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  4. 成長戦略の主役の企業がこれから行うべきこと

成長戦略の主役の企業がこれから行うべきこと

2014年2月14日(金曜日)

1. 円高是正の今こそ、成長戦略の主役である企業の出番

アベノミクス政策も開始から約1年が過ぎ、ある程度の成果が見えてきた。効果が顕著なのは極端な円高からの是正に弾みをつけたことで、企業業績も好転し、株価の上昇も進んだことだ。しかし、現在円ドルレートは購買力平価近辺に戻っており、この視点から今後一層の円安が続くことは考えにくい。加えてこれ以上の円安は、輸入品の価格上昇だけでなく、一昨年までの過度の円高が日本の製造業の国内生産拠点からの撤退を進めてしまったように、産業に何らかの悪影響を与える懸念が強い。2007年頃の過度の円安で、自動車関連産業は国内生産拠点を増強したが、その後の円高局面で長く対応に苦労した苦い経験を思い起こさせる。適正な状況から外れた歪んだ状態は、いずれ悪影響を伴った揺り戻しに見舞われるものだ。

それ以外では目に見える成果を見い出すことは難しいのだが、そもそもアベノミクスの発端となった日本の課題は、企業が主役となって競争力を取り戻し、20余年続いた低成長から脱却することであったはずだ。それは政府がいくつかの政策を打ち出せば短期間に成し遂げられるという類の課題ではない。もちろん、規制緩和等を進めて、企業に自由な競争活動を保障する改革は重要だが、長年解決できなかった課題が今残っているわけで、急な解決を期待する方が無理な話である。数少ない効果ではあっても、為替が購買力平価近辺に戻り、為替に関しては中立無風になり、多くの企業の業績が向上したこの時期を捉えて、企業は為替に頼らなくてもよい盤石の競争力を強める戦略をじっくり練り直すことが肝要だ。

2. 成長戦略に不可欠な企業の研究開発活動:その効率は低下の一途

日本企業が、今後競争力を持って成長して行くためには、成熟した既存事業から成長性が高い新規の事業分野へと事業構造を転換し続ける能力を持つことが重要になる。その実現にとって重要な活動の1つと期待されるのが、企業の研究開発活動であろう。では、成長戦略をけん引するはずの日本企業の研究開発活動の成果の実態はどうなっているのか? 日本企業の技術力は強いと喧伝される中では、多くの方は、日本企業の研究開発活動もうまくいっていると、漠然と思われているかもしれないが、結論から言うと、競争力獲得に向けた努力は続けられているものの、残念ながら成果は芳しくないというのが実態なのである。

まず研究開発の効率が下がり続けている。もちろん日本企業が、競争力の源泉となる重要な研究開発活動をこの間さぼっていたのかというと、決してそうではない。むしろ逆に、他国以上に研究開発費を投じていた。例えば、国毎の研究開発活動の活発度は対GDPで比べた研究開発費比率で語られることが多いが、近年(2009年)、韓国にトップの座を明け渡したものの、ライバル先進国企業と比べたら、今でもかなり高い値を維持し続けてきた(【図1】)。

【図1】国別の対GDPで見た研究開発費の推移(%)
【図1】国別の対GDPでみた研究開発費の推移
(出所:平成25年版 科学技術白書)

また、実際の研究開発費の大きさでも、購買力平価ベースで見て、米国、中国に次いで大きい金額を投じてきた。中国に追い抜かれたのも、直近(2009年)のことである。しかし、その結果、生み出される研究開発費1単位あたりの粗利や付加価値の値はと言えば、近年継続的に低下し続けているのが実態なのである(【図2】)。

【図2】1単位の研究開発費が産む粗利や付加価値は低下が続く
【図2】1単位の研究開発費が産む粗利や付加価値は低下が続く
(出所:財務省、総務省資料より富士通総研作成)

3. 企業の研究開発、何が問題なのか? (1)成果指標のとり間違い

したがって、研究開発のやり方・マネジメントのあり方に、何か問題があると言わざるを得ず、早急にそのやり方を変える必要がある。競争力を強めるはずのせっかくの多額の研究開発費が利益に結びつかず、無駄な投資になっているのは避けなければいけない。いったい何が問題なのか?

第一に思い当たるのは、研究開発パフォーマンスを測る指標が間違っていると考えられることだ。どういうことかと言えば、ほとんどの日本企業は、研究開発費を対売上高比で決めている。つまり、研究開発は売上高に貢献すれば良い、と考えている節がある。そうした視点で改めて指標を眺めると、日本企業の研究開発費の売上高比は驚くほど一定な値を維持し続けている(【図3】)。

【図3】売上あたりの各指標(%)
【図3】売上あたりの各指標(%)
(出所:財務省、総務省資料より富士通総研作成)

これで見ると、確かに研究開発費は売上高には貢献しているとみなせる。しかし、少し考えて見ればわかるが、研究開発費は本来売上高向上だけでなく、同時に売上原価の低減、すなわち粗利(売上高ー売上原価)を上げることにこそ貢献すべきなのだ。または、付加価値向上に貢献すべきと言っても良い。研究開発活動で売上が上がっても、売上原価がそれ以上に増加したら事業としてのメリットは薄れてしまう。実際、【図3】で見られるように、近年は傾向的に売上高に占める粗利率が急速に低下し続け(売上原価率が上昇し)、日本企業では明確に研究開発費の対粗利、対付加価値指標は低下し続けているのだ。しかし、粗利や付加価値と対応して研究開発費をチェックする視点がない日本企業は、この研究開発の効率低下を見過ごし、是正すべき適切な対応が取られて来なかったと考えられる。

産業別に見ると、まず1995年以降、デジタル化・オープン化・モジュール化・インターネット化と、次々と日本企業得意のすり合わせ型モノつくりのやり方を弱める技術革新が継続したエレクトロニクス産業で、効率低下が顕在化した。この産業は日本で最も多額の研究開発費を使用しているだけに、日本全体として受けた研究開発効率低下の悪影響は大きかった。そして、この波は、現在、エレクトロニクス産業を超えて多くの産業に波及している。日本企業は、早急にこうした非効率化の現実を認識し、食い止めるための手立てを講じる必要がある。

【図4】産業別1単位の研究開発費が生み出す付加価値額の推移
【図4】産業別1単位の研究開発費が生み出す付加価値額の推移
(出所:財務省、総務省資料より富士通総研作成)

4. 企業の研究開発、何が問題なのか? (2)新規事業創出を中央研究所に任せ過ぎ

第二に考えられるのは、日本企業の新規事業創出マネジメントに関する問題である。

日本では、自社の事業構造を次々に新たな強い事業に新陳代謝して行くのは、主として本社の中央研究所の役割とみなされることが多い。1990年までの成長期には、確かにそのような形で多くの新規事業が中央研究所から生まれた。当時のように市場やニーズが明確で需要量が多かった時代には、技術の発明が即、製品や事業になり易かった。また当時は多くの会社に、事業化の信念が強いバイタリテイ溢れる研究者・技術者がいたもので、そうした研究者・技術者がけん引して、中央研究所発の事業が、本社の事業戦略とは独立に生まれ易かった。

しかし近年、研究開発活動と事業に仕上げる活動との間には、かなりギャップが生じて来ている。現在は事業を成功させる要因が、単に技術や製品の優劣だけでなく、顧客との関係性の構築や、もっと広く社会との新たなエコシステムを構築することなどが大きな要素となってきた。技術開発と事業・市場をつなぐには、研究開発活動とは違う能力が求められるようになってきた。それなら、研究者から技術を引き継いで事業化するのが上手い人材を会社があてがえばいいだろうとなるが、話はそう簡単ではない。事業化に長けた有能な人材を抱えた既存の事業部が、その事業部の業績を左右する虎の子人材を簡単に手放すわけがない。すでに獲得した地位や評価を捨てて、成功するかどうかわからない、この先どうなるかわからない新発明の製品の行方に賭ける有能な人材は多くはないだろう。結局は、新技術を発明し、事業化の心意気は熱いが、ビジネスに関する知識が少ない研究者が、あてがわれた事業化に不慣れな支援者と、その技術を抱えて悪戦苦闘し、結局は事業化に至らず失敗する、という事例が多く見られるようになっている。結果、成果に結びつかず、研究開発の投資効率の低下を引き起こしている可能性が高い。

このように、新規事業創出の状況が変化しているのに、未だに中央研究所の研究者に対し、「頑張って新規事業を生め」と叱咤激励するだけの会社が多いのではないだろうか。全社が一体となって、事業戦略と技術戦略を連動・寄り添わせて、事業化への確率を高める工夫がないと、企業の競争力も成長も得られない。

5. 企業の研究開発、何が問題なのか? (3)新規事業創出では、もっとM&Aを活用する

第三に考えられるのは、これも新規事業に関わるものであるが、日本企業が新規事業を自前の中央研究所の技術から生み出そうという気持ちが強過ぎることである。海外企業が社外経営資源をダイナミックなM&Aで購入し、それと自社中央研究所の技術を上手く融合させて、短期間のうちに新規の事業に転換を図ったり、新規事業を上手く創出するのと比べると、日本企業のM&A活用は、そのスケール、頻度とも小さい。これは従来から自前主義の課題というテーマで語られてきたことだが、近年、海外企業との差はますます大きくなってきているように見える。もちろん、M&Aで新技術を買ったりすれば、M&Aで買った技術と競合する社内の技術者と摩擦が生じないわけではない。しかし、こうした場合でも、海外の先行事例を見れば、研究所とは別の全社組織がM&Aを決定したり、より上位の事業戦略が優先され、毅然とM&Aが実行されている。同時にM&Aの対象会社を前もってしっかり調べてから購入することで、自社との相性を事前に合わせ、購入してからの人材の流失を防ぐなど、M&Aに関するノウハウの蓄積も多く、きめ細かい。自社中央研究所発の技術の進展を見ながら、どのタイミングでM&Aによって不足技術を補うかといったやり方も、もちろんすべて成功しているわけではないが、先行しているようには見える。

このように、研究開発費の投資効率を上げるためのいくつかのポイントを挙げてきた。こうした点を一つひとつ変革しながら、せっかくの日本企業の多額の研究開発投資を有効に使って、海外に高い価格で売れるような商品や事業を産み続け、アベノミクスが目指す事業成長に向けた主役:企業としての役割を十分に発揮すべき時である。

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【調査・研究】


安部 忠彦(あべ ただひこ)
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。
(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、現在、(株)富士通総研 経済研究所エグゼクティブ・フェロー。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。