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中国の新シルクロード戦略を読む ~対外開放政策の「昇級版」か地政学的な戦略か~

2015年4月21日(火曜日)

昨今の経済ニュースとして中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が大きく取り上げられている。確かに、国際開発金融秩序に大きな穴を開けられるほど、そのインパクトは大きいと言える。実際、AIIBは資金供給のツールとして機能し、その上位には地域開発戦略がある。それは、中国が提起した「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」(新シルクロード戦略:「一帯一路」構想)である。本論は、提起される背景、中国の思惑、海外の視点などを検証する。

1. 内外環境の変化に苦悩する中国

1970年代末に「改革開放」政策を実施してから、中国は「発展こそが硬い道理」(developmentalism)の理念の下で沿岸部を中心に積極的な外資導入政策による工業化を進め、海外から大量の生産移転を引き受けるとともに技術を導入した国内企業の育成に努めた。制度的には、「入関」(ガット加盟)とその後の「入世」(世界貿易機関WTO加盟)を通じて、世界の既存枠組みやルールの中に入ろうと国内体制を変革させてきた(中国語では「與世界接軌」と言う)。

しかし、内陸部開発の遅れ、環境の破壊、労働生産人口の減少、生産能力の過剰などにより、安い労働力やエネルギー・原材料の大量消費で成り立っている中国の発展モデルは限界に来ており、国内経済の質向上(サービス化と高付加価値化)、産業の高度化(低付加価値産業の淘汰と高付加価値産業の育成、中国では「騰籠換鳥」(鳥籠ではなく鳥籠の中の鳥を入れ替えること)と言う)、国土開発の健全化が待ったなしの課題となった。

世界との関係では、グローバル化の進展や地政学情勢の変化で中国にとって外部環境も厳しくなってきている。例えば、米国のアジア復帰政策に伴う両国間の利害対立が目立つようになっていること(中国では、自国への抑制政策と見るか、自国が周縁化されると危惧する向きがある)や、中近東などの地域不安定情勢に伴うシーレーン確保などのリスクの増加(リスクヘッジの陸上ルート開拓が必要と考えられている)、一部周辺国との不協和音の高まり(共通利益の拡大で衝突を回避する必要)、などが挙げられる。調和のある外部環境の再整備が余儀なくされている。

2. 「開放型新体制」の構築で苦境打開に

ただし、上記のような苦境を打開するのは、主体的に新たな環境に適した、内外政策を連動させる発展戦略を策定することや資本、技術、人材など、これまで蓄積されてきたリソースを活用することが必要であると中国は考える。新たな発展戦略の要は、2013年11月に18期3中全会で採択された「改革プラン」(60項目)に体現されているが、対外経済戦略では以下の3項目が挙げられている。

1)対内・対外の投資市場開放と制度改革

国内では自由貿易試験区の建設を拡大させ、外資法制(外資企業法、合弁企業法、合作企業法の3法)を外国投資法に統一し、対外的には新型投資協定の締結(対米、対EU)を加速させ、対外投資(「走出去」戦略)を拡大することが重点政策となる。

ここでは、国内市場を開放するとともに、制度面では「ネガティブリスト方式」(規制項目を明示してその他自由とする経済管理制度)と「投資前内国民待遇」(投資市場アクセス権を内外資と同等に扱うこと)を前提とし、既存の世界ルールに接近させる。つまり、「與世界接軌」をさらに推進することになる。

2)自由貿易協定FTAの締結を加速

基本的に周辺国とのFTA締結を加速させるとともに、政府調達、環境保護、電子商取引など、これまで取り組んでこなかった新たな議題もFTAに反映させる、全世界に開かれた、高水準の自由貿易地域ネットワークを形成する目標を掲げている。特に、豪州や韓国、日中韓FTAは重点的な作業であるとされている。

優先的に締結するFTAの相手には、自国の利益を考慮して優先順位を付けているが、制度整備の意味では、スピード感は違っても世界ルール発展の方向性は一致していると評価できる。

3)内陸・辺境沿い地域も主役になる対外開放「昇級版」へ

「一帯一路」構想とカバーする地域
【図1】「一帯一路」構想とカバーする地域
出所:中国政府:「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードをともに推進し構築する構想と行動」により筆者作成

30年間にわたる対外開放政策で恩恵を受けた主要地域は沿岸部であり、開放の対象は先進国市場である。例えば、中国の内陸部(中西部地域)の面積と人口は全国の80%と60%を占めているが、全国の貿易額の14%、外資直接投資の17%、対外投資の22%、GDPの1/3しか占めていない。内陸部は、インフラ整備が遅れ、開放政策の適用も限られてきた。また、接している地域は途上国が多く、資本導入や技術移転も期待薄とされた。

資本、技術・ノウハウ、人材が蓄積され、30年前と違って対外資本、技術、生産能力の輸出に変わってきた現在では、内陸部や辺境沿いの地域も対外開放の主役になれる環境が生まれた。【図1】が示すインフラ整備や産業協力を中心とする「一帯一路」構想の提起は、こうした国内的な背景から来ている。「一帯一路」構想は、地域協力の計画であるが、政策面の意思疎通、インフラの連結、貿易投資の円滑化、資金の融通、民心の意思疎通が政策の重点とされ、具体的には、鉄道、道路、航空、通信、エネルギーなどのインフラ分野の協力や文化、観光、流通・物流、金融などの協力が優先されると言う。

今後、中国の対外開放政策は、外資導入と対外投資を同等に重視し、先進国と新興国・途上国との経済統合を同時に推進し、「一帯一路」戦略の実施などを通じて、対外開放政策の「昇級版」の形成を目指している。

しかし、中国の「一帯一路」構想に関して、内外の見方はかなり異なっている。

3. 「一帯一路」構想は中国の地政学的戦略か

中国の国内では、「一帯一路」について、経済的な視点から、戦後の米国による欧州復興計画「マーシャル・プラン」と重なり、「中国版マーシャル・プラン」と理解する向きがある。それは、国内の過剰資本・生産能力を海外に移転して国内では産業の高度化が図れる一方、開発資金の欠如や産業育成の遅れに悩むアジアの新興国・途上国は経済発展のボトルネックが緩和され、経済成長の土台が整備されると見ているからである。その過程で、人民元の国際化も図れるという「一石二鳥」の思惑も聞かれる。

実際、「中国版マーシャル・プラン」として、世界金融危機で生じた生産能力過剰問題を解決するために、2009年に外貨準備などから成る5000億ドル規模(海外向けの4兆元投資計画)の途上国向け投資ファンドの設立が提言されたことがある。当時は、余剰資金は中国国内の後発地域に投資されるべきだとの意見や、日米欧などから反発されるだろうという配慮から正式な計画には至らなかった経緯がある(金玲:「一帯一路」:中国的馬歇璽計画)。しかし、当時2兆ドルにも達していなかった外貨準備は、現在約2倍の4兆ドルまでに積み上がっており、また、海外向け4兆元の代わりに国内向けに4兆元の投資が行われ、過剰生産能力はさらに深刻となってしまった。したがって、「一帯一路」構想は、少なくとも経済的な視点から2009年に提起された「中国マーシャル・プラン」の趣旨と軌を一にしているように思われる。

現在、中国当局は、平等・互恵・開放を理念とし、経済開発にフォーカスする「一帯一路」構想は、援助の性質が強く安全保障に大きなウェイトを置いていた米国の「マーシャル・プラン」とは本質的に違うとアピールしている(Xinhua: Silk Road initiatives not China's Marshall Plan: spokesman)。しかし、海外の見方では、中国の「一帯一路」構想は国内経済発展を支援するとともに、台頭する経済の力で対外政策目標を実現しようとしていると見ている(Shannon Tiezzi:The New Silk Road: China's Marshall Plan)。また、「一帯一路」構想は、アジアの地政学の再定義をもたらし、インフラ整備を通じて中国はアジアで最も重要な影響力を持つことになるだろう(Michele Penna: China’s Marshall Plan: All Silk Roads Lead to Beijing)。さらに、この構想は、アジア地域での主導権を米国から取ろうとしている(WSJ: China’s ‘Marshall Plan’)、つまり、海外では、中国の「一帯一路」構想は、対外経済政策であると同時に、地政学的な戦略でもあると評価されているのである。

確かに、「一帯一路」構想の趣旨には、中国国内経済発展と関連して対外経済開放政策の「昇級版」、あるいは経済「ニューノーマル」の下での対外経済政策と同時にアジア地域の開発を加速させ地域統合を推進する目的も込められていると、中国の高官も発言している(中国外交部次官 張業遂:「一帯一路」を建設し、中国対外開放の昇級版を形成しよう)。つまり、当該構想には中国主導による地域統合の政策目的も併せ持つと理解できるだろう。また、中国では、「米国は、TPPをもって中国を周縁化させようとしているが、中国は、「一帯一路」戦略で周辺地域に発展と協力をもたらし、対外経済貿易の主導権を掌握する」というように、米TPP戦略の対抗政策として理解する意見も存在する(段霞:「一帯一路」建設対中国與世界的意儀)。

したがって、「一帯一路」構想の政策ツールとして、BRICSを主体とする新開発銀行(最終出資金1000億ドル)、アジアインフラ投資銀行(AIIB、同1000億ドル)、シルクロード基金(400億ドル)の設立を併せて考えると、積極的か消極的かは別として、中国は地政学的な意味を込めて「一帯一路」構想を推進しようとしているに違いないと思われる。

4. 中国のチャレンジ

これまで見てきたように、中国の新たな対外経済政策は、自由貿易試験区の拡大や新型投資協定の締結などに代表される「東方政策」(あるいは先進国政策)の高度化と、「一帯一路」構想で代表される「西方政策」(あるいはアジア新興国・途上国政策)から成っている。昨今、日本ではもっぱら「西方政策」(「一帯一路」構想やAIIBなど)に目を奪われているように見える。深まる市場開放政策や、「ネガティブリスト方式」と「投資前内国民待遇」を前提とする通商管理制度への変更は、日本企業にとっても大きな利害関係があり、注目すべきである。

他方、新たに提起された「西方政策」の実施には、中国にとって様々なチャレンジが待ち受けている。これらの地域における既存の有力な利害関係者(米国、ロシア、インドなど)との調整に直面するだろうし、プロジェクト対象地域の大多数は途上国で、制度環境や経営環境は不安定で不確実性が高い。さらに、「一帯一路」構想の実施に当たっては、社会、環境、労働などのイシューに配慮した持続的な開発やインクルシーブな開発を前提とする新たな開発理念(New-developmentalism)が求められる。中国国内でも発展途上New-developmentalismが「一帯一路」構想の実施で貫かれるかが注目される。

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金 堅敏

金 堅敏 (Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。
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