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中国における金利の自由化と為替レート変動幅拡大の意味

2014年4月2日(水曜日)

中国で年に1度の全国人民代表大会(国会)が開かれた。全人代の開会中、人民銀行の周小川行長は記者会見を行い、1、2年で預金金利を自由化することができるだろうと、金利の完全自由化を示唆した。分かりやすく言えば、金利とはお金の値段である。市場経済では、モノの値段は自由化されているのに、カネの値段を規制するという合理性はあり得ない。モノの値段が自由化する目的は、その需要と供給を調節するプライスメカニズムを機能させるためである。カネの値段である金利を自由化すれば金融システムの金融仲介を効率化すると考えられる。金融仲介とは金融システムが貯蓄主体の家計から投資主体の企業に資金を仲介する役割である。金融仲介の基本は、経営効率がよく収益性の高い企業に、より安い金利で資金を仲介するということである。

中国の場合、計画経済の時代、金融機関の金融仲介は政府が策定する経済計画に則って行われていた。すなわち、貸出先企業の効率や収益性と関係なく金融仲介が行われていたのである。「改革・開放」政策以降、実体経済の市場経済化が徐々に進んだが、金融システムの市場経済化が大幅に立ち遅れている。金利規制が続いている関係で、金融機関の競争が妨げられている。金融システムの効率化が遅れたことは実体経済の効率化の遅れをもたらしている。

1. 金利規制を続ける政府の思惑

なぜ金利規制を続けてきたのかを解明するために、金利規制の一番の受益者が誰なのかを明らかにすれば良い。結論を先取りすれば、現行の金融制度で最も恵まれている国有銀行は金利規制の一番の受益者である。現行の金利体系(【図1】参照)を見れば分かるように、貸出金利と預金金利の利ザヤは3ポイント以上開いている。この金利体系では、銀行は預金を集め、融資を行うだけで大きな利ザヤを実現することができる。その結果、金融機関の規模、つまり、支店の多い金融機関は市場競争に有利である。とりわけ、国有銀行はより多くの預金を集めることができ、その融資先のほとんどは国有企業である。国有企業は政府によって守られているため、倒産する心配はない。もちろん、国有企業の業績は必ずしも良くないので、銀行への資金返済が滞る可能性がある。国有銀行には国有企業への貸出が不良債権化する部分を処理するために、金利規制の形で大きな利ザヤが設けられている。

国有企業の経営効率が良くないと言われながら、国有銀行の不良債権も心配されているが、実際には不良債権問題は表面化していない。そのカラクリは現行の金利規制にある。何といっても、3ポイント以上の利ザヤの合理性は説明できない。政府は国有銀行を通じて国有企業に安定的に資金を供給するために金利規制を続けてきた。その結果、預金金利、つまり、預金者の利益の一部が犠牲にされている。中国政府にとって国有銀行は第2の国家財政のような便利で使い勝手の良い存在だった。しかし、巨額の資金が安定的に国有企業に「輸血」され続けることは国有企業経営の効率化に結び付かず、逆に、国有企業のモラルハザードをもたらしている。

【図1】中国の預金金利(1年もの)と貸出金利(同)の推移
【図1】中国の預金金利(1年もの)と貸出金利(同)の推移
(資料:中国人民銀行)

このような金利規制を続けた場合のデメリットは一目瞭然である。しかし、中国政府は国有銀行と国有企業を市場競争に晒すのを避けたかった。政府によって温存されている国有銀行と国有企業は効率化することなく、規模だけが拡大する。国有セクターによる市場独占は市場競争を妨げ、金利規制は金利のプライスメカニズムが機能しない原因である。

2. カネのもう1つの値段

金利はカネの値段であるが、コインに裏面があるように、カネにはもう1つの値段がある。それは為替レートである。金利が国内の値段であるとすれば、為替レートは対外的な値段である。為替レートが果たす役割の1つは国際貿易の交易条件を定義することである。輸出主導の経済にとっては、為替レートを割安の水準で安定させた方が有利である。為替レートを低く抑えるということは、輸出される自国の財やサービスが割安であり、国際的な価格競争力が高いということを意味する。現に人民元は2005年7月まで、ドルに対してペッグ(固定為替相場制)していた。

固定相場制のデメリットとして金融政策の自由度が制限されることが挙げられるが、その魅力はなんと言っても国際貿易の競争において有利になるという点である。2005年7月に中国政府は人民元の切り上げに踏み切った。それはどちらかと言えば、欧米諸国の圧力による結果である。中国は人民元を低い水準でドルにペッグしたため、毎年、対米欧で巨額の貿易黒字を実現していた。中国の国際貿易を原因とする不均衡は欧米諸国の経済にとって大きなストレスとなった。具体的には、毎年、欧米諸国は中国から大量の廉価な商品を輸入するとともに、失業問題は年々深刻化していた。もちろん、中国の立場に立って考えれば、欧米諸国は中国から輸入しなくても、メキシコやインドネシアなど他の国から輸入することになる。国際貿易において欧米諸国の労働力はとうに国際競争力を失っていたということである。

とはいえ、中国のような大国が人民元を世界の基軸通貨であるドルにペッグすることは国際経済に与える影響が大き過ぎる。05年7月から中国政府は人民元のドルペッグを解除し、人民元を徐々に切り上げた。2013年末現在、人民元はドルに対して累計30%ほど切り上がった。ただし、人民元の切り上げは市場の力というよりも、政府がコントロールしながら徐々に切り上げたものである。しかも、人民元の1日の変動幅は小さく抑えられた。問題は、実質的な管理変動相場制では、為替レートはプライスメカニズムが機能しないということである。

現実的に考えれば、コインの表と裏の関係にある金利と為替レートのどちらか1つだけを自由化しても、大きな意味はなされない。真の市場経済を構築するとすれば、金利と為替レートを同時に自由化する必要がある。

3. 中国政府の悩み

中国政府にとって金利も為替レートも自由にした場合、市場のボラティリティ(変動)が一番心配される。金利はカネの国内の値段であるため、共産党一党独裁の政治では、万が一のときに政府はそれを直接コントロールすることができる。それに対して、為替レートはカネの対外的な値段であり、いったん自由化してしまえば、そのボラティリティが大きくなった場合、収拾がつかない可能性がある。

例えば、市場の投機筋の動きにより人民元が急に切り上がった場合、中国の輸出産業に大きなダメージをもたらす恐れがある。また、人民元が急に切り下がった場合、中国に流れている投資・投機のマネーが海外へ逃避してしまう可能性がある。中国政府が最も恐れているのは、このようなコントロール不可能な状況に陥ることである。

とはいっても、実体経済を自由化した以上、金融の自由化をいつまでも先送りすることはできない。経済改革を促進する意味において、金融の自由化を進めることは必要不可欠である。中国人民銀行(中央銀行)は3月17日に人民元の1日の変動幅を2%に拡大すると決めた。これは金利の自由化の進展と併せて考えれば、正しい決断と言える。

13年11月に共産党中央三中全会で採択された「全面的な改革に関する若干の重大問題の決定」では、市場メカニズムの確立は重要な柱の1つになっている。今回の金利の自由化と為替相場変動幅の拡大はその重要な一環であると認識される。これらの改革を成功裏に進めるには、国有銀行と国有企業の改革も併せて進めなければならない。

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柯 隆

柯 隆(カ リュウ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】:1994年3月 名古屋大学大学院経済学修士取得。 1994年4月より (株)長銀総合研究所国際調査部研究員。1998年10月より現職。専門領域は開発金融と中国経済論。
【著書】:「中国が普通の大国になる日」日本実業出版社 2012年10月、「チャイナクライシスへの警鐘 2012年中国経済は減速する」日本実業出版社 2010年9月、「2010年中国経済攻略のカギ」PHP研究所『Voice』編集部 2010年1月、「華人経済師のみた中国の実力」日本経済新聞出版社 2009年5月、「中国の不良債権問題」日本経済新聞出版社 2007年9月