると、彼らの巨大な戦艦が単なるコストの固まりでしかなくなることです。

【佐々木】
Fintechが出てきて、銀行に残る機能はもしかすると決済だけかもしれないという議論はされていますが、ブロックチェーンが出てくると、そこも要らなくなってしまうかもしれませんね。

【早川】
彼らの元々の競争力の源泉は決済にあるわけで、そこをやられてしまうと一番危険なので、実はFintechはAIやビッグデータ系ではなく、ブロックチェーンの話を真ん中に置いて議論していかないと見えてこないと思います。

【佐々木】
個々の金融機関の話ではなくて、金融システムの話になってしまうのですね。ブロックチェーンを使って分散でいろいろなことが行われるようになったときに、そもそも金融監督ができるのでしょうか?

【早川】
できないと大変だから監督当局もテクノロジーレベルを上げないと戦えないのです。

【中林】
国内とか国外とかが全然関係なくなってきますよね。

【早川】
現に様々な世界でそういうことが起こっているわけで、金融だけ安全とは言えません。Fintechの話をするなら、本質的なことも考えておかないといけないでしょう。

【佐々木】
全く違うプレーヤーがITを使って金融システムを代替するということも?

【早川】
そういう時代がまさに来ようとしているのでは。音楽や映像の世界で起きているのと同じようなことが金融でも起きるだろうというのが最も本質的な問題だと思います。規制監督、金融機関自身もぼんやりしていたら完全にやられてしまいます。

【佐々木】
少し発想を転換して、むしろ基幹系をブロックチェーンで分散させるところに目を向けて行けば、富士通の強みを活かせるかもしれませんね。

【早川】
ビットコインのような世界だと誰でも参加できる仕掛けですが、逆にメンバーを限って使うこともできます。金融機関もそういうやり方はできるし、IoTも完全にオープンである必要などない。自動車業界なら自動車業界の中でやればいいわけです。

【中林】
日銀公認のようなブロックチェーンのシステムを作ればどうでしょう?

【早川】
作って分散させれば、中央コンピュータで全部制御しなくていいですね。決済の将来は、そちらの方に行くかもしれません。

【佐々木】
インターネット以来の革新が起こりつつあると。決済リスクのコントロールなど課題は山積みですね。

【早川】
そこは皆さんが専門家なのだから、考えてみてください。富士通や富士通研究所もきちんと知っていて、研究して、金融機関の人たちに「あなた方きちんと考えていますか?」と断固として言って、銀行の偉い人たちにも「そうか」と思わせられるようにならないといけません。

【佐々木】
情報技術をベースとしたコンサルティングが当社の強みですので、富士通研究所などとも連携して、しっかりと技術的な裏づけをもって金融システムの将来像を描き、その上で今後金融機関がどのように対応していくべきか、ご提言できるようにしていきたいと思います。

【中林】
ブロックチェーンをはじめとする新しい技術によって、金融システムの概念が集中型から分散型へと大きく変わろうとしている今、富士通がグループ全体で力を発揮できるよう取り組んでいきたいと思います。

対談者

対談者(写真左から)

  • 中林 歩 :株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクス事業部 プリンシパルコンサルタント
  • 早川 英男 : 株式会社富士通総研 経済研究所 エグゼクティブフェロー
  • 佐々木 正信 : 株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクス事業部 シニアマネジングコンサルタント
  • (対談日:2016年2月12日)

注釈

(注1) : イールドカーブ : 残存期間が異なる複数の債券などにおける利回りの変化をグラフにしたもの。横軸に残存期間、縦軸に債券などの利回り(投資金額に対する利息の割合;1年間)をとる。残存期間が長いほど現金として返ってくるのに時間が掛かるというプレミアムがついたり、金利変動リスクが高まることなどから、通常は利回りは残存期間が長くなるほど高くなり、イールドカーブは右上がりの曲線となる。

(注2) : ストレステスト : (stress test 「健全性検査」)銀行や国家などの経営内容が安全かどうか調べる検査。通常の検査と違い、「経済成長率がマイナス5%」「通貨相場が10%上昇」「国債価格が30%下落」などの検査相手にとって不利な仮定(ストレス)を設定し、その結果として自己資本比率(銀行)や経常収支赤字の対GDP比(国家)などが基準内に収まるかどうかを判断する。

(注3) : レギュレーション・アービトラージ:金融規制の網の目をくぐって、過大なリスクをテイクすることにより高いリターンを得ようとする行為。一般的に、経営者の報酬は企業収益に連動するが、企業収益がマイナスになったり倒産したりしても報酬がマイナスになることはないため、過大なリスクをテイクするインセンティブがあることから、このような行為が行われるものと考えられる。

(注4) : Fintech :Financial technology。情報技術(IT)を駆使して金融サービスを生み出したり、見直したりする動きのこと。

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プロフィール

早川 英男(はやかわ ひでお)
経済研究所エグゼクティブ・フェロー
1954年愛知県生まれ。1977年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。1983~1985年米国プリンストン大学大学院(経済学専攻)留学(MA取得)。調査統計局長、名古屋支店長などを経て2009年日本銀行理事。日本銀行在職期間の大部分をリサーチ部門で過ごした後、2013年4月より現職。

中林 歩

中林 歩(なかばやし あゆみ)
ビジネスアナリティクス事業部 プリンシパルコンサルタント
【略歴】1987年 富士通株式会社入社、株式会社富士通総研へ出向。主に、金融資産の価値およびリスクの評価に関するモデリングと、それを実現するための大規模シミュレーションに関するコンサルティング、およびビッグデータ活用コンサルティング業務に従事。
【著書】「テクノロジー・ロードマップ2016-2025<ICT融合新産業編>」日経BP社 2016年(一部執筆)

佐々木 正信

佐々木 正信(ささき まさのぶ)
ビジネスアナリティクス事業部 シニアマネジングコンサルタント
【略歴】1991年 富士通株式会社入社、株式会社富士通総研へ出向。主に金融機関向けのリスク計測モデルやデリバティブ評価モデルなどに関連する数理モデル構築およびシステム導入支援コンサルティング業務に従事。
【外部発表】「安定性を考慮した業者間取引データを用いたイールドカーブの推定手法」(共著 JAFEE 2012年冬季大会)、「VaRモンテカルロシミュレーションのGPU高速化」(同)
【著書】「テクノロジー・ロードマップ2016-2025<ICT融合新産業編>」日経BP社 2016年(一部執筆)