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アジアのネットビジネスを戦略的に開拓せよ

2015年5月13日(水曜日)

1. 新たなネットビジネス主戦場となるアジア

2014年9月に中国の電子商取引最大手、アリババ集団はニューヨーク証券取引市場に新規株式公開(IPO)し、その収益性や成長性が評価され、史上最大の250億ドルを調達した。そのIPOに伴い、アリババ集団に3割以上を出資しているソフトバンクは、8兆円超にも及ぶ含み益を得た。実際、アジアのネットビジネスで潤ったソフトバンクは、インドやASEANのネット企業に次から次へと出資あるいは買収し、「第2のアリババ」を狙って成功ストーリーを再現しようとしている。また、2011年のゲームベンダーの収入ランキングで、ソニー、マイクロソフト、任天堂、Tencent(中国のSNS、ネットゲーム最大手)はそれぞれ、第1位、第3位、第5位、第6位であったが、2014年にはTencentが第1位に躍進し、ソニー、マイクロソフト、任天堂はそれぞれ第2位、第3位、第9位に順位が下がった。

昨今、世界の主要メディアでは、「アジアに傾くインターネットのパワーバランス」、「ネット企業の新たな主戦場はアジア」などと報道し、世界のネット業界も台頭するアジアのネット市場やネットビジネス革新に今まで以上に注目するようになった。リアルな世界では、世界経済の中心は高成長が続くアジアにシフトしていると言われて久しいが、ネット世界においてもそのプレゼンスが高まってきている。ゼロから新しいものを生む革新的な技術の出現(「0」to「1」)では、米シリコンバレーが今なおリードしているが、市場基盤としてのネット社会形成やそれに見合ったビジネスモデルの革新など新しいものを広げていく領域(「1」to「N」)において、アジアネット市場とネット産業のプレゼンスは急速に高まってきている。

2. ネット世界でプレゼンスの高まるアジア

ソーシャルマーケティングエージェンシーの「We are social」(注1)では、ネットユーザー数、ソーシャルメディアユーザー数、モバイルユーザー数、モバイルソーシャルメディアユーザー数という4つの指標で世界、地域、各国のネット社会基盤形成のトレンドを見ている。“Digital, Social and Mobile in 2015”(注2)によると、ネットユーザー数の世界シェアで見ると、北米の10%に対して、アジアでは45%(東アジア27%、南アジア11%、東南アジア7%)となっている。アクティブソーシャルメディアユーザー数のシェアでは、北米の10%に対して、アジアでは51%(東アジア33%、南アジア8%、東南アジア10%)で、世界の半数以上を占めている。

4つの指標において北米の世界シェアは、5%~10%程度であるが、アジアは50%前後となっており、ネット世界でアジアのプレゼンスは大きい。特に、東アジアの存在が飛び抜けて高く、急速にネット社会へまい進している中国の寄与が大きい。このような4つの指標がネットビジネスの市場基盤を形成していくとすれば、ネットビジネスの将来性においてアジア、特に東アジアが注目されるのも理解されよう。

【図】が示しているように、アジアの国々においても発展段階やネット文化の親和性などによってネット普及のバラツキが大きい。人口規模からは、中国、インド、インドネシアが大きな単一ネット市場になるが、発展段階の違いでインドとインドネシアの普及は遅れている。ただし、ネット人口の成長率(eMarketer“Mobile Web Use in APAC: The Good and the Bad”(注3))で見ると、2013年と2018年(予測)の中国、インド、インドネシアの成長率はそれぞれ、9.0%、36.1%、22.1%と4.0%、10.3%、9.3%となるので、インドとインドネシアの追いつきは速い。また、発展段階は高くないが普及率は高いベトナムやフィリピンは、ネット文化に親和性があると考えられる。

【図1】アジア関係国のネットおよびスマホ普及状況
【図1】アジア関係国のネットおよびスマホ普及状況
出所:We Are Social“Digital,Social % Mobile in 2015”, Aun Consulting
「世界40ヵ国、主要OS・機種シェア状況(2015年1月)」より筆者作成

さらに、【図】が示すように、ネットの普及率はスマホの普及率と相関性が見られ、アジアにおいてはスマホ経由のネット接続がメインチャンネルとなっていると考えられる。eMarketerの調査では、2013年に中国、インド、インドネシアのモバイルネット普及率/ネット普及率はそれぞれ、41.2%/46.0%、10.4%%/13.7%、22.8%/29.0%となっており、アジア新興国では、モバイル(スマホ)経由のネットビジネスがメインチャンネルになる可能性が高いと考えられる。

3. 注目されるアジア発のネットビジネスの革新

以上で見たように、アジアネット市場の潜在性は大きく、先進国のネットベンダーは巨大化するアジアネット市場を新たな主戦場として狙いを定めて動き出している。しかし、アジア発のネットベンダーも先進国の技術を取り入れながら現地市場に見合ったビジネスモデルの革新を引き起こしながら、消費者の支持を得てビジネスを拡大させようとしている。

例えば、アリババ集団によるビジネスモデルの革新は2つ挙げられる。1つ目は、中国のネットユーザーの「タダ利用心理」に合わせたEC分野での「無料モデル」、あるいはフリーミアム(Freemium)というビジネスモデルである。フリーミアムというビジネスモデルは2006年にベンチャー投資家のフレッド・ウィルソンによって提起されたと言われているが(注4)、EC分野に導入して成功したのはアリババが最初であり、現在、日本ヤフーもアリババの無料モデルを参考にして導入している(ただし、日本のEC環境に合うかどうかは、また検証の必要がある)。

2つ目は、信用システムが構築されていない中国で、取引信頼性確保のためのエスクロー機能付きのオンライン決済ツール(アリペイ)やレイティング制度を導入して成功したことである。アリババは、さらに、このオンライン決済ツールをネット経由の小口投資家向けのマネー・マーケット・ファンド(MMF)に活用している。他方、ネット取引でのレイティングシステムをネット金融の小口貸出分野に活かし、日米欧の先進国でも解決されていない中小・零細企業向けの貸出業務における信用システムを確立しつつある。さらに、アリババは、このようなネット版信用システムを武器に、第三者向けのレイティングサービスビジネスに参入しようとしている。これらは、まさにFinTech(注5)分野でのイノベーションと評価されよう。

FinTech分野では、TencentもSNSアプリの「WeChat」にオンラインのP2P決済ツール「WeChat財布」を導入しており、決済分野で大きな威力を発揮している。今年3月にMessengerへP2P決済機能を導入したFacebookより一歩先に経験を積んできている。また、出稼ぎ労働者の多い東南アジアで、仮想通貨の「ビットコイン」を介した、手数料の格安な送金ビジネスの仕組みを構築している。「ビットコイン」の価格変化への対応やトラブルの処理、資金洗浄の対策など、解決しなければならない課題は多いが、ネット技術を取り入れる試みは評価されよう。

4. 現地市場で頭角を現した新興企業を見つけよう

他方、先進国で確立されたビジネスモデルであっても、そのままの仕組みや収益モデルではアジアで成功しない可能性が高い。アジアの社会経済状況、サービス選択嗜好、セキュリティ環境などの実情に合ったビジネスモデル・収益モデルの確立が必要不可欠である。例えば、2014年12月にソフトバンクが投資したタクシーアプリのグラブタクシー(GrabTaxi、本社シンガポール)は、マレーシア、シンガポール、タイなどの市場にすでに進出している米ウーバー(Uber)に競い勝ち、急速に拡大している。基本技術は米ウーバーと大差はないだろうが、現地利用者の好みに合った情報提供(表示)や待ち時間の最小化への工夫、現地タクシー会社との協業、安全面を最大限配慮した契約タクシー開拓などがなされていると言う。

アジアのネットビジネス開拓戦略においては、技術創出は目立たないが、現地市場に見合ったビジネスの仕組みや収益モデルを構築しているパートナーとの提携が欠かせない。ただし、投資家の立場に徹して、アジアネットビジネスを育てていくソフトバンクの戦略からは、もう1つのヒントが得られる。

注釈

(注1)http://wearesocial.net/

(注2)http://wearesocial.sg/blog/2015/01/digital-social-mobile-2015/

(注3)http://www.emarketer.com/Article/Mobile-Web-Use-APAC-Good-Bad/1010991

(注4)http://avc.com/2006/03/my_favorite_bus/

(注5)FinanceとTechnologyを合わせた造語で、金融とICTを組み合わせた新しいサービスを意味する。

関連サービス

【調査・研究】


金 堅敏

金 堅敏 (Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。
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