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【フォーカス】

地方創生を考える
~地域資源とリーダーシップ~

2014年11月4日(火曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

今回は「地域創生」をテーマとして、金融・地域事業部の上保MCと経済研究所(以下、経済研)の梶山上席主任研究員、米山上席主任研究員に語っていただきました。聞き手は、経済研の浜屋研究主幹です。(なお、本対談は、10月6日に開催を予定していた当社主催の特別企画コンファレンス「成熟型先進国における地方とは?-その転換のあり方を探る-」の開催前行われました。特別企画コンファレンスは台風のために中止になりましたが、当日配布予定だった資料についてはコンファレンスのWEBページをご参照ください)

地域の再生は大きな課題であると同時に、地域資源を活用した新しい事業・産業を生み出すチャンスでもあります。再生可能エネルギーの普及や空き家問題の解決に取り組み研究員と、地域の現場で経済活性化に取り組んでいるコンサルタントの対話を通じて、地域創生のために私たちができることを考えてみました。

1. 高まる地域活性化ニーズ

【浜屋】
安倍政権のもとで地方創生が大きな話題になっていますが、経済研究所では、10月6日に特別企画コンファレンス「成熟型先進国における地方とは?-その転換のあり方を探る」を開催し、「成長型先進国における地方」から「成熟型先進国における地方」への転換を提言する予定です(*1)。このコンファレンスでは、今日お話しいただく梶山さんと米山さんも、それぞれの専門分野から見た地方のあり方について講演します。その内容はあとで簡単に説明してもらうとして、まずは上保さんから、どういう仕事をされているか説明していただけませんか?

写真:浜屋研究主幹
【写真:浜屋研究主幹】

【上保】
私が所属する金融・地域事業部は、金融と地域を一体で考えることにより、地域における資金循環を促し活性化を図ることを目指して,2011年に作られた事業部です。これは、元々の主要顧客である地方銀行も、経済全体が伸び悩む中で地域経済に積極的に関わっていく必要が高まる一方、市役所など地方公共団体でも地域の企業、大学、住民、そして金融機関とともに地域を活性化するといったニーズが高まってきたからです。私自身は、地域の活性化や地域経済の成長戦略策定のお手伝いをしています。今までは計画づくりをサポートする仕事が中心だったのですが、最近では計画だけでなく、実際の事業として展開していくまで一貫してフォローできるように、コンサルティングの領域を広めようとしているところです。

【浜屋】
ありがとうございます。経済研では、「地方」の問題を専門に研究している研究員はいないのですが、各研究員の研究分野が地方の問題と大きく関わるようになっています。米山さんは空き家問題、梶山さんは林業やバイオマスが専門ですが、これから説明していただくように、地方と大きく関係しています。
また、梶山さん、米山さんだけでなく、特別企画コンファレンスでも発表予定の榎並主席研究員は地域活性化のキーワードが「エクイティ文化」であると主張していますし、地域の自然資源と経済との関係について研究している研究員もいますし、壱岐のマグロの生体数と地域経済の関係をシミュレーションしている研究員もいます。そういう意味で、経済研でも「地方」「地域」は重要なキーワードになっています。
では、まず、米山さんから、コンファレンスで発表する内容を踏まえて、研究のポイントを簡単に説明してもらえませんか?

【米山】
コンファレンスでは、空き家を地域資源として捉えて、その活用策について発表します。
人口が減少していく中で、特に、地方や都市部でも条件の悪い郊外で空き家が増加しているという現象があります。それを放置しておくと、その地域は衰退していってしまいますが、空き家をうまく活用することによって人を呼び込むことができれば、その人たちがそこで起業したり、様々な活動をしたりすることで、地域を活性化できるのではないか、ということを、具体的な事例を含めて説明する予定です。
空き家問題については、先般、5年に1度発表される新しい統計が発表されて以来、非常に大きく注目されています。放置しておくと危険な空き家をどうやって撤去するかという問題が大きく取り上げられていますが、その一方で、10年以上前から空き家の利活用に地道に取り組んできた自治体もあります。いわゆる「PDF増田レポート(*2)の中で多くの自治体が消滅してしまうと言われたこともあって、改めて空き家の利活用が注目されているようです。

【浜屋】
ありがとうございます。米山さんは8月に増田元総務相と一緒にNHKの「日曜討論」という番組でも空き家問題について討論していましたね。それ以外にもテレビなどのマスメディアに出たり、日本各地で講演をされたりしています。
次に、梶山さんから、ご自身の研究内容と地方との関わりについて説明してください。梶山さんもバイオマスに関する研究では日本の第一人者で、林業についても著書があります。

【梶山】
米山さんのお話で、地方で空き家に住んでもらうと同時に起業してもらうという取り組みが紹介されましたが、定住してもらうには雇用を生み出す産業を興すことが前提となります。その点、再生可能エネルギー資源は地域に豊富に存在しているうえ、1次産業の6次産業化にもつながりやすいので、うまく活用すれば地域経済を支える産業になります。今までは、そのような資源は「眠れる資源」でした。というのは、資源としては存在しているのですが、技術が追いつかなかったり、コストが高かったからです。ところが、今ではイノベーションも進展し、制度も整備されるなどで、「活用できる資源」になりつつあります。
実際、日本にはすべての再生可能エネルギーの源が豊富に存在していて、そのポテンシャルはドイツ以上です。ドイツには地熱はありませんが、日本は世界3位。森林資源も日本にはドイツの2倍ありますし、風も太陽も大量に利用可能です。

2. 地域活性化のポイントはリーダーか仕組みか?

【浜屋】
今までの地方活性化は、「よそ者・若者・ばか者」とも言われるように、何か特別なリーダーがいないと難しいような話が多かったと思うのですが、お二人の提案は必ずしもそうではなくて、特に再生可能エネルギーは、仕組みがあれば普通の人たちでもできるというのが面白いと思います。

【上保】
地域で事業を起こしておく時のビジネスの規模にもよると思うのですが、例えばコミュニティ・ビジネスのようなものから始まるケースであれば、やはりトップ個人のリーダーシップは重要だと思います。一方で、地域経済の基盤になるインフラ作りに関わるものは、まさに再生可能エネルギーもそうですが、誰か特定の個人に依存するというよりは、企業等の組織として動いていただかなくてはならない場合が多いということも感じています。

【米山】
空き家対策で言うと、多くの自治体が取り組んでいるのが空き家バンクです。民間の不動産業者が扱わないような空き家の情報を自治体が集約して、ホームページに公開して買い手を募るというもので、そういう仕組み自体はいろいろなところで実施されています。でも、その成果が出るか出ないかというのは、やはり人の要素は排除できないのが実態です。例えば、尾道市ではそういう仕組みを市でやっていたのですが、なかなか成果が出ませんでした。一方で、「尾道空き家再生プロジェクト」という有名なNPO法人があって、その代表は尾道の空き家を何とかしたいという強い思いを持って様々な活動を行っていたのですが、このNPOに市が注目して、空き家バンクの運営をNPOに任せたらうまくいった、という例もあります。
尾道の例は仕組みと人の思いがつながってうまくいった例ですが、どこでもそういうリーダーがいるわけではありません。ですので、多くの地方では、空き家に関する様々なステークホルダーが集まって協議会のようなものを作って、進めているところが多いようです。そうはいっても、やはり、そもそも熱心な人がいないとダメ、ということは言えそうです。

【浜屋】
そのような協議会は、自治体主導ではなくてNPOや熱心な個人が主体になって活動しているところが多いのですか?

【米山】
そういうところもありますが、空き家の場合は、貸し手も借り手も信用を重視するので、自治体が間に入らないとうまくいかない場合が多いですね。

【梶山】
再生可能エネルギー事業化のためにはそれを支える様々な要素がありますので、そのための仕組みを作る必要があります。個人や地方の自助努力に委ねるだけでは、なかなか前には進めません。他方で、それを支える仕組みをうまく作り上げれば、その普及を加速化させることができます。基本的にスターは不要です。 ドイツでは、バイオガス発電はいまや8000以上のプラントがありますが、普及が本格化したのは2005年に過ぎません。新しい分野なので最初はわからないことが多いですから、研究者が技術を標準化して共有化を図る、固定価格取引制度を状況に合わせて改正する、それを支える人材も育成するというプロセスを経て条件が整備され、爆発的に普及したわけです。バイオガスの担い手は普通の農家であり、特別なリーダーではありません。
ただ、そうは言っても初期の段階ではリーダーシップ、先導者が必要です。ドイツのバイオガスも、90年代末から大学の先生たちが関心のある自治体を掘り起こし、そこと一緒に実践することによって、模範事例を作るとともに、それを普及させるための理論・技術の標準化やFIT(*3)改正の働きかけを行っていきました。現在のバイオガスの普及は、そうした先導者の努力があればこそ可能になったものです。
日本でも、再生可能エネルギーは新しい分野なので、まずは誰かがリーダーシップをとって成功事例を作る必要があります。でも、軌道に乗れば、あとはレールに乗せてどんどん広げていくことができるはずです。

写真:梶山上席主任研究員
【写真:梶山上席主任研究員】

3. 観光だけに依存しない地域の再生を目指して

【浜屋】
コンファレンスでは遠野市の方にもパネリストとして参加していただく予定ですが、まずは、そういう積極的な自治体と一緒に事例を作ることが大切ということですね。
次の話題として、地域活性化と言えば観光で人を呼ぶことが注目を浴びがちですが、どこでも観光で地域起こしができるわけではないですよね。

【上保】
「地域活性化」という言葉の定義も難しいのですが、経済成長という観点から言うと、地域の中でお金を循環させる域内産業と、地域の外からお金を取り込む域外産業があります。域内産業は地域の中で商品を流通させる商業やサービス業がそうですし、域外産業の方は、特産品を販売したり、観光で交流人口を増やしたりという産業ですね。そういう意味では、エネルギーは、従来は地域の外の事業者からエネルギーを購入するものだったのが、梶山さんのお話のように、地域の中でエネルギーを作り出して消費するという仕組みができれば、域内産業として大いに期待できます。

写真:上保マネジングコンサルタント
【写真:上保マネジングコンサルタント】

【浜屋】
梶山さんのお話だと、日本のどこでも再生可能エネルギーを産業化できる、ということですよね。本当ですか?という気もするのですが(笑)。

【梶山】
日本の国土の3分の2は森林で、世界有数の資源に成長しています。どこにでもある資源です。もっとも、以前、ある自治体からバイオマスをやりたいということで相談を受けたのですが、行ってみると使えそうな森林はあまりありませんでした。でも、そこでは安定した風が吹いているし、日照時間は日本でも有数の長さです。再生可能エネルギーは、どこでも同じにやるというのではなく、地域の特性を踏まえてポテンシャルを最大限引き出すのが、その基本です。メガソーラーや風力では、現状では外部資本が事業主体であり、地域には土地代くらいしか入らないという状況が目立っていますが、経済研では地域の視点に立って、関係者みなが恩恵を受けるモデルづくりを提案しています。

【米山】
空き家の場合は、単に移住者を募るだけでなく、地域活性化と連動させようとする取り組みもあります。例えば、大分県の竹田市では、後期高齢化率が非常に高くて空き家も多いのですが、外部の人に来てもらっても仕事は用意できないので、竹工芸や陶芸などの分野で手に職のある人たちを呼んで、空き家を工房として使ってもらって、そこで仕事を起こしてくれる場合には補助金を出す、というようなこともやっています。
また、島根県江津市では、ビジネスプラン・コンテンストを開催して、優秀なアイデアを出した人に賞金を出して、空き家を使って事業を始めてもらう、という取り組みを行っています。ICTの普及でどこでも仕事はできるようになっていますし、都会での生活に飽き足らない人たちもたくさんいますから、その中から地域で仕事を起こすポテンシャルを持った人に空き家を使ってもらう、という発想ですね。

【上保】
そうなると、空き家対策だけでなく、定住対策も必要ですね。でも実態は、多くの自治体では、空き家は空き家、定住は定住というふうに、問題ごとに取り組みがバラバラだったりするので、それも課題ですね。

【米山】
有名な事例ですが、島根県の海士町(あまちょう)のように、外部から人が来て定住するようになって、地域資源を使ったビジネスを始める人も出てきて、若い人たちには子どももできて、空き家も活用される、というような良い循環が回っている例もあるようです。

【浜屋】
海士町のような取り組みもありますが、一般的には、地方では、いかに工場を誘致するかとか、中央から補助金を取ってくるかということが、未だに重視されているのではないですか?

【上保】
製造業中心でやってきたところは、確かにそうかもしれません。でも、私がお付き合いさせていただいている地域では、先ほどの域外産業だけで地域を成り立たせるのは難しいので、域内産業を強くするために分散型エネルギーなどに取り組んでいるところも増えてきています。そういう変化は実感しています。

4. 富士通に期待されていることは?

【浜屋】
最後に、地方再生に関して、富士通に何が期待されているかということを、外部の視点も入れて話し合ってみたいと思います。

【米山】
空き家については、北海道から九州まで全国いろいろな自治体から呼ばれてお話をしているのですが、関心は非常に高いです。でも、空き家バンクなどの仕組みを作ってもうまくいっていないところも多くて、成功事例があると、そこにみんな視察に押し寄せる、ということもあるようです。成功のためのノウハウや知識が共有されていないので、うまく整理して、情報提供していくことが求められていると思います。
このように、外部の視点・知識も入れて、埋もれている資源の発見をお手伝いして、いろいろなノウハウを提供して、仕組み作りもお手伝いして、最後にそういう仕組みをICTに乗せる、ということもあると思います。すべての仕組みは必ずICTに載るので最後にICTは必要なわけですが、最初から「ICTありき」で話を進めていくのは少し違うと思います。

写真:米山上席主任研究員
【写真:米山上席主任研究員】

【梶山】
空き家もそうだし、エネルギーもそうなのですが、地域にある資源を掘り起こして、地方再生の総合的な提案をし、実践のお手伝いをすることが、いま最も求められていることです。特に、富士通のような規模の企業に期待されるのは、個別ではなく、総合的なソリューションだと思います。

【上保】
コンサルティングも、例えば「観光」という課題が来ると、どうしてもその課題だけのソリューションを考えがちですし、自治体で地域経済の活性化を考えるといっても、製造業、商業、農業…というように別々の計画ができてしまっていることが多いのも現実です。でも、本当に地域経済を活性化させる戦略を考えるためには、それらを横断したものが必要です。観光にしても、観光と福祉が関係するのではないかとか、観光と製造業が結びつくのではないかとか、思いがけない結びつきでお金や情報、人などが回り出すということもあると思うので、地域創生のためには私たちもそういう提案をしていくことが必要だと考えています。

写真:対談者全員

対談者

浜屋 敏 :経済研究所 研究主幹(写真前列左)

上保 裕典 :金融・地域事業部 マネジングコンサルタント(写真前列右)

梶山 恵司 :経済研究所 上席主任研究員(写真後列右)

米山 秀隆 :経済研究所 上席主任研究員(写真後列左)

注釈

(*1) : 最初にお断りしたとおり、このコンファレンスは中止になりました。

(*2) : 「ストップ少子化・地方元気戦略」日本創成会議・人口減少問題検討分科会

(*3) : FIT:Feed-in Tariff。固定価格買取制度。エネルギーの買い取り価格(タリフ)を法律で定める方式の助成制度。日本でも2012年7月から再生可能エネルギーで発電した電力を固定価格で固定期間購入する再生可能エネルギー固定価格買取制度が開始。

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