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農業のグローバル化にむけた取り組みの方向性とその影響

2015年3月12日(木曜日)

1. はじめに

農林水産省が今年2月に発表した2014年の農林水産物・食品の輸出額(速報値)は、前年比11.1%増の6,117億円となり、過去最高だった2013年(5,505億円)を上回りました。政府は、成長戦略の中で農業分野をその1つに位置づけ、2012年に約4,500億円だった輸出額を「2020年に1兆円」にまで拡大することを目標に掲げており、順調な成果が生まれているように見えます。

この日本農業再生の重要な要素と位置づけられるグローバル化に関して、国の取り組みやその課題について、整理していきます。

2. 農業のグローバル化にかかる国の取り組み状況

日本で生産した生鮮農作物の輸出には、他の製造業と比較して様々な有形無形の障壁が存在します。一番に挙げられるのが、検疫の壁です。輸出先として期待される東・東南アジア諸国でも、例えば果物や野菜類のほぼすべてが中国へは原則輸出できません。(注1)生鮮農畜産物の輸出先として1位の台湾、2位の香港は、国・自治体・生産者等が一体となって長い時間をかけて検疫問題をクリアし、りんごを中心に市場を開拓してきました。

また、相手国によって物流が未整備だったり小売マージンが大きかったりすることから、相手国内に入ってからコストが40%以上上昇するという例も多く、価格競争力をなかなか確保できないという実態もあります。さらに、検疫とは別に相手先の安全基準をクリアできない、そもそも食文化に根付いたニーズが分かりにくいなど、様々な問題があります。

そこで政府は、検疫問題を始めとする農作物輸出(Made IN Japan)の課題解決に取り組みつつ、【図1】に示すように、いわゆる「F.B.I戦略」としてその他に大きく2つの戦略の下で取り組みを進めています。

【図1】農業のグローバル展開の考え方【図1】農業のグローバル展開の考え方

その1つは、和食文化そのものの普及や、日本食材と世界の料理界とのコラボレーションの促進や日本食の普及を行う人材育成等を通じて日本食材の活用を推進する、いわゆる「Made FROM Japan」戦略です。2013年12月に、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのは記憶に新しいところですが、それと時を同じくして世界で和食レストランが急速に広がっています。

【図2】海外における日本食レストラン店舗数【図2】海外における日本食レストラン店舗数

また、JAグループでは、香港で和牛焼肉料理店を、米国では創作和食料理店を出店するなど、日本料理の魅力の発信と日本食材の消費拡大を推進しています。さらに、今年5月から開催される「ミラノ国際博覧会」は、「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマとしており、ここでの日本の食文化や農林水産物、およびそこに至る知恵や技のアピールや普及に、大きな期待が集まっています。こうした取り組みは、農作物個々の輸出促進効果もさることながら、中期的な食文化交流・輸出拡大の地ならしや底上げといった効果を担っているものと考えます。

そして2つ目は、農作物のみならず、日本の食産業・バリューチェーンをまるごと海外展開しようとする、いわゆる「Made BY Japan」(あるいはMade WITH Japan)戦略です。農水省では、「グローバル・フードバリューチェーン(以下GFVC)」指針を策定し、引き続き「官民協議会」を設置・運営してこの活動を推進しています。基本戦略として、「産官学連携」「経済協力の戦略的活用」などが挙げられており、その方針に則って2014年半ば以降、民間企業主体でいくつかの取り組みが走り出しています。

3. 生産サイドから見たグローバル施策

しかし、国内農作物生産の現場から見ると、これらの効果が限定的ではないかという懸念もあります。例えば、輸出額の増加ですが、この6,117億円という数字には、生鮮農畜産物だけでなく、加工品がかなりの割合を占め、その中には原材料を輸入したものも含まれているとの指摘もあります。また、GFVCの活動は大いに期待するところですが、現時点で日本の生産者を巻き込んだ取り組みはごく一部にとどまっています。さらに、海外で作った農畜産物がブーメラン的に逆輸入されるリスクを低減するよう、海外で作る品目・品種の考慮も今後必要となってきます。

それらを踏まえると、縮小傾向にあるとはいえ、約8.5兆円規模の国内市場(総産出額)がある中で、その数%を占めるに過ぎない生鮮輸出向けに、生産者が新たな生産設備や投資を行うことは、現実的になかなか厳しいところです。そうした中で、今後ますます重要性を増すのが、GLOBAL G.A.P(GOOD AGRICULTURAL PRACTICES :適正農業規範)等の国際ルールへの対応です。

GLOBAL G.A.Pでは、農業生産・取り扱いにおける農産物の安全管理手法や労働安全、持続可能な農業を行うための環境保全型農業実践のためのチェック項目が具体的に定められており、特に欧州における農作物流通ではその取得が取引の前提条件になっているケースも多くなっています。個々の生産者が取得するには、そのコストや手間が大きいというネックがあり、国内ではまだまだ取得する生産者が少ないのが実情です。ただ、日本の「食の安全・安心」はそれ自体がブランドであり、こうした国際ルールともすり合わせながら、いかにアピールして付加価値化していくかが重要なポイントになってくるものと考えています。

4. おわりに

最近、ある有識者から聞いた、「農作物輸出に“必殺技”はない。10年の視点で、100もの取り組みを積み重ねていくものである。」との言葉が強く印象に残っています。広い意味での“農業”、つまり加工~流通~販売までの各企業・組織、さらに農機具・種子メーカー・肥料メーカー等が海外売上高を増やしても、肝心の国内の農業者に効果が繋がらなければ、真の成功とは言えません。

生産者や団体からも、GLOBAL G.A.P対応など輸出に必要な品質・安全性担保の備えを固めつつ、幅広く情報交換を行いながら、様々なプレイヤーと組んでいく積極性が求められてくるのです。

注釈

(注1) : 農林水産省「諸外国に植物等を輸出する場合の検疫条件一覧」

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桑崎 喜浩

桑崎 喜浩(くわさき よしひろ)
株式会社富士通総研 金融・地域事業部 シニアマネジングコンサルタント
1993年 富士通株式会社入社、同年 株式会社富士通システム総研(当時)へ出向。
保険会社向け業務改革構想策定支援、新販売チャネル企画支援、契約管理システム再構築PMOや、農業分野のICT標準化推進支援、農業ICT導入メニュー策定支援などに従事。