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  4. “Another Aspect”(3)診療情報ネットワークの位置づけを変える島根県様「まめネット」の取り組み

“Another Aspect”(3)

診療情報ネットワークの位置づけを変える島根県様「まめネット」の取り組み

2014年3月10日(月曜日)

専門的な検査や医療を行う地域の中核病院へ患者や医師が集中する一方、過疎地域などでは医師不足による医療崩壊が問題となっています。このような状況の中で、島根県様(以下、島根県)では、診療情報を医療機関の間で共有する全県医療情報ネットワーク「まめネット」を構築してサービスを開始しました。

1. 島根県における地域医療情報ネットワークへの取り組みの背景

島根県は東西に長く、離島もある一方、医療機関は松江市および出雲市といった県東部に集中しているため、過疎地域では高齢化の進行と同時に医療崩壊が大きな課題となっていました。患者に対する適切な医療提供と、中核病院の医師の負担軽減に向け、島根県医療情報ネットワーク化が推進されてきました。

2. 「医療ネットしまね」の確立

島根県では、中核病院による電子カルテシステム構築を起点に、国の実証実験などを交えながら遠隔画像診断システム、周産期医療情報システムなどの各種システムを構築し、それらの連携を図ることにより「医療ネットしまね」を確立しました(【図1】)。

【図1】「医療ネットしまね」概略 医療ネットしまね概略
(出典:しまね医療情報ネットワーク協会様ご提供資料)

「医療ネットしまね」では、大きく2つの課題を抱えていました。1つ目は、同じ地域の複数の中核病院で、個別に病診連携システムが構築されていた点です。診療所はそれぞれの中核病院向けシステムを構築しなければならないため費用負担が大きく、また、地域全体としてシステムが重複していました。2つ目の課題は、継続的な運用費用の確保です。国の実証実験による補助金、地域医療再生基金という補助金も永続的に利用できるわけではなく、事業を継続的に運営できる仕組みの構築が急務となっていました。

3. 「まめネット」への進化

こうした課題の解決を目指し、 島根県全域を対象とした医療情報ネットワークが 「まめネット」です。「まめネット」は利用者と医療機関(現在は主に診療所と中核病院)を結んでいます。複数の医療機関に分散されていた診療情報を連携カルテ(*1)として共有し、診断や治療、調剤などを行う際に、より正確な診断、安全な処置を行うことを狙っています(【図2】)。ちなみに、「まめネット」の“まめ”とは、「達者、元気」を意味する方言であり、公募により小学校3年生のアイデアが採用されたものです。

【図2】「まめネット」概要 まめネット概要
(出典:しまね医療情報ネットワーク協会様ご提供資料

4. 「まめネット」で、よりオープンなネットワークへ

「まめネット」では以前と比べ、よりオープンな仕組みづくりを目指しています。

  • 「1対N」から「N対N」のオープンな仕組みへ
    以前のネットワークは、各システムが中核病院と周辺の診療所を「1対N」で結ぶクローズドな関係でしたが、「まめネット」では、複数の中核病院と複数の診療所を「N対N」で結ぶオープンなネットワークとなりました(【図3】)。
  • 利用者の裾野の拡大
    「まめネット」では、対象地域を県全体に拡大したほか、利用者を中核病院と診療所から、今後は訪問看護ステーション、調剤薬局、介護事業者などへ拡大していきます。
  • サービス化
    「まめネット」では利用したいサービスだけを選んで、利用料を払う仕組みを取り入れることで、より手軽に診療情報にアクセスできるようになりました。

【図3】「まめネット」のネットワーク(イメージ) まめネットのネットワーク(イメージ)
(出典:しまね医療情報ネットワーク協会様ご提供資料をもとに富士通総研作成)

一方、このようなオープンな仕組みでは、参加者数が少ないと仕組みが成り立ちません。参加者を増やし、利用価値を高めるためにも、診療情報を利用する「利用者」、診療情報を提供する「提供者」、そして「患者」の三者が利用しやすい仕組みづくりが今まで以上に重要となっています。

  • 利用者が使いやすい仕組み
    「まめネット」ではクラウド型を採用しており、利用者が連携アプリケーションサービスを自由に選択できるようなりました。また、通信費用の負担軽減に向け、診療所からはオンディマンドで随時接続できるようにしています。
  • 提供者が情報提供しやすい仕組み
    「まめネット」導入以前は、診療情報を共有するには同じベンダーのシステムを使用する必要があり、相互連携を阻む大きな要因となっていました。そこで、「まめネット」ではSS-MIX(Standardized Structured Medical record Information eXchange)(*2)に基づいて診療情報の標準化を図りました。これにより、各病院が自由にベンダーを選定できるベンダーフリー化が実現しました。また、データの標準化によって、将来的には、全国の病院と繋げることや診療所からの情報提供も技術的に可能となります。
  • 患者が安心して利用できる仕組み
    「まめネット」では患者が安心して利用できるよう「まめネットカード」を作成し、患者から診療情報共有の同意を得ることとしています。「まめネット」では、閲覧してもよい医療機関を指定することができるため、意識低下といった緊急時を除き、患者本人が許可する医療機関以外に情報が漏れることを防ぐことができます。

このように、診療情報の「利用者」、「提供者」、そして「患者」の三者の利便性を最大限配慮した形で、全県において診療情報を共有する仕組みが確立されました。しかし、先に課題として触れましたが、補助金に頼っていては継続的な事業運営は難しいのが実情です。「まめネット」ではどのような工夫をしているのでしょうか?

5. 継続的な事業運営に向けて

  • 専門機関の設置
    島根県では、2010年6月に事業運営を担う専門機関としてNPO法人しまね医療情報ネットワーク協会を設立しました。同協会ではネットワーク基盤等の運用、管理、ガイドライン等の作成、普及啓発活動などの実働組織として機能するほか、県の調整・決定機関に対する提言や助言を行い、地域医療連携の情報化を主体的に推進します。これにより、病院や医師会への依存を減らし、より自律的に医療情報ネットワークを維持・拡大できるようになりました。
  • 公益性の高いインフラは県が負担、アプリは主に利用者負担
    島根県では、ネットワークと基盤システムは、県が整備運営費を負担し、その上に載っている連携アプリは、県が構築費を補助し、利用者が整備運営費を負担する費用構造としました(【図4】)。公益性の高い部分は県が負担し、利用者によって利用度合いが異なる連携アプリ部分は利用者にも負担を求め、利用度合いに応じた無駄のないシステム構築を目指しています。
  • 「応益負担」を原則とし、不公平感を解消
    「まめネット」では、診療情報の利用者である病院や診療所が、利用料を負担する仕組みとなっているのが大きな特徴です。連携アプリケーションのサービス毎に利用料が設定されています。また、利用料は医療機関の規模(ベッド数など)に応じて傾斜付けされており、全体として応益負担の原則のもと、不公平感が生じないよう設計されています。

【図4】システムアーキテクチャーと費用負担構造 システムアーキテクチャーと費用負担構造
(出典:しまね医療情報ネットワーク協会様ご提供資料)

6. 地域医療連携の充実に向けて

島根県では、このように仕組みを整備しましたが、地域医療連携を今後、充実させるためには、患者や地域のニーズへの対応が求められます。患者の生活動線に配慮した行政区域を越えた診療情報の共有、医療と介護の連携に向けた地域包括ケアにおける診療情報共有、そして、平時にも大規模災害時にも利用可能なクラウドサービス型の診療情報共有などが今後重要になると考えられます。

また、全国的に地域医療情報ネットワークを推進していくためには、各都道府県によるインフラの構築の整備・運用財源の確保や、地方財政措置が欠かせません。さらに、電子紹介状や電子処方箋の開示、診療報酬の改定や法改正など、医療情報を共有する上での法的な基盤整備のほか、連携データの標準化の推進、全国統一の連携規約やセキュリティ規約の整備など、システムの相互連携を進める国レベルでの制度づくりがより重要です。

このように島根県では地域医療連携の基盤として、全県で診療情報を共有する医療情報ネットワーク「まめネット」を確立しました。全県で各病院、診療所、患者などがN対Nの関係で参加し、利用者の応分負担によるサービスを提供する「まめネット」の仕組みは、地域医療情報ネットワークの維持・拡大に向けた新たな処方箋となるのではないでしょうか。

“Another Aspect”

診療情報連携システムのプラットフォームサービス化 ~1対NからN対Nの関係構築へ~

専門的な検査や医療を行う地域の中核病院へ患者や医師が集中する一方、過疎地域では医師不足による医療崩壊が問題となる中、「まめネット」は中核病院への軽度患者の集中を防ぎ、地域全体で効率的に医療を提供することを目的として整備された。それまで個々の医療機関に散在していた患者の診療情報を、患者を取り巻く医療機関で共有するため、患者を中心として地域全体で診療する体制が強化される。これは、診療所と中核病院のスムーズな連携だけでなく、緊急搬送時の診療情報閲覧においても効果を発揮する。

この「まめネット」をICTの側面から見ると、一般的には「業務システムをクラウドに移行した」と説明される。しかし、この取り組みの本質は診療情報連携システムを1対Nのクローズドなシステムから、オープンなN対Nの仕組みに変えたことにあるのではないだろうか。以前の1対Nの関係では、中核病院に対し周辺の複数の診療所が、中核病院の提供するシステムを利用するという関係であったが、「まめネット」のネットワークでは複数の中核病院と複数の診療所、薬局等その他医療機関が参加するN対Nのネットワークとなっている。

一般的に、N対Nの関係ではネットワーク全体で利用者が増えれば増えるほど、利用者全体の利益・利便性が向上する。N対Nのネットワーク的性質を持ったサービスは、普及率が高まるほどその価値が高まり、さらに利用者が増えていくという「正のフィードバック」の効果が表れると言われている。また、普及率がある水準(クリティカルマス)を突破すると、利用者が一気に跳ね上がることもある。

「まめネット」は、1対Nのクローズドなシステムから、N対Nのオープンな関係を持つプラットフォームサービスへと進化した。「まめネット」で中核となる病診連携のサービスを拡充するほか、病院と診療所だけでなく介護事業者、薬局など、患者を取り巻く様々な関係機関に対してサービスを提供し、地域包括ケアに対応することで、利用者を拡大して「正のフィードバック」を生み出し、地域医療の効率化を支える仕組みとして定着することが期待される。

注釈

(*1)連携カルテ : 「まめネット」上で病院と診療所の双方向型のデータ共有が可能な診療情報。「まめネット」では連携カルテに富士通のHumanBridge(富士通の地域医療ネットワーク“HumanBridge EHR ソリューション”)の機能の一部を利用している。

(*2) SS-MIX : 厚生労働省電子的診療情報交換推進事業

ICT事例の多様な価値を伝える“Another Aspect”

ICTは単なる「業務効率化の道具」から、「新たなビジネスや社会サービスを支える欠かせないインフラ」へと位置づけがシフトしてきています。企業が新たなビジネスや社会サービスを通じて価値を創造するには、そこに携わる一人ひとりが取り組みの背景や個社の事情を理解し、試行錯誤しながら共に作り上げていくことが、より重要になるのではないでしょうか。そこで、本コーナーでは、富士通や富士通総研の事例のみならず、広く世の中の先進的なICT事例をシリーズで取り上げ、その価値をご紹介します。各事例は、公開情報や取材を通じて明らかにした事例の概要と成果に、富士通総研の解釈“Another Aspect”を加えることで、試行錯誤や意識変革などの創意工夫や顧客や社会へのインパクトなどのICT事例の多様な価値をお伝えします。

シリーズ

(1) イオンアグリ創造株式会社様 農業の見える化による「DREAM」実現に向けて

(2) 地域社会におけるコーディネーター役を務めた金融機関の取り組み ~滋賀銀行様の地域協働による滋賀ファンづくり~

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【調査・研究】


鯉田 愛子(こいだ あいこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 ビジネス調査室 シニアリサーチアナリスト
ICTに関する調査のほか、公共分野における調査・計画策定支援業務に従事。