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  4. 産業・製品構造転換を進め、日本製造業の輸出競争力を高めよ

産業・製品構造転換を進め、日本製造業の輸出競争力を高めよ

2014年4月4日(金曜日)

1. 貿易赤字拡大で広がる日本製造業の輸出競争力劣化不安

円高是正が大幅に進んだ昨年でさえも、貿易赤字額は約11兆円超と年ベースで過去最大 となった(【図1】)。これは、リーマンショック前までは約10兆円を越す貿易黒字が常態だったのと比べると、大きな変化である。このため、日本の輸出の稼ぎ頭である製造業全体の(輸出)競争力が急速に劣化し、このまま続くのではないかという不安を生じさせている。

【図1】日本の貿易収支額の推移(兆円)
【図1】日本の貿易収支額の推移
(出所:財務省貿易統計より富士通総研作成)

本稿では、日本製造業の競争力の弱体化に対するこうした不安が正鵠を得たものなのかを、製造業の主要産業・製品(以下、製品と記す)のこれまでの貿易統計数値変化を追うことで明らかにし、今後の日本製造業の競争力強化に向けた提言を行いたい。

ここでは、主要製品の貿易特化指数((輸出額-輸入額)/(輸出額+輸入額))を基に分析する。分析期間はバブルが盛り上がった1988年を起点に直近の2013年までとする。貿易特化指数とは、ある製品が輸入品に打ち勝って、日本から輸出できるほどの競争力をどの程度有しているかを示す指標と考えてよい。指数値は+1から-1までの範囲で変化し、+1の場合は全量日本から輸出(輸入ゼロ)、-1の場合は全量日本への輸入(輸出ゼロ)を意味する。

2. 競争力低下の主因は通信機、PC、医薬品

日本全体の貿易特化指数を見ると(【図2】)、増減を繰り返しながら傾向的に低下し(競争力を弱め)、2011年以降、その低下状況を一層強めている。しかし、2000年代前半以降、貿易特化指数に大きな影響を与えた要因として、この間、価格が高騰した石油やLNGなどの鉱物性燃料の輸入額の増加があると考えられる。このため、同じ図に示した鉱物性燃料の輸入を除いた貿易特化指数で見ると、2000年頃までは除去しない場合とほぼ同じ傾向で低下しているが、以降2008年のリーマンショックまでは、ほぼ一定の値を示し、この間の競争力低下は見られない。しかし、2009年以降の低下は急激で、2009年以降は鉱物性燃料の輸入の影響を除いても、製造業を主とする競争力の弱体化をもたらした要因があったと考えられる。

【図2】日本全体および鉱物性燃料輸入を除いた貿易特化指数
【図2】日本全体および鉱物性燃料輸入を除いた貿易特化指数
(出所:財務省貿易統計より富士通総研作成)

この競争力低下を招いた原因となった主な製品は何だったのかを探ってみたい。2009年以降の輸出競争力を低下させた産業としては、大括りの産業分類で見た貿易特化指数によれば(【図3】)、輸送用機械、電気機器、化学製品、一般機械が浮かんでくる。以下、それらの産業に属する主要製品を対象に詳細に分析する。(【図4】)

【図3】主要産業別の貿易特化指数
【図3】主要産業別の貿易特化指数
(出所:財務省貿易統計より富士通総研作成)

【図4】主要製品毎の貿易特化指数
【図4】主要製品毎の貿易特化指数
(出所:財務省貿易統計より富士通総研作成)

電気機器全体の貿易特化指数は1988年以降、一貫して低下していたが、貿易特化指数の分子である(輸出額-輸入額)で見ると、明確に2009年以降の急落が観察され、この間に競争力が急速に劣化していたことを裏づけている。より詳細な製品別に見ると、通信機が弱体化製品であることがわかり、2000年代中頃以降、急激に輸入を増やし、競争力を低下させている。一般に犯人扱いされることが多いAV機器については、確かにこの間の輸出額の急減が見られるが、輸入額の増加は顕著でなく、特化指数は下げ止まっている。競争力弱体化は見られるが、現時点での全体の貿易特化指数急低下の犯人とは言えない。

化学製品の競争力低下の主たる原因は医薬品で、2000年頃から輸入品が急増し、貿易特化指数は2005年頃からの低下が顕著であった。

輸送用機械では、自動車の輸入の急増が低下の原因となっているが、自動車は貿易特化指数のレベルが高いので、自動車の競争力が低いとは言えないだろう。

一般機械ではPCが注目される(PCは一般機械に分類されている)。PCは1990年代以降、一貫して競争力を失っている。

結局、競争力低下を促した主たる製品としては、通信機、PC、医薬品であったことが分かる。これらの製品の競争力の劣化で、日本全体の貿易特化指数は2009年以降、急激に低下し、LNGなどの輸入増も相まって、より値を低下させてしまった。

3. 強い製品と弱い製品の差が顕在化

しかし一方、この間すべての製品の競争力が弱体化していたかというと、もちろんそうではない。ここで改めて【図3】【図4】を眺めると、1988年以降の各製品の特化指数の推移に5つのタイプがあることがわかる。

第1は、2000年代前半までは指数値を低下させ、競争力を下げたが、その後は競争力を維持、または高めたタイプ(原動機、重電機、科学光学機器、IC)、第2は、2000年代前半まで競争力を低下させ、その後も第1のタイプとは異なり、競争力を失い続けたタイプ(通信機、PC)、第3は、2000年代前半まで競争力を高めたが、その後は低下してしまったタイプ(医薬品)、第4が、競争力レベルに差はあれ、ほぼ一貫して競争力を高め続けたタイプ(輸送用機械、鉄鋼、電気計測器)、第5が、あまり変化しなかったタイプ(食料品)である。

前項で分析した、2009年以降の日本の輸出競争力を急低下させる原因となった製品は 第2、第3タイプに属する。しかし第1、第4タイプに属するのは、近年の為替の急激な 変動にもかかわらず、競争力を維持・強化できた製品群であり、今後の日本の輸出を支える製品として期待できる。特に近年、海外生産比率や国内投資額に占める海外投資額割合が増加し続ける中で輸出競争力を維持・強化できているのは、真の競争力がある証拠と言えよう。

貿易特化指数の動きから見ると、2000年代前半をターニングポイントとして、日本の製品は、真に強みのある製品と弱体化する製品とに分化したことが分かる。今後の日本の製造業の製品構造転換の進むべき方向が明確化された時期と言っても良い。2000年代前半というのは、デジタル・モジュール・オープン・汎用品化の流れが定着し、アジアなど新興国市場が爆発的に拡大し出して、鉱物性燃料価格が上昇し出した時期だ。こうした経営環境の大変化への対応力で差が顕在化し、成熟先進国日本の製品構造の姿が見えてきたと言える。

4. 強み製品の特性は何か?

では、どのような要因が、製品競争力の強み弱みを分けたのか?

ここで確認された強い製品(原動機、重電機、科学光学機器、IC、輸送用機器、鉄鋼、電気計測器など)の例で見てみよう。組み立て型製品の場合は、アナログ型の高品質・高機能な素材に基づく部品や機械と精緻なソフト・制御の融合型である。加えて、技術変化がゆっくりで長期的に技術や技能が蓄積・伝承され、製品ライフサイクルが比較的長く、部品点数も比較的多く、B2B型で顧客と提供者が一体で開発した製品が多い。材料の場合も当然B2B型で、長期間の技術・技能が蓄積され、有力な組み立て企業との共同開発が多い。結局、顧客との長期的関係で培われ、蓄積された技術技能、色や形状を多様に識別できる感性の豊かさに基づく顧客への多様な対応力という日本人の特性が、高信頼製品をベースに競争力を勝ち得た製品と言えよう。

しかし、日本人の感性、顧客への多様な対応力という特性が、常に競争力を保証するかと言えば、そうではない。こうした特性が同時に、時には自己満足な過剰品質、時には各社一斉の横並び競争、ガラパゴス化を産む要因にもなる。弱い製品として挙がったAV機器も含めた通信機、PCなどは、かつては日本人の特性が込められた強い製品であったが、デジタル・モジュール化や量産低価格化、製品サイクルの短期化、ビジネスモデルでの勝負化が進み、日本人の特性が逆に弱みになってしまった製品である。今後も日本人の特性が、まだ競争力獲得上活かされている製品かどうかを見極める必要があり、特性が活かされないフェーズになったのに、誤ってその製品にしがみつくと、一気に優位性を喪失するだろう。

5. 今後の日本製造業が進む方向

これまでの分析から、今後の日本製品の競争力を見据え、どういった製品を政策的にも強化すれば良いのかが見えてくる。輸出増加に向けて強化すべき製品を一言で表せば、「(多様な感性、顧客対応力をベースにした)制御機能・機械機能を備えた信頼性が高い広義のロボット系製品、長期的技能が蓄積された高機能高品質材料」となろう。具体的には、これまですでに挙げた強い製品群に加え、単品売り切りでない、サービス面を強化した多様なロボット、衛星、航空機、車両、無人ヘリコプター、医療機器、3Dプリンター、環境機器、インフラ設備、プラント設備、ナノレベル材料などが挙げられる。

日本が強い製品群に対して、アジア新興国企業も人材獲得やM&Aで追いつこうとしているが、大規模投資で短期的な投資回収志向が強いアジア企業には、競争力獲得のために長期的な熟練が必要な、どちらかというとニッチ型製品で追いつき競争するには、戦略の転換とかなりの時間が必要になり、難しそうである。また、アジア中心に富裕層、中間層が増加し、顧客の購買力が高まれば、日本が得意な長期的熟練技術技能に基づく、価格は高いが高品質の製品(機械や素材)を採用しても採算が合うと考える顧客企業層も増加しよう。

競争力を失ったかつての強い製品の轍を踏まないために気をつけるべきことは、今の強い製品がいつデジタル・モジュール・オープンの汎用化の波、量の競争の波に飲まれるかを見極め、対応を先取りすることである。単に量を追わず、ニッチ的な市場を集め、開拓するのが有効だろう。同じ方向を目指すドイツニッチトップ企業とのアジア市場を巡る競争が激しくなることは覚悟する必要がある。

また、高齢化が進む成熟先進国日本としては、医薬品産業の強化は不可避である。しかし、貿易統計からは、医薬品は特異な動きを示している。2000年まで順調に競争力を高めたのに、2000年を境に、バイオ系技術による創薬競争に後れを取り、再び競争力が劣化している。この製品の競争力をどうやって復活させるかは日本の大きな課題である。

同時に、今後の日本が注力すべきは、長年低い競争力に沈む食料品産業である。この産業も農業の6次化や安心安全を求めるアジア中間層富裕層増加の波に乗って、輸出できる製品を開拓し、大いに競争力を高める可能性があろう。

6. 日本製造業の輸出競争力復活に向けた製品構造転換を進めよ

近年の貿易統計の分析によって、2000年代中期以降、日本の製造業製品の中で淘汰が進み、競争力があり今後も伸ばすべき製品と、弱体化が進み、淘汰される製品とが一層顕在化した。現在は、かつて強かった製品の競争力劣化の影響が大きく、貿易赤字が続いている。しかし、日本人の特性を活かし、アジア顧客の購買力向上、アジア企業との棲み分け、為替の適正化に乗り、日本の強みの製品が次々に生まれ、輸出が増える可能性は高い。そうしたニーズに海外現地で対応する動きが主流とはなるが、マザー工場などで一定量の国内拠点の維持・輸出を行わないと、世界で造れる製品の競争力基盤が失われる。また、疲弊が進む地域産業の活性化も必要であり、ドイツのように世界のニッチ市場を輸出品で攻略する地域中小企業の育成も重要だ。こうした地域企業には転勤しない地域在住の就業者が多く、すでに述べた日本が強い「制御機能・機械機能を備えた信頼性が高い広義のロボット系製品、長期的技能が蓄積された高機能高品質材料」と相性が良い。こうした地域中小企業に対して人材面で海外輸出支援を強化するなど、日本製造業の輸出競争力復活に向けた構造転換の努力が求められている。

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【調査・研究】


安部 忠彦(あべ ただひこ)
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。
(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、現在、(株)富士通総研 経済研究所エグゼクティブ・フェロー。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。