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東洋医学の産業化に関する展望(1) 国産生薬と品質評価技術

2015年1月28日(水曜日)

1. 安全・高品質な国内生薬へのニーズの高まり

医療費高騰が社会問題にもつながっている昨今では、病気になってからではなく、病気が顕在化する前の「未病」と呼ばれる段階からの健康増進に注目が集まっている。そこで注目を浴びているのが、6世紀から日本国民の健康を支えてきた東洋医学である。それを受け、東洋医学の処方に用いる漢方薬の需要も年々増加しており、漢方薬原料である生薬のマーケットは右肩上がりの成長性を見せている(注1)。一方で、国内自給率の低下、輸入生薬の価格高騰、品質や安全性などが問題となってきている。

本稿では、こういった背景の中、少子高齢化時代の健康な社会を支える生薬の安全・安心をどう担保していくのか、また消費者への信頼性を担保する品質評価技術の必要性について論じる。

生薬イメージ写真

2. 漢方薬市場が抱える課題

漢方薬市場は1,410億円あまりと、医薬品全体の2%程度の市場規模ではあるものの、直近10年の市場の伸びで見ると、医薬品全体が7%程度であるのに対して、漢方薬は37%程度と大きい(注2)。今後さらに、少子高齢化による医療費の高騰、慢性疾患患者の増大などの影響も受け、漢方薬に対するニーズの増加が予想される。

しかし、漢方薬を取り巻く課題も少なくない。生薬の輸入依存率は年々増大しており、国内自給率が低下している。大部分は中国からの輸入(注3)に依存しており、輸入価格高騰による薬価割れ(注4)や品質低下にも繋がっている。2013年にEUで中国産中医薬原料の残留農薬検査を行ったところ、サンプルの大部分で基準値を上回る農薬が残留していたことも明らかになった(注5)。そのため日本では、日本漢方生薬製剤協会が主体となって自主基準を設け(注6)、国内で流通する輸入生薬の品質を担保するための取り組みが推進されており、安全・高品質な生薬を求める声は高まってきている。

3. 安全・高品質な生薬を生産するためには

生薬の国内栽培活性化のための取り組みも、企業や自治体を中心に始まっている。若手の生産者育成支援や補助金の投入を始め、2014年8月には漢方の産業化をテーマとした「一般社団法人漢方産業化推進研究会」が産官学連携で立ち上げられ、様々な取り組みが行われている。しかし、日本の生薬の生産実績がそもそも低いことから(漢方製剤の生産および日本への輸入金額上位30処方に配合される生薬64種類のうち3種類のみ(注7))、状況を大きく改善するためには、かなりハードルが高い。

また、先端技術を活用して、生薬品質を向上させるための取り組みも始まっている。天候や生育条件によってばらつきが出やすい生薬品質を安定化させるために、鹿島建設や三菱樹脂では、植物工場を設立し(注8))、品質の均一化、栽培期間の短縮やトレーサビリティにも有効であることを実証している。

これらの有効性が認められる一方で、生産した生薬の価値を正しく評価するためには、「新たな生薬の品質評価技術」が求められている。日本の生薬の品質を担保するのは日本薬局方であるが、局方は生薬の最低品質(生薬の真偽・守るべき最低限の品質の可否)は担保するものの、理想となる生薬の定性的・定量的な基準がなく、最低品質以上の評価の判断ができない。特に生薬は天然物から成っており、形態学的特徴、組織学的特徴、化学的特徴などの表現形質に基づいて鑑別されているが、産地、天候、発育段階や修治方法によって、その形質が大きく異なるという特徴がある。そのため、熟練者が五感をフルに活用して、鑑別を行ってきた。しかし、エキス製剤の普及による現場識別能力の低下を来たしている。

さらに、生薬の品質基準には、世界共通のスタンダードがなく、各国の見解にばらつきがあり、輸出側と輸入側のニーズと条件をすり合わせるのが難しいという課題も抱えている。

【表】生薬の局方における評価項目と新たに求められる品質評価【表】生薬の局方における評価項目と新たに求められる品質評価

そのため、高品質生薬の栽培実績がある日本から、「安全・安心な生薬であることを証明するものさし」となるような客観的な評価技術を提案していくことが求められている。このような評価技術があれば、肉牛の等級判断のように生薬のランキング化を行うことができ、どの生薬が優れているのかが一見して分かるようになる。

また、生薬のロット間での差異も明確にすることができるので、産地や収穫時期が異なるロット同士をまとめて製剤化する際にも効果的である。日本は、生薬栽培を中山間の狭い土地で行っている場合が多く、少量多ロットで収穫された生薬を評価する機会も多い。

4. 新しい生薬の品質評価技術の普及

生薬の新しい品質評価技術(理想的生薬の定義)を確立し、普及させれば、流通する生薬の品質がさらに向上し、ロット単位での生薬の活用度が高まる。また、この認定基準をISOなどと連携して世界的に発信すれば、世界的な品質ランキングに基づいた生薬の生産・流通を実現できる。関連する取り組みとして、2013年より北里大学では、薬学部や東洋医学総合研究所を中心に、自治体や外部の研究機関と連携し、文部科学省主催のCOI(センター・オブ・イノベーション)プログラムの中で、「安全高品質な漢方ICT医療を用いた未病制御システムの研究開発拠点」の開発に取り組んでおり、生育条件や土壌条件などのデータに基づいた品質評価技術について研究を行っている。そこで、生薬品質、すなわち「薬効」に直接関わる化学成分を、網羅的にケミカルプロファイリングするメタボローム解析、局方試験に定められた試験値、熟練者による官能検査、特定の指標成分を対象とした化学分析や薬効評価などを総合して解析を行い、生薬の品質評価に関する経験や暗黙の知恵を客観化・数値化し、万人が容易に活用できる、高精度な品質良否の鑑別基準を策定することを目指している。(注9)

今後も続くと予想される漢方薬の需要に対しては、安全・安心な生薬をもって、さらなる漢方の普及に貢献していくことが望まれる。漢方薬は、未病ケアに有効であるだけでなく、自然由来のものであるため、ヒトにも地球環境にも優しいことが特徴である。そのため、今後も生薬を守るための取り組みをあらゆるアプローチで推進していくことが必要である。

生薬イメージ写真2

注釈

(注1)
厚生労働省漢方薬市場の現況と動向等

(注2)
厚生労働省 薬事工業生産動態年報Open a new window

(注3)
国内で使う生薬のうち83%が中国からの輸入、国産は12%厚生労働省漢方薬市場の現況と動向等

(注4)
薬価という公定価格に対して原価が高くなること

(注5)
カラダノートOpen a new window

(注6)
日本漢方生薬製剤協会 漢方薬の安全性についてOpen a new window

(注7)
日本漢方生薬製剤協会 原料生薬使用量等調査報告書

(注8)
植物工場における機能性植物(バイオ・薬用植物等)マーケティング調査報告書(訂正版)

(注9)
センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム平成25年度採択COI-T課題終了報告書《改訂版》「安全高品質な漢方ICT医療を用いた未病制御システムの研究開発拠点」

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片岡 枝里花 コンサルタント顔写真

片岡 枝里花(かたおか えりか)
株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 コンサルタント
薬剤師。製造業・ヘルスケアを中心とした新規事業企画・実行支援に関するコンサルティング業務に従事。


mi xiaoyu シニアリサーチャー 顔写真

宓 暁宇(みい しゃおゆう)
株式会社富士通研究所 ものづくり技術研究所 ハードウェアエンジニアリング研究部 シニアリサーチャー
工学博士。センサー/光デバイス/MEMS/高周波デバイスなどの研究に従事。
2011年 富士通総研 経済研究所 実践知研究センター2期生。