GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. コラム >
  3. オピニオン >
  4. スポーツにおけるデジタルマーケティングとICTの役割

スポーツにおけるデジタルマーケティングとICTの役割

2016年2月23日(火曜日)

日本のスポーツ界は、Bリーグ発足やオリンピック開催などを契機に、大きく発展しようとしている。新規ファンの取り込みとスポーツの新たな魅力創出のためにデジタルマーケティングやICTがどう寄与できるかについて考察する。

1. デジタルマーケティングの役割

スポーツ業界ほど、デジタルマーケティングの効果が見込める業界はないように思える。試合という新商品販売の機会が頻繁にあり、ファンはチームや選手に強いロイヤリティを持ち、高額なグッズ・サービスでさえ喜んで購入してくれる。事実、米国メジャーリーグでは、デジタルマーケティングの専門会社を設立し、オンラインチケット販売、デジタルコンテンツ販売などを組み合わせてグローバルに販売することにより、この20年で売上を5倍以上に伸ばすことに成功した。

一方、日本のスポーツ業界は、売上が横這いであり、観客の平均年齢は、Jリーグで40代、プロ野球で50代と高齢化しつつある。若年層を中心とする新規顧客の開拓が課題となっている。

マーケティングという観点から言えば、課題は大きく3点ある。

  • (1)チームに関心があるファン(チーム関心層)を取りこぼすことなく集客できるか。
  • (2)特定のチームのファンではなくとも、その競技(野球・サッカー等)に関心があるファン(競技関心層)にどれだけアプローチできるか。
  • (3)競技に関心がない地域の住人(非関心層)をいかにスタジアムに誘導できるか

新規ファンの獲得から熱心なファンになっていただくプロセスとしては、(3)→(2)→(1)となる。富士通総研では、複数のチームやリーグにて、これら3つの課題の解決について検討支援を行っている。それぞれについて述べる。

(1)チームのファンの取り込み

ある試合の観戦者のうち、初めてスタジアムを訪れた顧客が何人ぐらいいるのかということは、多くのチームにとって把握が難しい。

特に、顧客情報の一元管理には問題が発生しやすい。チームが管理できているデータは、シーズンシート購入者とファンクラブ会員の情報だけであることが多く、単券チケットについてはプレイガイドやコンビニに流通を任せ、EC(Electronic Commerce)サイトはEC業者に任せといった形で情報を分散させているためである。

その結果、購買情報を含めたロイヤルカスタマーの特定ができず、高付加価値サービスが開発できない。あるいは、年間数回観戦に来るユーザーの把握ができておらず、ライト層の取り込みが十分できていないなどの問題を生じている。

また、チケット購入者以外の情報、例えば、SNS(Social Networking Service)などを用いた情報伝播についても、分析や有効活用ができていないケースが多い。

MLB(Major League Baseball)では、凄いプレイや面白いプレイがあると、即座にプッシュ通知により情報を拡散する。併せて、試合の映像をネットで配信し感動をファンに共有することで、次の試合のチケット購入に誘導し、リアルな集客につなげている。

つまり、試合でのリアルな感動がデジタル情報(映像等)の購入につながり、それが、また、次のリアルな体験(チケット購入)への誘導につながるというサイクルが回っている。また、このような施策に拡散効果を持たせるため、SNSのIDを用いたログインを可能とし、本人の趣味や友人等、他のデータと紐づけられるようにしている。この仕組みは、集約することでデータ分析や口コミによる拡散等の効果が見込めるため、リーグの取り組みとして行われている。

会員データ、チケット購入データ、SNS等のすべてのデータを紐づけ、統合的に顧客を把握し行動分析できる仕組みを作ることは、チームのファンを十分に取り込むための第一歩である。

(2)競技に関心のあるファンの取り込み

特定チームのファンではなくても、その競技に一定の関心を持つ層は多い。学生時代に部活動に所属していた人、社会人として趣味で参加している人、あるいはオリンピックや国際試合などの機会に日本代表チームを応援している人々である。彼らを観戦に誘うことはどのようにしたら可能だろうか?

競技者として登録されている層に声をかけるには、学生などの競技者を束ねている各種協会や連盟などの競技者団体との連携が必要となる。

ただし、競技者団体においても、競技によっては都道府県別で情報が統合されていないケースや、年をまたいだデータ管理がなされていないなどの問題を抱えているケースもある。

競技者データは、プロチームのファンの潜在データであるだけでなく、怪我などの情報は選手生命に関わるし、審判・コーチとして競技者人口の裾野を広げる土台でもあるため、ライフサイクルで把握し活用できることが望ましい。

また、競技者登録されていないファンの場合には、彼らが参照するサイト(例えば、日本代表チームの応援サイト)へのアクセスデータ(Web閲覧情報)に基づき、参照者を把握する仕掛けが必要である。

日本ではチーム、競技者団体、日本代表などが相互送客を行うケースは少ないが、連携することで観客数増加が期待できる。

それぞれの役割を明確にし、それぞれが引き受けるターゲットと相互送客の方法を検討したうえでデータを連携させることが、そのスポーツを長期的に繁栄させるために必要である。

(3)地域住人の取り込み

スポーツに関心のない顧客にスタジアムまで足を運んでもらうことは難しい。

唯一の成功例がエリアマーケティングである。プロ野球の球団が地方に移転し、人気球団化した例は分かりやすい。

地域の一般層に地元を代表するチームだと認知してもらうことは、スポーツチームが一般層を取り込むための王道である。地域貢献に熱心に取り組んでいるチームも多い。

ただし、地域貢献がそのまま集客につながるとは限らない。【図1】は、あるスポーツチームにおける(1)チーム関心層、(2)競技関心層、(3)非関心層のボリュームを示したものである。競技に関心がない地域住人((3)非関心層)は、ボリュームこそ多いものの情報を発信しても到達しづらく関心も異なる。どの層をターゲットに、どのような情報を発信するのか、戦略的な取り組みが必要となる。

【図1】ターゲット圏内における顧客セグメントの例
【図1】ターゲット圏内における顧客セグメントの例

なお、地域の盛り上げ感を演出するには、地域の他のコンテンツとの連携も欠かせない。

ただし、コンテンツ間のコラボは異なるジャンルを組み合わせることになるため、ターゲットの関心を分析した上で取り組むことが必須となる。

富士通総研で昨年、取り組んだ例では、地域の若者をターゲットとして分析した結果、思いのほかアニメとスポーツ観戦に親和性があることがわかったため、地元を舞台にしたアニメ作品を活用し、地元商店街、交通事業者と連携したプロモーションを展開した。

告知はネットのみであったが、SNSで情報を拡散させた結果、コラボチケットは1時間で完売することができた。

2. 今後の展開 ~ICTによる新たな魅力の創出~

現在、ICTは顧客情報の収集・分析だけでなく、スポーツそのものに新たな魅力を付加する試みに活用されている。

センサーを用いた新たな競技データの収集と観客への提示、AI(Artificial Intelligence)機能を用いた、ユーザーが欲するプレイ画像の効率的な取り出しと編集。SNSを用いた他の観客の反応をファン間で共有する仕組み。選手の興奮を観客に体感させるVR(Virtual Reality)と結びつけた仕組みなどである。

米国のスタジアムではカメラ映像をCG(Computer Graphics)で補完し、プレイに映画のようなカメラワークでの演出を加え、魅力を増幅して観客に伝える試みも行われている。

富士通でも、女子ゴルフの主催大会である『富士通レディース』において、好きな選手のプレイだけ選択的に見る「ショット検索」などの試みを行い、富士通総研では分析等の支援を行っている。

スポーツを新たなるエンターテイメントとしてさらに魅力的にするためにも、ICTには重要な役割が期待されている。

関連サービス

【業務改革】カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)


松本 泰明

松本 泰明(まつもと やすあき)
株式会社富士通総研 流通・生活サービス事業部 シニアコンサルタント
東京大学文学部西洋史学科卒。富士通株式会社にてFM-TOWNS、FM-V等のコンシューマービジネス向けのサービスを開発・運用した後、株式会社富士通総研に出向。専門分野はスポーツやアニメなどのコンテンツを軸としたデジタルマーケティング、異業種連携、地域活性化施策など。