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インクルーシブビジネスを活用したグローバル市場開拓

2014年9月26日(金曜日)

1. BOP市場を取り込むインクルーシブビジネス

昨今、米国への資金還流による新興国経済の先行きが懸念されているが、日本企業がグローバル戦略を考える上で、新興国さらには途上国市場の攻略は依然として重要課題である。近年、BOP(ベースオブピラミッド)市場が、今後大きなビジネス機会をもたらす新たなボリュームゾーン(「次の市場」)として世界的に注目されている。

BOPとは年収3,000ドル未満の低所得者層のことであり、従来、ビジネスの対象というより国際的な援助対象と見られがちであった。とはいえ、BOP層は世界全体で40億人を超え、総合的な購買力は5兆ドル規模に達する。BOP市場は、さらなる増大が予想されており、新興国・途上国の経済成長によって、BOP層の多くの人々の所得の向上、ひいては購買力の向上をもたらすことが期待されている。

もちろん、先進国や中間・富裕層市場に比べれば、BOP市場は貧困に伴う様々な社会課題を抱えることが多く、個々の購買力も小さい。このため、BOP市場に適合したビジネスを成立させようとすれば、地域の実情に応じた社会課題を解決しながら、ビジネス継続に十分な利益を確保するというビジネスモデルの構築が不可欠となる。

このようなビジネスモデルは、BOPビジネスと呼ばれてきたが、最近ではBOP市場に特化するイメージを避けるために「インクルーシブビジネス」という名称が定着しつつある。持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)では、インクルーシブビジネスを、バリューチェーンを含む企業活動を通じて、商業ベースでBOP層の人々に雇用や起業の機会を創出するビジネスソリューションと位置づけている。BOP市場に限定したビジネスを行うというより、BOP層のニーズを考慮したビジネスモデルを検討しながら、通常の経済活動にBOP層を取り込み、ビジネスを継続・拡大していくことが望まれている。

インクルーシブビジネスが注目されるもう1つの理由は、社会課題解決の視点をビジネスに組み込むことで、これまで検討しなかった革新的なビジネスモデルの開発を促すことが期待されることである。例えば、BOP層が直面する食料、水、衛生、住宅、ヘルスケアなどの課題を解決するための製品やサービスを供給する方法を検討したり、エネルギー、通信、金融、保険などの主要インフラや社会システムの整備の強化について、ビジネスとして成立させたりしようとすれば、これまでと異なる創意工夫が求められよう。

2. インクルーシブビジネスの障壁

グローバル市場のトレンドを考慮しながら、民間企業や公的機関が世界各地でインクルーシブビジネスを拡大する取り組みが進んでいる。しかし、具体的な取り組みが進むにつれて、既存のビジネスとは異なる様々なインクルーシブビジネスの課題が浮かび上がっているのも事実である。最近では、先行取り組みによる知見を基に、インクルーシブビジネスの障壁に関する分析と対策の研究が蓄積されてきている。

例えば、国際金融公社(2010年)(*1)は、企業の外部に存在する障壁として、5つの課題((1)顧客範囲の拡大、(2)金融サービスへのアクセス促進、(3)発想と行動の転換、(4)適正商品とサービスの設計、(5)価格設定および支払い方法の策定)を挙げている。これらの課題への対策には、テクノロジーの活用とパートナーシップの構築が重要なカギを握るとしている。

また、WBCSD(2013年)(*2)は、インクルーシブビジネスの成立にはビジネスの規模拡大が必須であり、そのためには、外部障壁に加えて、企業内部すなわち組織上の障壁を克服する必要があるとしている。相互連関する具体的な内部障壁として、3つの課題((1)投資に対する機会費用、(2)戦略と行動の不一致、(3)能力のギャップ)とその対策を整理している。

さらに、Simanis and Duke(2014年)(*3)は、BOP市場での収益モデルの確立を最優先すべきとしており、そのために取り組むべき最重要課題として、(1)消費者行動の変更と、(2)製品の製造・流通方法の変更、を挙げている。インクルーシブビジネスの成功のためには、ターゲットとする市場の性質を、消費者の習熟度と市場(バリューチェーン)の成熟度から分類し、それぞれの市場に最適なビジネスモデルを検討すべきとしている。

3. 日本企業の関心拡大

日本企業のインクルーシブビジネスに対する関心も徐々に拡大している。東洋経済新報社「CSR企業総覧」によれば、2013年の掲載企業1,210社の7.5%(91社)がインクルーシブビジネス(*4)にすでに取り組んでおり、6.5%(79社)が検討中と回答している。つまり、14.0%(170社)の企業がインクルーシブビジネスへの取り組み・検討に着手していることとなり、2011年(掲載企業1,117社)における取り組み・検討中の企業の比率9.9%(111社)と比べて上昇している。

また、インクルーシブビジネスの位置づけについて見ると、2013年時点で現行のビジネスとして位置づけている企業は3.6%(44社)に過ぎないが、23.8%(288社)が将来のビジネスチャンスとして位置づけている。合わせて27.4%(332社)の企業がインクルーシブビジネスを現行ビジネスあるいは将来のビジネスチャンスとして関心を持っていることとなり、2011年の同データ20.9%(233社)と比べて大きく上昇している。

このように現段階では利益が確保できるビジネスとして成立している取り組みは少ないものの、将来のビジネスチャンスとしてインクルーシブビジネスに取り組み、関心を示す日本企業が徐々に増えている。製造業の方が、非製造業と比べて、ビジネスチャンスを期待し、取り組みに検討・着手する企業の比率が高いようである。

【図表1】インクルーシブビジネスへの取り組み状況
【図表1】インクルーシブビジネスへの取り組み状況

出所:東洋経済新報社「CSR企業総覧」を基にFRI作成
注:設問では「BOPビジネス」の名称を使用

【図表2】インクルーシブビジネスの位置づけ
【図表2】インクルーシブビジネスの位置づけ

出所:東洋経済新報社「CSR企業総覧」を基にFRI作成
注:設問では「BOPビジネス」の名称を使用

4. 海外での社会貢献活動とビジネスのギャップ

新興国・途上国における社会課題解決への取り組みといえば、これまでも日本企業は社会貢献活動に多く関与してきた。社会課題解決の取り組みを本業のビジネスと関連づけることができれば、いわゆるインクルーシブビジネスとして新たな市場開拓につなげることが期待される。社会貢献活動はそれ自体での利益を追求するものではない。そのためもあって、社会貢献活動が本業と関連づけられていないケースが少なくなく、特に海外で顕著である。

日本経団連社会貢献活動実績調査(2012年度)によれば、グループ連結対象企業の社会貢献活動の具体的内容について、国内グループ企業では92%の活動がある程度把握されているのに対して、海外グループ企業の把握は63%にとどまっている。さらに、社会貢献活動の内容を決定する際に、90%の企業が国内では事業拠点やマーケット所在地との関連性を考慮しているのに対して、海外の活動について考慮する企業は73%となっている。つまり、海外市場では、社会貢献活動の内容が事業戦略と無関係に決められるばかりか、そもそも活動内容自体が把握されない傾向にあるということである。

このように社会貢献活動がインクルーシブビジネスに発展する機会が見過ごされているということは戦略性が欠如していると言わざるを得ない。新興国・途上国市場での事業展開を進めるうえで、企業競争力を損ねることが懸念される。

5. インクルーシブビジネスアプローチの戦略的活用に向けて

BOP市場をビジネスチャンスと捉える日本企業は増えているものの、多くの企業が試行錯誤の域を出ていないというのが現状である。しかし、中には、インクルーシブビジネスのモデル構築に踏み出している企業も出始めている。例えば、パナソニック(非電化地域のソーラーランタン事業)や味の素(乳幼児の栄養改善プロジェクト)などは、試行錯誤を経ながらビジネス化のためのスケールアップのフェーズに移行しつつある。

これらのプロジェクトに共通するのは、製品開発という技術面のイノベーションに加えて、販売チャネルの拡充、バリューチェーン改善、普及啓発などの現地の実情に適合したビジネスモデルのイノベーションに取り組んでいるということである。特に、ビジネスモデルのイノベーションには、国際的な援助機関やNGO、現地パートナー等との連携が極めて重要となる。

インクルーシブビジネスを「BOP市場限定のビジネス」という狭い視野で捉えると、事業の発展性が損なわれがちで、社内合意も得られにくい。BOP層を含む新興国や途上国の市場開拓の1つのアプローチとして、社会課題解決の要素を持つインクルーシブビジネスの活用可能性を検討するという姿勢が肝要である。このような認識の下、ターゲット市場における自社の事業目的と照らし合わせながら、まずは、これまで蓄積されてきた課題解決の知見や、多様な機関とのパートナーシップ、そして社会貢献活動の活用を図れないかどうかを検討すべきである。さらに円滑な事業展開を図るために、社会課題解決と収益面の評価を含むPDCAサイクルの導入や、関連部署の意思疎通の強化など、社内体制の整備を進めていくことが望まれている。社会と企業のwin-winな関係を構築しながら、新市場開拓を進める手法として、いかにインクルーシブビジネスを戦略的に活用できるかが、今まさに日本企業に問われている。

注釈

(*1) : 国際金融公社(2010)「インクルーシブ・ビジネスの成功例」

(*2) : WBCSD(2013)“Scaling up inclusive business”

(*3) : Simanis and Duke(2014)“Profits at the Bottom of the Pyramid” Harvard Business Review October 2014

(*4) : 設問では「BOPビジネス」の名称を使用

関連情報

WBCSD インクルーシブビジネスセミナー「インクルーシブビジネスモデルの構築とスケールアップ:日本企業の機会と課題」

関連サービス

【調査・研究】


生田上席主任研究員

生田 孝史(いくた たかふみ)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
1990年 東北大学大学院修士課程修了、(株)長銀総合研究所入社、
1998年 米国デラウェア大学大学院修士過程修了、(株)富士通総研入社
専門領域:エネルギー・環境政策 、環境・CSR関連経営戦略、環境ビジネス・関連市場動向、環境シナリオ・ビジョン、グリーンIT