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再浮上に向かう日本経済:「短期楽観、長期悲観」再び

2015年1月19日(月曜日)

1. 昨年の日本経済を振り返る

2014年初のオピニオン(日本経済の先行きは短期楽観、長期悲観?)で筆者は、日本経済の先行きについて「短期楽観・長期悲観」と書きました。消費増税後2期連続のマイナス成長となったことを踏まえると、「短期楽観」はやや見方が甘かったことは否定できません。この点に関連して、以下の2点を指摘しておきたいと思います。

まず第1に、景気回復の流れ自体は途絶えていないことです。2期連続マイナス成長は、(1)増税前の駆け込み需要の規模が予想以上に大きくなった結果、その反動も大きくなったことに、(2)夏場に掛けての在庫調整や天候不順の影響が加わったことによるものでした。この結果、民間予測(注1)では2014年度の実質成長率は-0.5%程度になると見られています。ただ1年前の本欄でも、駆け込み需要があると、翌年度にはその2倍成長率を押し下げると指摘しておきました。駆け込み需要が2013年度の成長率を+0.7%前後押し上げたと考えると、その反動が2014年度の成長率を-1.4%押し下げてもおかしくないのです。ですから、2014年度がマイナス成長になっても、それはあくまで反動減の範囲内と考えることができます(注2)。あるいは、潜在成長率の低い経済にマイナスのショックを加えれば、元に戻るまでに時間が掛かるのは当然と見ることもできるでしょう。実際、時間は掛かりましたが、昨年秋以降は、個人消費、住宅投資、輸出、鉱工業生産など、いずれも回復傾向を辿っています。後述の原油価格急落の影響も考え併せると、10~12月の名目GDPは高成長が期待できると思います。

第2は、大胆な金融緩和で大幅な円安が実現し、大企業の収益は確かに改善したのですが、そこから先の波及ルートが、(1)輸出数量の増加による雇用増や中小企業への発注増、(2)収益増加を背景とした賃上げや設備投資の増加、のいずれも想定したより弱かったということです。1年前の本欄を読み直していただけばお分かりのように、いわゆる「リフレ派」の人たちと違って、筆者はこうしたトリクル・ダウンにかなり懐疑的でした。しかし、実際の波及はその想定さえ下回った結果、2014年12月のFRIオピニオン(円安vs原油安の経済学:鍵は「交易条件」)で指摘したとおり、家計や非製造業、中小企業、地方経済に対しては、円安に伴う物価高や原材料高のマイナス効果が上回ってしまったのです。また、消費増税の負担を主に担うのも同じ部門であったことで、増税への反感も増幅されたのだと思います。

2. 今年の日本経済は再浮上へ

さて、いよいよ本題の今年の景気ですが、日銀短観や景気ウォッチャー調査等では慎重な見方が支配的ですが、今度こそかなり明るいものとなるだろうと見ています。実際、最新の民間予測では、2015年度の実質成長率見通しは+1.7%でした。もちろん、ここには駆け込み需要の反動で2014年度の成長が落ち込んだことの「反動の反動」が加わっていますから、実力は1%程度でしょう。それでも日本経済の潜在成長率がゼロ近傍まで下がっていることを考えると、十分に高い成長率だと言えます。

【表】2015年度の経済見通し(民間予測、%)
13年度
(実績)
14年度 15年度
実質GDP成長率 +2.1 -0.5 +1.7
消費者物価上昇率(除く生鮮食品) +0.8 +1.1 +1.1

注)14年度の消費者物価については、消費増税の影響を除く。

しかし、数字よりも重要なのは、景気回復の中身です。昨年は、円安の影響などから大企業と家計や中小企業の間で景況感の二極化が起こりましたが、今年はより裾野の広い回復が期待できると考えています。先行きの経済を考える際には、もともと景気が回復軌道に戻りつつあった昨秋以降に起こった円安の加速と原油価格急落の影響をどう評価するか、が一番のポイントになります。このうち、円安は引き続き大企業の収益向上に繋がりますが、それだけなら昨年同様二極化が深まるだけです。しかし、消費再増税が先送りされたことに加え、原油価格の下落は家計や非製造業、中小企業、地方経済に大きな恩恵をもたらします。前述のオピニオンと重複しますが、2013年1年間の鉱物性燃料の輸入額は約28兆円でした。ということは、エネルギーの輸入価格が1割下がれば、消費税率にして1%分以上の節約になるのです(注3)。原油価格は一時の1バーレル=100ドル超から4割程度下がったため、昨春の消費増税3%分以上の所得が丸々海外から戻って来る計算になります。

それでは、物価はどうなるかと考えると、言うまでもなく、円安が物価を押し上げる一方、原油安は物価押し下げ要因として働きます(注4)。ただ、原油価格と物価とのタイム・ラグは短く、原油安はすぐに物価を押し下げる一方、円安から物価への波及にはもう少し時間が掛かるという違いがあります。例えば、消費税の影響を除いた消費者物価の前年比は昨年4月の+1.5%から11月には+0.7%に縮小しましたが、これは一昨年春までの円安の影響が徐々に薄れつつある一方、原油安の影響が早くも顕われ始めた結果です。したがって、目先は原油安の影響が勝って、春先の物価上昇率は一時的に+0.5%を下回るかもしれません。しかし、原油相場が今後一段と大きく下げない限り、原油安の影響は春頃に出尽くして、その後は円安の影響から物価は徐々に上がって行く筈です。

一方、その先の物価に大きく影響するのは賃金の動きになります。この点、注目すべきは物価の基調と密接に関連するユニット・レーバー・コスト(=雇用者報酬/実質GDP=1人当たり賃金/労働生産性)が昨年4~9月で3%近くも上がったことです。2期連続のマイナス成長で生産性が低下した影響もありますが、この間、労働需給は緩んでいないので、基本的には物価上昇圧力が溜まったと評価できます。また、前述のような裾野の広い景気回復パターンでは、労働需給はさらに引き締まりやすく、流通・外食等での賃金上昇が続くと予想されます。さらに、総選挙で圧勝した安倍政権は、政労使会議などを通じて円安でさらに収益が膨らむ大企業に賃上げを迫って行くでしょう。その結果、賃金は上昇傾向を強め、それが徐々に物価に転嫁されて行くシナリオです。

もちろん、今年いっぱいは原油安が前年比で物価押し下げに働くため、物価上昇率が目立って高まることはありません。民間予測では、その後もインフレ率はなかなか上がって行かないとの見方が多数説になっていますが、筆者は疑わしいと思っています。来年前半には原油安の影響が消える一方、円安の影響はまだ残ります。そこに賃金上昇の影響が加われば、日銀が目指す2%のインフレ目標に次第に近づいて行く可能性も十分にあるのではないでしょうか。

3. 社会保障改革による財政健全化を

こう書くと、今年は景気回復の幅が拡がり、デフレ脱却も確かなものになるということで、「短期楽観」どころか良いことずくめの印象を与えそうですが、そうは問屋が卸しません。まず、日本経済に好転をもたらす最大の要素は、追加金融緩和の効果でも成長戦略の実現でもなく、あくまで原油価格の急落という神風だという点を確認しておく必要があるでしょう(注5)。それ以上に重要なのは、昨年も強調したことですが、今の日本経済は莫大な財政赤字を放置しながら、日銀の大量国債買入れで長期金利上昇を押さえ込むことによって支えられているという点です。ですから、アベノミクスの成否が本当に問われるのは、インフレ率が2%に近づいて行く時になります。そうなれば、日銀は国債の買い入れ金額を減らして行きますが、その時うまく出口に辿り着けるのか、それとも長期金利の急騰などに伴う大混乱を招いてしまうかは、ひとえに財政健全化に対する市場の信認いかんに掛かっているからです。

この点、消費増税を先送りしたことは、大きなリスクを抱え込んでしまったと言わざるを得ません。実際、一部の海外格付け会社は、日本国債の格下げに踏み切りました。「1年半後に確実に再増税すれば良いではないか」と考える人が多いようですが、はっきり言ってそれは誤解です。欧州諸国の付加価値税率は20%台が普通なのに、遥かに深刻な高齢化が進む日本が10%の税率でやって行ける筈がないと考えれば明らかですが、10%はあくまで入口に過ぎません。多くの専門家は、いずれ最低でも20~25%の消費税率が必要だと考えています。ですから、ここで再増税を遅らせることは、将来の増税スケジュール全体を遅らせることで、2020年度までのプライマリー・バランス黒字化を著しく困難にしてしまうのです。(注6

とはいえ、今さら年内の再増税は無理ですから、選挙後の政府には、2%インフレが近づく前に財政健全化への信頼できる道筋を示すことが求められます。具体的には、首相が約束したとおり、2020年度までにプライマリー・バランスの黒字化を実現する具体的な計画を策定できるか否かが最大の試金石となります。残り5年ですから、これまでのような「大幅な赤字を残した試算を示すのみ」では不十分と見做されるでしょう。増税を先送りした以上、社会保障支出に大きく切り込む以外に残された選択肢はありませんが、それは政治的には増税以上に険しい道となります。ただし、今回の選挙で増税先送りに加担した野党も、社会保障改革に抵抗するだけでは許されません。この機会に、どれだけの増税が必要であり、どのような社会保障改革が望まれるのか、真剣な論戦が展開されることを期待したいと思います。

注釈

(注1)
日本経済研究センターは、民間調査機関40余りの経済予測を取りまとめて、毎月ESP調査として公表しています。以下、本稿では2014年12月のESP調査の結果を「民間予測」と呼ぶこととします。

(注2)
筆者は2014年9月初にFRIオピニオン(経済論議の混乱とその原因―初歩的誤解を正す)で、単純計算すれば2014年度の成長率はマイナスとなり得るという試算を公表しました。そのままなら大変な先見の明だったのですが、「筆者自身、さすがに本年度のマイナス成長は想定していない」などと付け加えてしまいました。今となっては、後悔するばかりです。

(注3)
消費税率1%引き上げによる税収増は2.5~2.6兆円。ただし、LNGなどは長期契約による調達が多いため、以下に述べるような輸入コスト減少が短期間に生じるわけではありません。

(注4)
なお、GDPデフレータ=国内物価+輸出物価-輸入物価となります。円安の場合は、輸入物価の上昇率が輸出物価の上昇率を少し上回りますから、GDPデフレータはやや低下します。一方、原油安は輸入物価を大きく押し下げることで、GDPデフレータの上昇に繋がります。先程、10~12月の名目成長率が高くなると述べたのは、景気の持ち直しで実質成長率が高まるところに、原油安によるGDPデフレータの上昇が予想されるからです。

(注5)
原油価格急落は、ほとんどの先進国を含む非資源国に大きな恩恵を与えます。ただ、米国では、シェール関連の産業にはむしろ打撃となるでしょう。また、欧州の場合、ウクライナ問題に伴うロシアとの関係悪化がドイツ経済等に悪影響を及ぼしつつある中、ロシア経済がさらに悪化すれば、マイナス面も軽視できません。一方、原発の稼動停止で鉱物性燃料への依存度がさらに高まっている日本にとっては、原油安はまさに神風になります。

(注6)
この辺の詳しい説明は、『週刊東洋経済』(2014年12月27日号)所収の拙稿「経済を見る眼:消費再増税延期の『大きな誤解』」を参照。

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早川 英男(はやかわ ひでお)
経済研究所エグゼクティブ・フェロー
1954年愛知県生まれ。1977年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。1983~1985年米国プリンストン大学大学院(経済学専攻)留学(MA取得)。調査統計局長、名古屋支店長などを経て2009年日本銀行理事。日本銀行在職期間の大部分をリサーチ部門で過ごした後、2013年4月より現職。
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