GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. コラム >
  3. オピニオン >
  4. 木質バイオマスを軸とした地域再生に向けて

木質バイオマスを軸とした地域再生に向けて

2015年3月31日(火曜日)

地方創生が重点政策に掲げられ、各地域での取り組みが動き出す中、日本中いたるところにある森林は注目すべき地域の資源です。戦後植林した木が成長し、いまや日本の森林蓄積量は欧州の森林・林業大国であるドイツやスウェーデンの倍に達するほどになりました。

地域で木が伐り出されれば、それを加工する製材や合板、さらにはそれを利用する住宅や家具など、裾野が広がり、地域の一大産業群となり得ます。2012年には再生可能エネルギー電力を固定価格で買い取る制度(FIT)(注1)が導入され、バイオマス利用も拡大しており、林業・バイオマスは地域再生の切り札として、注目が集まっています。

本稿では、木質バイオマスを軸とした地域再生を実現するために必要な課題を分析し、進むべき方向性を提案します。

1. バイオマス利用を支える制度・技術

木質バイオマス利用の基本は、残材利用です(【写真】)。丸太から製材になるのは多くて5割に過ぎず、製材工場では大量の残材が発生しています。特に、バーク(樹皮)やおが粉、バークつき背板、チッパーに投入できない小さい木端などは、有償処分か低価格で捌いており、経営の圧迫要因となっています。これに対し欧州では、90年代後半から残材のバイオマス利用を徹底させ、残材に付加価値をつけることで、地域資源の大幅な価値向上を実現してきました。

【写真】全国各地で大量に発生している残材【写真】全国各地で大量に発生している残材

日本で残材のバイオマス利用が進まない原因の1つは、FITの制度設計にあります。買取価格を見ると、山から伐って運び出す「未利用材」は32円に対し、残材は24円と大幅に低く設定されました(FIT開始当初の価格)。このためバイオマス発電の現場では、すでに大量に発生している工場残材を使うインセンティブが働かず、わざわざ山から丸太を伐採して燃料利用するのが主流となりつつあります。

もう1つの原因は、技術にあります。バイオマスは、水分や形状が不均一であり、これを燃やして効率的にエネルギーを取り出すには、洗練された高度な技術が要となります。ところが、バイオマスの歴史が浅い日本のボイラー技術は焼却炉由来であり、多様な燃料に柔軟に対応することができません。

その典型は、製材工場で大量に発生しているバークです。バークのエネルギー含有量は丸太と変わりませんが、水分が高くて取り扱いにくいことから、日本の技術ではこれを直接燃料利用するのが困難となっています。このため製材工場では、せっかくのエネルギー源であるバークを、お金をかけて廃棄処分しています。

2. 鍵を握る熱利用

バイオマス本来の価値を引き出すことができるのは、発電よりは熱利用です。同じ木質チップでも、燃料用チップは、製紙用チップや発電用チップより高い相場が確立しています(【図表】)。しかも、製紙工場や発電所は立地が限られることから、高い輸送コストが発生します。他方、熱需要は地域内どこにでもあり、これらを開拓して供給すれば輸送費を抑えることができるため、林業側の手取りはさらに上がります。

【図表】用途別チップ販売価格の比較【図表】用途別チップ販売価格の比較

燃料用チップが高いからといって、ユーザー側の負担が大きくなることはありません。むしろ、燃料を化石燃料からバイオマスに代替することにより、大幅な燃料代削減が可能となります。具体的に、kWh当たりの単価を比較すると、化石燃料の約8円に対して、チップは約4円と、約半分です。しかも、燃料代の支払い先は基本的には地域内です。化石燃料の場合は多くのお金が地域外に流出しますが、バイオマスは地域の中で資源やお金が循環する、まさに地域のエネルギーです。

3. バイオマスを地域再生の原動力とするために

バイオマスの熱利用は、日本でも普及しつつありますが、現場では、チップの水分が高く燃焼できない、ボイラーの規模が大きすぎて燃料を大量に消費するためコストが下がらない、燃料供給が詰まる、イニシャルコストが高過ぎるなどのトラブルが続出しています。

バイオマスを真の意味で地域再生の原動力とするには、以下の4点が不可欠です。

  • (1)多様な熱需要に対応する燃料供給体制の整備
  • (2)大規模から小規模までバランスの取れた熱需要の開拓
  • (3)現場に合わせた適切な技術の導入
  • (4)地域レベルでの専門家の養成

このうち急がれるのが、需要開拓です。日本各地では、すでに残材が大量に発生しています。一方で、温浴施設や福祉施設、工場などでは大量の重油が消費されており、バイオマスの潜在的な熱需要も十分に存在します。ところが従来、これら需給をマッチングさせて、バイオマス利用のメリットを十分に理解してもらうための事例が少ないことが、普及・拡大を阻む要因となってきました。

岩手県遠野市では、林野庁の補助事業を活用し、木質バイオマスの熱利用を核として、チップの供給体制整備と一体となって進める取り組みを行っています。富士通総研も遠野市のこの事業をサポートすることで、真の事例構築を実践的に進めています。林業・バイオマスのサプライチェーン全体を考慮した事例をつくることによって初めて、バイオマスのあるべき姿を示すことが可能となります。

注釈

(注1) FIT : 固定価格買取制度(Feed-in Tariff)。
再生可能エネルギー由来の電力を一定期間、一定価格で買い取ることを法律で定めた制度。
日本でも2012年7月から同制度を開始。未利用材32円、一般木質バイオマス24円は制度開始当初の価格。

関連サービス

【農業・バイオマス】
農業は今、法制度の改革、民間企業の参入、商工業等との連携の活発化など歴史的な変革期を迎えています。安全な食の安定的な供給、農作物のエネルギー・マテリアルへの利用、農業がもたらす環境保全などの多面的な視点を踏まえ、国・地域が抱える農業の課題をともに克服していきます。


北川 弘美

北川 弘美(きたがわ ひろみ)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員。
【略歴】2008年 富士通総研入社。公共事業部で、行政、観光、物流分野等のコンサルタントを経て現在に至る。
【寄稿等】「地域環境特集-地域再生の切り札となる木質バイオマスの可能性」, 日刊工業新聞(2015.2.27)、「バイオマス活用で地方創生」, 日経ビジネス(2015.1.26)、「地球環境特集-コミュニティパワー」, 日刊工業新聞(2014.2.28)