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【フォーカス】ICTを活用した学びのイノベーション

2015年12月16日(水曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

21世紀を生きる子供達に必要な能力を育むためにICTで貢献できることは何でしょうか? そして富士通はどのようなビジョンを掲げて取り組んでいるのでしょうか?

本対談では、「ICTを活用した学びのイノベーション」というテーマで、富士通(株)行政・文教システム事業本部の中尾本部長代理、公共・地域営業グループ文教ビジネス推進統括部の纐纈統括部長、次世代教育ソリューション統括部の宇野部長、政策渉外室の大島マネージャー、(株)富士通総研(以下、FRI)公共事業部の佐藤シニアコンサルタントに語っていただきました。進行役はFRI公共事業部の河合事業部長です。

1. 対談者各自の教育との関わりとは?

【河合】
21世紀を生きる子供達に必要な能力とは、知識の蓄積だけでなく、知識や情報を活用して新しい価値を生み出したり、情報通信技術(ICT)を活用して、それをさらに効率よくすることだと、最近、各所で言われています。文部科学省が2011年に発表した「教育の情報化ビジョン」でも、知識の蓄積だけでなく情報の活用が謳われていますし、それを実証しようという取り組みが総務省のフューチャースクール(注1)、そして文部科学省の学びのイノベーション事業(注2)でした。そのように教育の質が変わってきて、先生が一方的に教える形ではなく、児童の個に合った教育や児童同士での協働といった様々なやり方が出てきています。大学入試制度改革、高大接続という動きもあり、小学校、中学校、高校の教育の形も変わっていくと思います。今回は教育分野に関わっている方々と、これからの教育の方向性や富士通の取り組みについてディスカッションしたいと思います。まずは皆様のご担当をお話しください。

株式会社富士通総研 公共事業部 河合事業部長
【富士通総研 公共事業部 河合事業部長】

【中尾】
私は行政・文教システム事業本部でソリューション開発と全国のフィールドSEの責任者をしています。我々のソリューションも以前は業務中心で、例えば大学の事務システムや図書館システムでしたが、基盤のインフラはクラウドに移行すると予想される中、ここ数年、教育の本丸に刺さるソリューションを企画しています。もちろん既存分野も大事ですが、文教という分野だからこそ新しいソリューションを発信していく必要があると考えています。

【纐纈】
私は公共・地域営業グループ文教ビジネス推進統括部で、全国の支社・支店の文教営業に対する支援をメインとして、パッケージやサービスの販売推進、ユーザー会の事務局といった活動をしています。小中高、大学、ソリューションという3つの軸で活動していますが、大学や小中高におけるニーズも大きく変わりつつありますので、そこを全国のお客様に直接接する営業と一緒に進めていくことをミッションとしています。

【宇野】
私は行政・文教システム事業本部、次世代教育ソリューション統括部で、初等中等教育市場向けのソリューション開発を担当しています。まずは、社内に点在しているソリューションを集約することから始め、現在は学習情報を活用したソリューションを中心に展開を行っています。そうした中で、「明日の学びプロジェクト」や奈良教育大学との実証を通し、より有効なソリューションを求め、ブラッシュアップを行っているところです。

【大島】
私は政策渉外室で、教育を軸として、文部科学省や総務省をはじめとした政府、官庁とのやりとりをしています。教育は今、非常に大きな転換点を迎えており、産業競争力会議や教育再生実行会議で、教育の今後のあり方が日本のこれからのあり方と併せて議論されています。そういった目標に対し、文部科学省、総務省はじめ各省庁から施策が出されている中、富士通としてどう社会へ貢献していけるのか、またビジネスとしてどのようなソリューションを提供すべきかを、本日いらっしゃる皆さんと共に議論している状況です。

【佐藤】
私はFRI公共事業部で大学向けに情報システム導入支援や教学改革支援のコンサルティングを行ってきましたが、最近は初等中等教育向けの仕事が多くなっています。「フューチャースクール推進事業」、「学びのイノベーション事業」という1人1台のタブレットPCや電子黒板を利用した大規模な実証事業に携わったほか、国や有識者と連携しながら今後の教育情報化の方向性に関する提言を行う業務などに従事してきました。その中で、先進的な取り組みをしている国内外の学校、自治体、企業との意見交換やインタビューも重ね、現状や新たな課題などを明らかにしてきました。

2. 「教育の本丸」とは?

【河合】
先程、「教育の本丸」という話が出ましたが、「教育の本丸」とは何でしょう?

【中尾】
よく教育にICTが必要なのかという議論がありますが、どの部分にICTに使うかが問われているのであって、全部否定するかしないかという話ではありません。機械対人間ではなく、人間と人間の間を支えるICTという意味での教育の質の向上に携われたら、そこが本丸ではないかと思っています。システムだけでなくデータにも価値があると思うので、データを活用して、いかに人と人とのコミュニケーションを良くして教育効果を高められるか、可視化によって学生・児童のモチベーションをどう上げていくか、そういうことが今後のテーマになっていくと思っています。

富士通株式会社 行政・文教システム事業本部 中尾本部長代理
【富士通株式会社 行政・文教システム事業本部 中尾本部長代理】

【宇野】
教育の質の向上はICTを使わずともできると考えられますが、情報活用能力を高めるという文部科学省のビジョンに対して、児童生徒がICTを使うからこそできることを考えなければと思います。そして富士通としては単なる手段としてだけでなく、そこから導き出せるものをソリューションに組み込みたいと考えています。

【中尾】
これだけ皆がスマートフォンもPCも持っている世の中では、もう使う使わないの議論ではないと思います。どこの部分を活かして使うかという話ですね。

【宇野】
同じ授業シーンでも、ある先生は「ICTを使った方が効果あり」と言い、別の先生は「これまで通りでやった方が効果あり」と言うように、人によって捉え方が違います。そこに先生方の今までのやり方やICTに対する考えが表れます。ICTを使う効果は不透明なところがあり、我々が効果の見える化を行う必要があると思います。

【中尾】
「21世紀に生きる力」という話がありましたが、知識一辺倒ではなく、非認知スキル、21世紀スキルといったものに対する教育で一番難しいのは、アクティブラーニングを中心とした教育方法問題もありますが、一方では、それをどう評価するかというところです。もちろんアナログの部分も必要ですが、情報を大量に一気に評価・伝達する分野こそICTの力が発揮されると感じます。音声データや画像データをうまく処理しながら、そういう非認知スキルの育成に役立てるのではないでしょうか。

【佐藤】
私も昨年、ICT活用に取り組む多くの学校でお話をお伺いしましたが、先進的な取り組みで全国的に有名なある高校の先生も、ICT活用のわかりやすい成果として、すぐに学力面の成果を示すのは難しいと仰っていました。ICTで新しいスタイルの授業を行うと、生徒に積極性が生まれ、生き生きとした表情が見られるようになったことを重要な変化と認識されていました。現場で感じているこうした変化を含めて、もう少し多面的な尺度でICT活用の意義が評価されるようになると、学校現場でのICT活用の普及も加速していくのではないかと仰っていました。日本と同様にICT教育を広めようとしているフィンランドの政府や学校にもお話を伺いましたが、子供達は学校でICTを学ぶ前に、オンラインゲームでPCの使い方を覚えたり、世界中の人とコミュニケーションして英語を自然に身につけるようになっているということでした。学校教育より先に日常生活でICTが子供達自身を変えている中で、学校教育だけが変化に対応できていないと話されていましたが、それは日本も同じだろうと思います。

【大島】
同様の話はカナダ ブリティッシュ・コロンビア州(注3)でも伺いました。すでにこれだけICTが広まって子供達が家庭でも使っている状況で、なぜそれを止めなければいけないのかと。これからの世の中はICTを使いながら生活していくのであれば、そのために必要なことを学校でしっかり教えることが世の中の発展のためになるのではないか、というお話でした。

3. 富士通の教育ビジョン策定の背景と狙い

【河合】
7月に富士通の教育ビジョンが出されましたが、その背景や狙いをお聞かせください。

【中尾】
今までのようにパッケージやソリューションを売るだけでは単なるシステムベンダーの域を破れないので、教育に対する考え方に共感してもらい、パートナーとして共に作って行くことが富士通の強みだと考えたのです。社内で人材育成に関わる人達と一緒に、富士通の今後の人材育成に関する考え方をまとめ、お客様に発信し共有していくというアプローチということで、政策渉外室を中心に社内の人材育成に関わるいくつかの部署と連携し、教育ビジョンを作りました。

【大島】
あとは人材開発室やコーポレートブランド室、富士通研究所、富士通デザインにも入ってもらい、ヒアリングや意見交換にはFRIにも参加してもらいました。環境出前授業や富士通キッズプロジェクト、数学オリンピックや情報オリンピックへの支援、富士通コンピュータテクノロジーズが進めている家族ロボット教室などの各観点や、富士通の中に点在している取り組みはどういう思いでやっているのかを伺い、抽出されたものをまとめて教育ビジョンを作成したのです。まだ第1版ですが、今後、様々な人にコメントをもらって、より深く進化したものになればと思っています。

【中尾】
人材像は大体一致してきて、今までの知識偏重ではなく、今後は予測困難な変化を受け入れて自分の力にして成長して行く、能動的な学びを続けられる人が成功していく、そういう人を作るために能動的に学び続けるとはどういうことか突き詰めていく感じです。富士通の教育ビジョンで大切だと考える4つのキーワードの中で一番富士通らしいのが、ものづくりによって学んで行く“Learn by Making”です。これはカナダのデジタルメディア大学院大学(CENTRE FOR DIGITAL MEDIA)と共に「学ぶ」というコンセプトを分解した際に出てきたものですが、我々のアイデンティティでもあり、日本もそれで発展してきたので、そういう気持ちを捨ててはいけないと思いました。ものを作っていく楽しさがさらなるモチベーションを生み出していく、学び続けるということではないかと。

4. 「明日の学び」プロジェクト 一人一人が主人公になるような授業へ

【河合】
教育のビジョンの中では、富士通の取り組み事例が数多く載っていますが、その中で特に効果が出ているもの、注目を集めているものはありますか?

【纐纈】
「明日の学びプロジェクト」(注4)で昨年度から全国5校、タイのチュラロンコン大学付属校に参加いただいています。2010年から始まったフューチャースクール推進事業、そして学びのイノベーション事業ではタブレット1人1台でしたが、明日の学びプロジェクトでは2017年度までに国が目指す3.6人に1台に近い環境で提供しています。使いたい時に1人1台で使える環境です。一人一人が主人公になるような授業運営ができているのではないでしょうか。また、先生から自分の資料を他の先生にも使ってもらいたいと言われたことがあります。先生方の知見を蓄えて二次活用する取り組みもポータルサイトを介して学校間共有の実証をしており、同様のことが各教育委員会に広がればと思います。

富士通株式会社 文教ビジネス推進統括部 纐纈統括部長
【富士通株式会社 文教ビジネス推進統括部 纐纈統括部長】

【大島】
「明日の学びプロジェクト」では、フューチャースクール推進事業、学びのイノベーション事業での知見が活かせていると思っています。これらの事業では先進的な学校として取り組みをサポートして進めていましたが、その知見を今度は普通の学校に活かし、国の実証事業ではなく1民間企業とパートナーが組んで進めています。先生方には授業でICTをどのように使えばより良い授業になるのか、研究いただいています。利活用も進んできて、生徒も楽しんで学んでいるのではないでしょうか。「あそこは特別だから」ではなく、「じゃあ、みんなやって行こう」と、普及も進められると思います。

【中尾】
一番の課題は先生の負荷の問題で、ICTで余計な仕事が増えるという感覚を払拭するために、キーソリューションである「知恵たま」は最初に「らくらく」というキーワードを出して、誰でも使えることを謳っています。

【河合】
タイでの活動は、どんな感じですか?

【纐纈】
タイではチュラロンコン大学付属中学校高校で、日本国内と同様の環境で使っていただいています。2週間前に見学しましたが、ある社会の先生は「世界一の知恵たまユーザー」というくらい使いこなされ、自作のPowerPointを生徒に配信し、考えを書き込ませて、電子黒板で提示しながらディスカッションする授業をしていました。その先生はWorldWideに教材を共有するコミュニティに入っていて、そこで共有したワークシートをアイデアに授業で実践していました。校長先生にもう1クラス分増やしたいと言われましたので、さらに広がりを見せる可能性を感じています。

【大島】
チュラロンコンは、フューチャースクール推進事業と学びのイノベーション事業の実証校だった和歌山市立城東中学校と広島市立藤の木小学校を見学されたのがきっかけで、「明日の学びプロジェクト」にご参加いただき、実際に導入いただく話になりました。日本で培ってきた教育のやり方に共感されて、今はタイとしての使い方になっているのかと思います。

【佐藤】
ICT教育の輸出は国も今後の取り組みテーマに掲げていますが、先行する他国の動向を見ると、現地のニーズや文化への適応に苦労している例が少なくありません。富士通が現地の先生方と共にタイならではのICT活用を見出してきた経験は、ICT教育輸出のあり方を示す、1つのモデルケースと言えるのではないでしょうか。

5. 教育へのICT活用によるコミュニケーションの変化は?

【河合】
教育の情報化は、コミュニケーションの活発化につながるというお話がありましたが、コミュニケーションも先生と児童だけでなく、子供同士や子供と地域社会、子供と保護者など、いろいろあります。どの部分が重要ですか?

【纐纈】
「明日の学び」では先生同士、児童と先生、児童同士がメインとなりますが、それ以外に教育委員会と先生や学校間もコミュニケーションできる仕組みを取り入れています。今年の夏は5校の先生に集まっていただき、事例発表・共有するワークショップを行いました。今後学校を跨るコミュニケーションも活発になるのではと思います。遠隔交流として静岡と札幌をつないだ授業も行われて、こうした取り組みが広まって行くでしょう。距離を越えられるのはICTの長所かと思います。

【中尾】
ICTを活用するコミュニケーションの意義として多様性重視の側面があります。今までは教室で元気がいい子が指されて発言しがちでしたが、ICTで自分の思いを表現して発表することで、普段あまり活発でない子が注目を浴びたり、表現の仕方によって様々な才能が出てくるという意味で新たなコミュニケーションがあります。

【河合】
フューチャースクール、学びのイノベーションの時、児童・生徒達のコミュニケーションがよくなり、お互いを理解し合えるようになって、いじめが少なくなったという話を校長先生から聞きました。ICTの効果は思わぬところで出て来ますね。

【佐藤】
ICTでコミュニケーションを促進するツールとしてSNSが挙げられますが、教育用SNSの活用では、ある先生が他国の先生と教材を共有したり、児童・生徒達が他国の児童・生徒達と交流する授業をSNSを用いて行ったところ、自然に児童・生徒同士がコミュニケーションを始めて英語や互いの国の文化を学ぶようになった例もあります。自由な発想でICTを活用することで色々な可能性が見えてくると思います。

株式会社富士通総研 公共事業部 佐藤シニアコンサルタント
【富士通総研 公共事業部 佐藤シニアコンサルタント】

【河合】
ICTの長所としてコミュニケーションと、情報や色々なプロセスを蓄積できるところがあると思いますが、「知恵たま」(注5)はその辺を担っているのですか?

【宇野】
ICTを使わないこれまでの授業のやり方では学習情報は点在し、先生方個人で累積するのは多大な負荷がかかります。そこで「知恵たま」は「使って、溜めて、活かす」をコンセプトに開発を行いました。ただ単に使って溜めて活かすだけでは、実際に何に効果があるか先生にわかってもらえないので、「知恵たま」で溜まったものを、いかに気づきとして与えることができるかという点に着眼しています。そこで、学習情報を使って溜める際にシステム側で自動的にタグを付けたり、先生が自らタグを付ける機能を実装しています。これによって、学習情報としてできたものを一方向だけでなく、別の観点からも見ることができれば児童・生徒が自ら主体的に気づきを得て次のステップに行く形になっていくのではと考えています。

富士通株式会社 次世代教育ソリューション統括部 宇野部長
【富士通株式会社 次世代教育ソリューション統括部 宇野部長】

【河合】
実際に使われている先生・児童・生徒達の反応はいかがですか?

【宇野】
「知恵たま」は、この教育ビジョンからコンセプトを使って説明すると、先生方に理解していただきやすいと感じています。

【中尾】
先生の学習履歴を残したいという思いを叶えられるツールだと言えます。元々先生方は自分たちが教えたもの、児童が蓄積したものを残したいという欲求があったのではないでしょうか。

【宇野】
「知恵たま」には利用実績から、児童・生徒と先生がどのように授業を行ったかを確認できるプロトタイプ版のアプリケーションがあります。今後はこれによって、児童・生徒の学習行動が日々どう変わっているのかを先生が気づき、最終的には保護者とのコミュニケーションにも使えるようになればと思います。

【河合】
教育を質的にどんどん変えていけるツールですね。

【宇野】
先生が気づき、児童・生徒が気づき、さらにどう良くしていくかの正のスパイラルに入ってもらえればいいと思います。

6. 教育の質を換えていく動きに対する国や自治体の反応は?

【河合】
富士通の教育の質を変えていく動きに対して、業界や国や自治体で色々な反応があるかと思いますが、大島さんは何か気づかれたことはありますか?

【大島】
政府の方針も教育ビジョンで掲げているものと大きな相違はないと思っています。政府は人口減少社会の中で国力を支え、豊かな社会を実現していくために、教育でどう課題を解決して新しいものを作って行くのかを考え、高大接続改革や、大学・大学院改革、初等中等教育の学習指導要領の改定等を進めていると思います。富士通は不確実な世の中でテクノロジーでどう社会に貢献できるかという点から今回の教育ビジョンを作り上げましたが、大きな方向性は合っていると思います。富士通では人対ICTではなく、人対人の活動をICTが支援することを中心にやっていきたいと思っていて、そこに共感いただける企業やパートナーと協働していきたいと思っています。生徒同士、先生達と議論しながら、「こういう考え方があるんだ、じゃあ、こう学んでみよう」と、好奇心を持ってチャレンジしていく学びの姿であって欲しいと思います。それを支援、実現できれば素晴らしいと考えています。そういう考え方を業界団体等にも訴えかけて、賛同いただける会社が多くなればと思います。

富士通株式会社 政策渉外室 大島マネージャー
【富士通株式会社 政策渉外室 大島マネージャー】

【河合】
知識重視からアクティブラーニング(注6)や活用能力といった方に行くと思いますが、富士通の中で情報の活用能力を高める取り組みは何かありますか?

【中尾】
数年前から横浜国立大学と富士通研究所と共同でキュレーション・ラーニング(注7)をテーマに研究を進めています。キュレーションは、NAVERなど、世に言う「まとめサイト」ですが、これだけ世の中にインターネットが氾濫すると、情報をどうまとめるかの力が重要で、それが21世紀スキルにつながるという話があります。今までは自分で書いた論文やレポートを出す、剽窃を禁じられる世界でしたが、キュレーションは色々なものを引っ張ってきてよい前提で、その上で自分の考えをどうするかという、今までとは反対の力が求められています。これは先生にも学生にも非常に好評で、そういう情報活用能力は社会人になっても役立つと思います。そのキュレーションのツールは今後の教育の本丸として非常に期待していて、ぜひ近々製品化したいと思っています。キュレーション・ラーニング(注8)については、富士通研究所がプレスリリースでも発表しています。

【河合】
最後に、これからの取り組みなどについて、コメントをお願いします。

【中尾】
MOOC(注9)に代表されるデジタルラーニング(注10)が普及しますが、デジタルラーニングのコミュニケーションのプラットフォームを作って、学生だけでなく、生涯教育や、富士通ビジョンでも掲げている「学び続ける人々」のために価値提供したいという思いがあり、来年発信しようと思っています。もちろん既存の大学の教育の本丸も継続しますが、学生以外の生涯教育を目指して一歩踏み出してみるのが新しい取り組みになります。

【河合】
MOOCをもっと拡大する感じですか?

【中尾】
MOOCという言葉の範囲を超えているかと。MOOCはフリー前提で、ビジネスモデルをどう作っていくかが難しいと言われています。お金儲けばかりではなく、サステナビリティが大事なので、どう維持して行くか、特に価値のあるコンテンツはお金を払っても学ぶ機会ということもあると思うので、あえてMOOCと言わずに「デジタルラーニング・プラットフォーム」と呼ぼうと思っています。

【河合】
海外では、そうしたデジタルラーニングの流れが広がっているのでしょうか?

【佐藤】
MOOCは大学の講義の無料配信を出発点にしていますが、最近では企業の人材育成や社会人の自己啓発、初等中等教育なども対象としたデジタルラーニング・プラットフォームが普及しつつあります。ビジネスモデルも多様化しており、大学教授だけでなく一般の会員が自ら有料講座を配信できるようにして、その収益の一部を事業運営に充てる例や、MOOCで学ぶ会員と企業とのマッチングにより事業収益の確保を図る例など、様々な手段でマネタイズを行い、サステナブルな事業運営を図る例が出ています。

【大島】
MOOCは日本では後れ気味と思っています。アメリカはコーセラ(Coursera)、エデックス(edX)、ユーダシティー(Udacity)が有名ですが、特にコーセラの学習者数は1千万を超えています。ヨーロッパ系でも軒並み100万を超える規模となっています。対して、日本では15万弱です。そこは生涯学習という形も含めて広めていかなければいけません。そのためにサステナビリティがしっかり見える形にならないといけないと考えます。社会を変えていくためにも、富士通としてぜひ取り組んでいきたいですね。

【河合】
今日は貴重なお話をありがとうございました。ぜひ富士通のよい取り組みをサステナブルに続けていかれるようご活躍ください。富士通グループの取り組みが世界の子供達の生きる力につながり、社会全体の発展に寄与できることを願っています。

対談者

対談者(写真左から)

  • 宇野 剛 :富士通株式会社 次世代教育ソリューション統括部第二ソリューション開発部長
  • 河合 正人 :株式会社富士通総研 公共事業部長
  • 纐纈 芳彰 :富士通株式会社 公共・地域営業グループ文教ビジネス推進統括部長
  • 中尾 保弘 :富士通株式会社 行政・文教システム事業本部 本部長代理
  • 大島 喜芳 :富士通株式会社政策渉外室 マネージャー
  • 佐藤 善太 :株式会社富士通総研 公共事業部 シニアコンサルタント

注釈

(注1)フューチャースクール : 総務省が2010年から3年間行った推進事業で、ICT機器を使ったネットワーク環境を構築し、学校現場における情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析するための実証研究。

(注2)学びのイノベーション事業 : 文部科学省が実施したICTを活用した教育の効果・影響の検証、効果的な指導方法の開発、モデルコンテンツの開発などの実証研究。「教育の情報化ビジョン」に基づき、21世紀を生きる子供たちに求められる力を育む教育の実現を目的として実施。

(注3)ブリティッシュ・コロンビア州教育省様より児童・生徒情報システム「ConnectEdBC」の構築と運用管理を受注(プレスリリース)

(注4)明日の学びプロジェクト : 富士通で2014年9月から国内5校+海外1校の計6校のご協力で普通教室でのICT利用促進を目的として実施しているプロジェクト。

(注5)知恵たま : ICT利活用の日常化に伴い必要となる学習情報の管理を行い、子供達の教え合い学び合いを支援する富士通のソリューション。

(注6)アクティブラーニング : 能動的な学習。授業者が一方的に知識伝達を行う講義スタイルではなく、課題研究やPBL(project/problem based learning)、ディスカッション、プレゼンテーションなど、学生の能動的な学習を取り入れた授業形態のこと。

(注7)キュレーション : インターネット上の情報を収集しまとめること。または収集した情報を分類し、つなぎ合わせて新しい価値を持たせて共有すること。

(注8)キュレーション・ラーニング : 検索を知識に繋げる新しい学習手法であるキュレーション・ラーニングと支援プラットフォームを開発(プレスリリース)

(注9)MOOC : Massive Open Online Course。巨大でオープンなオンラインの授業。

(注10)デジタルラーニング : コンピュータと対話しながら進める教育のこと。

関連サービス

【教育分野におけるICT導入計画策定支援】
富士通総研では、教育の情報化に係る国のプロジェクト等で得られた知見・ノウハウを活かし、1人1台の情報端末を前提とした教育の情報化に向けた実現性の高いICT導入計画策定を支援します。