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  4. 地域経済分析の活用による“地域が実感できる”施策の立案

地域経済分析の活用による“地域が実感できる”施策の立案

2015年9月18日(金曜日)

地方自治体では、まち・ひと・しごと創生に向けて、限られた政策資源を有効に活用して、地域の良好な経済循環を作り出すための施策を打ち出していくことが期待されます。

そこで本稿では、地域における経済の循環構造や産業の特徴・強みを客観的に捉え、貴重な政策資源を投入すべき重点事項を見出すための1つの手法として「地域経済分析」を、事例も踏まえて紹介します。

1. “地域が実感できる”施策立案の壁

まち・ひと・しごと創生総合戦略の基本目標である「地方における安定した雇用を創出する」や「地方への新しいひとの流れをつくる」などの実現に向けて、地方自治体では、産業の競争力強化など、地域の良好な経済循環を作り出す効果的な施策を地方版総合戦略で打ち出していくことが期待されます。

しかし、現状の地方自治体の施策は、所管ごとに把握した個別課題をもとに立案されたり、限られた政策資源(ヒト・モノ・カネなど)が分野別に幅広く分配されたりすることが少なくありません。そのため、実施する取り組みが対症療法的になってしまい、課題の抜本的な解決に至らず、結果として地域が実感できるまでの効果が十分に得られていない傾向も見受けられます。

一方、「選択と集中」によって、地域全体に効果が波及するような施策の重点化を図ろうとする際には、「どのような観点からの施策が必要なのか」「そもそも地域のどの産業に着目すべきなのか」がわからないといった、重点事項を見出せないことが施策立案の壁になっています。この壁を打破するためには、客観的な情報から、地域の経済や産業に関する現状や課題を判断・評価することが求められます。

2. 地域経済分析について

前述した施策立案の壁を打破するための対応として、地域における経済の循環構造や産業の特徴・強みを客観的に捉え、貴重な政策資源を投入すべき重点事項を見出すための手法の1つである「地域経済分析」を紹介します。

地域産業は、域外を主たる販売市場とした「域外市場産業」と、域内を主たる販売市場とした「域内市場産業」に分けて考えることができ、これらの産業とカネの流れに着目すると、経済の循環構造を【図1】のような模式図で表すことができます。

【図1】地域経済循環の模式図
【図1】地域経済循環の模式図
出所:経済産業省「地域経済分析の考え方とポイント」

「地域経済分析」はこの模式図を踏まえ、【図2】に示す5つの視点から、地域経済の現状を既存の統計データ等を用いて定量的に把握することにより、地域住民の生活に影響を与える産業を特定でき、かつ地域の経済循環に関する課題を明らかにすることができます。

【図2】地域経済の持続的成長を図る5つの視点
【図2】地域経済の持続的成長を図る5つの視点
出所:経済産業省「地域経済分析の考え方とポイント」

3. 「地域経済分析」の活用事例

「地域経済分析」の具体的な活用について、富士通総研が関わった鳥取県における経済成長戦略策定を例に紹介します。

鳥取県では、製造業や農業が主要産業と位置づけられていますが、世界的な景気低迷等の影響から、主要産業を含め県内産業全体が低迷していました。そこで、県内産業の振興と新たな産業創出を促進するとともに、産業経済の観点から見た県民生活の向上のための基本的な戦略と施策を策定することとなり、鳥取県における経済の循環構造や産業の特徴・強みを客観的に把握できる「地域経済分析」を活用しました。統計データを用いた5つの視点からの分析結果の詳細は割愛しますが、主な分析結果は【図3】のとおりです。

【図3】鳥取県における地域経済分析結果(5つの視点からの実態把握まとめ)
【図3】鳥取県における地域経済分析結果(5つの視点からの実態把握まとめ)
※鳥取県経済成長戦略策定の際に実施した地域経済分析の結果を、経済産業省が公表する「地域経済分析の考え方とポイント」の5つの視点に合わせて抜粋。
出所:鳥取県「鳥取県経済成長戦略」

鳥取県では、【図4】のように、地域の外から資金(域外マネー)を獲得している産業として医療・福祉を中心としたサービス業や電気・ガス・熱供給・水道業、建設業、農業などがあり、これまで主要な産業として資金を獲得していると位置づけられていた製造業においては、移入超過になっている可能性が見出されました。また、まちなかの商業・サービスなど域内市場産業の衰退により、県内の消費購買力が県外に流出(所得流出)している傾向も見られました。これらのことから、経済成長の実現に向けて、県外・国外から所得を獲得するための施策と、県外への恒常的な所得流出を防ぐための施策をバランス良く講じる必要があると考えることができます。

【図4】鳥取県における地域経済の構造イメージ
【図4】鳥取県における地域経済の構造イメージ
出所:鳥取県「鳥取県経済成長戦略」(PDF)

このような経済の循環構造や産業の特徴・強みに関する現状や課題などを踏まえ、鳥取県では、既存産業(農業、製造業、商業等)の強化や新たな成長産業の創出(環境・エネルギー、医療・福祉等)など、県内産業のイノベーションの推進につながる施策を立案し、県外・国外市場の獲得や、内需の拡大、県外への所得流出防止など、【図5】のような新たな経済成長のメカニズムの構築に取り組んでいます。

【図5】鳥取県における新たな経済成長イメージ
【図5】鳥取県における新たな経済成長イメージ
出所:鳥取県「鳥取県経済成長戦略」(PDF)

4. 「地域経済分析」の活用促進に向けて

鳥取県の事例をもとに、施策立案における「地域経済分析」の活用について紹介しましたが、これまで、既存データは調査実施から数年経過していて古い、市町村レベルでは分析のためのデータを揃えることが難しいなど、データ整備面での問題を抱えていました。

このような中、内閣官房および経済産業省は、地方版総合戦略の策定に当たり、地域経済に係わる様々なデータ(企業間取引、人の流れ、人口動態等)を収集して可視化するシステム「地域経済分析システム(RESAS)」を構築して提供を開始しました。さらに、経済産業省は全都道府県・233経済圏ごとの地域経済分析結果を、総務省は全都道府県・市町村における各産業の「稼ぐ力」と「雇用力」をグラフ化した「地域の産業・雇用創造チャート」をそれぞれ公開しています。地域の経済循環構造や産業の特徴・強みを把握するためのデータが全国一律で整備されたのは初めての試みです。

また、内閣府は従来の政策の反省の上に立ち、地方版総合戦略の策定においては、PDCAサイクルを確立することを求めています。

今後、ますます地方創生に対する動きが活発化する中、実施する施策の効果を地域が実感できているか把握することが望まれます。その際に、地域経済分析の考え方(5つの視点等)や上記のようなデータを踏まえながらKPI(注1)を設定するなど、施策の効果検証・改善のための取り組みにも「地域経済分析」を役立てていくことが肝要です。

注釈

(注1) : KPI:重要業績評価指標(Key Performance Indicator) 施策ごとの進捗状況を検証するために設定する指標。

参考文献

  • 中村良平「まちづくり構造改革 地域経済構造をデザインする」、2014年3月
  • 経済産業省「地域経済分析の考え方とポイント」、2015年3月
  • 鳥取県「鳥取県経済成長戦略」、2010年4月
  • 内閣府地方創生推進室「地方版総合戦略策定のための手引き」、2015年1月

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竹内 幹太郎

竹内 幹太郎(たけうち かんたろう)
株式会社富士通総研 金融地域事業部 コンサルタント
【略歴】
2012年 株式会社富士通総研入社。主に官公庁における地域振興・活性化に関わる計画策定・各種調査支援、ICTを活用した事業可能性調査支援、産官学連携によるコンソーシアム等の事務局運営支援などに従事。博士(環境学)。