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【特別インタビュー】課題解決から課題探究へ

-大学と地域が未来を創る人材を共に育成していく社会-

2015年6月10日(水曜日)

国立大学法人大分大学経済学部は1922年に開校した大分高等商業学校にルーツを持ち、産業界を中心に多くの人材を送り込んできた。その伝統校が社会イノベーションを見据えた課題探究型人材の育成に挑戦している。とりわけ、企業や公的団体との連携を通じた育成方法を模索し、本年2月にはその一環として富士通株式会社が運営するあしたラボUNIVERSITY(注1)・富士通総研(FRI)と連携した共創活動を試行している。それらの取り組みを踏まえ、FRI産業・エネルギー事業部シニアコンサルタントの黒木昭博が新たな挑戦を牽引する市原宏一学部長に、その狙いや思いを伺った。

1. 今の環境は情報や知識に対する飢餓感がどうしても弱くなってしまう

【黒木】
なぜ今、課題探求に着眼されているのか、その背景を教えてください。

【市原】
昨今、多く見られる傾向は、学生が自身への悩みがあまりないということです。言い換えると、具体的にこれをやりたい、こういうことで自己実現を図ろうというのが弱いのです。片手にスマートフォンがあれば、座ったままでも、どんどん情報の波が押し寄せて、何か必要なモノを選べばよいという時代になっています。私はある意味で彼らは追い込まれていると思っています。それはよくいう情報過多で取捨選択が難しいということではなく、取捨選択する意欲がそもそも湧かないということ。 一見、情報はあればあるほどよいけれども、この環境では昔と違って情報や知識に対する飢餓感がどうしても弱くなる。私自身、この状況に納得がいっておらず、そこを変えたいと強く考えるようになりました。

【黒木】
そこで方法論として課題探求に着眼されているのですね。様々な取り組みがなされているかと思いますが、教育方法として意識していることは何でしょうか?

【市原】
大事にしたいのは、社会には問題や課題があるということを認識してもらうことです。一見、当たり前のようですが、多種多様な情報が押し寄せて混沌としている中で、それを見出すのは実は簡単ではありません。 私たちは日々、社会からの要請を感じますが、まずはそれをよりダイレクトに肌で学生が感じることができるようにしています。社会からの要請を一言で言ったら、それはイノベーション。社会自体のグローバリゼーションが進む中で、どのような変化が必要か、学生自身が現場に出て、感じて、見つけることを重視しています。その上でどう解決するかになります。

【大分大学 経済学部 市原 宏一 学部長】
【大分大学 経済学部 市原 宏一 学部長】

2. 私たち教員が面白くないことを学生たちが面白いと思えるとは思えない

【黒木】
2月に取り組んだ共創活動では、「大分県の魅力を高めるプロダクト・サービスアイデアを考える」をテーマに学生、富士通グループの社員を中心とする社会人、経済学部の先生方が混ざり合って、まさに身近な課題を捉え、解決のアイデアを考えることを行ったわけですが、その取り組みから得られたものは何だったのでしょうか?

【市原】
正直に言うと、「自由に発想すること」が企業に抜かれてしまったと感じました。それまでは私たちは最も自由な職業だと思っていましたが、研究でも授業でも自己充足感が持てないシーンが企業よりも多くなっていると気がついたのです。これは、その日に限らず、黒木さんたちが取り組んでいるユニークな活動からも感じたことです。特に「お寝坊サンタの壁のぼり」(注2)は誰かから命ぜられてやったわけではなく、むしろ自発的に目的を作り、夢中になって取り組まれたものだと感じました。 つまり、私たち自身がやっていて面白くないことを学生たちが面白いと思えるとは思えない。実は自分たちの鏡が学生なのかもしれないと考えるようになりました。

【2月に実施した共創活動では、教員も積極的に取り組んだ】
【2月に実施した共創活動では、教員も積極的に取り組んだ】

【黒木】
経済学部との共創活動のプログラム設計から当日の実行まで、不安がなかったわけではありませんが、それ以上に新しい何かが生まれることへのワクワク感の方が強かったことを覚えています。経済学部では富士通グループ以外にも、地場の製造業やサービス業、公的機関との連携を積極的に進められていますが、これまでとの違いは何でしょうか?

【市原】
最大の特徴は「こんな人材を育成してください」や教員と「こんな共同研究をやりましょう」ではなく、学生たちと一緒に何かを生み出すという強い意思があることです。私たちもそうしたいと考えていましたが、ここ数年で多様な企業や団体から一気にそのような話をいただき、いずれも授業に帰結しています。例えば、大分県弁護士会やJR大分シティとの連携は、学生が実際の法廷や経営の現場で学ぶとともに、若者の発想を団体・企業が自身の活動に活かすことを企図している極めて実践的かつ社会性の高いものです。何よりも、通常の授業の中で特定の職種・企業と本気で取り組みができることに学生が強い関心を示します。社会の閉塞感の中でそれぞれが異質なものを求めていて、従来にはなかった展開を見せているのではないでしょうか。

【黒木】
自発的に課題を発見し、創造的に取り組む人材や社会的土壌を作っていくことは、皆が必要としていることだと思います。しかし、それはわかっていても、それを作ることは容易ではないと感じています。その点においてもイノベーションが必要だと思いますが、市原学部長はどのようにお考えでしょうか?

【市原】
私たちがイノベーション人材の育成に関する調査をした際に、「同じ職場の中で日々漫然と与えられた仕事をこなすのではなく、日常の中で新しい提案ができることが必要で、イノベーションとはまさにそういうことではないか」という声をもらいました。私たちもそこを狙いたいと思っています。今、私がやりたいことは必ずしも起業家を育てたいということではありません。たった1人の天才ではなく多様な人たちと課題を探究し、知恵をぶつけ合って何かを成し遂げることのできる人材を作りたいと考えています。

【大分大学 経済学部棟】
【大分大学 経済学部棟】

3. 皆が1つのことを一緒にやってみる空間と時間を持つことがスタート

【黒木】
まさに共創型のアプローチと言えそうですね。私自身もここ数年でお客様の課題に対してコンサルティングを提供するだけでなく、様々なパートナーと「こんなことができたら面白い、早速やってみよう」と取り組むことが急速に増えました。先ほどお話に出た「お寝坊サンタの壁のぼり」もその1つです。そして、これからは異なる価値観、考え方、スキルを組み合わせて、どう新しい価値を生むかが大事になると感じています。

【市原】
そうですね。大学もこれまでは象牙の塔でしたが、様々な背景でそれが変わってきました。皆が1つのことを一緒にやってみる空間と時間を持つ。それによって閉塞感から脱出できる、そんな気がしています。もちろん、すぐに何か成果があった、こういう問題が解決できた、というものが必ずしもあるわけではありません。少なくとも夢中になって取り組んだときは得るものや充足感があり、閉塞感を感じなくなります。

【黒木】
イノベーションは再現性のないものだと思います。だからこそ、試行錯誤が必要になると思いますが、今後の展開に向けて大切にしたいポイントは何でしょうか?

【市原】
イノベーション人材の教育方法は一朝一夕で確立できるものではありませんが、そこを目指して教員自身も日々学び、カリキュラムに反映していきたいと考えています。そのためには地域の多様な方々とともに、学生が問題意識を持ってもらうための鍵を開けることが必要です。「このような問題があるから自分は学ばないといけない」という根っこを作り、社会のムーブメントを作っていく側に回ってもらいたい。もちろん、私たち教員自身がそのことを心から楽しんで取り組みたいと思います。

注釈

(注1)あしたラボUNIVERSITY : 未来をつくる学生と、社会人とが一緒になって学び、身近な課題を解決したり、新しい価値をつくる体験を通じて、これからの「働く」を考えるオープンイノベーションプロジェクト。
2014年度2月には大分大学経済学部とコラボレーションを行った。その模様はこちらOpen a new window

(注2)お寝坊サンタの壁のぼり : 富士通が主催する地域貢献イベント「富士通フェスティバルイルミナイト川崎2014」にてセンサーデバイスを活用した子供向け体験型プロジェクションイベント。ハッカソンから生まれたアイデアを富士通、富士通研究所、富士通デザイン、富士通総研、(株)IMJにて実現。
当日の模様はこちらOpen a new window(動画)

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国立大学法人 大分大学 経済学部 学部長 市原 宏一

市原 宏一(いちはら こういち)
国立大学法人 大分大学経済学部学部長
【略歴】
1959年大分県生まれ。1990年九州大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、大分大学経済学部入職。2003年博士(学術)学位取得名古屋大学大学院情報科学研究科。2012年8月より現職。

黒木 昭博

黒木 昭博(くろき あきひろ)
富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント
【略歴】
製造業のICT中期計画策定や新規サービス企画・開発を中心としたコンサルティング活動に従事。企業と顧客が一体となって価値を生み出す「共創」を促進する手法の研究開発や実践にも取り組んでいる。修士(経営学)。