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地域包括ケアシステムの理解と今後の方向性

2015年4月10日(金曜日)

日本は少子高齢化という社会問題を抱えており、世界で最も高齢化が進んだ「高齢先進国」と言われています。この問題の解決策の1つとして地域包括ケアシステムが検討されています。それは、各地域の住民が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられる、働ける人には働ける環境を提供する社会システムです。富士通総研は、地域住民の幸せのために何が必要なのか、その中で我々に何ができるのかの答えを模索しながら、各地域の地域包括ケアシステムの実現に寄与していきたいと考えています。

1. 地域包括ケアシステムの社会的背景

地域包括ケアシステムの背景には、やはり少子高齢化という社会問題があります。高齢化は先進国を中心に大きな問題となっており、その中でもわが国の高齢化は比較にならないスピードで進行し、まさに日本は、世界で最も高齢化が進んだ「高齢先進国」と言われています。その日本の高齢化率は2005年に20%を超え、2013年には25%、実に4人に1人が高齢者になっています。その後も高齢化率の上昇が続く一方、総人口は減少していくと推計されています。

【図1】高齢化の推移と将来推計【図1】高齢化の推移と将来推計 出典:平成26年版高齢社会白書(概要版)より

この結果、1965年には高齢者1人の社会保障費を9.1人の生産年齢層の人たちで支えていたのが、2012年には2.4人、2050年には1.1人という過酷な数字になると推計されています。もちろん高齢者1人を、働く世代の1人が支えるという状況は非現実的であることは容易に想像できます。

さらに、「多死時代」(注1)の到来の問題もあります。現在、高齢者が死亡する場所は8割強が病院や診療所、1割程度が自宅と言われています。2025年には年間死亡者数が現在の1.7倍、約170万人になると推計されています。今後、医療機関のベッド数や介護施設が大幅に増えることがなく、自宅で診療・治療、ケアを受け、最期を迎える人を現在の1.5倍と見込んだ場合で、病院から早く退院することを促されて家に戻ってもケアする人がいない、いわゆる「死に場所難民」(注2)が約47万人も発生してしまうと言われています。

2. 地域包括ケアシステムの制度化

2005年の介護保険法改正の第3期介護保険事業計画において「地域包括ケアシステム」という用語が初めて使われ、「地域包括支援センター」が生まれていますが、大きなポイントとなったのは2011年の介護保険法改正でした。この改正の条文に、「自治体が地域包括ケアシステム推進の義務を担う」と明記されました。

そして2013年、「地域包括ケアシステム」は「社会保障改革プログラム法」により、政策として推進される取り組みに定められました。同法では2014年度から2017年度に行う「医療」「介護」など制度改革のスケジュールや実施時期などを定めています。さらに2018年度から2023年度には、団塊世代が後期高齢者となる2025年度以降を見据えた体制の最終整備がなされることになっています。

3. 地域包括ケアシステムの概念

地域包括ケアシステムとは、各地域の住民が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられる、働ける人は働ける環境を作り上げるために、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される社会システムと言えます。

人間は高齢化による心身機能の低下などに伴い、当然「医療・看護」「介護・リハビリテーション」などの処置や支援が必要になります。その医療や介護サービスを適切に受けるためには、各地域におけるしっかりとした「保健・福祉・生活支援・予防」が必要となります。また、安定した住まいと住まい方が確保されなければなりません。当然、その大前提となるのが本人・家族の選択と心構えです。

一方、「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・福祉・生活支援・予防」が適切に提供されるよう、支援する行政の役割もさらに増します。高齢者が高齢者を見守れる環境、地域の人々が高齢者を見守れる環境、つまりは暖かい地域コミュニティが重要となってきます。

【図2】石巻市地域包括ケアシステムのコンセプト【図2】石巻市地域包括ケアシステムのコンセプト 出典:石巻市地域包括ケアシステム推進計画基本構想より(PDF)

4. 地域包括ケアシステムの担い手とその役割

地域包括ケアシステムの実現のためには、概念だけではなく各関係者(担い手)の具体的な役割分担を決めていく必要があります。

それぞれの大きな役割で言えば、医療関係者には在宅医療の環境を整えることが求められます。地域によっては在宅医療に携わるドクターを増やすことが必要かもしれません。また別の地域では、減らさないこと、つまりは在宅医療に携わっているドクターの負荷軽減のための対策が最重要であることもあり得ます。

介護事業者には、医療関係者とインフォーマルサービスの提供者との連携を踏まえた介護サービス、ケアプランを用意することが求められます。そのためには、医療と介護の接点者であるケアマネジャーの役割が最も重要になるものと考えています。

また、インフォーマルサービスの提供者に求められる役割の1つが、高齢者の健康寿命を延ばしていくためのサポートです。その担い手となるのが、有償・無償を問わず、サービスを提供する民間企業やNPO法人、ボランティア、社会福祉法人などです。

そして、これらの医療関係者、介護事業者、インフォーマルサービス提供者らがシームレスに連携する仕組みづくりを支援してマネジメントし、必要に応じて調整するといった役割を担うのが自治体です。

5. 次世代の地域包括ケアシステム

医療や介護の各々のサービスの質の向上だけでなく、シームレスな連携は非常に重要であると認識されてきており、多くの施策が展開されています。このシームレスな連携が重要であることを理解した上で、決して忘れてはならないことは、さらに「保健・福祉・生活支援・予防」といった分野とのシームレスな連携も重要であるということです。例えば、買い物支援、移動支援、配食、さらには住宅改修支援など多面的な内容となり、おそらく様々な事業者、NPOやボランティアが関わってくることになります。その意味で、これらインフォーマルなサービス提供者は、「地域包括ケアシステム」推進に加わる新たな担い手と言えます。

それらの恩恵を享受できるのは、当面は高齢者であると考えられますが、さらに、障がい者や子育て中の両親も対象となってくることは自明です。また、そこにはワーク・ライフ・バランスやワークシェアリングといった仕組みなども関わってくるはずです。

今日の社会ではかつてのような親密な家族や地域の関係をそのまま再生することは困難と言われますが、それぞれの地域の特性に見合ったコミュニティを、新しい今様の社会システムとして醸成していくことは可能なはずです。それが「地域包括ケアシステム」の考え方そのものですし、こうした概念が受け入れられ、定着していけば、社会保障費の増大に歯止めがかかり、数十万人もの「死に場所難民」の問題も回避できるだろうと考えます。

6. 地域包括ケアシステム実現に向けた課題

様々な専門分野の方々とお話をする機会をいただき、地域包括ケアシステムの実現には多くの課題があることも気づきました。

医療関係者と介護関係者がシームレスに連携し、高齢者個人に対してチームケアを提供できるようにしていくことが必要です。しかし、医療関係者と介護関係者の間にはメンタルバリアと言われる目に見えない隔たりがあると言われています。その介護関係者と医療関係者の接点を活性化する取り組みの1つとして、日常的でもっと気軽なコミュニケーションを促すためにチャットなどのICTを活用していくことも考えられます。

また、インフォーマルサービスの提供者が取り組むべき課題も、やはり実践例の中から見えてきました。それは、要介護の認定をされる前の予防段階における積極的な活動ということです。要介護高齢者は、日頃、医療関係者や介護関係者との接点を持てている一方で、自立高齢者は他者との接点が少ないため、それらの方々の困り事やニーズを拾い上げ、民間のサービス事業者に繋ぐことにより、迅速にニーズを満たしていけると考えられます。しかし、そのためには、コーディネートする役割も必要となってきます。今後、地域包括ケアシステムを各地域で実現していくためには、官民を問わず、地域でコーディネートする役割が求められていくと考えられます。しかし、医療・介護の領域から飛び出し、インフォーマルサービス事業者とも連携していくことを想定すると、高齢者の大事な個人情報の取り扱いについて、今まで以上に配慮していくべきであると考えます。

7. 今後の方向性

地域包括ケアシステムにおいては、リーダー役と推進役が必要です。リーダー役は、終身までを見守るドクターだと考えます。そして推進役となるのは自治体だと考えます。地域包括ケアシステム実現に向けた業務は介護保険関連にとどまらず、医療機関、地域のNPOやボランティア、子育てに関係する事業者をはじめ、多領域に及びます。しっかりした組織を構築してフレキシブルに対応するべきでしょう。

次世代にも通用する地域包括ケアシステムを目指すためには、関係者の合意が重要です。つまり、自治体主導で推進していくことは望ましいものの、物事を決める際には、地域における医療関係者、介護事業者、インフォーマルサービス提供者、さらには障がい者などの被支援者を含む関係者による合意が必要です。そのうえで、どのような人的ネットワークを構築し、どのように高齢者個人を見守っていくのかという検討が必要でしょう。

自治体にもメリットがなくてはなりません。“地域福祉の実現”だけでは推進力は担保できませんし、継続していかないと思います。財政負担の軽減や職員の負担の軽減、コミュニティの成立による地域活性化等、目に見える形の効果・メリットが必要だと思います。

8. 地域で暮らす方々にとって

忘れてはならないことは、各地域で暮らしている方々のメリットです。地域包括ケアシステムが実現されると、地域住民の方々の生活は変わります。例えば、自立して生活できる元気な方々は、働ける人は働くという満足感・充実感を得られ、介護や各種行政サービスや一般的な民間サービスへの理解を深め、自らの親・家族等に対してそれらを薦められ自分の心構えもできるようになるでしょう。介護や支援等が必要にならないように生活機能改善を必要としている予防段階の方々は、地域で孤立することなく周囲との繋がりや生きがいを持ちながら生活でき、それ以降のより多くの生活の選択肢を得られるようになるでしょう。自立した生活を送るための自立度が低下し、何らかの支援が必要となってきた方々は、各種専門職によるチームケアの実現により、日々皆に見守られている安心感を得られるようになるでしょう。自分らしい生活を継続するために介護や医療が必要となってきた方々は、最期まで自分らしく生きるため、また自らの最期を受け入れる準備のための時間を十分に確保できるようになるでしょう。

以上に述べたように、地域包括ケアシステムは医療や介護、行政サービス等に携わる専門職のためのものではなく、各地域で暮らす住民すべてに関わるものです。地域で暮らす住民が今まで以上に安心・安全で充実した生活を送れるようになるためのものであり、そうでなければならないと思います。

そのため、富士通総研としては地域住民の幸せのためには何が必要なのか、その中で我々に何ができるのかの答えを模索しながら、各地域の地域包括ケアシステムの実現に寄与していきたいと考えています。

注釈

(注1)多死時代 : 人口の多くの割合を占めている高齢者が死亡していく可能性が高い年齢になり、死亡していく時期

(注2)死に場所難民 : 死亡場所として考えられる医療機関、介護施設、自宅等の死に場所が決まらない人々

関連サービス

【地域包括ケアシステム】
住み慣れた地域で安心した生活を送ることができる世界を実現するために、国策として地域包括ケアシステムの推進が進められています。その実現に向けて、地域包括ケアの核となる在宅医療・介護に係るご支援や、大きな方向性を示した推進計画書(基本構想)策定のご支援を行います。


湯川 喬介

湯川 喬介(ゆかわ きょうすけ)
株式会社富士通総研 金融・地域事業部 マネジングコンサルタント
【略歴】
2003年某コンサルティング会社入社。2006年7月 株式会社富士通総研入社。
これまで、防災、ヘルスケアといった安全・安心分野をテーマに国内外における調査・コンサルティング業務に従事。近年は、主に医療・介護連携や地域包括ケアシステムに関わるコンサルティング業務に従事。