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シェアリング・エコノミーと地方の持続可能な発展

2016年3月9日(水曜日)

「シェアリング・エコノミー」は個人と個人(Peer to peer)(注1)をつなげることで、余剰時間の価値、情報や知識の価値、未利用の資産価値を見える化し、新たなビジネスモデルを創出している。この新経済は我が国の地方創生にプラスの影響をもたらすことができるのだろうか? また、どのような制度設計なら、よりよく機能してくれるのだろうか?

本稿では、「シェアリング・エコノミー」の特徴と潜在的利益および課題について整理し、地方創生への貢献可能性や普及可能性について検討する。

1. ビジネスの未来--シェアリング・エコノミー

「シェアリング・エコノミー」と名付けられた新しいビジネス方式が、近年ICTの発展とともに誕生・拡大している。電子商取引を中心とする既存のネットビジネスと違い、所有権の移転を伴わずにグッズ(財)を貸し借り、個人間でサービスを提供および利用するものである。成功企業の代表は2008年に創設された民泊サービス(自宅の時間貸しサービス)を担うAirbnbである。7年間で80万以上の宿を提供し、3億のユーザーを有するグローバル企業となった。2016年にブラジルで開催されるリオデジャネイロ五輪の公式宿泊施設のサプライヤーにまで選ばれた。

このブームを支えたのは、インターネットを使ったシェアに慣れてきた若い世代に他ならない。FacebookやTwitterなどのSNSを通じた情報のシェアは若い世代の中で定着し、そこから所有するものや知識、能力までシェアする新たなライフスタイルが誕生した。現在は、あらゆる分野でシェアリングビジネスが誕生・拡大している。交通分野のライドシェア(車の共同利用)を提供するUber(ウーバー)、ペットシッターのマッチングサービスDogVacay、配達・買い物代行のPostmates、個人間で容易にデータをシェアできるDropboxなど様々なシェアリング・サービスが爆発している。

このブームについて、世界各国のメディアがいろいろな側面から報道している。日本国内では、2013年「東洋経済」、2015年12月期の「日経ビジネス」など、シェアリング・エコノミーに関する記事が急増し、NHKを含めたテレビ各局もこのトピックを取り上げている。また、学界でも消費行動論、社会学、経営学など様々な分野で重要なテーマとして議論されている。

2. 何をもたらすのか

シェアリング・エコノミーに対する期待が高まる一方、それに対する懸念の声も少なくない。そもそもシェアリング・サービスは余剰を消費することに基づいているため、住居スペースに余裕があったり、車を所有していたりという、一部の階層の人のみが参入可能となる。その参入が不平等をさらに拡大させるのではないかとの心配がある。例えば、サンフランシスコでは、大家がAirbnbに加入するため、アパートの貸し出しを止め、低所得者の賃借人を追い出すケースも出ている。シェアリング・エコノミーは社会全体にとっては資源の分配・再分配となるが、所得の再分配にはなってない。また、働く人(財やサービスを提供する人)に社会保障を与えていないことで労働条件が無視されていることや、既存の法律や規制と相反している部分もあるなど、監督部門のコストが大きい。

次に、環境の面からみると、ライドシェアは都市部では便利だが、一部の人は副業として、例えば休日に運転手として働く可能性も大きい。そうすると、本来出かける必要のない人たちが兼業のために車を使用することになる。二酸化炭素の放出やエネルギー消費の増大につながるのである。民泊やリユーズも個人のコスト削減につながるが、社会全体の消費量を拡大させる傾向があり、環境に良いライフスタイルへの転換をもたらすまでには至らない。

さらに、社会学・政治学の観点から、シェアリング・エコノミーは全体主義ではないかとの声もある(Times 2014)。個人所有のものを他人とシェアする行為はある種の社会貢献とされ、普及すればするほど、個人は‟強制的”にシェアしなければならないことになるのではないか。1つの例はFacebookで、多くの人の意思表示は他人の発言に影響されているし、友人の投稿に「いいね!」をしたりシェアしたりするように求められていると感じる場合も少なくないだろう。ネット経由の意見交換・情報シェアは大きな社会的影響力を持っているため、人々の認識や行動まで左右されるおそれがある。

以上の課題・問題点に関して、よりポジティブな見方もある。まず、所得の再分配に関しては、この潮流は雇用形態を変化させるまでの力は持つだろう。従来のビジネス方式である「市場における交換」との違いは、交換の場所、つまり、中心的な市場を必要とせず、どこにいても情報を共有できる。そのため、多くの人が一箇所に集まって働く必要もなくなる。今後、オフィスで働くことがなくなるかもしれない。物理的壁(地理的距離)を越える雇用の自由化によって、高所得業において雇用競争が増し、最終的に所得の格差が緩和されることは理論的にはあり得る。

リスクの面から、例えば、民泊は消防、建築基準法上の問題点などが挙げられるが、実際ホテル業界でも不祥事が近年相次いでいる。民泊の参入による競争激化で、一部(不良)ホテル経営の悪化は避けられないだろう。しかし、民泊を選ぶ人は、従来のホテルが提供する快適さや高級感を求めているのではなく、低価格、ファミリー的な雰囲気や異なる地域の文化に触れたい人が多いため、必ずしも既存の産業に大きなダメージを与えるとは言い切れない。労働者に社会保障を与えていないことに関しては、貸し手(財やサービスの提供者)はライドシェアや民泊などを通じて新たな友人、知人、グループを作り、必ずしも金儲けのために働いているとは限らない。

次に、シェアリング・サービスを通じて環境保護に関する動きも出てきた。ウーバーは現在複数の都市において社会実験を行っている。例えば、ウーバーコミュートという新メニューを増設し、ドライバーの行き先と一致する客のみ乗せるという仕組みである。そうすることで、無駄な車移動が減少され、二酸化炭素排出量を減らすことにもつながる。今後、乗る人の環境意識の向上とともに、カーシェア市場での電動自動車の利用増加につれ、車販売市場にも影響が出るだろう。また、民泊が普及すれば、持ち家の資産価値に対する認識を高め、建物のデザインや周辺環境との一致などがより重視され、都市景観には潜在的にプラスの影響が生じる可能性さえある。

全体主義へのおそれについて、全体主義とはすべての個人が全体に従属し、個人生活のすべての側面に対してトップダウンで可能な限り規制を加えることを指す。これに対して、シェアリング・サービスは個人のレベルで個人の消費ニーズと提供能力をマッチングするボトムアップの構造であり、より多様な選択、より率直な意思表示、より透明なフレームワークである。例えば、民泊が普及することによって、住民が自分の家や周囲の環境に対する認識を変え、より積極的に自治に参加するようになることもあり得る。

シェアリング・エコノミーでは、口コミ情報による評判(レピュテーション)由来の自律、相互義務に基づいた信頼・信用社会の構築、社会貢献への機会提供などがより良い社会を創り出す新たなツールになるとも言える。また、現代社会において、特に都市において、個人はより独立し、より孤独になっている一方で、従来と違った形で他人、世界とのつがなりを求めるようになってきている。そのため、シェアリング・サービスを通じて形成される新たなコミュニティーがそのような都市生活者の支えにもなり得るだろう。

3. 地方創生への貢献可能性

それでは、この新経済は地方創生の政策手段として利用可能だろうか? 地方再生が直面している大きな課題の1つは、人口減少と高齢化問題である。2015年に80歳以上の老人は1千万人を超え、その多くは地方に住んでいる。今後、出生率を2以上にまで回復させることはもはや不可能で、高齢化しつつある地方の人々がいかに質の高い生活を送れるかが問題となる。生活基盤の維持と、その基盤となる資本の集積が不可欠である。

シェアリング・サービスは、まず生活基盤の維持に貢献可能である。例えば、高齢者の食料品へのアクセス問題、医療・介護問題、地方における省エネ、循環型社会の構築といった課題解決には利用可能である。また、シェアリング・サービスの地方への導入は、所得の再分配や資源の循環的利用、さらに、多層的なコミュニティーの形成につながる。例えば、民泊の場合、都市部の人々が地方で消費することで、地域間所得の再分配になる。海外からの多くの観光客が地方にお金を落とせば、地方のサービス業の再興も予想される。また、民泊の需要が増える地域において、空き家や公共施設の再利用も求められるようになり、循環型地方社会の形成を促せる。

シェアリング・エコノミーでは地方都市が重要な役割を果たすことになる。地方都市にはインフラが集結し、人的資源、物的資源の集積効果で、地方の生産力を向上させてきた。しかし、近年、地方都市において働く人口の減少や企業の移転に伴い、様々な影響が出ている。例えば、愛知県西尾市では公共施設再配置計画に「公共施設の保有総量を段階的に圧縮する」と明記し、公共施設のリストラはもはや避けられなくなっている。

このような状態の地方都市再生の切り札として期待されているのが、コンパクト・シティである。例えば、富山市は2006年までにLRT(次世代型路面電車システム)の開業や公共交通手段の充実など様々な努力をしてきたが、働く人口の流出を止められない。一方、OECDが選出したコンパクト・シティの中で、若年層を吸収することにより目覚ましい成功を遂げたのはアメリカのオレゴン州ポートランドである。ポートランドのコンパクト・シティ構築は1970年代から始まった。市は環境をテーマに、都市緑地の拡大による景観の向上や環境負荷の低い路面電車の導入などに注力した。しかし、それだけでは他の都市と差別化できない。成功のカギとなったのは、持続可能なコミュニティー文化の形成である。ポートランドでは、単なるシェアリングビジネスの進出ではなく、一種の市民間のフリーマーケットであるTrash-to-Treasure(財宝発掘)など個人間取引やシェアの文化が新たなコミュニティーを生み出している。ここに来る若者は地元産のオーガニックフードを消費し、アパートメントから庭園の道具まで、すべてシェアすることが可能となっている。現在、ポートランドはボストンやニューヨークを超え、アメリカ国内で若者に最も人気のある都市とされている。ここ10年、大量の高学歴の若者が移入し、10年前より37%の増加を達成した。

ポートランドのように、日本の地方都市にシェア文化を普及させるには、様々な新しい制度設計が必要となる。現段階では、高齢化した地方都市において、高齢者層も取り入れるような仕組みが重要かもしれない。例えば、埼玉県秩父市や近隣の4町で作る秩父地域おもてなし観光公社と埼玉県は、農家暮らし民泊事業を2014年に始めた(日本経済新聞 2016年2月3日)。これは都会に暮らす学生を対象とする民泊事業で、受け入れる民家には1人あたり一泊約5000円が観光公社を通じて支払われるため、比較的に受け入れやすいかもしれない。このように、高齢者がインターネットやモバイル機器に慣れていなくても、地方自治体や観光公社のサポートのもと、このようなサービスを提供することも可能になる。

シェアリング・サービスの普及には、例えば、民泊を提供することで周辺住民との衝突が発生するといった問題が挙げられている。そこには、日本社会の1つの特徴であるコミュニティーの閉鎖性が影響していると考えられる。地方社会では、この閉鎖的コミュニティーの中で従来からシェアを行ってきた。例えば、隣の人にペットを預かってもらうとか、かつての自治会、町内会の中での清掃活動とかいったことが挙げられる。このような閉鎖的なコミュニティーの中でのシェアと違って、透明でオープンな新しいシェアリングビジネスは、地方社会の人々に受け入れられるだろうか?

地方に住む若い人たちの間では、町内会のような組織に対して全体主義的な強制感を感じる人も少なくない。しかし、この既存の仕組みを改善し、うまく利用すれば、新しいシェアリングの土壌にはなり得る。以前、「田舎に泊まろう」というテレビ番組では、多くの民家はおもてなしの一面を見せてくれた。地方社会、特に村社会は緊密な社会であるため、村全体から民泊への抵抗意識が薄らいでいけば、よりよいサービスが提供されることも期待できる。つまり、より小さなコミュニティーから始まるシェアリング・サービスが広がる可能性が大きい。

シェリング・サービスは一見無秩序の仕組みだが、時間の価値、知識の価値、私物資産の価値を見える化する効果を持っている。信用社会を作り上げれば、資源配分の最適化をもたらす仕組みでもある。アメリカなどでは、シェアリング・サービスは現代社会の隙間を利用し、新たな社会関係資本を作り出している。我が国でも、この新経済をうまく利用し、地方の活性化だけでなく、今後、経済・制度・社会・環境、様々な側面から我々の生活をよりよくしていく取り組みが必要である。

注釈

(注1) : シェアリング・エコノミーは、個人間(Peer to peer)の 経済活動をベースとするものが一般的だが、その他、例えばレンタカーのようにBusiness to customer のシェアリング・サービスも存在する。

参考文献

関連サービス

【調査・研究】


楊珏(ヤン ジュエ Yang Jue)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2008年 国立環境研究所・地球環境研究センター アシスタント・フェロー/特別研究員、2011年 筑波大学大学院・生命環境科学研究科 Ph.D.、2012年 東北大学大学院・環境科学研究科 産学官連携研究員を経て、2015年 株式会社富士通総研 経済研究所 入社。
専門領域は環境経済学、環境政策。
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