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  4. CSR視点で企業価値を向上させる ~社会経済的影響測定の戦略的活用~

CSR視点で企業価値を向上させる

~社会経済的影響測定の戦略的活用~

2014年3月11日(火曜日)

1. 拡大・深化するCSR

リーマン・ショック後の世界経済回復に歩調を合わせるように、近年、国際社会では、企業の社会的責任(CSR)に関する新たなコンセプトやガイドライン等が次々と公表されている。2011年5月に11年ぶりに改訂された「OECD多国籍企業ガイドライン」、そして同年11月に発効したISO26000(社会的責任に関するガイダンス)は、CSR経営の標準化を促している。また、マイケル・ポーターが提唱した、企業の利益最大化と社会課題解決の同時実現を図るというCSV(共有価値の創造)の概念は、CSRのあり方の議論に一石を投じたものとなっている。

CSR活動の情報開示にも新たな動きがある。2013年5月に7年ぶりの大幅な改訂が行われた「GRIガイドライン」は、2016年以降発行のCSR報告書に対して新ガイドラインの準拠を求めたものである。上場企業に非財務報告を求めた2003年のEU指令以降、財務報告とCSR報告の統合に対する関心も拡大している。2013年12月にはIIRC(国際統合報告委員会)が「国際統合報告フレームワーク」を公表したことで、日本でも、統合報告書の作成を検討する企業が増えそうだ。

最近のCSRを巡る潮流を整理すると、以下の3つに要約できる。

  1. ステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションの重視
  2. バリューチェーンの重視
  3. CSR活動と本業の融合

企業が考慮しなければならないCSRの範囲は、拡大・深化する一方である。もはやCSRは、リスク管理や社会貢献を目的とした特定部署の活動ではない。CSRの取り組みを全社的な課題としながら、いかに戦略的に企業価値の向上につなげられるかが問われている。

2. CSR視点のパフォーマンス評価

CSRの視点から企業活動のパフォーマンスを評価する取り組みが注目されている。企業活動は、社会に対して必ず何らかの影響を与える。例えば、雇用の創出であったり、税金の納付であったり、製品・サービスの提供や物的インフラの整備、技術移転、人材開発などという様々な形で、人々の生活水準や資産、能力、機会などに影響を及ぼす。企業が、事業活動に伴う影響を測定できれば、良い影響を社会に与えながら、自社の利益を生み出す取り組みを強化することができるはずである。

すでに、企業活動が社会や経済に及ぼすインパクトを測定・評価するためのツールが次々と提案されている。しかし、それらのツールは開発目的や測定対象・手法が様々で、利用者にとってわかりにくいのが実情である。

富士通を含む大手グローバル企業約200社が参加するWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議:World Business Council for Sustainable Development)は、2013年2月に、企業ニーズに合致した社会経済的影響の測定ツールを選択するためのガイドを公開している((*1))。このガイドは、まず、社会経済的影響測定ツールの多面的な展望を明らかにしたうえで、企業向けに開発された代表的な(WBCSD独自開発のツールを含む)10種類の測定ツールの特徴を比較・分析して、企業にとって利用可能な測定ツールを適切に選択することを手助けしようとするものである(【表1】)。

【表1】企業向けの社会経済的インパクト測定ツール
【表1】企業向けの社会経済的インパクト測定ツール

出所)WBCSD(2013)「社会経済的影響の測定:企業向けガイド」を基に富士通総研作成

3. 社会経済的影響測定ツールの活用

このガイドには、影響測定ツールを活用した事例が紹介されている。例えば、フランスのアクゾノーベル社は、「MDGスキャン」を用いて、新興成長市場における自社の社会経済分野での貢献を包括的に評価した結果、将来性の高い領域として栄養強化製品の販売を優先させる意思決定につなげることができた。3,500万人が栄養強化製品を消費したという実績から、企業収益だけでなく、幼児の鉄分不足解消という社会課題解決に貢献していることを示している。

ジンバブエのAICOアフリカ社は、「IGD影響測定フレームワーク」を用いて、綿花栽培業者に対する信用制度と栽培演習プログラムの成果を評価している。その結果、過去10年間の平均価格の3倍の高品質の収穫物生産が実現していることが判明した。つまり、サプライヤー向けの信用制度と演習プログラムが、栽培業者の収入増加による生活向上と、国際市場での自社の高級木綿販売シェア拡大の双方に、貢献していることを確認できたのである。

また、フィリピンのCARD銀行は、「貧困脱出指標」を用いて、顧客の貧困状態が貯蓄能力や貯蓄製品の利用可能性に影響を与えないという分析結果を得た。これによって、これまで有望市場と考えていなかった低所得者層向けに、最低預金残高引き下げ商品の開発や、顧客先へ出向く預金集金サービスを用いたマーケティングにつなげることができたと言う。

4. まずは社会経済的影響測定ツールの試行を

企業によって測定ツールを活用する目的は様々であろう。事業許可の取得や維持、行政からの規制・インセンティブなどの支援獲得、バリューチェーンの強化、さらには製品やサービスのイノベーション促進など、目的を明確にしたうえで、最適な測定ツールを選択することが重要である。ツール活用目的の明確化は、CSR活動の目的を問い直すことにもなる。

社会経済的影響の測定が目的を超えた効果を生むかもしれない。例えば、影響を測定・評価する過程において、関連部署内でCSRの観点を含めた議論を深めることで、リスク対応からビジネス機会の創出に至る新たな気づきを得られることが期待できる。また、測定結果をステークホルダーと共有しながら対話を行うことで、自社の事業活動への理解を深めるとともに、ステークホルダーとの新たな協働の可能性が芽生えるかもしれない。さらに、お客様が抱える様々な課題解決を提案する際にも、単なる財務パフォーマンスだけでなく、社会や経済に対する影響を含めて検討することで、提案力の強化につながる可能性もあるだろう。

残念ながら、日本企業が包括的に社会経済的影響を測定した事例は見当たらない。しかし、CSR活動を戦略的に推進するために、CSR視点で自らの活動に伴う影響を測定することは極めて有効なはずである。まずは、企業価値向上のための戦略的検討の第一歩として、影響測定を試行しながら自らの価値を見つめ直すことが求められる。

注釈

(*1) : WBCSD「社会経済的影響の測定:企業向けガイド」日本語訳版

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生田上席主任研究員

生田 孝史(いくた たかふみ)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
1990年 東北大学大学院修士課程修了、(株)長銀総合研究所入社、
1998年 米国デラウェア大学大学院修士過程修了、(株)富士通総研入社
専門領域:エネルギー・環境政策 、環境・CSR関連経営戦略、環境ビジネス・関連市場動向、環境シナリオ・ビジョン、グリーンIT