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日本とドイツにおける構造改革の未来

2016年3月9日(水曜日)

1. はじめに

日本とドイツは、急速に進む高齢化社会による構造の変化という課題に共に直面している。潜在的成長力は衰え、さらなるグローバル化により利益が縮小しており、生産性を向上させるために広汎なデジタル化と新たなビジネスモデルが求められている。両国は共に大規模な構造改革をもってこれらの課題に対応しており、成長への刺激が期待されているのであるが、方向性の違いにより異なる結果を迎えている。

ドイツは、主にグローバル化とEU統合を通じた域内市場の拡大に重点を置き、輸出額をほぼGDP50%まで押し上げた。日本は、さらに市場シェアを拡大しつつあるサービスセクターにおいて国内の再編成を行った。これまでのところドイツのグローバル化戦略はうまくいっており、成長は力強く、長期間にわたって「ヨーロッパの病人」だった国が国際的なビジネス・政治のキープレーヤーへと快復を果たしたと広く賞賛されている。その一方、日本は無期限の金融政策と通商関連の改革(TPP)を実施しているものの、これらはせいぜい超長期で限定的な効果を持つにとどまるだろう。

日本とドイツの改革プロセスの強みと弱みを検討するにあたり、富士通総研はベルリン日独センターおよびケルン経済研究所(産業に関するドイツのシンクタンク)と共同プロジェクトを実施し、2015年9月8日に東京で、急速に高齢化する社会における「構造改革の未来」をテーマに国際シンポジウムを開催した。その成果として、将来的に、より効率的な改革プロセスを計画・実施するにあたって有用な知見を得ることができた。

2. 改革に対する態度の違い

日本とドイツの間では、グローバル化に関する戦略だけではなく、経済改革、特に大規模な「構造改革」に対する国民の態度と受け止め方にも大きく違いがある。日本では、経済改革の計画は定期的に政治運動や選挙公約の対象となっている。約5年ごとに、日本を根本的に変えることを公約する構造改革綱領が、広く支持を受けて主要選挙で勝利するということが見られる。1997年には「橋本改革」が、中央省庁の再編と税制改革を含む行政システムの大規模な変更を取り上げた。2003年の「小泉改革」は、日本の競争力を向上させるためにサプライサイドと金融の改革を標的にした。そして、2009年には、民主党が政治決定過程全体と官僚の役割を変えることを公約にした。直近では、「アベノミクス」が、前例のないマクロ政策と幅広いビジネスの改革をもって、経済に弾みをつけようとしている。

しかし、改革は盛大な政治的ファンファーレで始められるものの、その実施はおよそ不十分なものとなっている。なぜなら、構造改革プログラムは従前の改革の取り組みにおいて不十分だった事項(改革のバックログ)を再パッケージしたものになることが多く、全体的に後ろ向きのスタンスであり、また取り組みの開始以前にすでに累積した抵抗を受けているので新たな機会の種まきがほとんどできず、改革の実施が困難になるからである。

3. 構造改革:日独の取り組み

 

これに対してドイツでは、日本のように改革が人気を博すことはない。選挙対策として、政治家は「チェンジ」ではなく「安定」を公約する。必要だと考えられる改革は、通常、政治的損害が最も少なくなる選挙後の早い段階に詰め込まれ、そのような政府の行動の理由は、外圧などの外生的ショックに対応する必要があるからだと説明される。(【図表1】参照)

【図表1】「構造改革」:日独の取り組み
【構造改革:日独の取り組み】

同様に、改革プロジェクトに関するメディア報道は、特にエネルギー改革、ユーロ危機、あるいは難民対応の問題といった重要な構造改革の場合には、改革の実施が困難や反対に直面した後、すなわち事後に増えている。実際、大規模な改革パッケージの例であるコール首相の下でのユーロ導入と「シュレーダー改革(アジェンダ2010)」は、それぞれ1998年と2005年の選挙で大敗するという結果をもたらした。

皮肉なことに、デュイスブルク・エッセン大学コルテ教授は、これらの改革はドイツの雇用状況に対して正の影響を与え、ヨーロッパにおける最も強い経済を持つドイツにテコ入れをしたということから、国際的には高い評価を得ているものの、国内的には、同様の改革はダメージとなり選挙で負けるという結果につながるため決して繰り返されないだろう、と指摘する。さらに、ケルン経済研究所プルス博士は、規制の変更が経済に与える影響の分析において、その後の政府(メルケル首相)が、有効であるが不人気だった改革のほとんどをやり直してきた(低い賃金や年金切り下げ等)と指摘する。そして、今日、ドイツ政府はより広いEU市場をターゲットにしてのみ構造改革を行っており、もはや国内市場をターゲットにはしていないことをバルト博士(ケルン経済研究所)は指摘する。

4. 構造改革とグローバル化の役割

つまり、日本の改革の取り組みが広く世論の支持を得ても前に進まかったのは、改革の残り物を再パッケージにした「構造改革」が、根深い抵抗を克服する手段をとらなかったためだと考えられる。他方でドイツでは、改革アジェンダは人気がないものの、「外圧」という外部の理由づけを用い、また段階的な実施を決める前にまずは初期の変革を全面的に推し進めることにより、改革の実施を成功させてきた。

前述のように、改革戦略の有効性を分析するにあたり、グローバル化の役割は極めて重要である。ドイツはヨーロッパの中央に位置して、とても開かれた経済を有するので、地域経済と政治的統合に焦点をあてることにより、国内政策の行き詰まりを打破し、改革の取り組みに継続性を持たせることができたのである。これに対して日本は、輸出がGDPの17%で海外投資による企業結合(国内企業による海外企業への海外直接投資、in-out FDI)がほとんどないというように相対的に孤立しており、外部からのショックによる緊迫感がない。それゆえ、改革の動きはしばしば弱いものとなり、既存の枠内でのゆっくりとした調整段階へと陥ってしまい、目に見える結果がほとんど得られてこなかった。

加えて、グローバル化は少なくともさらに2つの点から改革プロセスをサポートするものだと言える。海外との貿易と投資により、既存の製品と技術の市場が拡大すると新たなアイデアとイニシアチブがもたらされ、これによりアクターと制度の間での継続的な調整が促され、改革の停滞のリスクが低くなると言える。

このように考えると、「アベノミクス」は、グローバル化のポテンシャルを捉えて、国外のTPP交渉と改革を結びつけたものであると言えよう。アベノミクスは、アジアの統合を促進し、ビザに関する規制を変更して観光面でも開放政策をとるので、国際投資とサービス貿易が促進される。また、中央銀行のような中央組織におけるゲームのルールを変更するという組織変革の力も利用している。日銀は(高齢者の)資産の保護という従来のあり方から、投資への信用供給を押し上げて政府のクレジットコストを低減する方針へとシフトした。

【図表2】「継続的改革」:日独の主な取り組み
【継続的改革: 日独の主な取り組み】

しかしながら、グローバル化は、改革を志向する政策にとっては常に重要な柱となるものであるが、その限界もまた徐々に明らかになってきた。【図表2】は、主要な改革の取り組みが、外的環境(為替、通商等)に関するものから国内のガバナンス改革へ、そして近年ではより直截なイノベーション政策(「インダストリー4.0」)へとシフトしていることを示している。これは極端なグローバル化がもたらすリスク(例えばユーロ危機や急激な移民等)がある一定の水準から上昇する一方で、高齢化社会においてはイノベーションと効率性がいっそう重要になるからである。

5. 改革の時期・目的・戦略

以上を踏まえると、今後の構造改革に対する重要なメッセージは、「改革の取り組みは選挙後速やかに実施し、次期選挙前に政策の成果を示すために十分な時間を確保する必要がある」というものになろう。(しばしば日本で見られるように)肯定的な政策に対する信任を背景に改革に立ち向かうことは確かに助けにはなるのではあるが、ドイツの状況が示すように、それは必須の条件ではないと言えよう。さらに言えば、(これもまたしばしば日本で見られるが)改革プロセスが困難に陥った場合に、新たな選挙を通じて世論の支持を再度求めても、それによって改革プロセスが息を吹き返すことはなさそうである。

他方で、改革アジェンダとその実施を支えるためになされる速やかな制度変更は必須である。中央銀行から労働市場制度に至るまで、新たな制度というものは、新たな信任を要するだけでなく、たとえ困難であるとしても目標を軌道に乗せ続け推進することができるような新たな組織や人材を必要とする。改革の実施は緩やかな積み重ねによってのみ進められることから「変化」は制度の裏付けを必要とするので、継続的なアクションをとるための制度化が図られねばならないのである。

これに対して、大規模な(包括的な)構造改革パッケージは回避されるべきである。というのは、そのようなパッケージは従前の実施が不十分だったことの結果であることもあって、生じる抵抗が過大なものとなるからであり、そしてまた、積極的な成果が示される前に次の選挙が到来してしまうからである。実施を実効的に進めようという強い意識の下で制度が改革され、重要な改革(労働市場における「同一労働同一賃金」等)がモメンタムを得て実現されるというのが理想である。また、政策の行き詰まりを回避するためには、どのような小さな実施段階も重要だと言える。

市場におけるコーポレートガバナンス改革もまた効率性を志向する制度改革への指針になろう。結局のところ、継続的な徐々の変化とイノベーションは、政府ではなく民間企業の領域だからである。高齢化社会では、企業は自らのビジネスを超えた新しい重要な役割を果たしていることを認識するように求められる。これは、企業が市場でのビジネスに集中し、必要に応じて政府に対して市場の枠組みを単に「規制緩和」することを求める、といったことが見られる若くダイナミックな経済とは異なるのである。若い経済では、アダム・スミスが説明するところの動態的な競争という「神の見えざる手」が改革の役割を担い、「敗者」は社会の成長過程を通じて損失を回復することができた。

これに対して、(限られたイノベーションと効率化のための経費節減に頼った)景気停滞に近い成長しか見られない高齢化社会では、およそ変化というものは損失と再配分を伴い、これを政府が正当化することは困難である。だが、企業と地域による取り組みであれば、改革の取り組みを進めるにあたり、得られるメリットと必要な変化とをよりうまく調和させることができる。タクシー業界と運輸規制に対するUberの挑戦のように、規制の変更が必要となる改革に取り組むには、効率を通じた成長の潜在性だけでなく、新たな条件の下で既存のタクシー会社が共存するような計画をも示さねばならない。

そのような「新しい」構造改革の取り組みが長期の成長を促進した好事例として、ドイツの「インダストリー4.0」が挙げられる。この取り組みは、デジタル・エコノミーとモノのインターネット(Internet of Things)の分野においてドイツがさらに後れを取りそうだという問題意識に基づいて始められたものである。「インダストリー4.0」は、「デジタル・アジェンダ」について、ただ単に政府頼みするのではなく、広範な産業(機械、自動車、オートメーション等)、関連組織、そしてシンクタンクが共同して取り組んだものである。説得力のある(経済全体についての)シナリオに基づいて民間の組織が戦略的な勧告を提案し、これが政府の支持を得て国家戦略となったのである。それまでの政府の政策は長期にわたり停滞してきたのだが、全国のブロードバンドネットワークの敷設や、職業訓練改革(「教育4.0」)、大学・企業間協力と労働市場改革(「労働4.0」)といった取り組みは、これまでよりもずっと早く、またより攻撃的ではない形で開始・実施されたと言える。

日本には、改革を公約するという伝統があるので、ラウンドテーブルでの産業・政府間協力や、産業主導でダイナミックにアベノミクスの構造改革を行うことは、企業がかなり協力して焦点が未来志向の改革に向けてシフトするのであれば可能となろう。幸いなことに、すでにこの方向での取り組みは見られており、その数は増加している。「インダストリー4.0」との関係では、「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ」(IVI)が、デジタル・プラットフォーム上の企業間協力の新たな基盤を用意している。また、研究開発の分野では、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が、時代遅れになった官庁が関与する研究開発の構造を解体している。そして、議論になっている労働市場改革について言えば、企業が経営困難に陥った場合に正社員に対して金銭補償による整理解雇を行うことを可能にし、非正規労働者により多くの機会がもたらされるようにするという提案が支持を集めつつある。このような取り組みを着実に進めて継続的な改革を実践していくことが必要である。

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Martin Schulz(マルティン・シュルツ)
株式会社富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
1989年 ベルリン自由大で政治学修士、1990年 経済学修士を取得、1996年 同大学で博士号(経済学)を取得。1998年まで同大の政治経済研究所助教授。1996年以降、英国バース大学、イタリアのバリ大学、ポーランドのシュテティン大学、ベルリン社会科学学術センターにて勤務。1991年~1993年 東京大学社会科学研究所研究員。1997年 立教大学経済学部奨励研究員。1998年~2000年 東京大学社会科学研究所研究員および同大学経済学部研究員。一方、1998年~1999年には日本銀行金融研究所に滞在。2000年7月 富士通総研経済研究所入社。
専門:国際経済、企業戦略、対外投資など。
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