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水素社会実現に向けて

2016年1月21日(木曜日)

1. 注目が集まる「水素社会」の実現

現在、水素社会の実現ということに人々の注目が集まり、2015年は「水素元年」と位置づけられているほどです。水素社会とは、政府が2014年に発表した「エネルギー基本計画」によれば、「水素を日常の生活や産業活動で利活用する社会」とされていますが、実態的には水素が他のエネルギーに取って代わるというのではなく、「エネルギーシステム全体の中で、水素が持つ多様な特性を生かして、水素を主体的に利活用している社会」というイメージに近いでしょう。

水素社会実現に向けた具体的な動きが、国、地方自治体、民間企業それぞれで進んでいます。まず国としては、前述のように2014年に発表した「エネルギー基本計画」の中で水素の重要性を強調し、将来の二次エネルギーの中では水素が中心的役割を果たすとまで明言しています。こうした国の方針を受け、経済産業省は2014年に水素・燃料電池戦略会議を立ち上げ、水素社会実現に向けたロードマップを策定しました。そこではフェーズを3段階に分け、長期的視点で水素社会の実現を展望しています。すなわち、フェーズ1で2020年代半ばまでに燃料電池の利用拡大を目指し、フェーズ2で2030年頃までに大規模な水素供給システムを確立し、フェーズ3で2040年頃までにトータルな形でCO2フリーの水素供給システムの確立を目指すとしています。

自治体関係の動きとして、例えば東京都では2020年の東京オリンピック・パラリンピックを機会に、東京を水素社会のモデル都市にしようという計画が進んでいます。水素ステーション、燃料電池車、燃料電池バス、家庭用の燃料電池、業務・産業用の燃料電池などに関して数値目標を掲げて普及させようというものです。東京の他でも多様な動きが始まっています。さらに民間企業でも、燃料電池車の発売、家庭用燃料電池の普及促進など多様な利活用に向けた動きが、世界をリードする形で大きく進み出しています。

2. 水素社会への期待と問題点

このように水素社会実現に向けた議論と行動とが急速に活発化した背景には、人類や日本が抱える大きな問題に対し、水素が解決の糸口になるという期待があります。例えば化石燃料の枯渇、エネルギー安全保障、災害時のエネルギー対処などのエネルギー問題に対しては、水素は地政学的リスクが少ない地域からの多様な一次エネルギー源から豊富に得ることができ、ある意味無尽蔵であるほか、災害時には燃料電池バス等の利用で非常用電源として活用できます。また、地球環境問題に対しても、水素は使用時にCO2を出さないクリーンなエネルギーです。太陽光や風力など、地球環境上で期待は大きいものの供給面で不安定な再生可能エネルギーについて、そこから生まれる電力を水素の形で貯蔵、運搬、再発電することで生かすことができます。また、地産地消や域外にも販売できるエネルギーとして地域産業を生み、日本が先行する燃料電池車などの技術をベースに、日本の産業競争力を高めることもできます。

水素社会実現に向けたこうした期待が高い一方で、その実現に向けては問題や課題も多く、解決は非常に困難であることも事実です。

例えば技術面では、製造時にCO2を出さない技術やCO2を吸収してくれる技術の実現、またコスト面でも、水素製造コストの削減や、現状1基の水素ステーションを設置するのに4~5億円かかるとされる水素流通インフラ構築費用の大幅削減が不可欠です。さらに水素の安全性に対する心理的な不安の解消も、水素の利活用促進には避けられません。

3. 水素社会実現に向けた視点

水素社会の実現を目指すうえでは、プラス面もマイナス面も含めて多様な性格を持つ水素の本質や独自性をどう捉えて活かすかが重要です。

第1に、水素は多様な性格を持つ新たなタイプのエネルギーなので、従来のように「単独のエネルギー」として他のエネルギーとその長短を比べるのでなく、水素を再生エネルギーと組み合わせ蓄電的役割を担わせるなど全体俯瞰的、エネルギーシステム全体の中で水素の役割を評価することが重要です。

第2に、水素社会の全体像が非常に複雑なので、局所だけ、概念的にだけ検討するのでなく、全体の相互関係を定量的にモデル的に把握したうえで水素を評価する必要があります。

【図】水素社会実現には長期的視点が必要
【図】水素社会実現には長期的視点が必要

第3に、水素社会実現への道のりは、時間的にも長くなるので、長期的視点で考える必要があります。上記の【図】は、水素社会への期待値を時間軸で表したものですが、水素社会への実現の道のりも当初の期待が大きく膨らむ時期から、冷静に考えてその実現がやはり大きな問題・課題を含むことが認識され、夢や期待が萎む時期が訪れるでしょう。しかし、やはり水素社会は価値が大きいもので実現させる必要があると考え、再び期待が持ち直し、実現に向けて動き出すという経緯を辿ると思われます。水素社会の実現のためには、こうした変遷をたどるという前提で、その時期ごとにどうやって乗り越えるかを長期的視点で考える必要があります。

水素社会実現には、水素を全体的、定量的、長期的に評価し、国や自治体、民間企業が強い意思を持ち、知恵を絞って推進することが非常に重要な視点となるでしょう。

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【調査・研究】


安部 忠彦(あべ ただひこ)
経済研究所 特任研究員
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、1999年2月 (株)富士通総研経済研究所入社。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。
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