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オムニチャネルと組織改革 ~第104回全米小売業協会年次総会(NRF)報告を通じて

2015年2月25日(水曜日)

2015年1月11~14日の4日間、ニューヨーク ジェイコブ・K・ジャビッツ・コンベンションセンターにて開催された第104回全米小売業大会(National Retail Federation、以下NRF)(注1)年次総会に参加した。近年、オムニチャネルへの対応というテーマが小売業企業の命題となっている中、その取り組みの先進である米国企業の実情を把握するのが目的である。大会の内容報告を中心に、日本の小売業でも不可避であるオムニチャネル対応の成功の鍵について必要とされる要素を、株式会社カスミ常務取締役の山本慎一郎氏、富士通株式会社 流通ビジネス本部の中吉敏晴氏とともに考察したので、ご紹介する。

【写真1】オムニチャネルと組織改革

1. 米国における小売業の状況について

連邦準備制度理事会 (FRB) の元議長のバーナンキ氏の基調講演では、米国内の2014年年末商戦では店舗売上、オンライン売上ともに4~7%昨年対比で伸びていることが報告された。バーナンキ氏は米国内の需要にまだまだビジネスチャンスがあり、輸出にさほど依存しなくていいとの見解を示した。米国の約20%のGDPを産み、最も多くの雇用機会を提供しているのが小売業であり、非常に重要な産業であるとのメッセージが出された。

2. 概要

ここ数年のテーマである、『カスタマーエクスペリエンス』、『カスタマーエンゲージメント』、『オムニチャネル』が最頻出のキーワードであった。昨年度のキーワードも“Optimizing Omni-channel”であり、もはやこの取り組みは実施要否・可否の議論ではなく必然であり、いかにブランドマネジメントやパーソナライズオファリング、在庫・価格といったサプライチェーンを最適化するか、してきたか、していくか?といった骨太の話題が中心であった。

展示会場では巨大なインタラクティブサイネージ(商品検索や注文も可能)や試着室における商品推奨のディスプレイ、顧客の視線探知から顧客の興味を引いた商品やVMD(Visual Merchan Dising )を可視化するといったものが目を引いたが、いかに使いこなすか、ネットとつなげるか、最適化するかの課題面で技術以上の経営革新が必要とされると考える。

【写真2】オムニチャネルと組織改革

3. ウォルマート、リーバイスなどの取り組み状況

1997年ダラスで開催されたクイックレスポンス'97で、両社からはそれぞれ『リテールリンク』、『リーバイリンク』といった得意先、仕入れ先との情報収集・発信のサプライチェーン情報基盤整備の取り組み成果の報告があったが、今回も2社よりオムニチャネルへの考え方、企業としての姿勢が語られた。

【写真3】オムニチャネルと組織改革

ウォルマートからは、顧客が出先でネット注文した商品が自宅最寄りのセンターから送られて来ることの利便性、店舗では困難であった商品を探すという行為の利便性開発に貢献した技術進化への驚きが語られた。また、顧客購買行動の本質については、「オンラインであろうと実店舗であろうと期待するのは商品のみ」という見解を示し、小売業の本質は良い商品を売り、お客様を見つけるということであり、それは不変であるというメッセージを発した。

リーバイスからは、まず自社の顧客の定義が語られた。それは「リーバイスと相思相愛で離れていないファン」、「リーバイスを愛していたが、去って行ったファン」、「まだ見ぬ、これから愛してくれるファン」である。それらすべての顧客との関わりを深め、広げるために革新を続けていかなければならないとの意思表示であった。すでにリーバイスでは90年代よりマスカスタマイゼーションの仕組みである501品番の「パーソナルペア」というジーンズのオーダーメイドサービスを実施しており、顧客への経験価値という意味では(非オンラインとはいえ)すでに取り組みを実施しており、9割の直営店で販売され、大きな支持を得るといった成果を生み出している。自社のコアへの集中、戦略がシンプルかつスマートであること、革新し続ける組織の重要性の認識とその取り組みについての自信をのぞかせた。

4. 業界のサポート

小売業の進化に最も重要な要素として、JCペニーからは、「リテーラーは従業員が最重要であり、基本である。社会を良くするという人がリテーラーを支える」とのメッセージがあった。実際にNRFでは巨額の寄付金を調達し(今回は120万$、およそ1.4億)、50の大学と連携し、小売業へ進む人材への奨学金としている。小売業に働く従業員たちに求められる能力も高度化、多様化しており、技術習得と実践、実践から得る新たなノウハウを体系化できる人材を育む環境整備が必要となる。このNRFが実施している業界挙げての人材育成の有無が日米の決定的な相違点とも言える。

5. 本質は何か?

【写真4】オムニチャネルと組織改革

オムニチャネル対応を技術面の課題として取り組んでも成果は出ない、本質は経営・組織(人材)の革新が前提であり、最重要課題であるとの見解に、米国小売業の課題意識の高さを感じた。ディスラプト(既存の考え方、やり方の破壊)というキーワードも多く聞かれ、よりスマートになった顧客・消費者と向き合い情報技術を生かすための経営革新が求められている。それはマーケットと相似形の組織構造を作り上げ、対象とするペルソナと類似する従業員に物語(カスタマーエクスペリエンス)を描かせ、その満足のための施策を構成し、サプライチェーンをその条件下で再設計することである。

そのためには従業員の仕事の質を変える必要がある。もはや商品を発注し、棚に並べ、POSを操作するだけではなく、顧客と対話し情報を発信し、店舗やサービスをより良いものにし、顧客に素晴らしい経験を提供することに集中しなければならない。付加価値を最大化する活動を創出するために従業員の作業転換を前提とした業務プロセス改革の必然性がより一層高まっていると考える。

6. 最後に

総会後にいくつかの店舗視察を行ったが、Kマートなどでは当たり前のように店舗の入口にオンラインで注文を受けた商品の受け渡し窓口があり、売場には商品発注できる端末が設置されている。ノードストロームで買い物をすれば、レシートはEメールで配信され、セブンイレブンに行けばアマゾンロッカーがある。メーシーズも売場端末による商品検索、Eレシート、オンライン注文店舗受け取り・同日配送を行っている。数十年前から稼働している「木のエスカレーター」と「最新技術への取り組み」が何の違和感もなく共存していた。

注釈

(注1)
全米小売業大会(NRF) : (National Retail Federation)
米国における小売業界団体。会員数約160万社で世界最大。毎年1月にはニューヨークで年次総会、カンファレンスと展示会を開催


西田 武志

西田 武志 (にしだ たけし)
株式会社富士通総研 プリンシパルコンサルタント
アパレル・専門店を中心に小売業・卸売業まで流通業全般のシステム企画、プロジェクトマネジメントサポートを担当。


山本 慎一郎

山本 慎一郎(やまもと しんいちろう)
株式会社カスミ 常務取締役上席執行役員 ロジスティクス本部マネジャー
ICT部門、物流部門、新規事業を管掌。マーケティング・システム改革、ICT改革、ロジスティック改革を推進する。


中吉 敏晴

中吉 敏晴(なかよし としはる)
富士通株式会社 流通ビジネス本部 小売ビジネス戦略室 シニアマネージャー
小売業の業種ソリューション企画、業界団体活動を通じたマーケティング活動に従事。