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今こそ「日本的雇用」を変えよう(1)

―人手不足時代と「日本的雇用」の桎梏―

2015年8月18日(火曜日)

はじめに

わが国経済が抱える最大の課題が人口の減少にあり、また人口減少に先立つ生産年齢人口の減少とそれに伴う人手不足である点には、大方の合意が得られるだろう。筆者も約1年前の本欄(「人手不足時代の到来(上) ~その背景とマクロ的帰結~」)において、人手不足時代の到来とその含意について論じておいた。人手不足に対しては、言うまでもなく1人当たり生産性を高めると同時に、女性と高齢者の労働参加を促して行く必要がある。また、短期的な効果は期待し難いとしても、より根本的には人口の減少に歯止めを掛ける必要があり、そのためには子育てを支援するだけでなく、そもそも若者が結婚や出産に前向きとなれる環境を整えることが求められる。

もちろん、これらの課題は広く認識されており、女性の活躍、子育て支援といった形で政府の成長戦略にも取り入れられているほか、女性や高齢者の労働参加率は実際に上昇しつつある。しかし、一時期上昇が見られた出生率が再び低下するなど、十分な成果が上がっていない分野も少なくない。そして、課題解決の大きな制約となっているのが、「メンバーシップ型」と呼ばれる日本的な雇用慣行ではないかと筆者は考えている。

この日本型雇用を変える必要を説くオピニオン・シリーズ第1回となる本稿では、(1)背景となる人口動態と人手不足の問題を再確認した後、近年多くの識者が注目する「メンバーシップ型」雇用の概念を紹介する。その上で、今後必要とされる女性や高齢者の労働参加が必ずしも十分には進んでいない事実を述べ、その背後で日本的雇用慣行が多様な働き方への桎梏となっている可能性を指摘する。なお、これに続く本シリーズの2回目以降では、(2)日本的雇用がどのように生成し、一度は大きな成功を収めた後、どのような限界に直面したのかといった歴史を振り返る。また、(3)日本的雇用の機能不全(とりわけ若者の不幸な働き方)を乗り越えるには「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への雇用形態の移行が不可欠だと主張し、その際の政府の役割について考える。最後に、(4)日本的雇用の転換には、それと密接な補完関係にある税・社会保障制度や教育をも整合的に変えて行く必要があることを論じた上で、移行期の問題にも言及する予定である。

1.構造的な人手不足の時代

まず初めに環境認識として、日本経済が構造的な人手不足の時代に突入したことを再確認しておこう。周知のように、現在の失業率は完全雇用水準の3%台前半まで低下し、有効求人倍率は1.1倍台後半と20年以上ぶりの高水準にある。また、足もとまさに進行中の就職戦線は、バブル期以来の売り手市場とさえ言われている。政府は、これをアベノミクスによる景気回復の成果だと誇るが、例えば今年4~6月の実質GDPの水準は未だにリーマン・ショック前の2008年1~3月の水準を下回っている。それにもかかわらず、失業率が当時より低い(【図表1】)のは、経済が拡大した結果ではなく(注1)、人口の高齢化によって労働供給が減少したためだ(15~64歳の生産年齢人口は20年前のピークから1割以上減少している)。そう考えれば、生産年齢人口がさらに減少を続けることが確実である以上(【図表2】)、今後は景気後退期に人手不足の程度が多少緩むことはあったとしても、わが国は構造的な人手不足の時代を迎えたことになる。過剰雇用、就職氷河期が続いた過去20年あまりとは環境が決定的に変わったと理解しなくてはならない。

【図表1】実質GDPと失業率
【図表1】実質GDPと失業率

【図表2】日本の人口の推移
【図表2】日本の人口の推移
出所)厚生労働省ホームページ(PDF)

さて、1年前の本欄(「人手不足時代の到来(上) ~その背景とマクロ的帰結~」)で詳しく述べたように、人手不足時代の到来は、格差社会の是正といった望ましい側面も持つが、その一方で労働供給の減少は潜在成長率の低下につながる。そして、潜在成長率が大きく低下すれば、巨額に積み上がった政府債務の返済が困難になるばかりか、現在の年金・医療・介護といった社会保障制度の維持さえ難しくなる。これを防ぐには、(1)労働供給を増やす、(2)労働者1人当たりの生産性を上げる、の双方が必要となるが、このうち、(1)については、外国からの移民を本格的に認めるのでない限り(注2)、女性と高齢者の労働参加率を高める以外に途はない。本稿では、日本的な雇用慣行が女性や高齢者の活用を妨げていると主張するのだが、それにはまず、「日本的雇用とは何か」ということを考えておく必要がある。

2.日本的雇用:「メンバーシップ型」雇用とは何か?

長い間、日本的雇用とはJ. アベグレン(『日本の経営』、1958年)の言う終身雇用、年功序列、企業別組合の「3種の神器」に他ならないと考えられてきた。しかし、近年は濱口桂一郎労働政策研究・研修機構主席統括研究員が提起した「メンバーシップ型」雇用という概念が多くの識者の注目を集めている。ここで「メンバーシップ型」雇用とは、「『女房子供を扶養する男性正社員』を前提に仕事の中身も、働く時間も、働く場所すらも無限定に会社の指示のままにモーレツ社員として働く代わりに、新卒一括採用から定年退職までの終身雇用と、毎年定期昇給で上がって行く年功賃金制を保証された働き方」のことである(注3)。この概念の中核は、職務(ジョブ)内容が無限定だという点にある。日本で「あなたの職業は何ですか?」と問われると、大抵は会社員、サラリーマンなどと答えるが、これはまさに職務が限定されていないためである(大企業であれば、むしろ「○○社に勤めている」と答えた方が分かりやすい)。一方、欧米などでは、どの会社で働くにしても職務内容が明示された仕事に就くのが普通であり、上記の質問にも設計技師、経理、窓口業務(テラー)、秘書などと答えるだろう。これが「ジョブ型」雇用と呼ばれるものである(ちなみに、日本でもパートやアルバイトなどの非正規雇用は、普通ジョブ型である)。

ここで、「メンバーシップ型」雇用について、いくつかの重要なポイントを指摘しておこう。まず第1に、終身雇用や年功序列賃金は定義の中に含まれているし、こうした無限定な働き方の労働者を組織するには企業別組合以外あり得ない。したがって、従来の「3種の神器」という捉え方と矛盾するものではない。しかし第2に、終身雇用や年功序列に着目すると、労働者にとってのメリットが強調されがちであり、経済学的にも合理性が説明しやすい(注4)。これに対し、「メンバーシップ型」雇用の概念では「残業、転勤、何でもあり」というデメリットも明示されているという違いがある。実際、先の濱口氏の定義を一読すれば、私たち日本人は手に取るように分かるが、多くの欧米人にとっては「残業、転勤、何でもあり」などといった働き方自体がほとんど理解不能だろう。第3は、こんな無限定な働き方は、賄い付きの独身寮に囲い込まれた若者を別にすれば、専業主婦である配偶者(または自宅通勤の場合、専業主婦の母親)に支えられない限り容易ではないということである。

3.女性の労働参加とその限界

女性の労働参加率の推移を長期的に見ると、戦後の高水準(1950年代は50%台半ば)から70年代まで低下した後(ボトムは75年の45.7%)、緩やかな上昇に転じ、最近は50%弱となっている。これは、戦後は農業や自営業で働く女性が多かったが、高度成長期に農家の減少などで専業主婦化が進んだ後、成長率が下がりサービス産業化が進むにつれて主婦パートなどによる労働参加が増えた結果である。年齢階層ごとに労働参加率のグラフを描くと、かつては出産・子育て期の20代後半から30代が凹む、所謂「M字カーブ」が顕著だったが、近年はM字の底がかなり浅くなっている(注5)。政府の成長戦略では、この底をさらに上げることで労働力不足を補うことが提唱されている。しかし、女性の就業率を国際比較して見ると(【図表3】)、15~64歳の日本女性の就業率はすでに6割台に達し、OECD平均や米国の水準を上回っていることが分かる。確かに、北欧諸国の水準を目指せば、なお底上げ余地があるが、税制や社会保障制度といった社会のつくり自体が大きく異なる北欧並みを目指すのは容易ではないだろう(注6)。

【図表3】OECD諸国の女性(15~64歳)の就業率
【図表3】OECD諸国の女性(15~64歳)の就業率
出所)「男女共同参画白書2015年版」(PDF)

日本の問題は、労働参加率の低さというより、働く女性の大部分がパート・アルバイト等の非正規雇用に就いている点だろう。実際、1980年代には3分の1程度だった非正規比率が近年は6割近くまで上がってきている。また、ここ2~3年のアベノミクス下での女性の就業者の増加も、その大半は非正規雇用の増加であり、「女性が輝く社会」という掛け声とはかなりの距離がある。これでは、生産性、労働時間の両面から潜在成長率押し上げの効果は限定されてしまう。また、「女性管理職の比率を30%以上に」といった目標を掲げても、女性正社員自体の数が少なければ、その達成は容易ではないだろう。

それでは、なぜ女性の正社員が少ないのか考えると、確かに企業が正規雇用を抑制している面はあろうが、男性の非正規比率は2割強だから、それだけでは到底説明できない。やはり、「転勤、残業、何でもあり」という日本の正社員の働き方自体が、結婚や子育てを大切に考える女性にとっては極めてハードルが高いということではないだろうか。筆者個人の記憶でも、総合職として入社した優秀な女性が、結局、出産や配偶者の転勤を機に退職されたケースは数え切れない。優秀な人材を活かせないだけでなく、社内のダイバーシティを失う点でも、デメリットは極めて大きいと言わざるを得ない。もちろん、保育所の増設や育児休暇などのワーク・ライフ・バランスを改善するための制度を充実させて行くことは重要な施策であるが、日本的雇用を前提とする限り、それだけでは子育てをしながら働き続けるのとは難しいのではないか(注7)。また、教員や看護師といったジョブ型の雇用であれば、子育て期にいったん職を離れても、容易に再就職が可能だが、メンバーシップ型雇用の場合、一度退職すると、次の職はどうしても非正規になりやすいという問題がある。

さらに忘れてはならないのが、配偶者である男性の働き方だ。周知のように、日本の男性が家事のために割く時間は欧米主要国に比べ極めて短い。欧米の中でも、プロテスタント諸国とカトリック諸国で違いがある(カトリック諸国では、男性の家事への協力度が低い)ように、これには文化の差も見られ、日本の男性の「意識の遅れ」も多少は影響していよう。しかし、ここで注目すべきは、やはり日本の男性正社員の長時間労働である。「就業構造基本調査」で見ると、男性の「正規の職員」では2割弱が週60時間以上働いている(週休2日なら、毎日平均で4時間以上の残業をしていることになる)(注8)。これでは、家事を負担するだけの体力が残っていなかったとしても不思議はない。

4.高齢者の労働参加とその限界

次に、高齢者の労働参加について見ると、さすが世界一の長寿国だけあって、65歳以上の就業率は2割強と主要国では最高水準にある。しかし、その推移を長期的に見ると、先に確認した女性の場合以上に明確な低下トレンドにある。65歳以上の男性の場合、遡及可能な1968年に52.1%もあった労働参加率が、農業や自営業の減少を背景に2011~12年に28%台まで低下した後、定年延長の動きなどを受けて昨年ようやく30.2%まで戻った程度だ。健康寿命の長さに加え、日本の高齢者には就業意欲が極めて高いという特長がある(【図表4】)(注9)。そう考えると、高齢者の労働参加を促す余地はまだまだ大きいと言えよう。

【図表4】いつまで働きたいか
【図表4】いつまで働きたいか
出所)「高齢社会白書2011年版」(PDF)

しかし、問題はここでも働き方である。就業を続ける高齢者でも、60歳代からは非正規雇用の割合が急速に高まる。日本型の年功賃金カーブを前提にすると、高齢者の活用を目指すとしても、単純な定年延長では人件費が高過ぎて企業には受け入れられないからだ(おまけに、ポスト不足や新卒採用への制約といった問題も生じる)。結果的に、短時間の契約・嘱託社員としての再雇用制度を導入する企業が多いため、高齢者=非正規雇用となりがちなのである。まだまだやる気と能力のある高齢者の労働時間を制限し、責任ある立場に就かせられないのは大きな非効率と言えよう。この点、ジョブ型雇用が中心の米国などでは、職務を満たす能力が無い者は年齢を問わず解雇され得る一方、職務能力を持つ者を(定年などの)年齢を理由に解雇することは「年齢による差別」として法的に許されない。「終身雇用・年功序列」とされる日本において、むしろ高齢者の就業継続や職業上の地位が制限されてしまうのは、何たる皮肉であろうか。

さらにもう1つ、これは高齢者雇用に限らないが、近年、肉親の介護の必要から離職する者が増えていることも忘れてはならない。現在60歳代の団塊世代がさらに高齢化する頃には、介護離職が大幅に増えるだろう。ここでも、「残業、転勤、何でもあり」という日本型正社員の働き方と介護の両立の難しさが大きな制約となってくる。このように、高齢化と人手不足という環境変化は、日本的雇用のあり方の見直しを迫るものだと思うが、その前に、次回「(2)『日本的雇用』の歴史:成功から変質へ」では、日本的雇用がいかにして成立し、どのように変質して行ったかを振り返ってみよう。

注釈

(注1) : 多くの人は安倍政権下の大幅な株価上昇をアベノミクスによる経済の拡大と取り違えているようだ。ちなみに、安倍政権下(12/4Q~15/2Q)の実質成長率の平均を計算してみると年率+0.9%と、消費増税の影響があるとはいえ、民主党政権下(09/3Q~12/4Q)の同+1.7%を大きく下回っている。

(注2) : 以下に述べる日本的雇用の変革には、国民的合意が必要であり、おそらく抵抗は少なくないと思う。しかし、一部の高度人材の活用を別にすれば、移民の本格的な導入に関する国民的合意を形成するのは、それより遥かに困難だと考えられる。わが国の場合、女性や高齢者の活用余地がまだ大きいことを踏まえると、まずはそちらを先に進めるべきだというのが筆者の判断である。

(注3) : この定義は、本年3月23日付日本経済新聞の「経済教室」欄に掲載された「働き方改革の視点(中)、適切な規制で選択多様に」による。この他、濱口氏の著作には、『新しい労働社会』(岩波新書、2009年)、『日本の雇用と労働法』(日経文庫、2011年)、『若者と労働』(中公新書ラクレ、2013年)などがある。

(注4) : 例えば、(1)終身雇用が保証されていれば、労働者は企業特殊的な訓練に投資するインセンティブを持つ、(2)年功序列で「賃金後払い」の仕組みとなっていれば、企業は労働者の人的資本形成のコストを負担するインセンティブを持つ、(3)情報の非対称性により、個々の労働者の能力が直ちに分からない場合でも、時間を掛けて(「遅い昇進」)能力を見極めて行くことができる。こうした日本的雇用のメリットを説明する著書、論文は枚挙に暇ないが、代表的な名著は小池和男『日本の熟練』(有斐閣、1981年)だろう。

(注5) : 例えば、1970年代に4割台前半だった30~34歳の労働参加率は7割台まで上がっている。なお、25~29歳の上昇はさらに顕著だが、これには晩婚化の影響が大きいと考えられる。

(注6) : 筒井淳也著『仕事と家族』(中公新書、2015年)によれば、付加価値税率が高く、手厚い社会保障制度が整備された北欧諸国では、女性雇用者に占める公務員の比率が高く、具体的には医療・介護・保育などのケア・サービス職に就く場合が多い。

(注7) : こうして離職する女性が増えると、企業側に「性差別」の意識はなくても、特に長期雇用で企業特殊的技能の蓄積を求める日本型の企業では、離職の恐れがある女性に訓練を課したり、重要なポストに女性を就けることを控えるのが合理的となる(統計的差別)。そうすると今度は、管理職の候補となる女性の数は限定され、「ガラスの壁」はなかなか破れない。結果として、女性にとって仕事の魅力が少なくなり、これが離職を促すという悪循環が始まる。

(注8) : 日本の労働者1人当たりの年間労働時間は、時短が始まった1980年代から着実に減少しているように見える。しかし、黒田祥子・山本勲著『労働時間の経済分析』(日本経済新聞出版社、2014年)が明らかにしたように、これは非正規雇用が増加した結果であり、正社員に限れば、ほとんど減っていない。この間に週休2日制が普及したことを考えると、1日当たりの労働時間はむしろ伸びている。

(注9) : 独・仏・伊などの欧州諸国では、上記の65歳以上の就業率は5%未満であり、早期退職して、プライベート・ライフをエンジョイしたい意向が強いと言われる。しかし、そうした国々でも、近年は財政赤字対策として年金受給年齢の引き上げが図られていることを考えると、わが国こそ、高齢者の就業促進と年金受給年齢の引き上げをセットで進める可能性は大きい。

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早川 英男(はやかわ ひでお)
経済研究所エグゼクティブ・フェロー
1954年愛知県生まれ。1977年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。1983~1985年米国プリンストン大学大学院(経済学専攻)留学(MA取得)。調査統計局長、名古屋支店長などを経て2009年日本銀行理事。日本銀行在職期間の大部分をリサーチ部門で過ごした後、2013年4月より現職。
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