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中国の習近平主席訪米に「成果」はあったのか

2015年10月6日(火曜日)

2015年9月22日~28日に中国の習近平国家主席は、初めて米国へ正式訪問するとともに、国連設立70周年の記念行事に参加して演説も行った。今回の米国訪問は、9月22日~23日の西海岸シアトルにおける米中産業界の交流活動参加、中国の経済政策に関する演説、米企業への視察を含む自主訪問と、9月24日~25日のワシントンにおける一連の首脳会談や歓迎行事から成る公式訪問(a State visit)であった。

米中関係がギクシャクしている最中に行われた今回の習主席の訪米は世界中から注目され、その成果についての評価も分かれている。日本では、今回の訪問を評価する論評は少ないが、中国では、新華社を通じて49項目から成るコンセンサスと成果(自主訪問と公式訪問を含む訪米成果)(注1)が公表され、中国のメディアや国民はおおむね訪問は成功したと受け止めている。米国では、今回の習主席による公式訪問の成果が3つの文書(Fact Sheet)にまとめて公表されている(注2)。米国のメディア報道などをチェックしてみると、中国ほど成功したという声はあまり聞こえないが、気候変動への対応やサイバー問題について合意に達したことや、米中投資協定(BIT)の進展は評価されている。また、訪問前に予想された人民元切下げ問題、人権問題、これまで大きな懸案であった貿易不均衡問題は、米中首脳会談の主要なイシューにはならなかった。

全体として、双方による成果の多い合意文書はなかったが、経済関係の強化に取り組み、これまでのような険悪な雰囲気は改善された。また、いわゆるサイバー攻撃問題に関わる米国による制裁措置の発動や南シナ海問題と関連する米国の軍事行動はとりあえず控えられるだろう。ただし、サイバー攻撃問題や南シナ海問題は、処理されていない時限爆弾のように、これからも両国間でくすぶりつつける一方、その他のグローバル・イシューや地域問題の解決策における合意形成に米中が協調する場面が増えるだろうと感じる。以下、主要なテーマを検証してみる。

1. 領土や人権など一致できないイシューはマネジメントできたか

今回の訪問で新たに直面する南シナ海問題や、これまでも常に対立状態にあった人権問題に関しては、双方から発表された文書には直接触れられていないが、これら一致できないイシューについては、率直に認め、誤解の生じないように努め、建設的にマネジメントしていくこと(to constructively manage our differences)に合意している。

特に、南シナ海問題については、双方の主張は噛み合わなかった。つまり、米国の関心は、公海における航行の自由と上空における飛行の自由の確保と、中国による島の埋め立て造成に伴う軍事拠点化への懸念に集中しているが、中国は、南海諸島は古来から自国の領土であり、南シナ海における自国の活動は第三国の公海上における航行の自由・飛行を妨げることなく、軍事拠点化もしないと宣言した(注3)。つまり、米国の主張の内容が、領土の所有についての判断には入らず、南シナ海における自国の利益確保にあると悟った中国は、南シナ海における米国の利益訴求を認めた上で、自国の領土的主張に徹したのだろう。同盟国などの立場を考慮してか、米国は中国の領土主張に賛同することはないが、係争国同士による平和的な解決を呼びかけることに止まった。習主席も、米国側の呼びかけと重なるように当事国による平和的な解決を再確認した。

このように、完全に一致できないイシューに関しては、双方の意図や考えを確認し合い、誤解と誤った判断を避けるように対話を続けていくことに合意した(注4)。まさに、両国間に存在している相違を拡大しないようリスクをマネジメントしようとしていると言える。米中間は相違があっても、対話自体が途絶えることはないが、残念ながら日中の間では、「日中ハイレベル経済対話」さえも5年以上開かれていない。日中間の不信は米中よりもずっと深いと言わざるを得ない。

2. 一歩前進したサイバー攻撃問題の処理

この1年間で米中間の懸案として急浮上してきたのがサイバー攻撃問題である。これについては、双方が発表した習近平主席訪米の成果文書に、長文の合意内容が記載された。今回の米中首脳歓談では多くの時間が割かれたと推測される。中国側の発表文書では、「グローバルの挑戦」というカテゴリーの中で、サイバー攻撃に参加せず、支持しないことや、悪意のネット攻撃に関する証拠・データを含む情報の収集・提供について協力し合い、大臣レベルの対話チャネルを設立することなどの成果が記載された。一方、米国側の発表文書では、内容については中国側の発表内容と大差ないが、前述した経済関係の文書(U.S.-China Economic Relations)ではなく、習近平主席訪米の「FACT SHEET:President Xi Jinping’s State Visit to the United States」という文書に記載されている。米国は、中国の反対にもかかわらずサイバー攻撃を政治問題化する意図があることがうかがわれる。

世界中のメディアによって報道されたサイバー攻撃問題に関する米中間の合意について、米国のメディアは総じて好意的に受け止めており、ワシントンポストはサイバー攻撃問題における二国間の合意は重大なイシューに関する大きな前進であると分析しており、米国の一大勝利(this is a big win for the US)であると報じているメディアさえあった(注5)。ただし、合意した内容の実効性を検証する時間が必要であるという見方が多くあった。また、米国政府もネット上の諜報活動を行っているので、制裁などについては慎重な検討が必要であると、米政権内の苦しい立場も表明されている(注6)。今回、中国側が「中国のサイバー攻撃による米国民間企業の知財被害」などという米国の訴えに正面から答えたのは、スノーデン事件で明らかになったようにネット技術大国である米国と対抗しても勝ち目がなく、むしろ合意された共通のルールで米国の行為を制約するほうが得策であると判断したのではないかと推測される。

他方、中国は、自国がネット大国になったのは、米国ネット企業からの技術協力があってのことであると理解し、ルール化されるサイバー空間で米国ネット産業との協力によって自国のネット産業のさらなる進歩を成し遂げようと考えている。今回、習主席が自ら米中ネット大手の会合に出席し、中国のネット政策をアピールし、米中間のネット分野での協力を促したのはその流れに沿ったものと言える。これまで、中国がサイバー攻撃に関する米国の訴えに積極的に答えてこなかったのは、米国をネット空間のルール制定のテーブルに引き込み、米国とともにルール制定の主導権を握る戦術であることさえ考えられよう。

3. 大きな成果を残した気候変動分野での合意

気候変動分野に関する米中合意は、世界中から歓迎される出来事であった。合意の注目点は、2017年前に炭素排出削減に関するキャップ・アンド・トレード制度の導入と途上国の気候変動の取り組みに31億ドルの支援を中国が約束したことである。米国にとって、二酸化炭素の最大の排出国である中国の大幅な削減コミットや、かつ途上国に対する巨額の支援金を引き出したのは、気候外交における一大勝利であり、米中間のフェアな産業競争環境整備にもつながると考えられる。もちろん、オバマ大統領は、今年末にパリで開催される「国連気候変動パリ会議 - パリCOP21」を成功させることで、2009年12月に開催されたコペンハーゲン会議で自分が調整に乗り出したにもかかわらず失敗した経験を繰り返させないと決意しているに違いない。中国の協力的な姿勢は渡りに船になったと言えよう。

中国側からすれば、炭素削減活動は、国内的には最優先課題となった省エネに向けた産業の高度化、環境問題の解決につながるとともに、気候変動というグローバルな課題の解決において責任ある大国の評価にもつながるという一石二鳥の政策選択であると理解されよう。

4. 進展した金融分野の協力

経済分野は米中双方にとって協力関係のコアであり、サイバー攻撃問題や南シナ海問題に隠れていたが、様々な合意や進展が見られた。特に、金融分野での相互理解や協力関係について進展があり、双方の成果文書も多くのページを割いて記述している。

第1に、中国が求めている国際通貨基金の特別引き出し権(SDR)への人民元組み入れについて、米国は、IMFで規定されている条件を満たすことを前提に、人民元のSDRへの採用を支持することが双方の成果文書に明記されている。また、双方は、米国における人民元の取引や決済システムの確立において引き続き検討していくことにも合意している。

人民元のSDRへの組み入れと米国での人民元決済は、米ドルの支配的地位にインパクトを与えることを承知したうえで、中国経済や人民元のプレゼンスを米国が認めた証拠であると言えよう。

第2に、双方は、既存の世界金融システムへの協力強化や支援について合意した。特に、双方の成果文書に明記はされていないが、中国主導のアジア投資銀行(AIIB)について米国は、これまでの反対する立場を改めた(White House declares truce with China over AIIB)と報道されている(注7)。同じFinancial Times紙は、「米国政府は金融分野における対抗的な政策に終止符を打ち、国際舞台における正常な米中協力関係に戻そうとしている」と分析している。米国の「好意」に応えて中国は、世界銀行やアジア開発銀行、米州開発銀行などの既存の開発金融機関における改革への貢献とともに増資を約束したと言う。つまり、米国は、中国が世界の既存システムへ挑戦する意図がないと確認し、代わりに既存システムの補完となるAIIBの存在を認めたのであろう。

また、米中双方は、これから設立される新しい国際金融機関は、既存機関と同じ高いガバナンスや環境基準(with the exiting high environmental and governance standards)を採用すると確認し合った。実際、筆者も「中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)戦略の真意」(注8)で述べたように、AIIBで高いガバナンスや環境基準を採用するのは中国自身が目指していることであり、米中の目指す方向性は同じであると評価されよう。この意味で、米国はAIIBに加盟する可能性も排除していないと考えられる。

第3に、米中投資協定(BIT)について実質合意はなかったが、積極的な進展を評価し、高いレベルの投資協定締結は両国間の「最重要な経済優先事項」(top economic priority)であり、その交渉を協力的に推進すると双方の成果文書で明記されている。米国の有力メディアや産業界も、米中間の投資協定に進展があった(U.S., China Make Progress Toward Trade and Investment Deal)と評価している(注9)。

米国での評価と比べ、中国メディアからは積極的な評価はあまり見られなかった。実際、投資協定が実施合意を得られなかったのは、協定の基礎となる「ネガティブリスト」方式と「投資前内国民待遇」について中国側の準備が不十分であるからと言わざるを得ない。双方が提出した外資参入規制を明示するネガティブリストについて、米国には、中国側が提出したリストが多過ぎると不満が残っているからである。実際、中国では上海自由貿易試験区などで「ネガティブリスト」方式による外資管理が試験的に行われており、全国的に導入されるのは2018年からである。つまり、中国国内の制度改革とリンクする米中投資協定の締結には、なお歳月がかかろう。

以上で見てきたように、習近平主席の訪米成果は、文書に残っているものと残っていないものがあり、また、統一された成果文書ではなく単独で公表されているため、解釈上違いが出ることも不思議ではない。また、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に関する米国の政策動向や米中投資協定の交渉進展などに関する米中関係の先行きは、日本社会、特に経済界にとっては無視できない出来事であり、今後も注意深くモニタリングしていく必要がある。

注釈

(注1)新華社「習近平主席対米国公式訪問中国側成果リスト」http://news.xinhuanet.com/finance/2015-09/26/c_1116685035.htm (2015.09.26)

(注2)FACT SHEET: President Xi Jinping’s State Visit to the United States U.S.-China Economic Relations The United State and China Issue Joint Presidential Statement on Climate Change with New Domestic Policy Commitments and a common Vision for an Ambitious Global Climate Agreement in Paris
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-and-releases?page=1(2015.09.25)

(注3)http://www.voachinese.com/content/us-china-relations-20150925/2980154.html

(注4)https://www.youtube.com/watch?v=jGjjMZtyndE

(注5)http://www.vox.com/2015/9/25/9399117/obama-xi-cyber-economic

(注6)http://www.bbc.com/zhongwen/simp/world/2015/09/150929_us_china_cyber

(注7)http://www.ft.com/cms/s/0/23c51438-64ca-11e5-a28b-50226830d644.html#axzz3nCn4uHjE

(注8)http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/opinion/201505/2015-5-2.html

(注9)http://www.wsj.com/articles/u-s-china-make-progress-toward-trade-and-investment-deal-1443208549

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【調査・研究】


金 堅敏

金 堅敏 (Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。
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