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シニアの就労を活性化する人材マッチングの「3つの工夫」

2015年3月12日(木曜日)

少子高齢化が進む中、「生涯現役社会」を目指した取り組みが各所で進められている。シニアにも「支えられる側」から「支える側」に回ってもらい、社会の担い手として活躍して欲しいという期待が込められており、実際、生涯現役でありたいと積極的に社会に参加しているシニアも多い。「生涯現役」とは「生きがいをもって健康で自立的に生活し、社会の担い手となること」だと言える。健康で自立的に生活しているからこそ社会の担い手となることができ、また社会の担い手となることが生きがいにつながり、健康を保つ秘訣でもあるからだ。

就労は特に男性にとって馴染みやすい社会参加の1つの形と言えるが、働きたいシニアがたくさんいる一方で、必ずしも就労機会と出会えていないシニアも多い。仕事とシニアを結びつける人材マッチングはどうあるべきか、「3つの工夫」の視点から見てみたい。

1. 「働きたい」ほどには働いていないシニア

【図1】、【図2】に示されるように、働き続けたいシニアが多い一方、シニアの就業率はそれほどには高くない。60歳代では年々上昇傾向にあるものの、男性でも65-69歳で5割、70歳以上では2割にとどまる。

【図1】何歳頃まで仕事をしたいですか?【図1】何歳頃まで仕事をしたいですか?

【図2】年齢階級別就業率の推移【図2】年齢階級別就業率の推移

2. シニアと仕事を結びつける人材マッチングに求められる「3つの工夫」

起業に向かうシニアも増え、支援の仕組みも存在するが、多くのシニアにとっては、退職後の就労機会の探索が課題となっている。シニア一人ひとりが自力で就労機会を見つけるには限界があり、マッチングを行う仲介者の存在が重要になっている。人材マッチングの仕組みを介することで、仕事・人材双方の選択肢の豊富さ・多様さが生まれ、双方の求めるものが見つかりやすくなるからだ。

シニアの就労をマッチングする仕組みには、ハローワーク、シルバー人材センターをはじめ、民間の企業も多数存在する。しかし、働きたいシニアの数に対して就労機会が十分に整っておらず、人材仲介企業が大変な営業努力をしているのが現状である。こうした状況下で就労マッチングの仕組みを成り立たせ、シニアの就労機会を増やしていくためには、以下の3つの工夫により仕事の集積を高めていくことが重要である(【図3】)。

(1)求人側の不安や負担の軽減
(2)柔軟な働き方に対応できる仕組みの提供
(3)「仕事」の創出

【図3】シニアの人材マッチングに求められること【図3】シニアの人材マッチングに求められること

(1)工夫1:求人側の不安や負担の軽減

企業/仕事と個人の結びつけ方という視点から見ると、企業と個人とが直接雇用契約を結ぶのを仲介するというのが基本的なマッチングの形である。公的機関のハローワークや民間の転職紹介などがこれに当たる。

しかし、企業としてはシニアを新たに雇うことに関しては慎重な場合も多いようだ。特にシニアの雇用に慣れていない場合、健康・体力や能力の面で不安を覚えることもある。また、シニアの経験や知識を必要とするのは比較的中小企業が多く、新しく人を雇うだけの経済的余裕がない場合も多い。

こうした不安や負担を軽減するには2つの方向性が考えられる。

1つは、仕事の内容を限定することで、人材リスクとともに経済的負担を軽減する形である。例えばシニアを社員として雇用する契約の代わりに顧問契約の仲介をするといったケースがこれに当たる。シニアの側は複数社と契約することも可能であり、個人のワークライフバランスに合わせて業務量を調節しつつ、現役時代の経験やスキルを生かした働き方が可能である。

もう1つの方向性は、仲介者が人材を雇用することで受け入れ企業側の人材リスクを軽減する形である。いわゆる人材派遣や業務委託がこれに当たる。シニアに特化した人材派遣では(株)高齢社が実績を上げている。高齢社では60歳以上の登録社員を680名ほど確保しており(2015年3月現在)、必要とする企業に派遣社員として派遣する。また、必要に応じて業務委託の形で請け負う形もある。この場合、仕事と働き手を仲介する高齢社が人員の調達・配置から作業期間、作業内容まで、すべてに責任を持つことにより、発注元は安心して委託することができる仕組みになっている。

先に見た顧問形態での働き方でも、“卒リーマン”の人材紹介をしている(株)ジェイエルシーによれば、最近は業務委託契約の形が増えていると言う。ジェイエルシーが企業と契約し、それを登録者に業務委託する形をとることで、発注企業の人材リスクや品質リスクを軽減することができる。

また、シルバー人材センターには請負・委任を主とするイメージがあるが、これと人材派遣(2005年の制度改正により届出制となった)を使い分けながら事業を拡大しているセンターもある。人材派遣の形にすると派遣先の指揮命令下で仕事をすることが可能になるため、企業も受け入れやすくなるからだ。例えば滋賀県では、2005年以来、着実に実績を伸ばし、派遣事業契約高では全国一となっている(平成25年度)。OA操作や工場内作業に加え、訪問介護や遺跡発掘の現場などにもシニアを派遣しており、登録しているシニアにとっても仕事の選択肢が増えている。

(2)工夫2:柔軟な働き方に対応できる仕組みの提供

【図4】に見られるように、シニアの望む働き方や報酬は人により様々である。この散らばり方は、その人ごとに経済的環境も健康状態も家族の状況も異なることを反映したものと考えられる。またワークライフバランスのような自由度選択に関する価値観の違いや、趣味やスポーツ等の活動との兼ね合いもあろう。そして環境が変化すれば働き方も柔軟に対応させることが望ましい。

【図4】高齢期に働く場合に最も望む賃金と就労時間(n=5,000名)【図4】高齢期に働く場合に最も望む賃金と就労時間(n=5,000名)

このようにシニアの柔軟な働き方を可能にしつつ、一方で一定の品質と納期は保証しなければならない。そこをうまくマッチングさせる仕組みを提供することもシニアの就労マッチングに求められることだ。

第1の解決策は(1)でも取り上げた業務請負の形での就労である。仲介者が複数のシニアを束ねることにより、能力をうまく組み合わせて1つの仕事を品質高く完成させ、発注者側のニーズを満たすだけでなく、働く日数や時間もうまく組み合わせることにより、シニア側の柔軟な働き方を実現することが可能になる。

こうした仕組みは第2の解決策であるワークシェアリングとも通じる。ワークシェアリングとは複数のシニアが時間や仕事内容を分担しながら1つの仕事をこなす仕組みである。シニア就労の事例としてよく取り上げられる千葉県柏市の「生きがい就労」の取り組みでも、福祉施設等の雇用主と契約した複数のシニアがチームを組み、チーム内でのワークシェアリングを実現している。また、先に見た(株)高齢社でも必ずペアで派遣するようにしているそうだ。

一旦退職したシニアには、それぞれの体力や能力、家庭環境、趣味・嗜好により、それぞれのワークライフバランスがある。また、年金を受け取りながら働くには収入の限度額もある。そうした事情を考慮する一方で、発注元に一定品質・納期の仕事を保証するには、数多くのシニアに登録してもらい、様々な仕事と柔軟に結びつけていくプラットフォーム的なマッチングの形は理想的だと言えよう。また、シニアの柔軟な働き方へのニーズを逆に活用することにより、それまで1単位の仕事と認識されていなかったことを仕事として切り出したり、1つの仕事を複数のシニアでシェアしたりすることで、新しい就労機会も生まれている。

(3)工夫3:「仕事」の創出

しかし、それだけでは足りておらず、「仕事」そのものを創出するということが重要になる。

例えば、前述の滋賀県のシルバー人材センターでも、様々な形で仕事を作り出し、登録者が働く場を作り出している。例えば、甲賀市では剪定枝葉から作った堆肥を利用し、休耕田を開墾して地元名産のかんぴょうの栽培を展開することで、新たな仕事を作り出すとともに、伝統野菜の伝承も担っている。また、東近江市では、自治体や地元のスーパーチェーンと提携し、買い物弱者を支援する「ちょこっと買い物代行サービス」を展開している。配送先のお年寄りとのコミュニケーションを通じた安否確認も行うなど、シニアならではのサービスも付加した事業となっている。

また、先に挙げた柏市の「生きがい就労」の事例では、人手が不足しがちな早朝などの時間帯をシニアが担ったり、ヘルパーや保育士の資格がなくてもできる仕事をシニアが担うことで、専門職の人々が本来業務に集中できるようにするといった形で、新しい仕事の創出が全体の業務品質の向上につながる事例も出てきている。このようにして仕事を作り出していくことは、若者の就労機会を損なうことなく新たな労働市場を開拓することにもつながる。

さらに前出の高齢社では、シニア女性の活躍の場として(株)かじワンを設立した。「シニア世代が働き盛り世代を応援する」というコンセプトで家事代行サービスを提供し、女性の社会進出を支援している。シニア、働き盛りの両方の世代を活性化する試みとして注目したい。

3. “シニアもできる”“シニアであることが関係ない”仕事を増やす

シニア就労と言うと、シニア側にも企業側にもシニアならではの経験や知識を生かした働き方が期待されがちだが、実際には“シニアならでは”の仕事はそれほど多くなく、言葉は悪いが“シニアもできる”仕事を増やしていくことが重要になる(【図5】)。

【図5】シニアの就労機会拡大のためのマッチングの方向性【図5】シニアの就労機会拡大のためのマッチングの方向性

まずは(1)により雇用者側の不安や負担を取り除くことが重要である。一旦、不安が取り除かれると、シニアに働いてもらうことにはメリットが多いことに気づく企業も多い。個人個人に蓄積された経験や知見を生かして即戦力として働いてもらえることが何よりも大きなメリットである。また、シニアは必ずしもフルタイムで高給の仕事を求めているわけではなく、通常の派遣社員を依頼するには割が合わないような量や賃金の仕事でも、フレキシブルに請け負ってもらえる可能性が高い。こうしたことが新たに「仕事」として切り出されることで、シニアの就労機会につながっていくというWin-Winの好循環も期待される。

ワークライフバランスとの兼ね合いについては(2)で見たような柔軟な働き方の仕組みが“シニアもできる”仕事の可能性を広げる。また、もしシニアが取り組むには体力面等でハンディがあるような仕事があれば、それは仕事の方を工夫することで解決できる場合もある。これはダイバーシティの発想と非常に似ている。女性が働きやすいように、障がい者が働きやすいように工夫するのと同じように、シニアが働きやすいように工夫することで“シニアもできる”仕事は格段に増えるのだ。

さらに【図5】の外側の円に描いたように“シニアであることが関係ない”仕事の機会を増やしていくことも大切だ。ウェブ上で人と仕事を結びつけるクラウドソーシングはその解決策の1つとなり得る。クラウドソーシングの大手である(株)クラウドワークスでは「シニアワークス」というサイトを立ち上げ、登録者を増やしている。ネット上の世界では年齢など関係なく、シニアも自身のスキルを生かして若者と対等な条件で受注することが可能であるという点で、シニアの可能性を広げていると言えよう。

また、クラウドソーシングは先に見た(1)(2)の条件も満たす。ウェブサイトは基本的に仲介の場を提供するだけで、シニアはリストの中から自分のやりたい仕事を探し、発注者と直接契約するが、発注側は仕事を小分けにすることにより、品質や納期に関するリスクを軽減できる。また、シニア側は自分の働き方に合わせて仕事を選び、受注することができる。

このようにシニアの就労を支えるマッチングの仕組みには色々な形態があり、シニアの多様なニーズに対応するとともに、発注側の企業のリスクを軽減している。さらには仕事の創出や新たなマッチングの場の提供など、シニアの活躍の場を増やす役割も担っていると言えよう。こうした仕組みが機能することにより、「生涯現役社会」にふさわしいシニアの就労機会がますます増えていくことを期待したい。

※本稿執筆にあたってはインタビューに基づく情報を参考にさせていただいている。快くインタビューや視察に応じて下さった株式会社高齢社、株式会社ジェイエルシー、公益社団法人滋賀県シルバー人材センター連合会、および甲賀市、東近江市の各シルバー人材センター、株式会社クラウドワークスには深く感謝申し上げたい。

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富士通総研には産業系シンクタンクとしての長年に渡る調査・研究・分析の実績があります。さらに、コンサルティング・サービスを通して培ったノウハウで「お客さまの現場で役立つリサーチ・サービス」をご提供します。


倉重 佳代子(くらしげ かよこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
【略歴】
金融系シンクタンク、ブランドコンサルティング会社を経て2010年11月富士通総研入社。
仏国立ポンゼショセ大学院国際経営学修士(MBA)。
最近の研究テーマは、超高齢社会対応など。