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「成熟型先進国における地方」へどう転換するか

2014年9月1日(月曜日)

1. 大きく変化した、日本の地方を取り巻く環境

現在、日本の地方は、以下に示す3つの大波に襲われ、転換を余儀なくされている。

第一の波は、少子化・高齢化という年齢構成のバランスを著しく欠いた形の人口減少の波だ。もちろん少子化・人口減少という現象は、これまでも誰にも漠然とは認識されていた。しかし、最近の日本創生会議・人口減少問題検討分科会のいわゆる「増田レポート」により、少子化・人口減少が、中長期的に生活基盤としての地方自身の「消滅」につながりかねないという危惧が、具体的な地域名と明示的な予測数字として突きつけられた。このため全国知事会が少子化非常事態宣言を出さざるを得ないところまで、急速に危機感が高まっている。

同時に人口減少によって、これまで人口増加を前提に分散的に積み上げられてきた多くの施設やインフラが、急速に余剰化している。このため、その維持が困難化し、取捨選択やコンパクト化という、住民が嫌がる意思決定が必要になってきている。

さらに直近においては、労働力減少により建設、医療・介護、運輸交通面などの産業現場で、地方でも人手不足が進み、賃金が上昇し、サービスの質が低下し始めている。

第二の波は、大企業が、グローバル競争の中で海外での拠点立地志向を強め、日本の地方が選ばれなくなっていることだ。従来、日本の地方には大企業の汎用品量産工場が多数立地し、多くの雇用と付加価値を産み落としていた。地方経済を成長させる方策として、大企業工場の誘致は常に上位に位置していた。しかし近年、新興国市場の拡大や、特に2012年頃までの超円高を放置したことにより、大企業はグローバル流儀で競争する決断を下すに至った。結果、国内工場維持の看板は外され、2010年以降、急速に工場立地が日本から世界にシフトする割合が高まった。このため、地方は雇用と付加価値の急減少に見舞われている。

本来、先進国に離陸できる国では、まず工業化の段階で農村の労働者を工場に移し、安い賃金で工業製品の競争力を高め、世界の工場として急速に成長する。いわば「成長型先進国」の段階に至る。しかし次の段階で、後追いする新興国との量産工業品の価格競争力に破れ、汎用量産品とは異なる、その国民族の独自の特性・文化が強みとなる新たな稼げる製品・産業を見出す必要に迫られる。それをベースに量的成長から質への転換を果たし、安定した「成熟型先進国」に移る必要がある。特に欧州各国は、長い苦闘の時間を経て、そうしたシフトを果たしている。しかし日本は、長らく成功国として楽しんだ「成長型先進国」としての座を韓国や中国など追従国に譲るのを嫌がった。量産品の価格競争を長く続け、負けが込み、その座を一気に奪われ、地方の量産工場を急速に失っているのが現状だ。日本全体が、「成熟型先進国」としての新たな産業構造や産業組織を模索すると同時に、「成熟型先進国」としての地方の構築も早急に行う必要に迫られている。

【図表1】「成熟型先進国」に転換できていない日本
【図表1】成熟型先進国に転換できていない日本

第三の波は、今後地方は、中長期には国の支援が期待できない時期に来ていることだ。従来、地方は中央政府からの手厚い援助を受け成長してきた。補助金や公共投資を取ってくることが地方成長の大きな鍵でさえあった。しかし近年、地方交付税や公共事業関係費も次第に減少している。現状の国の膨大な借金を考えれば、中長期的に国から地方への支援が見込み薄なのは明らかだ。

2. いまこそ「成長型先進国における地方」から「成熟型先進国の地方」へ

こうした背景から、今後の日本の地方は、「成長型先進国における地方」から「成熟型先進国における地方」へ覚悟を持って転換するしかない。すなわち、国の補助金・公共投資や大企業工場の誘致、指導、支援に過度に依存し、成長という量だけを追う姿からの脱却である。これまで見向きする必要さえなかった地元にある天然資源、成熟した質の高い生き方、生活そのもの、人材などの文化資源を再評価し、それらを生かし、身の丈に合わせて体質や中身を変えて生きる時期を迎えている。今年から始動しだした国の「地方創生」への取り組みも、こうした方向が基盤にあるべきだ。長期間にわたり成功はしたが、結果として地方から自主性や創造性を奪ってしまった大企業工場誘致や国からの補助金、公共投資に依存する姿に戻ってはならない。

では具体的にどのような分野に、どのように転換すべきなのか?

第一に必要なのは、地元既存産業の転換だ。まず、地方の主力産業である交通・運輸や介護などサービス産業において、人手不足、賃金上昇、サービス低下が見られており、生産性向上が早急に必要だ。当然すべての企業ができることではないので、その可否により、従来嫌ってきた新陳代謝、強い企業への集約化・労働者移動は避けて通れない。生産性向上のためには、まだまだ導入事例が少ないICTの活用はもっと検討されて良い。例えばバスの乗客数をセンサーで統計的に把握し、それに合わせて時刻表やルートの頻繁な変更で、乗車効率化を図り、成功している事例もある。

また、地方企業が持つ従来の強みベースに新規事業への転換が必要だ。地方には元々精密加工などを強みとする中小企業が多い。その強みを生かし、量産対応から、グローバル大企業が日本に残したマザー工場の高度な試作品製造支援や評価・検査事業、独自の機械加工技術に据付やメンテナンス等のエンジニアリングサービスを加味し、これまで試みなかった世界のニッチ市場への展開が重要だ。

さらに地元の豊富な農水産資源を素材売りだけから加工まで行い付加価値を高める事業、世界に広がる日本食の展開に追随し食材を提供する事業、農業バイオガス、林業バイオマス、風力発電など新たな地方立地の分散型エネルギー事業への転換、きれいな農地や地方の安全で成熟した生き方などを前面に出した観光業で一層増える外国人観光客を取り込む、などの転換がすでに生まれつつある。

特に再生エネルギー産業は、先行するドイツの例に見られるように地方分散立地型で、国際競争に晒されにくく、グローバルニッチな展開も可能である。今後の地場産業として有望で、農山村における新たな富を創造してくれる可能性が高い。

第二は、人口減少で余剰になった施設の再活用だ。空家、放棄農地、客が減少するゴルフ場など、今後過剰化する施設はますます増える。それらの個別施設情報をネットワーク化し、広く需要側情報も集めマッチングする仕組みの構築が求められている。こうしたマッチング事業では、成果が行政当事者の意欲に大きく左右されるという調査結果もあり、先行事例から学ぶことが役立つだろう。施設のメンテナンスの自動モニター化、ロボットなどによる自動メンテナンス化も重要になる。さらに人口減少に合わせた施設の集約・コンパクト化も、まだ成功事例は少ないが避けられない動きだ。コンパクト化でも、先行した成功事例での成功ポイントを汲み取り、自らの地域にどう取り込むかの知恵比べとなる。

3. 成功のポイントは何か

これまでの中央政府からの補助金、大企業の支援・指導が多く望めず、自立して生きるしかない地方が、うまく成熟型先進国における地方へ転換できるためのポイントは何か?

第一に、市町村カルテのような指標で、地方自身の実態、問題を見える化することがスタートになる。なんとなく分かっているという状態と、数値で見える化された状態とでは、次の行動への意欲が全く違うのは、今回の「増田レポート」でも示されたことだ。地元に住んでいても身の回りの実相を正確に理解している人は少ないものだ。実態・問題が数値化され課題の所在が明らかになり、危機感も高まって初めて正しい努力の方向が浮かんでくる。同時に努力した成果も指標化され見える化されると、元気が出て、さらに行動の意欲が湧いて来る。そのための指標や分析ツールもすでに開発され始めている。

第二に、専門家、プロ経営者など、人材の育成が重要になる。これまでは例えば農業経営者や企業経営者にしても、現場の業務が多忙で、経営面では常に農協や親企業など誰かの指導を待ち、自立した専門経営者という意識は少なかった。今後は自立が求められ、プロの専門経営者としての自覚と能力が不可欠になる。しかし当然だが、全員が優れたプロ経営者になることは難しい。集団化、企業化することで、経営者向きの人材に経営を委ねることも必要となる。農業などへの企業参入促進はこうした点からも重要になる。

プロ経営者の育成としては、例えば地方自治体が資金を出して、大学に民間企業の経営に携わった教官を招聘し、地元金融機関が推薦する有望な若手経営者・経営候補者に対し、経営の座学教育、実践指導を行うなどがある。この場合、地元経営者の実態を深く知る地方金融機関の目利き力が重要だ。また従来、日本の大学は一様に研究大学を目指す志向が強く、地方の中小企業には敷居が高かった。しかし近年、大学自身が変化しつつあり、地方の国立大学中心に「地域活性化の中核拠点」に位置づけられる大学が生まれている。例えば、筆者の地元の米沢市にある山形大学工学部による経営者育成では、すでに成功事例が生まれ、「山大方式」としてモデル化されつつある。

第三に、海外、特に長い試行錯誤の時期を経て「成熟型先進国」となっている欧米のやり方を学ぶことは重要だ。林業バイオマスや農業バイオガスを利用した熱・発電利用など地域独自資源を活かしたエネルギー産業育成では、ドイツをはじめ欧州に優れた先行事例が多い。こうした天然資源は、日本の地方では、ほぼどの地方にも存在する。産業化するための制度設計や指導者育成、具体的なボイラー設計のノウハウ等、一連の共通システムとして学び、導入することは可能であり、必要である。ベンチマークとベストプラクティスの積極的な導入が、成熟型先進国の地方への到達期間を短縮してくれる近道になる。

第四に、やや抽象的だが、地域の気風、「エクイティ」文化の醸成が重要だ。エクイティ文化とは、自立志向型で積極的にリスクをとって挑戦する人材や地域全体の気風を言う。まだまだ地方には成長期の夢が残り、政策でも大企業の誘致、補助金獲得で活性化を目指す姿勢が消えていない。しかし、繰り返すが、すでにそうした時代ではなく、自ら考え、先行事例にも学び、プロ・専門家になって、試行錯誤し自立するという困難に立ち向かうしか消滅から逃れる道はない。

日本の地方に新たな産業の起爆剤となる種火が何もないわけではない。今まで見過ごしてきた豊富な天然資源、成熟した高質な社会文化資源がある。これまでの成長型モデルであまりにも成功し、それを生かして生きようと気づく必要がなかっただけである。こうした地方の種火を活かし、自立的に生きる道をつけることが、成熟型先進国における地方を実現する方向だ。

【図表2】地方を襲う大波と派生する問題、解決の方向性
【図表2】地方を襲う大波と派生する問題、解決の方向性

富士通総研では、「成熟型先進国における地方」への転換に向け、今までその価値に気づかず見過ごしてきた地元の自然資源や、既存施設の再活用や再集積などを取り上げて、実現方法を報告・議論するコンファレンスを開催します。是非ご参加ください。

特別企画コンファレンス「成熟型先進国における地方とは?-その転換のあり方を探る-」
   ・日時:2014年10月6日(月曜日) 13時~17時10分
   ・場所:経団連会館 2階 国際会議場(東京都千代田区大手町1-3-2)
   ・参加費:無料
   ・詳細・お申し込みはこちら

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【調査・研究】


安部 忠彦(あべ ただひこ)
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。
(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、現在、(株)富士通総研 経済研究所エグゼクティブ・フェロー。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。