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  4. 企業を越えたビッグデータ連携の時代

企業を越えたビッグデータ連携の時代

2014年7月25日(金曜日)

1. 多くの会社にはデータサイエンティストが分析するデータがない?

私は2013年夏に『データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人』という本を書いた。その中でビッグデータ分析の専門人材に求められる能力や、彼らの先端企業での活躍ぶりを紹介したのだが、取材先はといえば、ヤフー、ソフトバンク、国立情報学研究所など、人材だけでなく、分析対象とするデータや分析ツールがしっかり揃った会社ばかりなのだった。

多くの会社はデータサイエンティスト育成という以前に、分析するデータが揃わないのではないか、という疑問を持った。データ分析というのは別のデータと比較し、有意な相関を見つけることが有益な発見につながることが多い。データセクションが提供するソーシャルメディア分析もそうである。ネットのクチコミが盛り上がると何が起きるのか、何と相関して盛り上がるのか? 単独ではなく異種のデータと統合分析することで有益な発見ができるものだ。私はそうしたデータを揃えるための環境作りが大切だと考えている。

2. データを共有する文化醸成が日本のビッグデータ推進力に

日本のビッグデータ領域の課題は「データサイエンティスト育成」から「企業間データ連携」の段階へと重点をシフトしていく。いま日本のビジネスパースンは「データサイエンティスト」に続いて「データエクスチェンジ」というキーワードに注目すべきである。データ共有の文化が日本のビッグデータ活用の推進力になるのではないかと私は考えている。

日本企業が伝統的な強みとする知は、個の専門知ではなかった。それは現場の実践者や熟練者の勘・コツといった暗黙知であり、長い時間をかけてジェネラリストとして育成された管理職の経験知である。かつて日本企業はQCサークルやジャストインタイム生産システムなど組織イノベーションによって世界経済をリードした。組織的に知を活用する伝統をビッグデータの時代に取り戻すべきだと考える。情報の集約と活用の仕組みが埋め込まれた組織環境があるとき、基本能力が高く勤勉で、組織の調和を大切にする日本人は、組織として強さを発揮できると考えるからだ。

3. 企業の壁を越境するトランス・ビッグデータの可能性

米国のビッグデータ業界では、専門知人材としてのデータサイエンティストが重視されている。ひとりの天才モデルだ。米国は高度な専門職の労働市場であるのに対して、日本は組織力を重視する国という見方もできる。ビッグデータの分析能力はもちろん重要だが、魅力的なデータの組み合わせが見つかる環境も同じくらい重要である。さらに企業という枠を超えて「トランス・ビッグデータ」とでもいうべき次元へ、データの活用を進化させられないだろうか。

4. ビッグデータ連携の仕組みづくり 例えば普段のスケジュール調整

企業が別の企業とデータを共有して協調するということは簡単なことではない。だが、基本的なルールとシステムをデザインできれば、進めていくことができると私は考えている。例えば、異なる企業間でのデータ共有例というと、身近なところでは、会議アポの調整がある。直近で空いている日程を、両社のメンバーが出し合って、最良の日程に合意するプロセスである。

当然のことながら、両社のメンバーの全スケジュールを交換するわけではない。両者のスケジューラーには企業秘密のアポがいっぱい登録されている。両者が必要なデータだけ開示して、すり合わせて、最適な空き時間を見つけている。これに似たようなプロセスをビッグデータ連携の世界でも作りたいと考えている。

具体的にはビッグデータの全部を開示して交換するのではなく、データの概要(メタデータ)をカタログサイトに登録してもらい、秘匿したい部分は秘匿したまま、連携の可能性を検討できるようにする。こうした運用の仕組みも研究テーマの1つだ。

スケジュール調整では、上司の代わりに部下がこうしたやりとりをすることや、受発注の立場や肩書きの高低により、どちらから先に候補を出すかが決まるという商慣行も存在している。効率だけでなく既存の業界の商慣行も守られるような交換ルール、ガイドライン作りが求められるだろう。

5. パーソナルデータを守り、お客様に最上のサービスを実現する

日本ではパーソナルデータの扱いに対する消費者の懸念が強い。企業間で顧客に関連するデータを共有利用するには、消費者保護への最大限の配慮が必要だろう。それには先行するケースにも学びたい。例えば、米国を中心に40年前より顧客購買行動を蓄積しているアクシオムでは、顧客の情報を1人当たり1500項目も収集している。米国人の96%のデータを保有すると言い、顧客には米国政府も含まれる。

アクシオムは生の顧客データを販売しているわけではない。同社は米国の消費者を約70の典型的なクラスターに分類する。クラスターとは社会経済学的に同じ行動パターンを持つ群れのことだ。例えば「キャリアビルド優先タイプ」「子育て中心タイプ」「封建的な両親」「コミュニティシングルス」「ダウンタウン居住者」などというクラスターがある。顧客の生データがわからなくても、クラスターのIDさえわかれば、企業はその顧客に対して、何をどうお勧めすればいいのか、最適な答えを見つけることができるようになっている。同社のデータは、世界で幅広く、広告効果予測、潜在需要予測、顧客行動予測に利用されている。

6. 守りながら活用する日本モデルの追究

消費者のプライバシーを守りながら、同時に、消費者にとって快適なサービス、合理的な選択を提供すること。それがビッグデータの利用企業の使命になる。アクシオムの方法が日本でも最適かどうかは検討の余地があるが、日本での方法論も、法律に詳しい有識者の意見を聞きながら、組み立てていきたいと思う。

前述の「データサイエンティスト」という本の末尾に、私はこんな風に書いた。
「データサイエンティストの活躍によってつまらない「広告」がなくなる。ごみ箱直行のダイレクトメールがなくなり、セールスの電話に悩まされることがなくなる。その代わりに、タイムリーに個人的問題を解決してくれるサービスが見つかり、最適のリコメンドにより、満足度の高い消費体験ができるようになる。データ分析が次世代の感動サービスの最大の付加価値を生む。
<中略>
個人情報を含むビッグデータを企業がマーケティングにどう生かすか。その成果が社会の便利さや快適さに大きく関わってくる。サービス産業が進化して経済の活性化にもつながってくる。大袈裟な表現かもしれないが、データサイエンティストが世界を救うのだ。」

“世界を救う”というのはちょっと大げさな表現だったかもしれないが、ビッグデータの利活用の結果が、スパム広告の大量発生だったり、プライバシーを覗かれているような不快なリコメンドであってはならない。保護と利用の両面から消費者の利益を最大化するようなパーソナルデータの扱いを考えていきたいと思う。


橋本大也氏

橋本 大也(はしもと だいや)
多摩大学大学院経営情報学研究科客員教授。デジタルハリウッド大学教授。
【著書】
『データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人』(ソフトバンククリエイティブ)、『情報力』(翔泳社)、『情報考学―WEB時代 の羅針盤213冊』(主婦と生活社)、など。
富士通総研が運営パートナーを務めるデータエクスチェンジコンソーシアムの理事長でもある。