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医療とマイナンバーを考える ~持続可能な医療制度実現のために~

2014年3月12日(水曜日)

あなたは診察券を何枚持っていますか? 家族の分まで含めれば、カードホルダーに入りきらないほどの枚数でしょう。いざ病気になった時、診察券を探すだけでも苦労します。また、初診の病院では必ず問診を受けますが、傷病歴や服薬の情報など詳細については「私の曖昧な記憶に頼らず、医者同士で私のカルテを共有してくれ」と思わず言いたくなってしまいます。

日本の医療制度は世界一と言われながら、殊にIT活用というテーマになると、途端にお寒い状況になってしまうのが現状です。2014年1月20日に開催された富士通総研特別企画コンファレンス『医療とマイナンバーを考える』の報告を兼ね、医療とマイナンバーについて考えてみたいと思います。

1. フィンランドの医療システム

今回のコンファレンスの目玉は、フィンランドから社会保健省のテームペッカ・ヴィルタネンさんをお招きしたことです。フィンランドは人口が537万人で、1人当たりGDPは日本とほぼ同じくらい、医療費の公的負担率が73.8%と高く、北欧型の高福祉国家といえます。フィンランドが最先端の医療システムを実現していることは、富士通のCMでご記憶の方も多いでしょう。

フィンランドでは国民皆保険制度が導入されており、国民には統一的な番号である社会保険番号が1960年代から付番されています。この番号は11桁で、生年月日や性別などで構成されているため、覚えやすく使いやすい番号になっています。そして保健センターや病院だけでなく、銀行、納税、警察関係、飛行機予約、運送などの様々な分野で利用されています。

フィンランドではかかりつけ医制度を導入しており、プライマリーケアは自治体が運営する保健センターおよび民間クリニックが提供しています。そして、セカンダリーケア(専門医療)は自治体に所属する全国20の専門医療地区内の大学病院や中央病院が提供しており、受診するにはかかりつけ医による紹介が必要となっています。

2007年当時、医療機関のほぼすべてにEMR(Electronic Medical Record:(病院内)電子カルテ)が導入され、患者に関する記録はEHR(Electronic Health Record:電子カルテの共有化)として地域のセンターで共有化されていましたが、地域ごとにシステムインテグレーターが異なっていたため、医療機関は他地域のデータをなかなか活用できないという問題がありました。そこで社会保険庁は、この問題を解決すべく国全体の集中管理型医療情報アーカイブの構築プロジェクトを開始し、今年中にはすべての公的医療機関が接続されることになります。医療機関は初診の患者であっても、患者の過去の通院履歴、病歴、処方箋などを参照することができ、迅速で的確な診療を行うことが可能となっています。そして、国民は社会保険番号カードを使って、自分の電子カルテ情報を参照することができます。

2. 普及しない日本のEMRとEHR

日本においては、2000年代初頭からEMRやEHRが重点施策として位置づけられ、推進されてきましたが、その普及状況はどちらも伸び悩んでいます。フィンランドがどちらもすでに100%を達成しているのに対し、日本ではEMRが16.1%、EHRが0.9%という厳しい状況です。このままでは2020年になってもEHRは10%にも届きません。

【図1】ICT化による医療費適正化効果の将来推計 ICT化による医療費適正化効果の将来推計
(出典:「医療分野のICT化の社会経済効果に関する調査研究~報告書~」総務省2012年3月)

日本では、データセンターで患者ID紐付DB(病院ごとに異なる患者のIDを結びつけるデータベース)をベンダー毎に構築し、施設に分散したデータを概念的に統合・利活用する分散型ネットワークを採用していますが、患者紹介によってIDを結びつける方法では、放射線治療の生涯被曝量や抗癌剤の生涯投与量など、生涯における一貫性のある治療歴を管理できません。また、ID紐付の一貫性保持のために現場では様々な苦労をしていますが、改姓など患者の正確な紐付にも限界があります。

EMRやEHRの普及促進は今後の地域医療連携において重要な要素となりますが、現状の方法では患者の生涯情報を管理する上で限界があり、ユニークなIDの導入がどうしても必要となります。また、ビッグデータ解析技術による蓄積データの分析だけでなく、次世代医療、そして国民の健康寿命延伸のためにも、ユニークなIDは重要な役割を果たします。

3. 治療から予防・予測へ

医療の財政問題解決のためには、公平に負担を増やすことばかりでなく、病気にならないよう健康を維持する政策も必要となります。欧米の研究動向を見ても、罹患患者の治療を目的とした研究から、罹患の予防・予測を可能にする技術開発へと変化してきています。

そこでは健康寿命を伸ばすための研究や戦略が要求され、そのために個人の追跡率を上げて、データベースの精緻化(正確性、最新性)に力点を置いた個人データの収集が行われています。正確なデータに基づく数値化ができないと、健康を維持するための目標も戦略も立てられないからです。

ところが、日本の事情を見てみると、がんなど特定の疾病や子ども・高齢者など特定の年代を対象にした研究が多く、農村部など一部の地域を対象とした研究に偏っています。これは、医療に関するデータの番号や保管場所が保険者ごと病院ごとにばらばらで、都市部になるほど疾病や個人を追跡することが難しいからです。

もちろん日本でも予防活動は実施されていますが、現状では費用を1円投じても医療費を0.14円程度減少させるに過ぎないという研究結果があります。これは、学校や企業を含め、長期にわたる個人の健康データを国レベルで活用できる環境がないからであり、データを整備するためのキーとなる番号が存在していないためです。

4. 医療政策、利用者視点の医療、地域医療再生の現場では

中央社会保険医療協議会会長・学習院大学教授の森田朗先生は、高齢化による患者増と医療技術発展による高額化で医療保険財政が悪化しており、医療保険制度の効率化のために番号制度は不可欠だと主張しています。日本の医療供給体制は、診療報酬改定という経済的インセンティブによってコントロールされていますが、共通的な番号がないために信頼性の高いデータに基づく意思決定が難しいとのことです。

番号制度が導入されれば、医療財源の効率的利用、信頼性の高いデータを活用した合理的な医療政策の決定、個々の患者の状態に応じた医療供給による医療の質の向上、医療イノベーションなどに活かすことができ、高齢者ケアや健康管理という他分野・多職種との連携においても大いに役立つと期待されています。

亀田総合病院院長の亀田信介先生は、利用者の視点に立った医療システムを構築すべきという信念を持ち、クラウド技術により地域で同一のアプリケーションを利用し、情報、診断機器、人的資源を地域で共有して有効活用するAoLaniプロジェクトを推進しています。PAS(Publicly Available Specification:公開仕様書)や包括的協定等によって、地域全体の価値を向上するための医療システムを追求しており、その要となるのが共通的なIDと生体認証だという指摘です。

放送大学教授の田城孝雄先生は、地域医療の再生というテーマに取り組み、重複処方や残薬の無駄防止のためにIT活用は必要であり、疾病の重症化や再発を防いで救急医療体制を保持するためにも地域のEHR普及は不可欠だとの見解です。病病連携・病診連携や遠隔医療などでITの果たす役割が大きい一方で、保健・医療データが年齢・機関・疾患ごとにバラバラで統合的にデータを扱うことができないという問題、そして病院が異なると病名のつけ方も異なるという問題も抱えているとのことです。番号の問題だけでなく、データの標準化という問題の解決も急務です。

5. 個人情報保護の議論を重ねながら、早急に医療分野へのマイナンバー導入を

日本では、個人情報漏えいの際の被害を抑えるために、「医療ではマイナンバーを使わず、医療等IDという別の番号を使うべき」という議論が行われていますが、ヴィルタネンさんは「医療番号をわざわざ別の番号にするなど意味が無い」と指摘しています。むしろこれまでの経験から、医師など医療従事者の不正を防ぐことの方が重要だとの意見は貴重なものです。また、「システムにおいて統一的なIDを使うことは必須であり、EU全体では統一的なID無しにシステムを構築しようとしているが実際にうまくいっていない。それは不可能だ。」という指摘にも素直に耳を傾けるべきでしょう。

個人情報やプライバシーについては議論し尽くせない部分もありますが、欧州では議論を続けながら制度をより理想的な姿へ近づけようと努力しています。日本でも、リスクがあるから議論を避けるのではなく、先進国から学びつつリスクとメリットについて議論を重ねながら、早急に医療分野へマイナンバーを導入していくべきだと考えます。

【図2】旧マイナンバー法案のロードマップ(2012年2月、前政権が提出) 旧マイナンバー法案のロードマップ(2012年2月、前政権が提出)
(出典:「旧マイナンバー法案提出時のロードマップ」内閣官房2012年2月14日)

(注:)このロードマップでは、マイナンバー法案提出の翌年に医療番号の特別法案を提出するスケジュールが記述されています。しかし、現在のロードマップでは特別法案のスケジュールが削除されており、いつ医療の番号制度が実現するのか不明なままです。

ご参考

特別企画コンファレンス『医療とマイナンバーを考える』

関連オピニオン

「マイナンバー法成立!次の課題である医療番号をマイナンバーに!」

「ネット選挙法とマイナンバー法の成立に寄せて ―『世界最先端IT国家創造』に“IT based Society”の考え方を―」

関連書籍

「番号制度導入・運用のロードマップ」

「マイナンバー法で会社実務はこう変わる(セミナーDVD)」

「マイナンバーがやってくる 改訂版 共通番号制度の実務インパクトと対応策」

関連サービス

【調査・研究】


榎並 利博(えなみ としひろ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】1981年 東京大学卒業、富士通株式会社入社、96年 富士通総研へ出向、2010年より現職。
2002年度~2003年度 新潟大学非常勤講師、2006年度~2007年度 中央大学非常勤講師、2007年度~2008年度 早稲田大学公共政策研究所客員研究員、2009年度~2012年度 法政大学非常勤講師。
【著書】「番号制度導入・運用のロードマップ」地域科学研究会 2013年、「マイナンバー法で会社実務はこう変わる(セミナーDVD)」日本法令 2013年、「マイナンバーがやってくる―共通番号制度の実務インパクトと対応策」日経BP社 2012年、「マイナンバー(共通番号)制度と自治体クラウド」地域科学研究会 2012年、「自治体クラウド」学陽書房 2011年、「共通番号(国民ID)のすべて」東洋経済新報社 2010年、「市民が主役の自治リノベーション」ぎょうせい 2007年、「自治体のマネジメント改革」ぎょうせい 2005年など