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【フォーカス】水素社会は実現するのか?

2016年1月20日(水曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

2015年11月末からフランスのパリで開催された「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)では、メディアのニュースでも大きく報道されたように、すべての締結国が取り組むべき2020年以降の地球温暖化対策の法的枠組みを定めた「パリ協定」を採択して閉幕しました。日本は2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年比で26%削減するという目標を提出し、さらに、安倍首相は、この目標に向けて「その鍵となる環境・エネルギー分野での革新的な技術開発を推進する。日本の技術や経験を活かし、途上国においても気候変動対策を実施していく。」というコメントを発表しました。

富士通総研では、クリーンなエネルギー源である水素に対する注目が今後ますます高くなっていくと考え、2015年10月に特別企画コンファレンス「水素社会は実現するのか―日本の挑戦とビジネス機会―」を開催しました。本対談では、この特別企画コンファレンスを担当した経済研究所の生田上席主任研究員、濱崎上席主任研究員と、地域における水素の活用プロジェクトに関わる金融・地域事業部の石本シニアコンサルタントが、水素活用の本質や水素社会を実現するのに必要な条件、ICTの役割などについて語り合いました。進行役はFRI経済研究所の浜屋研究主幹です。

1. 水素社会に関する問題意識と水素の複雑性

【浜屋】
パリ協定も締結されましたし、これからますます水素が注目を浴びるのではないかと思いますが、まず、どうして水素社会をテーマにしたコンファレンスを開催したのかということを、コンファレンスの企画やパネルディスカッションのモデレーターを担当した生田さんに話していただければと思います。

【生田】
まず、2014年に「水素社会実現に向けたロードマップ」を経産省が発表しましたし、東京オリンピックに向けて「水素社会」を実現していくという動きもあり、「水素」というキーワードが2015年に注目されてきたという認識がありました。それに対して富士通総研としてどのようなメッセージが出せるかを検討してきたのですが、水素社会に対する他のイベントは、どちらかといえば「水素社会ありき」で、とにかく水素社会の実現を盛り上げていこうという決起集会のようなものが多かったのです。そこで、私たちは、タイトルも「水素社会は実現するのか」という問いかけにしたとおり、水素社会の実現はすでに決まっていることではなく、それを実現させるためにはどういうことをしていったらいいのかということを、いろいろな方面から客観的に議論していこうということになりました。
講師を選ぶときにも、多角的な視点を重視しました。基調講演のデビッド・ハートさんはヨーロッパでエネルギーに関連する活動を長年やっていらっしゃる方で、海外、特にヨーロッパから見た視点で日本の今のムーブメントを評価してもらおうという意図がありました。濱崎さんの研究報告では、シミュレーションを使った経済的な視点で水素社会の実現性について研究した内容を説明してもらいました。そして、パネルディスカッションでは、岩谷産業の宮崎さん、トヨタ自動車の小島さん、福岡市の駒田さんにおいでいただいて、現場で実践されている方々の生の声を聞きながら、地に足の着いた議論を目指しました。おかげさまで300名弱の方々にご参加いただき、コンファレンスとしては成功裏に終わったと思っています。

富士通総研 経済研究所 生田 上席主任研究員
【生田上席主任研究員】

【浜屋】
生田さんのお話にもあったとおり、コンファレンスには福岡市の駒田さんにもパネリストとして参加していただいたのですが、FRIの金融・地域事業部も福岡市の水素プロジェクトをご支援させていただいていますので、その内容を石本さんに説明してもらいます。

【石本】
私たちは、福岡市から大きく2つのテーマで事業を受託しています。1つは福岡市が推進している下水バイオガスから水素を作るプロジェクトのご支援です。これは、福岡市の中部水処理センターの下水汚泥から発生するバイオガスから水素を生成するプロジェクトですが、作った水素をいかに活用するかが課題となっています。水素の活用には製造段階のコスト、輸送の難しさ等の課題がありますが、将来的には、福岡市の特性を活かした水素活用モデルを描くお手伝いができればと考えています。

【浜屋】
もう1つのテーマについて説明してもらう前に、水素の供給と需要の関係については、濱崎さんのシミュレーションモデルでも分析しているのですが、どうでしょうか?

【濱崎】
需要と供給の問題は、なかなか難しい問題です。水素は、もちろんそのまま燃やしてエネルギーになる場合もありますが、それ以外にも、電気になったり熱になったり、最終的にはいろいろなエネルギーになって使われます。例えば、電力の供給面から言えば、既存のグリッドからの電力と水素で作る電力をどうバランシングさせるのかが問題で、「システムワイドなビュー」とよく言われますが、全体でどうやって一番よい組み合わせを作るかを考えていかなければいけなくて、これは結構難しい。従来の電気や熱だと供給と需要をバラバラに考えてもいいのですが、水素の場合は、どうやって供給してもらうかを需要側も考える必要があります。
これはバイオマスでも同じで、例えば、「日本は森林資源が豊富なのでバイオマスエネルギーを供給する可能性は高いし、再生可能エネルギー(再エネ)に対する需要もたくさんあります」と言っても、供給量は変動しますし、それを需要側とうまくマッチングできないとうまくいきません。今までは、電気を発電したら、あとは送電線で送ってしまえばいい、という発想でしたから、日本では供給と需要をきちんとバランシングさせなければいけないという考え方があまりなかったのです。だからシミュレーションモデルが大切ですよ、と僕たちは主張しているわけです。あと、一体誰がバランシングさせていくのかということも大きな問題です。

【浜屋】
なるほど、需要と供給のバランスは大きな論点になりそうなので、もう少し話し合いたいのですが、その前に石本さんに2番目のテーマを説明してもらいましょう。

【石本】
はい。2番目のテーマとして、福岡市では中部水処理センターの水素に限らず、「水素リーダー都市」として福岡市全体での水素活用をどうしていくかという構想を描こうとしています。その取り組みの中で、私たちは「福岡市スマートコミュニティ創造協議会」の中の「水素・燃料電池分科会」の運営を支援しています。本分科会は十数社の地元の企業とともに、幅広いテーマを検討していますが、開発中のアイランドシティにおける水素活用もテーマになっています。アイランドシティには、埋立地の上に、これから住宅を作っていくとか、ビルやマンションを建てるとか、港を作るとかいった計画があるのですが、そこで水素をどう使っていくかを検討しようということになっています。
水素は、一般的にはコストが高くて普及しないと言われているのですが、技術的には実験段階から実用段階に入ってきた中で、さらに一歩進んで普及させていくには、技術寄りの視点だけではなく、もう少し生活寄りの視点で考えていくことも重要だと考えています。人口150万人を有する福岡市の特性を活かした活用方法を描くことが、お話しした2つのテーマの共通課題であると認識しています。

2. 需要と供給のバランシング

【浜屋】
水素社会の実現のためには、技術面だけでなく、需要面というか生活に近いところから考えていく必要があるのではないか、ということですね。それは、先ほどの供給と需要の話と共通しているわけですが、濱崎さんが指摘したのは、誰が需要と供給をバランシングするのか、という問題でした。

【濱崎】
例えば、電気だけだったら電気を供給する事業者がバランシングさせればよかったのですが、そこに熱需要も入ってきたし、エネルギー源としては、太陽光や風力だけでなく、水素も入ってきたし、バイオマスも入ってきました。従来のエネルギーを新しい再生可能エネルギーと組み合わせようという話はよくあるのですが、結局そのためには誰が最終的にコスト負担してバランシングさせていく役割を果たすかという問題があります。

富士通総研 経済研究所 濱崎 上席主任研究員
【濱崎上席主任研究員】

【浜屋】
2015年10月のコンファレンスでは、基調講演で、ハートさんが「リージョナル・リーダーシップに期待する」という話をされていましたね。限定した地域の中で全体をバランシングさせていくのが現実的なのでしょうか?

【濱崎】
そうかもしれませんが、地域の特性によって誰がリーダーシップをとるかということは変わってくるのだと思います。ヨーロッパだと、ある程度マーケットに任せてしまって、マーケットでバランシングできるように施策を打つわけです。ただ、どういう施策がベストかというと、正直なところ、なかなか解がないのです。水素というのは、今までのエネルギーと同じような議論をしていたら、まずうまい具合にはいかないと思っています。

【浜屋】
ヨーロッパでは誰がリーダーシップをとっているのですか?

【濱崎】
例えば、アウディが、風力等でできた余剰電力を水素にして、それになぜかさらに二酸化炭素を加えてメタンにしてパイプラインに流すということをやっています。なぜそんなことをしているかというと、既存インフラとしてパイプラインがあるからなのです。個別の地域でそういう取り組みは行われていますが、一般的な解を見つけるのは難しいです。まだ誰も解がわかっていなくて、アイデアを出して、最終的にマーケットが決めていくというのがヨーロッパの今のやり方ですし、ヨーロッパではそういうやり方が一番かなという気はしています。では日本ではどうかというと、そこの解を考えるのが私の研究の次のフェーズです。

【石本】
ヨーロッパでは、マーケットがバランスするためにどんな政策を打っているのですか?

【濱崎】
いくつかあるのですが、基本的には電力自由化がやっぱり1つのやり方です。あとは、キャパシティマーケット(注1)。ヨーロッパでは、マーケットが動きつつ安定供給をさせるという感じになっています。
逆に、供給と需要をバランシングさせるようなマーケットもあります。テキサス州のオースティンでは、ICTを使って需要者側の使用パターンを変えるような実験も行われています。需要のピークのときに電気を使わないようにすると、供給側のコストが下がるので、利用者側にそれだけのお金がもらえますというようなのもあります。

【石本】
そういうところには、みんなHEMS(Home Energy Management System)(注2)が入っているのですか?

【濱崎】
そうですね。そういうことをやる人は増えてはきています。でも、それが州とか県とかのレベルで全体的に取り組んでいるかというと、そこまでのレベルではなくて、本当にわずかな、全体の中の本当にわずかなところで、まだ実験している段階ではありますけど。

3. 「水素社会」は水素だけではできない

【浜屋】
今までのお話を聞いていると、どれだけ水素供給ステーションができても、あるいは燃料電池車などの水素需要が増えたとしても、それだけでは「水素社会」は実現しない、というようにも思えるのですが。

【濱崎】
そこは難しい問題で、水素社会を考えるためには、「水素を普及させるのはいったい何のためか」ということを確認しておくことが必要です。やっぱりガスや化石燃料だけ使っていたら、温室効果ガスはあまり減らないですよね。COP21でも議論されたとおり、最終的にはカーボンフリーにしていこうというのが長期的な目標で、水素を使うとそれが効率よく実現できるのはないか、ということは言えると思います。

【石本】
私も水素をテーマに取り組んではいますが、水素だけなのが解なのかと思うところがあります。

【濱崎】
水素だけが解ではないと思います。すべてが水素で賄えると考えている人は誰もいなくて、いろいろなものの組み合わせの中に、電気を貯めるとか、熱を併給できるとか、そういうファンクションを実現するために水素が一定の役割を果たしていくであろう、ということだと思います。

【生田】
コンファレンスを企画したときも、「水素社会」といっても、水素100%社会を目指しているわけではなくて、水素のシェアをどれだけ上げるのがいいのかというような議論をしました。水素は、今まではほとんど使われてきていなかったエネルギー源で、ポテンシャルはすごくありそうだけれども、水素で実際どういうことができるかということを客観的に議論していく必要があります。
水素社会を実現するのに誰がリーダーシップをとればいいかというのも、ロケーションごとに違うのかもしれないと思っています。濱崎さんのモデルでは、地域によって再エネのポテンシャルも違うわけですし、どういうプレイヤーが出てくるかも、ケースバイケースだと思います。ただ、福岡市でもそうだと思いますが、日本の場合は地域の首長の積極的な後押しが必要だと感じています。

【石本】
福岡のアイランドシティのように小さい島みたいなところで、仮想的にいくつかの企業が集まってマーケットのようなものを作って、エネルギーの需給をバランシングしていく実験を行うようなことは考えられるのでしょうか?

富士通総研 金融・地域事業部 石本 シニアコンサルタント
【石本シニアコンサルタント】

【濱崎】
可能性はあると思います。ただ、オースティンでなぜそういうことができるかというと、元々テキサス州は電力グリッドが独立していて、その中でいろいろな実験ができるのです。それに、オースティンにはICT企業も多いし、ベンチャー企業もありますから、新しいことをやるのに馴染みがよかったんです。

4. 実証実験の可能性と情報通信技術の役割

【浜屋】
そういう実験をするためにも、まず必要なのは、エネルギーが実際にどれだけ使われているかとかいうことをリアルタイムにきちんと把握できる必要があるわけですね。

富士通総研 経済研究所 浜屋 研究主幹
【浜屋研究主幹】

【濱崎】
電力で言えば、「何に」使っているのかという情報が重要なのです。それがわかると、電力需要をほかの時間に移せるかどうかもわかる。今でも、実験ではそういう情報は15分ごとくらいにデータは出てくるのですが、データを見た需要業者が自分で使用量を上げたり下げたりしていて、自動化はされていません。バランシングをオートメーション化すれば、電力価格も下がるし、供給者側も投資コストが下がるようになります。ドイツのベルリンでは、そういう事業者も出てきていて、需要側と供給側の両方から少しずつ収入を得るようになっています。

【生田】
電力需要に関する情報は以前から必要だと言われていて、スマートメーター(注3)の普及にも取り組んでいますが、やはり既存の家や建物につけていくのはコストがかかる。その点で、新しくあるいは再開発される土地は、そういうインフラを整備していくのに馴染みやすいと思います。
少し脱線すると、需要調整の自動化は、車の自動運転に近いような議論もあって、本当に機械にすべて任せてしまうのがいいのか、という話もあると思います。家の中でいろいろな情報がわかって、それに基づいて、不要なところの電源を切ったり気温を少し調整したりすることは、教育面の効果もあると思うのです。もちろん、住んでいる人が何も知らないうちに、自動的にコスト面でも環境面でも最適なエネルギー消費が行われることは素晴らしいのですが。

【石本】
2012年から3年にわたり、環境省の受託事業として、家庭のエアコンを遠隔で制御し、利用者がどの程度まで受け入れ可能かということを調べています。これは省エネと快適性の両立を目的として、住まい手の体質や生活スタイルに応じた制御を目指すものです。例えば、冬に家が温まっているのに惰性でエアコンをつけているような人には少し厳しめに制御する、というのが分かりやすい例です。しかし一方で、例えばご高齢の方は我慢強く、夏に暑くてもご自分でエアコンを付けずに過ごして、熱中症になってしまうような場合もあります。そういう場合には、逆にエアコンを付けるような制御も行います。制御に対する住まい手の反応を確かめながら、どのようなグルーピングと制御が適切なのかという実験を行っています。

【生田】
まさにヒューマンセントリック。

【浜屋】
水素社会といっても、再エネを中心とした他のエネルギーと組み合わせるという意味では「再エネ社会」でもあるし、需給バランスのために情報が必要という意味では「情報社会」でもあるのですね。水素社会は、決して水素だけでできるものではないし、その分、複雑で、実現するためにはいろいろな課題がありますが、環境にやさしい社会を作り、持続的な経済成長を実現するためにも、それらの課題を解決していくことが必要なのだということがよくわかりました。
今日はありがとうございました。

対談者

対談者(写真左から)

  • 浜屋 敏 : 株式会社富士通総研 経済研究所 研究主幹
  • 濱崎 博 : 株式会社富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
  • 生田 孝史 : 株式会社富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
  • 石本 昌子 : 株式会社富士通総研 金融・地域事業部 シニアコンサルタント

注釈

(注1) : キャパシティマーケット : 容量市場。供給量ではなく、将来の供給力を取引する市場。電力自由化が進むと、供給量の市場だけだと将来の安定供給が保証されない恐れがあるため、将来にわたる供給力を確保する手段として容量市場が必要になってくる。

(注2) : HEMS(Home Energy Management System) :家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム。 家電や電気設備とつないで、電気やガスなどの使用量をモニター画面などで「見える化」したり、家電機器を「自動制御」したりする。

(注3) : スマートメーター : 毎月の検針業務の自動化やHEMS等を通じた電気使用状況の見える化を可能にする電力量計。

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