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【フォーカス】日本流、IoT活用のシナリオは?

2015年8月10日(月曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

IoT(Internet of Things)は日本のものづくりをはじめとしたビジネスに、どのように影響するのでしょうか? また、ドイツのIndustrie4.0との比較も含め、日本の成長機会とするにはどのように活用したらよいのでしょうか?

本対談では、「日本流、IoT活用のシナリオは?」をテーマに、株式会社レクサー・リサーチの中村代表取締役、富士通株式会社IoTビジネス推進室の須賀室長、株式会社富士通総研(以下、FRI)産業・エネルギー事業部の池田プリンシパルコンサルタントに語っていただきました。進行役はFRIの細井エグゼクティブコンサルタントです。

1. バックグラウンドについて

【細井】
本日はIoTが変える我々のビジネスや生活について意見交換ができればと思います。Industrie4.0との兼ね合いや日本がIoTを成長機会にするには、といったことについてお聞かせください。そうは言ってもIoTを捉える視点は様々ですので、世の中の事例を基に見方を整理してみました。

【図1】IoTの事例分類
【図1】IoTの事例分類

皆様がどの領域の話をされているのかを考えるきっかけになると幸いです。私のバックグラウンドは元々製造SEで、10年ほど前からFRIでコンサルティング活動をしていますが、今でも製造現場が大好きです。

【中村】
私は元々小松製作所の研究所で、製造向けの自動化・知能化技術、ロボットビジョン、自分で考えて物を探してくるロボットを作っていました。小松を辞めて作ったレクサー・リサーチという生産シミュレータの会社が22年になります。基本的に追いかけてきたのがバーチャル技術です。今は第三次バーチャルリアリティブームくらいで、第一次の頃から独自製品を市場に出しています。まさにサイバーフィジカル、仮想上の事象のマネジメントや予測の技術が背景にあってインタラクションを行う技術を色々な領域に利用していますが、軸は製造で、1995年頃から展開を続けています。2000年からは、製造ラインのバーチャル化、治具や工具や作業者の姿勢といった現場のカイゼン活動で扱う粒度をバーチャル化しています。2007年に「GP4」というソフトを開発しましたが、日本の製造業は現場のカイゼン活動が軸なので、それをいかに加速させるかを考えたというのが開発理由です。お蔭様で日本の製造業にフィットすると評価いただき、2010年に富士通さんと業務提携し、レクサーから富士通製品に移管し、200本ほど売れています。バーチャル技術を活用しながら、単なるR&Dではなく、製造現場の活動を支援するITを追いかけ、センシングと仮想化技術が連携するCyber-Physicalを作っているので、広い意味でIoTも追いかけており、今までの活動が世の中の動きにミートしてきた感じです。

【細井】
バーチャルリアリティが面白いと思われたきっかけは何ですか?

【中村】
小松でロボットの自動化をしていた当時はAI全盛時代で、プログラムで書いたら何でもできると思われていましたが、ロジックやハードウェアや色々な限界にぶつかるわけです。そこで、このまま進めて行くことは果たして意味があるのかと考えたのです。計算機の能力は上がりますが、ロボットが人間の活動をすべて代替することは我々が生きている間はないだろうから、人間の活動を置き換えるより、それを支援する技術をまず作るべきだと切り替えました。バーチャルリアリティとは人工知能ではなく、人間の手足をITで拡張する技術だと捉えて活かして行こうと。ならば、人間の理解や行動指針、判断に対応するユーザインタフェース技術、そこで何らかの現象が起きるシミュレーションの仕組みが要るだろうと。それがきっかけです。

株式会社レクサー・リサーチ 中村代表取締役
【株式会社レクサー・リサーチ 中村代表取締役】

【須賀】
私はネットワーク機器の開発、お客様のネットワーク構築のSEを経て、5年前に立ち上がったM2Mビジネスの組織で機械をつなぐことをやり、あらゆるモノ、コトがセンサーでつながってくるIoT時代に先駆けて、昨年6月にIoTビジネス推進室を立ち上げました。ミッションは2つあります。1つは、関連するビジネスユニットと連携しながら、IoTの富士通全体の戦略を考えたり、外に発信する際のコンセプトを作ったりすることです。IoTはデバイスからアプリまで範囲が広く、様々なビジネスユニットが絡むため、取りまとめる部隊が必要だからです。もう1つは、IoT専用クラウドの事業責任を担うことです。様々なセンサーや機械から集めたデータをアプリケーションが処理する際、欲しいセンサーや機器のデータをとれるように、アプリケーションをセンサーに合わせて作り込むと大変なので、専用クラウドが吸収して、アプリ側の作りを楽にしようとしています。ただし、最終的にお客様に提供するにはソリューションにしなければいけません。製造業では、富士通が標榜する「スマートなものづくり」のソリューションを提案しています。コンセプトの中心は「作らないものづくり」です。バーチャルでシミュレーションして、現場のものづくりに反映させ、実際シミュレーションの通りうまくいったか、リアルの情報をIoT技術で集め、またシミュレーションで活かしていくサイクルを作ることを、テクノロジー&ものづくり本部と考えています。さらに流通では、来店客の動きから、買ったお客様と買わなかったお客様との差を見るとか、工事や建設や農業の現場では、ベテランと新人の動きの差から、どういう観点でベテランは点検しているかをセンシング技術で集め、ノウハウ継承を図っていくなどです。今は市場を絞らず幅広くアプローチし、具体的なソリューションが出来たところから攻めて行く感じです。

【池田】
私は主に製造業のお客様にコンサルティングしています。専門分野は経営管理や業務改革です。単純に現状業務をシステム化するのではなく、全体最適を追求するための部門間の調整や、事業戦略をお客様と考え、どう実行するかの仕組みづくりをしてきました。ここ5年くらいは、現状ビジネスを前提に業務を変えるだけでは強くならないので、新しい価値を創出できないか、新規ビジネスを一緒に考えて欲しいといった要望が増えています。最近はIoTというキーワードも含め、すでにあるデータを活用して何ができるか、新しい事業領域に進出したい、ICTを使った新たなサービスを考えたいという要望が出ています。ただ、具体的にどうするかより、富士通がIoTをどう考えているのか、世の中でどう言われているか教えてくれという、情報提供を求められることがほとんどで、まだIoTをビジネスにどう活かすか具体的に考えられているお客様は少ないです。

2. それぞれが捉えるIoTとは?

【細井】
池田さんのお客様の言われるIoTとは、どのような領域のことですか?

【池田】
製造業の場合、お客様との取引、仕入れといった基幹業務のトランザクションは従来のシステムから発生するデータですが、販売後の製品から発生するデータや人の動きといった基幹トランザクションデータ以外をすべてIoTと捉えていると思います。製造業であっても農業に進出したり、機器メーカーが自社のテクノロジーを利用して介護分野に新しいビジネスを見い出したり、業界の垣根を超えて新たなことをやろうとしているお客様が増えてきています。基幹トランザクション以外のデータがとれること、またはつながることで、ビジネス領域を広げたり、新たなことが可能になることを指しています。

【細井】
中村さんは、製造現場のバーチャルリアリティ領域が中心ですか?

【中村】
製造業が中心です。他には、ある定型性を持ったサービス業、マニュアルがあり定型のプロセスがある病院や銀行、レストランチェーンの業務モデリングに適用した経験はあります。病院の手術の看護士のセットアップなど、明示的なプロセスが描ける、プロセスとの組み合わせで業務が描けるものがバーチャルリアリティの対象になり得ます。IoTに関連してCyber-PhysicalやM2Mや色々な言葉がありますが、ローカルな表現を吸収して言いやすいのはIoTかと感じています。だからIoTが何かという議論ではなく、広く一般にそういう活動を表現するときに丸めてIoTと表現するのがわかりやすいと。

【細井】
バーチャルリアリティで目指すのは、工場の動き方の最適化や技能伝承のような話で、皆がどう動くべきかシミュレーションし、それに対し実際どうだったかをセンサーでフィードバックしていく世界ですね。CPS(Cyber-Physical Systems)と言われる仕組みがありますが、今後CPSは製造現場で当たり前になっていくのでしょうか?

【中村】
製造業の方はCIM (Computer Integrated Manufacturing)を称してIoTと言っています。確かにサブセットではその通りで、そういうIoTはもちろんあるし、昔からデータをつなぐ世界はありました。バーチャルが第三世代であるように、IoTも何世代目かなのだと思います。CIMやユビキタスコンピューティングは、ある意味第一世代と捉えることもできます。ただ、広がりませんでした。技術の展開には黎明期や熟成期といった波がありますが、今のIoTはまだブームではなく、本格普及する入口という感じです。単にデータをつなぐのではなく、データのもつ意味を結合する、そこで本当にビジネスプロセスがつながり、そのレベルの結合に至って初めてIoTは何らかの役割を果たす。そのレベルまでデータに意味を加えて結合させる活動によって、実際に業務で使えるIoTになると思います。

【須賀】
IoTという言葉が脚光を浴びているうちはダメですね。ものづくりや動線分析、デジタルマーケティングといったソリューションの中に溶け込まないと。例えば、WEBで何ができるかと問う人はもういなくなりましたし、クラウドで言う人もいなくなって、IoTで何がと言う人も減って来ないと。具体的なものづくりやデジタルマーケティングやベテランの技術継承、作業員の感覚、動き方を感知するシステムの中に自然に入って行かないとダメです。富士通フォーラムの発表後、IoTの説明要望が急増し、2か月で100件くらい来ました。ほとんどIoTで富士通が何をできるか教えてというものですが、ビジネス上の課題は何でしょうか? その一部はIoTで解決するかもしれない、もしIoTで解決できる課題があるなら一緒にやらせてください、という話に持って行こうとしています。お客様の話を聞くと、人に意識させないとうことが重要で、もし意識させずにベテランの動きがセンシングされて新人に伝わればとなると、まさにIoTのセンサーで解決できる話になるので、困っている話をいかに引き出すかです。

3. IoTのプルーフオブビジネスとは?

【細井】
IoTの説明を要望されるお客様達はどのようなことを考えられているのですか?

【須賀】
トップ層から「話題のIoTやIndustrie4.0に対して何か取り組んでいるのか」と言われて困り、富士通から情報を仕入れたいというパターンと、富士通が取り組んでいるIoTの事例を聞いて、自社でどう適用できるか考えたいという2種類ですね。説明した後は、IoTで事業化というのは時間がかかるので、お客様のビジネスが成り立つか実証しましょうという動きをとっていて、PoC(Proof of Concept:概念実証)とよく言われますが、あえてPoB(Proof of Business)と言っています。お客様の事業が成り立つか、とりあえずスモールスタートでやってみて、一時的な検証ではなく、うまくいけばそれを大きくしていけばいいと。クラウドを活用して、スモールスタートとスケーラビリティとを両立できるので、まずは小さくやって、試行錯誤、軌道修正しながら大きくしていきましょう、ビジネスとして回るかどうかは一緒に検証していきましょうと。

【細井】
昔からアジャイルやプロトタイピング手法はありますが、PoBをやるとき、一番の壁はどのようなことですか?

【須賀】
IoTは対投資効果が見えにくいので、最初に見えないと投資できないという声に対して、スモールスタートでやって、売上・利益が増えそうだという自信が得られたら本格展開しましょうと言っているのです。お客様自身、例えば優秀なセンサーを開発したけど単体だと商売にならないので、センサーを組み合わせて意味あるデータに変えて行くとなると、それを起点としたサービスビジネスにどう広げていくかという話になります。お客様はセンサーを作るノウハウはあるけど、サービスビジネスのノウハウはない。そこに壁がある。富士通はサービスビジネスにはノウハウもあるので、お客様の持っている商品をもとにサービスビジネスに仕立て上げるところを一緒にやりましょうと、まず試作してPoBで一緒にサービスにしませんかという働きかけをしているのですが、一緒にやっていただけるお客様と、サービスビジネスはやったことないし、わからないと仰るお客様と両方あります。

富士通株式会社 IoTビジネス推進室 須賀室長
【富士通株式会社 IoTビジネス推進室 須賀室長】

【細井】
FRIでもPoB案件を手掛けていると思いますが、コンサルとしてどのような点に注意して進めてきましたか?

【池田】
今までにない市場を作って行くことが多いのですが、いくら従来の延長で市場予測をしたり、ニーズを探ったりしても、ビジネスプランを描くのは難しいです。そこで、PoBの前のPoCから、実際に現場に行って試してみて、本当のお客様の価値は何かを実際のエンドユーザーと一緒に評価しながら作っていくところから始めることが多くなっています。リーンスタートアップというか、PoBも石橋を叩くようなビジネスプランを作るより、ある程度価値が出そうになったら市場に出してみるとか、架空の提案書を作ってコンサルのクライアントと一緒に実際に提案に行ってみます。売れそうかどうか、早くやってみて、ダメならさらに改善していく繰り返しを積み上げて行くやり方が適しています。

【細井】
そういったPoBはいくつも積み重ねて市場開拓になっていくのかと思いますが、より早くやってみるためには何をすればいいのでしょうか?

【池田】
できればモックアップでも良いので、形になるものを作ってみることです。

【須賀】
今はハードウェアを作る敷居が下がったので、3Dプリンターで簡単にハードができますし、ハードさえあれば、ネットワークとクラウドで簡単にネットワークサービスに仕立てることは、すぐできます。ただし、IoTでうまくいったとして、どんな良いことがあるのか仮説を作ってあげないといけません。こういうことが見えたら、ものづくりの現場にこういう効果があるはずだと、「目指すべき姿」をお客様に見せないと、そこに向けてここをまずやっていきましょうと行くので。仮説作りはコンサルタントと一緒にやりたいですね。

【細井】
仮説作りはシミュレーションでもあると思いますが、流行のCyber-Physicalを構成するソリューションは何次かの波を経て現実に使えるようになってきているのですか?

【須賀】
「作らないものづくり」で、富士通の工場でもCyber-Physicalを使ってライン変更をシミュレーションし、実際の効果を検証していますが、実際にやる前に効果を確かめてみるというのは仮説作りですよね。仮説を実際に実行して効果を確認し、またその効果から新しい仮説を作るというサイクルを回して行く形になると思います。そういう意味でIoTとバーチャル技術も結びついています。

4. 日本流のものづくりが得意な「すり合わせ」を活かした価値を追求する

【中村】
池田さんの話は非常に重要です。今市場に展開している活動では見えない市場をどうこじあけていくかというアプローチが必要になるので、スピーディなアプローチも必要です。でも、IoTや3Dプリンターが本当に価値作りに貢献するのか、価値作りの維持に貢献するかをよく考えないといけないと思っているのです。例えば3Dプリンター、IoT、クラウドを使って新製品を作る、バーチャルがすぐリアルになる、それが提供できたら価値があったとする。しかし、その瞬間、あっという間にコピーされる。作るスピード以上に価値作りをする能力と提案力が両方必要。日本のものづくりが顧客価値を作ることが得意かというと、決してそうでもない。モジュラー化、コンポーネント化、3Dプリンター等の技術は重要ですが、それを活用するだけでは、日本が今までやってきた、すり合わせや積み重ねを活かすことには決してなりません。モジュラー化の技術だけでは新しい価値の提供にはならないのです。しかし、一生懸命作ることが得意な人たちにモジュラー化、コンポーネント化を使って新しい価値を作れと言っても難しい。できる人もいるでしょうが、日本全体がそちらに行くのは難しいので、選択的・戦略的に分かれて行くのではないかと。なので、製品として、モジュールとすり合わせの合わせ技で価値提供することによって、モジュールだけで組み上げたものが2、3か月で淘汰されるところを、いかに差別化できるかというのがポイントだと思っています。例えば複雑すりあわせで作っているプリンターなどは日本製品でないとできないのです。自動車もある意味そうですね。そういうインダストリーが日本の強みを活かしています。技術革新ですり合わせがなくても出来てしまう時代が来るかもしれないけど、少なくとも今、そういう積み重ねが強い軸を持っているので、その上に強い市場価値を持つものとつなぐことができれば。QCDの追求にとどまらず、QCDの上に新たな市場価値を作る。それによって作られる市場を追いかければよいと思います。

【池田】
日本の製造業は素材・部品が今でも強いと思いますが、素材や部品メーカーのお客様と議論していて思うのは、汎用品よりも個別仕様をきめ細やかにお客様に対して対応することを強みとしてきた所が多いということです。そういう会社の悩みは、グローバルに市場が広がるに従って、従来通り個別仕様できめ細やかにすり合わせて素材や部品を作っていった強みがコスト高になってきていることです。でもそれを捨てたら強みがなくなるので、転換点を感じられている会社さんが増えています。もしかしたら、そこを乗り越え、きめ細やかなすり合わせの対応をしていく強みを活かすためにIoTが使えるようになってくる機運が始まっているかもしれません。

株式会社富士通総研 池田プリンシパルコンサルタント
【株式会社富士通総研 池田プリンシパルコンサルタント】

【細井】
須賀さんもつなぐことに拘っておられますが、つなぐとはどのようなイメージですか?

【須賀】
工場のPLC(Programmable Logic Controller)のメーカーが違うと、言葉も違うし、ロボットメーカーも中身が違うので、富士通の工場の人は自分で異なるメーカー間をつないでいます。異なるロボット間やPLC間の通信のノウハウが富士通に溜まっているので、それを売り物にしたいのですが、その部分の標準化は何回もチャレンジしてうまくいっていないのです。どうデファクトを作ればいいのかについては、産官学連携の話かもしれないですが。富士通はロボットやPLCを作っているわけではなく、ステークホルダーではないので、中間的にデータ変換できる場を提供して、あるものをトータルでつないであげればよいのではと考えています。

【細井】
すり合わせるというのは、シミュレーションなどできない世界のことですか?

【中村】
すり合わせとは、手間をかけて組んで行く、生産システムや製品を一発OKでなく、改変していくということです。例えばCADの設計もそうです。基本設計があり、コンポーネントがあって、互いにある枠組みを作って合体させる世界と、一方を書きながら、一方の部品も互いにキャッチアップしながら調整していく世界があって、後者がすり合わせです。それが日本流の特徴で、だから置き換え不能なのです。そこで強みを発揮しているので、標準化やモジュール化した瞬間、その会社独自の製品や生産システムの強みが損なわれてしまう。日本の強みは失われてしまう。そこに拘って頑張っているわけですが、より高い価値を追いかけるビジネス活動に変革していきたいとも考えてはいる。でも、ここで頑張っているのは経営が成り立っているからです。成功の現状から、次の戦略に切り込めないのです。

5. IoTを日本の成長機会にするためには?

【細井】
そうは言ってもIoTでオープン化や標準化が加速しています。この流れを成長機会にするための踏み台にするようなことはできないでしょうか?

【中村】
ハードルが高いですが、そこをやらないといけないと思います。Industrie4.0をドイツがやって、今までの世界が崩れ去るのは時間の問題です。日本の強みがすり合わせだとすると、その次元のみで戦うのではなく、どう高い付加価値に活かし、昇華させていくかです。今までウェットな世界でやってきた経験や気づきを、乾いた世界をコントロールするナレッジに昇華していかないと、日本の将来はない。何故なら、日本の強さはオペレーションだからです。そこに経験や技もあるかもしれないけど、個人に留まっています。継承できなかったり、人がいなくなったりする経験や技をいかに吸い上げて共有し、ブロードキャストし、知に変えていけるか。その役割はIoTしかできない。だから、そこをやるべきだと痛切に思います。

【細井】
カイゼンオペレーションが得意なのが今の日本の40~50代ですが、最近は一挙に新しい価値モデルを作ってしまう世代が出始めている気もします。【図1】の左上の世界のビジネスモデルが出始めているという明るい話題はありますか? そこが従来の強い世界とうまくつながってくると、ジャンプできると思うのですが。

株式会社富士通総研 細井エグゼクティブコンサルタント
【株式会社富士通総研 細井エグゼクティブコンサルタント】

【須賀】
特殊なセンサーを作れるなど、尖った技術を持っている人がいたとして、それをサービスビジネスにする支援をするとか、富士通がセンサーデバイスを品質よく、大量生産してあげるとか、そういう形のコラボレーションはあると思います。尖った技術を持つ人は沢山出て来ると思うので、それを具現化して、高品質で大量に市場に出し、ビジネスにして、アフターフォローも含めてやってあげる、それが富士通の目指すスタイルの1つかと思います。お客様は尖ったものを1つ持ってきてくれれば、後は富士通がビジネスにするといったことを色々なケースでやってみたいです。

6. Industrie4.0とは何なのか? それに対して日本が強みを発揮する道は?

【中村】
世界でIndustrie4.0やIndustrial Internet Consortium(IIC)の動きがありますが、それは一体何なのかと考えて、「産業文化」という造語を作ってみました。ヨーロッパの産業構造は日本と全く違うし、アメリカとも違います。ヨーロッパは完全に「水平分業」なのです。例えば、オメガはムーブメントを作らず、ムーブメントメーカーから買ってきて、1万円のムーブメントで50万円のスピードマスターを売っているのです。そもそもスイスの時計産業は水平分業で、ムーブメントメーカー、文字盤メーカー、針メーカーは分かれています。そういう産業構造なので、オメガが考えるのはムーブメントの性能を出すことではなく、出来上がった製品としての価値をどこに見い出すかです。QCDの追求ではなく、ブランディング、デザインといった点で価値を作っていく産業構造ですね。自動車では、BMWのX、ダイムラーのGは第三者が設計から作っているODM(Original Design Manufacturing)の場合もあります。フォルクスワーゲンの工場もファクトリーラインビルダーが工場を作っています。そういう分業の世界なので、Industrie4.0のSmart Machineによる自律分散連携は自然なことなのです。一方、アメリカは水平分業でも垂直分業でもなく「モザイク」の世界なので、メーカーとお客様をOne to Oneにつなぎ、サービスに徹底的に入るしかありません。そして、日本は「垂直連携」です。昔は系列、今は取引関係、サプライチェーンで形が残っていますが、垂直連携を密にする力がオペレーション力、すり合わせ力です。そういう物の考え方や社会構造があるわけですから、日本が水平分業を取り入れて、日本としての強みをその上に作れるかというと、非常に難しいと思います。日本の強みを活かすには、垂直連携をより効果的に徹底的に進めるアプローチしかないと。単にすり合わせを頑張ってバーチャルで早く改善するという話ではありません。仮に現場の力をモデル化できたとして、IoTの基盤を使いながら、サプライチェーンの部品メーカーと設計段階でコンカレントに徹底的にすり合わせをやり、すり合わせの価値だけでなく、市場に対する商品価値を追いかける活動にシフトしていく。新しい世代の1つの知見とつながれば、何か発掘するかもしれない。そういう方向が日本の製造業で進めて行く1つの考え方かと思います。

【細井】
日本なりの垂直連携を強化するためにIoTをもっと活用するシナリオは、【図1】の右下に相当すると捉えられますが、事例としてもあまり見当たりません。連携するためのシミュレーションも重要になりますね。SoR(System of Record)で考えてきたトランザクション処理では過去を起点に現在のアクションを決めますが、シミュレーションでは将来予測を起点に現在のアクションを決める。今まで現実世界をITにマッピングしていたのが逆転し、サイバーを現実世界にマッピングするという発想に切り替えないといけない気がします。

【池田】
サイバーの世界に現実が追いついていけないということが出てきそうな気がします。中堅製造業では、工場間でのモノの名前さえ標準化しておらず、工程の呼び名も原価計算のやり方も違い、比較できないという所が多いですよね。

【中村】
我々のシミュレーションを使っていただく一番の効果は、多くの人の行動や発想を合わせないといけないということです。プロトコルを合わせるということです。現場力と呼ばれる人間系だと多少違っていても吸収してしまうので、標準化・共通化の発想・行動に至らない。IT化しなければいけないことは皆わかっているので、IoTはよい機会だと思うのです。

【池田】
設計、生産、営業と各部門で考え方も目的も違うので合わないですよね。実現したい「ビジョン」や「夢」によって意識も一致してくるかと思いますので、先にバーチャルから入るのも1つの方法かもしれません。そして、中村さんの仰る、人の行動や発想、プロトコルを合わせることが、今後IoTを活用する準備段階として非常に重要だと思います。

【須賀】
垂直連携、水平分業、モザイクという整理は面白くて勉強になりました。IICに参加してきましたが、インテル、シスコ、AT&T、GE、IBMといった各レイヤーのトップを集めて、標準化ではなくデファクトを作る普及団体だと、モザイクで色々な企業を組み合わせやすい協業の場を提供すると言っています。モザイク社会でデファクトを作るための企業間連携をするというアメリカの考えはIndustrie4.0の水平分散と対比して面白いです。日本は垂直連携の強みを活かすためにどのような企業間のスキームを組むかですね。

【細井】
IoTを活用した垂直連携の強化というコンセプトを持ち、日本の優れた現場力がすり合わせや改善を牽引してきたことを強みにして、その上でIoTのもたらすCPSを取り込んで、日本のものづくりの価値にして行くということでしょうか。どうもありがとうございました。

対談者

対談者(写真前から)

  • 中村 昌弘 :株式会社レクサー・リサーチ代表取締役
  • 須賀 高明 :富士通株式会社 ネットワークサービス事業本部IoTビジネス推進室 室長
  • 細井 和宏 :株式会社富士通総研 エグゼクティブコンサルタント
  • 池田 義幸 :株式会社富士通総研 産業・エネルギー事業部 プリンシパルコンサルタント

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富士通総研は、調達、生産、在庫・物流の最適化、製品ライフサイクルの適正管理、グローバルな製品同時切り替えなど、ものづくりにかかわるシステム・業務改善のノウハウを基に製造業の今後の動向を見据えた、ものづくり改革の実現を支援します。