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普及段階にきた学びのデジタル革命と新たな潮流 -第三の波:学びのデータ革命-

2015年12月10日(木曜日)

1. 普及段階へと移行した学びのデジタル革命

初等中等教育における「教育の情報化」の取り組みが広がっています。文部科学省「平成26年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(速報値)」(平成27年3月現在)によると、コンピュータ、ネットワーク、電子黒板等のICT環境の整備率(全国平均)はすべて上昇し、教員のICT活用指導力(全国平均)についても、すべての観点で向上しています。特筆すべきは、タブレット型コンピュータの導入が急速に進んでいることです。同調査によると整備台数は、36,285台(平成24年度)、72,678台(平成25年度)、156,356台(平成26年度)と過去3年間、毎年倍増のペースで拡大しています。

この動きは、単に最新型のコンピュータの導入が進んでいることを示しているわけではありません。これまで多くの学校では、コンピュータを使った授業はパソコン教室など特定の場所で行うことを前提としていたため、デスクトップ型コンピュータを導入してきました。タブレット型コンピュータの導入は、普通教室での利用を想定したものです。ICT環境の導入目的が、コンピュータの操作技能を学ぶことから、普段の授業の学習効果を高めるために活用することへと変化しつつあることの表れと言えます。数年前まで少し遠い未来のこととされていた「ICTを活用した新たな学び」は、実証研究を中心とした試行段階から環境整備を中心とした普及段階へと移行しつつあります。

【図表1】初等中央教育におけるタブレット型コンピュータの導入実態
【図表1】初等中央教育におけるタブレット型コンピュータの導入実態
(出典)文部科学省「平成26年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(速報値)」(平成27年3月現在)

2. 第一の波:教材・教具のデジタル革命

教育分野におけるICT活用は、主に3つの観点から進められています。第一に教材・教具と学習管理の革命です。古くはパーソナルコンピュータの黎明期より研究が進められ、認知科学、教育工学等の研究と併せデジタル化のメリットを活かした教材や教育手法等の研究が進められてきました。その代表的な成果がeラーニングです。場所や時間の制約を受けずに、インターネットに接続されたコンピュータから動画などを活用したマルチメディア教材を通じ学習し、その学習履歴を管理することで、個々の学習者に合わせた学習効果の高い学びを具現化してきました。ソーシャルメディアの活用をはじめ交流の要素を取り入れるなどの新たな取り組みも見られるものの、基本的にはコンピュータが個人の専任教師となるオーダーメイド型の教育を目指してきたと言えます。近年、ディープラーニングなど人工知能の最新技術を活用した教育コンテンツが登場していますが、デジタル化の特性を活かす基本的な考え方は、黎明期からあまり変わっていないと言えるでしょう。この革命は、学習効果を高めるためのベストプラクティスを探すことが至上命題となっているがために、教材が洗練されるほど学びの自由度と主体性が損なわれ、どのように学ぶかを育むことができない「学びのモルモット化」を引き起こす危険性が高まるというジレンマを抱えています。

3. 第二の波:コミュニケーション革命

第二の学びのデジタル革命は、タブレット型パソコン、無線LANの登場により誕生した革命です。タブレット型コンピュータは、学びに新たな観点を提供しました。それは、「学びの場」におけるコミュニケーション革命です。現在、様々な研究が実施されているICTを活用した新たな学びは、主に学校の「教室」での活用を想定しています。これは、普通教室に、電子黒板、無線LAN、1人1台での利用を前提としたタブレット型コンピュータを導入し、教室という学びの場でしかできないことを、デジタルの持つ特性を活かし、より強化していく取り組みです。この普通教室のデジタル化が注目されている背景として、初等中等教育で身に付けるべきとする資質・能力が変わりつつあることが挙げられます。教育課程の基準等の在り方等について検討を進めている中央教育審議会では、これまでの基礎的な知識・技能の習得に加え、経済社会構造の変化に対応できる能力、すなわち課題を自ら発見し、様々な人たちと協力し、解決に向かって取り組むことができる能力を育むことが必要であるとし、主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)やその指導方法を充実させる必要があるとしています。その実現に向け、ICTが持つ特性を効果的に活用することが期待され、様々な実証研究が行われています。

現在進行形の革命であるため、その在り方も確たるものとして成熟している段階にはありません。しかし、その鍵となる重要な要素が明らかになってきました。それは、思考過程の「可視化」と「共有」です。これを可能にする情報システムは、極めてシンプルなものです。それは、児童・生徒に1人1台配布されたタブレット型コンピュータ、黒板の横に設置された電子黒板、データをやり取りする無線LAN、情報のやり取り等を制御するソフトウェアで構成されています。言うなれば、ノートをタブレット型コンピュータに、黒板を電子黒板に置き換えただけとも言えるものです。しかし、このシンプルな仕組みが可能にする思考過程の「可視化」と「共有」は、学校の授業におけるコミュニケーションの在り方を大きく変革しようとしています。この仕組みが導入された教室では、個々の児童・生徒がタブレット型コンピュータに自分の意見を書き込み、電子黒板などで瞬時にクラス中の意見を共有することができます。様々な意見があることを知り、気づきを得ることで、単に与えられた知識を記憶するのではなく、自らの考えと他者の考えの違いを認識した上で主体的に知識を獲得する学びを促進するともに、協力して課題を発見し、解決するための基礎素養を育む機会を日々の授業の中で得ることができます。長年、この仕組みを活用した授業を実践している先進校では、全国学力調査のB問題(知識活用力)の点数が上がるなどの効果が確認されています。今後、求められる「主体的・協働的な学び」を具現化する、重要なコミュニケーション基盤となることが期待されています。

4. 第三の波:データ革命

第三の学びのデジタル革命は、日々の学習活動の記録と活用を目的としたデータ革命です。ICTを活用した授業を実践している先進校においても、教員が電子黒板に提示するデジタル教材は、蓄積され再利用されているものの、児童・生徒が授業中に生成した学習データはその授業中にだけ利用され、その後、利用されることはほとんどありません。デジタル化の最大の特性である「蓄積・整理・分析・再利用」の機能を活かした学びは、まだ発展途上の段階にあると言えます。

この新たな革命は、2つの方向で進んでいくと予想されます。1つは、非構造化データも含め、あらゆるデータを活用しようとする取り組みです。より学習効果の高い指導や学習方法の開発のため、ビックデータ的観点から様々な情報を大量に蓄積し、多面的に分析するなどの活用方法が想定されます。そのデータには教材やノートなどの記録にとどまらず、何を見ていたかなど直接学習には関係しない間接的なものも含まれるかもしれません。

もう1つは、収集するデータを絞り込み、構造化した後に活用しようとする取り組みです。日々の学習の記録を凝縮したデータを抽出し、蓄積・分析することで、振り返り学習や指導方法の改善などに役立てるなどの活用方法が想定されます。大量のデータを分析する必要がないため、実現性の高い取り組みであると言えますが、何のデータをどのようにして凝縮し、構造化したらよいのかを明確に定める必要があります。現在、広島市立藤の木小学校において、株式会社富士通総研と日本文教出版株式会社様が共同で実施している「デジタルワークシートを活用した実証研究」(注1)(注2)では、ワークシートに着目し、学習記録データの凝縮と多目的な活用に向けた研究を進めています。

このデータ革命と分類した2つの取り組みはデータ活用のアプローチとしては異なりますが、いずれも現在利用されていない学習記録データを通じ、「学習過程を可視化」しようとする取り組みであると整理できます。この取り組みは、第一の波である教材・教具のデジタル革命と第二の波であるコミュニケーションのデジタル革命のどちらに重きを置くかにより、その活用の在り方は大きく異なるものとなるでしょう。第一の波の場合は、合理的・効率的な知識の習得という目的の達成に向け、「正しい」学習方法を機械が児童・生徒に提案する等の使い方が想定されます。第二の波の場合は、学習過程をより良いものにするために、児童・生徒が「自ら発見する」または「協働で発見する」ためのきっかけを機械が提供するなど、学習者の主体的な学びを促進する等の使い方が想定されます。今後、双方の観点から実践研究が実施されるものと思われますが、学びのデータ革命は、使い方によっては学びの進化と退化のどちらにも作用します。どのように学ぶかを育むことができない「学びのモルモット化」を引き起こすリスクがあることを念頭に慎重に取り組む必要があります。技術的には、そう遠くない将来に学びのデータ革命は到来します。人と人との学び合いを促進するためにICTを活用するのか、人に代わる存在としてICTを活用するのか、その両者はどこまで融合させるべきなのかといった、知識情報化社会における学びとICTとの関係を踏まえ、学びのデータ革命を推進することが求められます。

【図表2】学びのデジタル革命の段階とデータ活用の2つの観点
【図表2】学びのデジタル革命の段階とデータ活用の2つの観点

注釈

(注1) : (株)富士通総研 プレスリリース『学びを変える「デジタルワークシート」の実証研究を開始

(注2) : 蛯子准吏(2015)『 (一人一台の情報通信端末環境における学習データの多面的活用 -デジタルワークシートを活用した実証調査からの考察- (385 KB)』第41回全日本教育工学研究協議会全国大会 発表論文

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蛯子 准吏(えびこ ひとし)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
東京理科大学理学部物理学科卒。ボーズ(株)、長野オリンピック冬季競技大会組織委員会、富士通(株)を経て、2003年より(株)富士通総研公共コンサルティング事業部に出向。専門分野は行財政改革、情報化戦略。2007年4月~2009年12月まで内閣府地方分権改革推進委員会事務局に出向。2009年9月 株式会社 富士通総研 公共コンサルティング事業部 マネジングコンサルタント。2012年4月 北海道大学 公共政策大学院 教授。2015年4月より現職。
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