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【フォーカス】ICTで農業を元気な成長産業に! ―富士通グループのチャレンジ―

2015年3月20日(金曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

農業の成長産業化に向けて、昨今、国や市場で様々な動きがありますが、農業が成長産業化するためにICTが果たすべき役割は、どのようなものなのでしょうか?

本対談では、「ICTで農業を元気な成長産業に」をテーマに、富士通(株)イノベーションビジネス本部の若林シニアディレクター、(株)富士通総研(以下、FRI)金融・地域事業部の桑崎シニアマネジングコンサルタント、ビジネスアナリティクス事業部の石村コンサルタントに語っていただきました。進行役は長堀執行役員常務です。

1. 農業とICTはどのように関わっていくのか?

【長堀】
最初に、農業の成長産業化に向けた国や市場の全般的な動きを教えていただいて、その中で特に電機大手が関わる動きがありますが、なぜそこでICTが出てくるのかという、一般の人にはピンと来ない農業とICTの関係について、3人それぞれの捉え方をお聞きしたいと思います。

【石村】
農業の成長産業化に向けた国の動きとして、政府はかなり大きな目標を掲げています。例えば2020年には農産物の輸出額を現状の約2倍の1兆円にするとか、10年後には全農地の8割を大規模な生産者に集約するといった目標があります。こうした意欲的な目標の背景には、国内の胃袋が段々小さくなる中で海外に新たな需要を見出したい、安価な海外産農産物と競争するために、生産コストを下げて対抗できる基盤を作ろうということがあります。

【桑崎】
農業は課題先進産業というか、あらゆる業態・業種の中でも少子高齢化で小規模経営が多いとか、流通形態が複雑だとか、昔ながらの日本の産業として様々な問題を抱えています。このピンチをチャンスに変える手立てを打てれば、今後そういう問題を抱える他の国にとっても範になると思いますし、それを強い競争力にできるかと思います。ということで、国も後押しをしているのではないかと感じます。

【若林】
これまでは構造変化があまり起きていない業界でしたが、今後成長が期待される産業分野だと思います。平均年齢も含め、担い手がデッドエンドになっているのと、競争力強化に向けた政策強化など、今、大きな意味で構造が変わってきている時期だと思います。担い手という意味では、作り手側で若い経営者が規模を拡大しながら流通大手と直接取引をする現場からの動きが1つと、農産物の調達自体も流通業を中心に、サプライチェーン的な考え方や食の世界での製造小売業(SPA:speciality store retailer of private label apparel)的な意味合いで、生産者とのネットワーク作りの動きが1つ出ています。地域の基幹産業という位置づけでは、地方創生の中でも、雇用を生んだり、ブランド作物を生んだりする産業という意味での農業が大きく位置づけられ、自治体や地域のJAがドライバーとなって推進しています。その3つのプレーヤーの動きで大きく構造が変わっていこうとしています。国内だけではパイは広がらないので、海外に向けて農産物を持って行くという話と農業技術を持って行くという話の2つがあり、それが農業の成長産業としての方向性だと思います。

<富士通(株) イノベーションビジネス本部 若林シニアディレクター><富士通(株) イノベーションビジネス本部 若林シニアディレクター>

【長堀】
その中でICTがどう役に立つのでしょうか? オランダでは植物工場が進んでいますが、日本と比べると近代的で、腰を曲げないスマートな感じがするし、そういうものに絡めてICTがどんな役割を果たすのでしょう? 我々はICTありきで考えがちですが、一般のニーズやシーズから考えると疑問もあります。ICTはどういう分野で力を発揮していくべきでしょうか?

【桑崎】
ここ数年、国が農業ICTを後押ししていますが、現場では生産者がICTを入れてもメリットを感じられず、1年も経たずに使わなくなったり、このまま行くと腰折れしてしまう危険もあるかと思っています。そういう意味では、モノありきではなく使う人目線で、どういう経営方針に基づいて、どうなりたいがために、どうICTを使うのかを納得した上でICTを入れてもらうことが重要です。ICTの活用分野としては、大型化して経営体として農業をやっていかなければいけないという時代の要請で、他産業と同じように組織として売上を上げ、コスト管理をし、適正に労働していく上でICTの助けが必要になる局面に来ていることが1つあります。また、今まで経験を積んで一人前になるまで何十年もかかる職人技が大事だったわけですが、それを待っていられない中で、農作物を作る技術を短期間で習得するという観点でのICTの利用が現場サイドでもニーズが高いことがもう1つあります。そこに問題意識を持っている人にピタっとはまる形でICTを提供することが求められているし、きちんと説明して提供していくことが大事だと考えています。

【長堀】
今までICTはすごい技術だから価値があると言われてきたけど、今の話は利用価値、時間価値ですね。技術的な価値とは別に訴求していかないと、いくらコストがかかっても一銭にもならないし、技術屋からすれば他愛ないものでも利用価値のあるものはきちんとしたプライスで提供するということをやっていかないといけません。

【若林】
農業ICTには2つあると思います。1つが、栽培というモノづくりをサポートする仕組み。オランダのハウスがまさにそのための道具で、時間価値でいうと、日本でトマトやパプリカ栽培をやりたい人はオランダのノウハウをそのまま持って来て立ち上げている例もあります。もっと重要なのが2つ目の経営を支えるICTで、従来の個人経営なら、頭の中、算盤一丁で経営できましたが、会社の形をとって人を雇い個人経営レベルでは賄えない数百ヘクタールという規模になると、一般の中小企業でも会計や販売管理のソフトが必要になるのと同様に、ICTは必須だと思っています。あとは、どう活用できるかという問題ですね。会計ソフトを入れれば黒字になるというわけではないですし、どうデータを見て改善なり売上を伸ばす工夫なりをするかということです。活用リテラシーがある人は農業ICTに価値を認めて自ら入れますが、活用するスキルがない人は押し付けでICTを入れても使えないと思い込んでしまうこともあると思います。また、次のステージとして、生産サイドのICT化を川中川下、中間業者も含めてどう活用していくかがあると思います。

【石村】
流通サイドからも、カット野菜等の業務加工用需要が増える中で「いつ何がどれだけ出来るか」という情報を生産者とやりとりするツールとしてもICTに期待が寄せられています。

<(株)富士通総研 石村コンサルタント><(株)富士通総研 石村コンサルタント>

2. 富士通はどのようなスタンスでお客様にどのような価値を提供するのか?

【長堀】
個別でやっていたものが繋がってくるから、必然的にそういう仕掛けがないとできないということですね。そんな中で、電機大手、ICTベンダーが参入して、立ち位置やスタンスが各々違うと思いますが、そのものをやるのか、それをやる人をベンダーとして支えるのか、一部を担うのか、富士通のスタンスとしてはいかがですか?

<(株)富士通総研 長堀執行役員常務><(株)富士通総研 長堀執行役員常務>

【若林】
ソリューションとして農業ICTを提供する立場では、農業ICT自体が本当に普及するかという新しい市場形成をリードしなければいけない立場だと思います。業界が発展できるように協業しながら、様々なプレーヤーが出てくる環境を作って引っ張っていくべきかと。FRIにもサポートしてもらっていますが、業界での標準化に積極的に携わる取り組みをしています。アプリケーションで突っ込んでやっている会社はそんなになく、異業種参入の企業は栽培を支える部分でテクノロジーを生かすアプローチが多いので補完関係を組みやすい。協業の引き合いも多数いただいているので、補完関係を作りながら農業ICTという市場を作りたい。また、農業生産自体の担い手というところで、会津若松の完全閉鎖型の植物工場も始めていますが、農業自体が1つの変革を求める産業であれば、何らかの事業主体として富士通自体が携わる側面がないと、単なる道具の提供になってしまうので、事業を推進し、オーナーシップをとることもやりながら、その中で新しいICTを発展させていくことが我々の取るべきポジションかと思っています。

【長堀】
市場を作っていくことがソリューションの究極の目的で、ソリューションをよくするために主体的に事業もやるという、事業自体は目的ではないということですね。最近のコンサル業界も同じで、事業をやったことのない人にコンサルを提供できるのかと問われることがあります。特に農業などはやったことがなくて、例えば米は同じ種でも場所によって違う育ち方をするといったことを手触り感がない人がどこまで語れるのかということもありますが、いかがですか?

【桑崎】
国は農業分野について、現行の大きな課題解決の先に、これをバネにしてどういう姿を描けるか、未来志向で考えているところもあるのです。FRIとしては、地に足がつかない話ばかりでも、課題解決型だけで個別最適になってもうまくいかないので、両面を見て提案しつつ進めていく中心になっていきたいというイメージです。例えば、最初から“農業ICT標準化”ありきで進め過ぎると公正な競争を阻害してしまい、まさに市場を作っていく段階なのに成長が鈍化してしまうことにもなりかねない。逆に、データが生産から加工・流通・小売まで繋がるようなモデルを念頭に置いておかないと、世界に持って行ける強みにはならない。中期的に国や民間の様々な所と同じ絵を描きながら、健全な競争をうまく推進していけたらという想いですね。

<(株)富士通総研 桑崎シニアマネジングコンサルタント><(株)富士通総研 桑崎シニアマネジングコンサルタント>

【長堀】
市場を作っていく段階ということになると、ビジネス面で収益性が見込めるまで長いし、その中でどういうプレーヤーになり得るのか不確実性があって、そういうことは我々もやってきていません。継続的にビジネスをやって誰から収益を上げて行くのか? そういった市場を作っていくことに対する社内の理解はありますか?

【若林】
農業ICTは経営側も理解がありますが、年度の収益管理の中では、もっと加速できないかと言われます。事業としてやるからには、開発投資をしてサービスとしてデリバリーしていくので、商品として世に出したものは改修しながら、新しいテーマが出たら、机上だけだとビジネスとしての確からしさはわからないので、コアとなる「Akisai」(注1)のようなクラウドのビジネスを成り立たせながら、その隣の2つ3つ先にあるテーマをやっていくということです。藁しべ長者のようなやり方ですが。

【長堀】
会津のレタスは採算がとれているのでしょうか?

【若林】
まだ事業開始1年ぐらいなので厳しいようですね。販路開拓により稼働率を上げればペイする形になってくると思いますが。低カリウムレタスという元々ないマーケットを作りながら拡販していく話なので、苦労はしています。昨年11月からは楽天でのネット販売も始めており、期待しています。

3. 新しいマーケットを作って行くことは産みの苦しみもあるが、やりがいも大きい

【長堀】
この分野をやっていく中で他の分野とは違う苦労や課題はありますか?

【若林】
会社として知見がない領域であるが故に自由にできる部分があります。農業に限らず新しい領域をやる際には、なぜビジネスとしてやっていくのか、ビジネスモデルの考え方、道具の提供者としてとどまるのか先までいくのかというところを常に考えながらやっていかないといけない。ソリューションのプロバイダーでいる限りはいいですが、大きく打って出る時には、会社としての物事の決定のプロセスや考え方やスピード感と合わない部分が出てくるので、今までやったことがない事業領域を事業にしていく苦しみがこれから出てくると思います。

【長堀】
投資回収といっても、3年という時間に何の意味があるのかわからない。なぜ3年を求めるのかと思いつつ、そんなに長く赤字ではダメだと思うので。本当にブレイクする事業はアマゾンのように平気で十年とかかかる。そういう時代に先を読んで、自分で意思決定できるかというと、厳しいと思います。

【桑崎】
この分野はICTがあり、やりたいことがありますが、業務要件からシステム要件を繋げる人がいないのです。例えば金融機関なら、新しいシステムを作るとなると業務側で業務要件をまとめる知見が社内にも我々にもある一定レベルはありますよね。一方、施設園芸の分野で、こういう品種のトマトをこういうふうに作りたいという時に、ICTの設定をどうするかを、情報整理して間を繋げる人がいない。今までICTを使ったことがない業界だから、感覚で、あるいは言われたとおり設定すると、効果が出ないうちに結局ユーザーが離れてしまうケースもあります。オランダはそういう分野専任のコンサルタントがいたりしますが。そういったところを富士通なら自前で育てるのか、外と組むのか、早めに考えなければいけないかと思います。

【若林】
やっぱり外とコラボしないと難しいでしょうね。そういうのがパッケージ化されていないと買ってくれない。お客様が欲しいのはICTではなく、それでどれだけ収量が上がるかとか、いくら払っていくら儲かるようになるかということなので。

【石村】
農業を対象に調査・企画をする中で、予想以上に変化の激しい業界であると気づきました。公開情報や論文などで、これからどうなるかという情報を探すのですが、その答えが書かれているものは少なく、自分たちで仮説を立て、有識者や先進的事業者と意見交換して、これからどうなっていくか、どういうものが必要になるかを考えなければいけないのです。そこが難しくもあり、面白いところでもあると思います。

【長堀】
課題もあると思うけど、新しい動きなので、リアリティというか、“今感”があると思います。この分野をやって楽しいこと、やりがいがあることをお聞かせください。

【桑崎】
新しい市場を作りつつ、どこにもない新しい形にもっていきたいということで想像力も働くし、かつ、今現場の役に立たないといけない、そういう意味ではバランスをとりながら長期的に取り組んで行けるのが面白いと思います。また、普段は競合である会社からも協業の引き合いがありますが、オープンマインドで全体として良くしていこうという雰囲気があります。仲間作りとか、国を挙げてとか、そういう形で進めていけるのが面白いですね。

【石村】
個人的には大学で農学を専攻していたこともあって、関心ある業界だったので、巡り巡って、今コンサルタントとして、これからの農業のコンサルティングに関われて嬉しいです。業務の中では、これからを見通すために、大量の情報を整理して、多様な立場の人と意見交換し、仮説を何度もブラッシュアップしていく過程に、産みの苦しみもありますが、とても充実していると感じます。

【若林】
元々我々のICTビジネスは、世の中に価値を提供している企業の方に対して、それを支える道具でビジネスをやるという一歩引いた形でしたが、農業は、生産者や流通業者というお客様はいますが、一緒に現場で考えながら新しいことを考えられる現場感があります。いろいろな企業が農業参入を考える中で、勉強したいと声を掛けられ、他社の期待も高いことで嬉しさを感じます。こういう社会的テーマでは共通ですが、最先端でやっている人は数えるほどしかいなくて、バイネームで研究者も企業の人も役人もネットワークがすぐできて、個人の裁量でディスカッションできるのは、私だけでなく若い人も感じる共通の喜びだと思いますね。

<対談者>

対談者(写真左から)

  • 長堀 泉 :(株)富士通総研 執行役員常務 第一コンサルティング本部長 金融・地域事業部長
  • 桑崎 喜浩 :(株)富士通総研 金融・地域事業部 シニアマネジングコンサルタント
  • 石村 彰大 :(株)富士通総研 ビジネスアナリティクス事業部 コンサルタント
  • 若林 毅 :富士通(株) イノベーションビジネス本部 シニアディレクター

注釈

(注1)Akisai :食・農クラウド Akisai(秋彩)。
富士通が2012年7月に発表したクラウドサービス。
「豊かな食の未来へICTで貢献」をコンセプトに、生産現場でのICT活用を起点に流通・地域・消費者をバリューチェーンで結ぶサービスを展開するもの。