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IoTを支える1兆個のセンサー

―大量センサー時代―

2015年8月18日(火曜日)

はじめに

経営管理や品質管理において「3現主義」や「計測できないものは制御や管理ができない」と言われるように、現実を正しく把握することは的確な意思決定や行動につながる。IoTの分野では、センサーが現実を捉え仮想世界に引き渡している。その仮想世界では情報大爆発と言われて久しいが、センサーの世界でも2023年に毎年1兆個を超えるセンサーを活用して社会問題を解決しようとする、「Trillion Sensors Universe(注1)」といった1つのキーワードがある。

1.大量センサー時代に向けて

1兆個のセンサーと言っても、全世界の陸地(面積約1.5億k㎡)に概ね1個/12m四方の密度で散布ができ、全世界人ロ70億人ひとりひとりに毎年約150個のセンサーを割り当てられる規模である。実現時期は前後しても、大量センサー時代の到来は間違いなさそうである。以降で、大量センサーに関する研究開発、製造、運用の注目点やその影響等について触れる。

(1)生き物から学ぶ(真似る)センサーメカニズム

多様化する社会の要求に応じ、迅速に高性能なセンサーを研究開発することは重要な課題である。センサーの原理自体は、観測内容を物理的または化学的に処理し、電気信号に変換するものである。生き物から、優れたセンシングメカニズムを学ぶことは1つの効果的アプローチとなる。生物は、いわゆる五感というセンサーで外界情報を脳という情報処理系に取り込み、38億年間にわたって環境に適合してきた。

タマムシが持つ数十km遠くの熱感知能力や、人間の持つ舌の微妙な味覚感知能力を応用したセンサーにより、それぞれ防災や食品開発などに役立てることが可能である(注2)、(注3)。また、バイオセンサーは、生体材料である抗体やDNA鎖等の持つ物質識別力を利用または模倣して、微量な病原物質、ガン細胞、ストレス物質等を検出でき、医療や食品分野等で成果が期待される。

(2)低価格、小型センサーの大量生産

大量のセンサーが普及するためには、低価格、超小型、大量生産力が鍵となる。すでに数十年利用されている仕組みだが、半導体の製造技術を活用したMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術は有力な方法である。半導体同様シリコンウェハー等の基盤にエッチング等の印刷・加工を行うものである。LSI(大規模集積回路)との決定的な違いは、LSIは電気的信号のみを扱うのに対し、MEMSはその言葉が表すとおり電気と機械を扱うことにある。

MEMS技術は、バイオセンサーを含めた複数のセンサー機能を集積できるだけでなく、動作部品のアクチュエータ機能、無線機能(RF-MEMS)、後述する自然環境発電機能も集約してパッケージ化でき、多機能で小型のデバイスを大量、低価格で提供できる。

【図1】MEMSセンサーのイメージ
【図1】MEMSセンサーのイメージ

(3)大量センサーの運用に伴う課題

センサーは現実世界のものであり、寿命がある。スマートフォン、家電、自動車等では、製品内にセンサー、配線、電源等が組み込まれ、製品としてのライフサイクルで一体的に運用される。一方、センサーネットワークを使ったセンサーデバイスでは、劣化や摩耗に伴う寿命やセンサーの配置、配線、電源等の運用に伴う課題が多い。

特に、電源に関しては、省エネ化と高性能電池はもちろんであるが、自然環境発電(エネルギーハーベスト)が注目されている。自然界のどこにでもあるエネルギーを収穫して微小電力(μW~mW/c㎡)に変換する技術で、微弱電力で作動するセンサーには有効である。電池寿命や配線から解放され、自由な配置も可能となり、運用負担が軽減されることで、センサーの普及促進が期待できる。その原理は、自然界の運動(機械・人・車の振動や空気等の流圧)、電磁波(光、電波)、熱(体温差等)のエネルギーを効率良く電気エネルギーに変換する。

【図2】エネルギー密度のイメージ
【図2】エネルギー密度のイメージ
(出所:2010年社団法人進化学発展協会 「エネルギーハーベストおよびマイクロバッテリーの研究開発動向と応用」等から富士通総研が作成)

2.大量センサー時代を迎えて

(1)自律的なセンサー

大型ロボットと同様に、センサーデバイスも、プロセッサ、ロボットやアクチュエータ技術と融合され、移動可能な小型デバイスに進化しつつある。配線から解放されたセンサーは、自律的に移動し、最適な観測場所や巡回が可能となり、飲み薬や消化器系検査等の医療分野、公共構造物の点検、広域環境監視や災害時の救出・影響把握等への適用が期待される。

(2)サービス化の進展

ビッグデータ等の集合知の有効性はもちろんであるが、センサーの視点で情報を捉えてみる。例えば、センサーで観測することで、商品の提供者と利用者間の情報の非対称性や情報格差は減少し、提供者は利用者の商品の利用目的や効用を把握できることになる。一般的に利用者にとって商品はある目的達成のための手段であり、所有する動機は高くない。高度な観測により、利用者の期待に応えるサービスを原価ではなく、より効用に近い価格で提供することも可能になると考えられる。また、利用者の製品利用目的や使い方がわかれば、利用目的となる領域で新たな事業機会や情報の活用機会が生まれる。例えば、自動車であれば、レストランが乗り捨てシェアカーと連携し、自動車メーカーの顧客は個人ではなくシェアカー事業者となる等のことが考えられる。

(3)観測のトリックリスク

しかし、センサーは万能ではない。現実世界特有のトリックによる観測リスクがますます拡大する。レーダー電波を吸収するステルス飛行機、オービス(速度監視)の妨害電波発生装置等の例もある。1つのセンサーの高性能化ではなく、見て・聞いて・触ってと、複合的な機能や脳との密接な連携など、高いロバスト性への対応も要求されるだろう。ちなみに、蛾は、天敵の視界から逃れるために、目が光をほとんど反射しない機構を持つとのことで、生物から学ぶこともありそうである。(注4

おわりに

安心安全社会の実現を目的としたIoTであるが、反面、センサーの高度化により、機密漏洩・盗聴等のリスクも懸念される。本年1月、米国FTC(Federal Trade Commission)は、IoTの普及には消費者の理解が必須であるとの理由で、利用者向けデバイスのプライバシー保護とセキュリティ強化を促している(注5)。今後、制度面の整備による安心安全社会の実現が望まれる。

注釈

(注1) : Trillion Sensors Universe : 2013年に、米Trillion Sensors Summit社のCEOJanusz Bryzek氏が提唱

(注2) : J-net21 ネイチャーテック「山火事のときに飛んで来る甲虫の赤外線受容器」

(注3) : 九州大学 都甲・栗焼研究室

(注4) : J-net21 ネイチャーテック「光を反射しない蛾の眼、モスアイ」

(注5) : Internet of things Privacy & Security in a Connected World :2015/1/27 FTC

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伊藤 裕万

伊藤 裕万 (いとう ひろかず)
株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部 公共事業部 シニアコンサルタント
2007年富士通株式会社から株式会社富士通総研に出向,転籍。
MOT(技術経営)軸として、研究開発戦略/知的財産戦略策定、新規事業化支援関連のコンサルティングに従事。通信事業者の従事経験から、電気通信分野や電力分野の制度、技術、事業面に関する領域を中心に活動。