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「コンフリクト情報」で学びの対話を創り、概念の理解に働きかける

2015年12月11日(金曜日)

学校教育での教科内容には、多くの学習者が理解につまずく概念(ものごとの見方・考え方、認識の枠組み)があります。特に慣性の法則のような科学的概念には、それまでの個人的経験に根ざした知識を再構造化しないと理解できないものがあります。再構造化を促すために、学習者の考え方に対し、矛盾していて葛藤を起こす「コンフリクト情報」の有用性に本稿では着目しています。この情報をICTで可視化・共有することにより、学びの対話における気づきを増やし、個人的経験に根ざした既有知識の見直しを支援できる可能性があると考えています。

1. 概念理解のつまずき克服に向けて

従来より、学校の教科には、学習者の努力に関わらず共通して理解につまずく内容があります。特に慣性の法則のような科学的概念では顕著です。アメリカ屈指の大学の学生においても投射運動への正答は約3割でした(1983年の調査報告)(注1)。現在、日本では18歳人口の減少で選抜性の高い一部の大学以外は入りやすくなり、また大学入試制度や高校のカリキュラムの多様化で大学入学者の学力が多様になっています(注2)。大学の理工学部では、高校の理数科目の未履修者や基本的概念を理解していない学生への補習が多く見受けられます。

そこで高校の理数教科の概念理解のつまずき克服に向けて、授業における学習者同士の対話での気づきを増やすための情報活用とICT支援について述べます。

2. 概念を「変えること」につまずく

科学的な概念の中には、学習者自らのそれまでの概念を「変えること」につまずき、学習継続が困難になるものが知られています。例えば「数」の概念は、乳幼児には1個2個と数え上げられる自然数と認識されていますが、学齢期になると、「無限に分割され得る連続体である」と概念を変えることが必要で、これが割り算のつまずきの原因の1つと考えられています。また、ガリレオが自由落下において物体の重さと速度は独立に考えなければいけないと見出し、従来の概念を変えたように、学習者に歴史上の発見と同じことを起こさなければならないものも多いと言われます(注3)。

ところで、理解する、つまり「分かる」には、概念を構成する知識との関係において2つの形態があります。概念を変えずに新たな知識を増やしたり洗練させたりする「知識の豊富化」と、概念を変える、つまり、ある領域の理解にとって核となる原理が変わる「知識の再構造化」です(注3)。

概念を変えることにつまずく、すなわち知識が再構造化されない理由として以下のことが挙げられています(注3)(注4)。

  • 個人の既有知識には、重い物体は軽い物体より速く落下する、といった個人的経験が含まれて構成されている
  • 頭の中の様々な既有知識が、(正しいとされる新しい概念から見ると)不適切かつ強固につながり、概念として構造化されている
  • 新しい概念が、実生活や社会で直面するような状況での価値として知覚されない

このような個人的経験に根ざした既有知識の再構造化を促すには、【図1】のように思考だけでなく「気づく/知覚する」の関わりが大きいと考えています。【図1】は学びの過程を「分かる/理解する」を中心にダブルループとして捉えたものです。ここでの「分かる/理解する」とは、問いかけている対象について他との差異が見出せて、個人の頭の中で「分ける」ことができる状態のことです。

【図1】学びの過程から見た2つの「分かる」
【図1】学びの過程から見た2つの「分かる」

3. 知識の再構造化に向けた、「コンフリクト情報」による働きかけ

学校の授業で積極的に気づきを起こすには、学習者同士の対話により個人に内省を促す、協働的な学び等に一定の効果が期待できると思います。ここにさらに、異なる経験や価値観を持つ他者との対話の内容の焦点を絞り、気づきを増やすために「コンフリクト情報」が有用であると考えています。

「コンフリクト情報」とは、学習者のそれまでの考え方に対し、矛盾していて葛藤(コンフリクト)が生起される情報のことです。例えば、高校物理の波動において、学習者の「波は媒質とともに移動する」といった不適切なそれまでの先行概念に対して、「水面のマッチ棒は上下運動をしていて、波とともに移動しない」等のコンフリクト情報に数多く直面させます。この知覚を揺さぶる情報で、「波は移動するが波を伝える媒質は移動しない」という科学的な概念に変えることを促します(注5)。

「コンフリクト情報」には、教師が授業などで使う教え方・教授方略としての情報があります。さらに、この教師が与えるコンフリクト情報に対して、学習者1人ひとりが何に気づき、どう考えて個人的経験に根ざした既有知識を見直し、理解に至ったのか、という学習者の解釈が加わった情報があります。これを対話の途中や振り返りで学習者が整理・体制化するといったやり方で収集し、学習者同士の気づきを増やし、理解に働きかけることができると考えます。ICTではこの2種類のコンフリクト情報の可視化・共有を支援します。

「コンフリクト情報」が蓄積してくれば、カリキュラムとリンクして、主体的な学びでの「自らの気づき」をICTで促進できる可能性があります。また、デジタル教材等での学習履歴と併せて活用すれば、教師は対話のグループ分けや授業の文脈づくり等、協働的な学びのデザインに役立てることができます。

「コンフリクト情報」を中心とした学習データの活用により、学習者1人ひとりの多様な経験を起点とした、より確かな学びへ、ICTで一歩踏み込んだ貢献ができる可能性があると考えています。

注釈

(注1) : 梅本洋、認知的束縛と教育、2012年2月

(注2) : 文部科学省、高大接続システム改革会議「中間まとめ」、2015年9月15日

(注3) : 今井むつみ、岡田浩之、野島久雄、新・人が学ぶということ―認知学習論からの視点、2012年4月

(注4) : エドワード・レディッシュ、科学をどう教えるか-アメリカにおける新しい物理教育の実践、2014年9月30日

(注5) : 高垣マユミ、田爪宏二、降旗節夫、櫻井修他、コンフリクトマップを用いた教授方略の効果とそのプロセス、2008年03月

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笛吹 典子(うすい のりこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 シニアリサーチアナリスト
富士通入社後、2007年に株式会社富士通総研へ出向。学びにおけるICT活用に関する調査・分析に従事。