GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. コラム >
  3. オピニオン >
  4. 東洋医学の産業化に関する展望(2) 国際標準の重要性と日本の戦略

東洋医学の産業化に関する展望(2) 国際標準の重要性と日本の戦略

2015年1月28日(水曜日)

1. 東洋医学と国際標準

医療問題の1つである「慢性疾患」を予防する手段(未病対策)として、東洋医学が世界的に注目を浴びている。病気と健康のステイタスが明確に区別され、診断が下されてから治療が行われる西洋医学とは異なり、東洋医学には「未病」という概念があり、病気が顕在化する前から、漢方薬服用をはじめとする治療を行うことができるという大きな特徴がある。

しかし、一口に東洋医学と言っても、国によって違いがある。東洋医学という概念には、中医学(中国)、韓医学(韓国)、漢方医学(日本)の3つの流派があり、それらの特徴は下表に示す通りであり、これらは似て非なるものである。

【表】3カ国の東洋医学の違い【表】3カ国の東洋医学の違い

一方で、東洋医学は伝統医学という概念に内包され、伝統医学というと、アーユルヴェーダやタイ伝統医学など、世界には様々な流派が存在する。そこで問題となるのが、患者に対する伝統医学の医療品質の担保である。伝統医学は、西洋医学とは異なり、診療の過程に暗黙知が多く、エビデンスが少ない。そのうえ、流派によって差異がある。そのため、人によっては、伝統医学に対する不安感が拭えない人も多い。

そこで、これらの違いを踏まえて、世界的に医療品質を担保していく手段としてISO ( International Organization for Standardization;国際標準化機構)に注目が集まっている。伝統医学については、ISO/TC249(国際標準化機構伝統中医薬標準化技術委員会)という委員会があり、世界中の伝統医療に対する技術品質の標準化を検討している。TC249では、中国や韓国は政府を挙げて活発に自国提案を行っており、熾烈な議論を繰り広げている。それらと比較すると、日本の提案数は少なく、さらなる積極性が求められている。

2. ISOにおける東洋医学標準化の取り組み

ISOは、ここで詳しく説明するまでもないが、1947年に発足した国際組織であり、現在では164カ国が参加し、情報分野、電機分野をはじめ、様々な産業分野において19,573の国際標準化規格を発行している(注3)。ISO標準は、WTO(世界貿易機関)/TBT(貿易の技術的障害に関する協定)が準ずる公的な基準であり、ISOへの自国提案の採用の有無は、製品の製造・輸出が有利に進むだけでなく(新たな開発や工程変更が必要ない)、世界的に自国の標準を採用されたという権威が得られる。

ISOに認定された有名な事例としては、信号機の色、キャッシュカードやコピー用紙などがある。規格の検討は、224のTC(Technical Committee;専門委員会)と呼ばれる単位で、世界各国から集まった関係者が年に数回開催される会議で行っている。ここでISO提案が承認されると、晴れてIS(International Standard;国際標準)となる。

ISOで規定されている世界共通の信号機の色ISOで規定されている世界共通の信号機の色

特に医療機器の分野では、2014年11月25日の薬事法(「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法))の改正によって、海外向け製品だけでなく国内で製造する製品の品質管理手順にはすべて、ISOやIEC(International Electrotechnical Commission;国際電気標準会議)などの国際標準への準拠が求められてくる(注4)。私たちは、東洋医学におけるICT活用の新たな領域としてISO/TC249に参加し、提案活動を行っている。 以下では、その経験から得られた考察をまとめてみたい。

3. ISOにおける標準提案のプロセス

ISOに技術標準提案を行う場合、まずは目的に合致する委員会を選定することから始める。日本では、日本工業標準調査会 (JISC)が窓口となっているため、相談することもできる。登録手続きを行ったら、プロポーザル(PWI;予備業務項目)を作成するところから始まり、会議の発表権を得て、当日の質疑応答、投票、採択という一連の流れを経て、NP(New Work Item Proposal;新業務項目提案書)の仮案となる。NPとなるためには、さらに過半数の参加国の賛成と5カ国からインターナショナルエキスパートを集めることが必須条件となる。ここからは、提案国と5カ国のエキスパートで協議して、内容をブラッシュアップし、数回の審議と投票を得て、IS(International Standard;国際標準)となる。ここまでに短くて2年、長くて4年を要することが多い。

ISOの会議での決議事項は、自国の名誉や貿易利益に直結するものであることから、日本人同士で行う国内の会議や国際学会とは雰囲気が異なり、連日の舌戦が繰り広げられる。自分の考えを主張し、ネゴシエーションし、他国を巻き込んで、国際的なリーダーシップを発揮していくことが求められる。ディベート文化を持っていない日本人は、ここで苦しむことが多い。そのため、同じ委員会に参加する日本企業同士や、連携できそうな外国の組織と、まずは小さくてもコラボレーションを図っていくことが重要である。また、討論に耐え得る英語力と精神力も養わなくてはいけない。さらに、会議の場におけるメンタリティの切り替えも大事である。数日間の舌戦を繰り広げた後、日本人は議論の余韻を引きずりがちであるが、海外の参加者は何もなかったかのように楽しそうにパーティに参加する。せっかくの各国の専門分野のパイオニア達が集まる場でこそ、グローバルなネットワーク拡大に努めることが重要なのである。

【図】ISに向けての提案の流れ(注5)【図】ISに向けての提案の流れ

4. 参加するコスト

日本から提案を行う場合、経産省や各種関連学会からサポートが得られるケースもある。ISOの会議は毎年、世界各地で開催されるため、会議の参加費用だけでも相当な額である。また、NP提案以降に進んだ場合、海外の協力メンバーとの会合というのも必要になる。テレビ電話だけでのコミュニケーションには限界があるため、これらの費用も予め確保しておくことが必要である。またISO活動は、企業の利益やアカデミアの成果にすぐに繋がるものではないため、検討に要する人件費については、参加目的を明確にしたうえで、組織の上層部と方向性を決めておく必要がある。

我々が参加しているISO/TC249(国際標準化機構伝統中医薬標準化技術委員会)では、他国は、ISOへの参加を政府が全面的に支援しており、政府関係者による指導、旅費の負担や成立した場合の奨励金制度などがあり、日本とは支援の度合いが異なる。

また、TC249は、日中韓が中心に東洋医学の標準化を議論する委員会であるが、他国と比較すると日本からの提案数が格段に少ない。これも、人件費やコスト負担が難しいという側面によるものが多い。ただし、専門家達も、状況に甘んじることなく、自分達の成果や支援の必要性を適切に訴求していくことが必要である。

ISO/TC249の会議風景(左:全体会議、右:WG活動)ISO/TC249の会議風景(左:全体会議、右:WG活動)

5. 東洋医学の標準化と国際化に向けて

ISOというと、日本では9001(品質マネジメントシステム)や14001(環境)の認証が話題になる場合が多い。もちろん、これらの認証を得ることで組織・企業の価値が向上するのであるが、グローバル経済の中で自社の立ち位置を獲得するためには、自分達が規格を作り、世界に発信していくことこそが重要なのである。

東洋医学においても、従来はほとんど医療機器が使われず、医師の主観的な診断が中心だったが、私たちはセンサー技術を活用した新しい機器を作り、ソフトウェアで医師の診断ロジックを形式知化して高度化していくことも可能であると考えている。そうであれば、新しい製品が東洋医学の診断における標準化や高度化にも貢献することになり、そのような製品で国際標準を握ることは、わが国の東洋医学を世界に普及させるためにも不可欠なことである。私たちは、東洋医学におけるICT活用の研究を通じて、日本の漢方の標準化と国際化に貢献したいと考えている。

注釈

(注1)
生薬として用いる部位が、中医学、韓医学と比較すると限定的。方剤によっては、10倍量以上も異なる。

(注2)
朝日新聞GLOBEOpen a new window

(注3)
JISC ホームページOpen a new window

(注4)
改正薬事法のポイント~承認・認証制度及び販売規制~厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室

(注5)
漢方と最新治療 22(1);3-8,2013

関連オピニオン

東洋医学の産業化に関する展望(1) 国産生薬と品質評価技術

関連コンテンツ

【実践知研究センター】

【あしたのコミュニティーラボ】Open a new window


片岡 枝里花 コンサルタント顔写真

片岡 枝里花(かたおか えりか)
株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 コンサルタント
薬剤師。製造業・ヘルスケアを中心とした新規事業企画・実行支援に関するコンサルティング業務に従事。


mi xiaoyu シニアリサーチャー 顔写真

宓 暁宇(みい しゃおゆう)
株式会社富士通研究所 ものづくり技術研究所 ハードウェアエンジニアリング研究部 シニアリサーチャー
工学博士。センサー/光デバイス/MEMS/高周波デバイスなどの研究に従事。
2011年 富士通総研 経済研究所 実践知研究センター2期生。