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“Another Aspect”(2)地域社会におけるコーディネーター役を務めた金融機関の取り組み

~滋賀銀行様の地域協働による滋賀ファンづくり~

2014年2月17日(月曜日)

滋賀県では、株式会社滋賀銀行様(以下、滋賀銀行)が中心となり、地域が一丸となった「三方よし」の滋賀ファンづくりを進めることで、観光誘客の拡大による地域経済の活性化に取り組まれています。

1. 滋賀銀行の観光への取り組み ~「三方よし」を目指して~

地域金融機関として永続的に発展していくためには、地域経済活性化は不可欠であり、地域密着型金融(*1)の持続的な推進に取り組んでいくことが重要と、以前から言われています。

滋賀銀行では、従来から地域密着型金融に様々な形で取り組んできましたが、2008年、観光庁の設立をきっかけに観光分野にも取り組むことになりました。その責任者となった営業統轄部法人推進グループ次長の福井幹夫様(役職は当時)は、「観光業は、宿泊、土産、農水産業、製造業など様々な産業に連携を促し、地域に大きな経済効果をもたらす。少子高齢化や人口減少社会を迎える中で、観光振興による人口交流の拡大という波及効果もあり、観光によるまちづくりや雇用創出にも取り組まなければならないと考えた。」と振り返ります。

さらに、「行政による取り組みのお手伝いをするのではなく、自分たちが旗振り役となり、地元企業や行政を巻き込むことで、観光による地域経済活性化を目指したい。」と考えました。地域金融機関の強みである、行政や地元企業、住民など地域の人的ネットワークを活用することで、滋賀銀行が「地域社会のコーディネーター」としての役割を果たそうと考えたのです。

最近、一部の地域金融機関では、地域密着型金融の取り組みの一環として、中心市街地の活性化や特産品の販路開拓など、営業基盤とする地域の活性化に主体的に取り組むことで、単なる資金供給者にとどまらず、地域の中心的な役割を担っていこうとしています。滋賀銀行は、このフロントランナーとして、2011年、観光で地域活性化を支援する「滋賀の魅力発信ファンド」設立と同時に、今回の取り組みも開始しました。

今回の取り組みでまず着手したのが、組織づくりでした。2011年、滋賀銀行が旗振り役となり、官民が連携して、滋賀県の観光の課題の共有から解決方策の検討まで行う「滋賀着地型観光研究会」が発足しました。研究会の中核メンバーは、滋賀銀行をはじめ、滋賀県庁、公益社団法人びわこビジターズビューロー(以下、びわこビジターズビューロー)、富士通です。そこに、鉄道、船等地域交通会社、旅行・宿泊業者、観光物産業者、農業・製造業者、商店街等15社の地元企業・団体が参画しました。

研究会発足にあたり、滋賀銀行が心を砕いたのが、どの企業にも地域にも利益をもたらすというWin-Winの関係を構築し、持続的な観光の取り組みをしていくことでした。研究会でも、単なる集まり・話し合いの場ではなく、それぞれが知見や得意分野を活用させて、観光ビジネスを検討し、地域一丸となって地域経済活性化を目指していく関係性を目指したのです。びわこビジターズビューローが観光物産業務に対する知見の提供、滋賀県庁が地域課題を踏まえた観光のあり方の提示、富士通が埋もれている観光資源を全国的に認知させるための情報発信方策の提案というように、それぞれの得意分野やノウハウを活用できるよう、滋賀銀行がとりまとめ・調整役を務めました。

そして、観光資源による誘客、観光客の消費拡大、さらに、観光を通じて、滋賀のブランドイメージを高め、最終的には滋賀のファンづくりを進めることで、宿泊客やリピーターを増やし、持続的な地域経済活性化につなげていくことを目的としました。観光を通じて地元企業の売り上げが伸びる、観光客には滋賀の魅力を知っていただき、喜んでいただく、そして地域全体が元気になるという、「三方よし」の精神(「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」:売り手と買い手が共に満足し、また社会貢献もできるのが良い商売であるという近江商人の心得)に基づいた取り組みを目指したのです。

2. 滋賀観光の課題解決に向けて ~キーワードは「知る」「動く」「使う」~

研究会では、まず観光の課題の共有化を図りました。日本最大の湖である琵琶湖や、ゆるキャラ「ひこにゃん」がイメージキャラクターを務める国宝・彦根城、世界文化遺産に登録されている「比叡山延暦寺」など、全国的に知られた観光資源がある滋賀県は、国際観光都市である「京都」、「奈良」に近く、交通アクセスにも恵まれています。

加えて、NHK大河ドラマ等が追い風となり、2011年には、県全体で延べ観光客数4,800万人弱と過去最大となりました(滋賀県観光入込客統計調査)。全国的に見ても16位(京都、大阪、神奈川、福岡他2県は集計中等のため除外)と、まずまずの結果となっています(観光庁共通基準による観光入込客統計2011)。しかし、さらなる観光客誘致の可能性の検討と現在の観光による経済効果を検証すると、主な問題が3つ浮かび上がって来ました。

1つ目は、滋賀への観光客の多くが、県内か近県からにとどまっていて、全国から観光客が呼び込めていないことです。旅の魅力の1つに、その土地ならではの食がありますが、福井様は「近江牛等優れた産品があるが、近畿でしかブランド化されていない。全国的な認知度を高めるために産業間連携を行い、PRしていく必要がある。」と危機感を募らせていました。

2つ目は、1人回当たりの観光消費額が宿泊客に比べ1/3程度にしかならない日帰り客が多くを占め、観光の経済効果が少ないことです。滋賀観光の魅力が十分伝わっていないために、短期的な滞在にとどまっていると考えました。3つ目は、琵琶湖により県内が寸断されるという地理的な影響もあり、滋賀の玄関口である「大津」や、新幹線の停車駅のある米原を含む「湖北」地域に観光客が集中しています。旅行会社企画のツアーや個人旅行では、交通の利便性が優先されるという背景もあると考えました。

このような問題から、研究会では、次の3つの課題と解決に向けた方向性をとりまとめました。

  • 情報発信の強化
    全国的に知られていない、埋もれている観光資源を積極的に情報発信し、滋賀観光の魅力を県外に強くアピールすることで、少しでも多くの人に滋賀を訪れてもらうきっかけを作る。
  • 産業間連携の推進
    農協や漁協などの生産者団体、商工会議所、商工会、観光協会などの経済団体の積極的な関与による地域一体となった連携により、観光の大きな魅力であるその土地でしか味わえない食を全国的にPRし、消費拡大に努める。
  • 地域間連携による着地型観光への取り組み
    近年の観光客が求める「その土地ならでは体験・交流」のニーズを満たし、地域全体に観光誘客を図るために、地域を良く知る地域の多様な主体がアイデアを出し合って「着地型観光(*2)」に取り組む。その中で、大津や湖北地域に集中している観光客を、滋賀県が推進している「ビワイチ」(滋賀県庁が提示している滋賀観光の基本コンセプト、琵琶湖を一周するという意味)というコンセプトを具現化し、琵琶湖を中心に周遊させ、県内全域に誘客していくための仕組みを検討する。

以上、3つの課題を踏まえ、積極的な情報発信によって、滋賀観光の魅力を知る機会を提供し(「知る」)、琵琶湖を周遊する等県内各地に動いてもらう仕組みを作り出し(「動く」)、様々な産品や宿泊等で多く消費する場面につなげる(「使う」)、というストーリーを基に、キーワードを「知る」「動く」「使う」としました。

3. スマートフォンを使って滋賀ファンづくり

取り組みにあたっては、文化庁文化芸術振興費補助金(2012年度からの3年事業)を活用し、実証実験を行いました。実証実験では、キーワード「知る」「動く」「使う」に沿った取り組み・仕組みを作るとともに、その有効性の検証を行うため、モニターツアーを実施しました。

【図1】「知る」「動く」「使う」をキーワードとした実証実験取り組み内容 「知る」「動く」「使う」をキーワードとした実証実験取り組み内容
(出典:富士通提供資料)

実証実験1年目の昨年は、従来にはない、新しい滋賀観光の魅力を「知る」機会を作るため、滋賀県の公式観光サイトを構築し直しました。具体的には、「ビワイチ」観光というコンセプトを盛り込み、コンテンツの整理や観光情報のデジタル化により、観光スポット(文化遺産や建築物、グルメ等)やイベントの紹介を分かりやすく、興味を引く形に集約(「近江建物探訪」や「白州正子の愛した近江」等)するとともに、パソコンだけでなく、スマートフォンからも参照できる形としました。このことにより、着地型観光の準備が整いました。現在では、実際の観光客の多くがこのサイトを参照していると言っており、「知る」機会の提供から観光誘客につながった結果となっています。

2年目の今年は、観光客が琵琶湖を周遊する等、県内で「動く」仕組みとして、モバイルスタンプラリーを用いることにし、その有効性を検証するモニターツアーを実施しました。モバイルスタンプラリーは近年、街の周遊を促す効果があると各地で導入されているものです。具体的には、「スタいこねっと」というスマートフォンのGPS機能を活用した電子スタンプラリーシステムを活用して、滋賀向けに改良したスマートフォンアプリ「びわ探」を構築しました。

アプリの主な機能の1つ目は、観光地をゲーム感覚で楽しみながら巡ることができるスタンプラリー機能で、次回滋賀に来た時には、金券(電子チケット)に還元することができ、リピーター率の増加に寄与できる形としています。2つ目は、観光情報の提供および周遊コースの推奨機能で、滋賀県の公式観光サイトと連携し、観光情報の検索やお勧めのイベント情報を提供しています。現在、観光客が少ない湖西や湖東地域についての観光情報も充実させるとともに、「ビワイチ」のコンセプトに基づいた琵琶湖を周遊させる観光ルートを、Googleマップとの連動によって、推奨・案内してくれます。

3つ目は、金券機能です。観光客が行きたいと願う地元で愛される「通」のお店は、こじんまりした、高齢者が経営しているものが多いという実情がありますが、Suica等非接触カードを活用する場合には、店舗側に高額専用端末の設置や取り扱い方法を知っておく必要があり、また紙ベースの金券だと、紛失や利用実績が不明という課題がありました。これらの課題を解決したのが、今回搭載した金券(電子チケット)機能で、専用端末は不要、紙ベースのチケットがデジタル化された、ある意味、非常にアナログなものであるため、専門知識も要らず、扱いやすいのが特長です。さらに、デジタル化したことで、利用実績を店舗に提供することによる業務効率向上も見込めるという利点もあります。

スマートフォンアプリの有効性および観光客の反応の確認のため実施されたモニターツアーは、大手鉄道グループの旅行会社の協力を得て、全国から参加者が集まりました。着地型観光を取り込んだこのツアーでは、「ビワイチ」のコンセプトを盛り込んだ、推奨観光ルートも提示しています。なお、研究会に参加した企業・団体だけでなく、金券機能が使用できる店など、県内の大手企業から中小企業まで参加し、地域が一丸となった取り組みとなりました。

【図2】モニターツアー・パンフレット
モニターツアー・パンフレット
(出典:びわこビジターズビューロー様提供資料)

モニターツアー終了後実施した、今回のスマートフォンアプリを活用した観光についてのアンケート結果では、ほとんどのツアー参加者が高評価で、「今後利用したくない」との回答は1割未満にとどまりました。特に評価が高かったのがスタンプラリー機能で、「ゆるキャラ集めに夢中になった」、「能動的にツアーに参加できた」といった意見も聞かれ、今回のモニターツアーに協力した企業・団体は一様に今後の手応えを感じられたとのことです。

4. 滋賀ファンづくりに向けた歩みを強める滋賀銀行

滋賀銀行が旗振り役となり、組織化された「滋賀着地型観光研究会」を中心に、滋賀を熟知する地域の多様な主体がアイデアを出し合い、全国的にあまり知られていない観光資源の魅力を高めることで、滋賀ファンづくりの第一歩が始まりました。

3年目の2014年は、インバウンド観光(訪日外国人旅行)の増加に対応するため、スマートフォンアプリにおける多言語・多音声の対応やAR(*3)への取り組みを進め、コンテンツの利用のしやすさ、ビジュアルによる親しみやすさを追求する予定とのことです。

観光による消費は、観光・旅行関連産業へ直接的な経済効果をもたらすとともに、地域の幅広い産業へ波及効果をもたらすと期待されています。そのため福井様は、今後も滋賀銀行が先頭に立って、地域協働で、観光を軸とした地域経済活性化に向けて邁進すると力強く語られました。

“Another Aspect”

地域におけるコトづくりのプラットフォーム

観光とは、建物や施設・その土地ならではの景色あるいは食等観光資源そのものを見る・楽しむということが基本であろう。しかし、今回の取り組みでは、観光地の紹介に「白州正子の愛した近江」という設定を付けたり、近江の姫たちを紹介して観光ルートを推奨したりするなど、観光資源にストーリーをつけることで、観光を「モノ」から「コト」に変化させた。

これは、観光資源を見るというサイトシーイングから、観光資源を通して物語を楽しむという「ストーリーリーディング」へ変化させることで、観光客の感性に訴えかけ、想像力をかき立てるように仕向けていったということだ。

一般的に「この景色はこの角度から見るとよい」とか「この施設はすごい」といった観光情報は、観光客自身の感性を無視して、見方を押し付けることがある。このような受動的な観光の楽しみ方から一歩進んで、今回の取り組みでは、ストーリーという要素だけを提供し、観光客自身がイマジネーションを働かせ能動的に観光を楽しめる環境を整備した。つまり、単なる物見遊山ではなく、観光客自らが観光の価値を見い出すという本来の楽しみ方を発見させた取り組みと言えるのではないか。

このような取り組みができた背景には、従来は自治体主導で行われてきた観光振興が、今回は企業が起点となっただけでなく、複数の企業等による共創型で取り組まれたとことがあると考える。本事例では、滋賀銀行が旗振り役となり、多くの地元企業や団体等を巻き込み、それぞれが得意分野やノウハウを発揮できる場として、「滋賀着地型観光研究会」が創設された。

この「場」は、地域経済活性化に向けた継続的な取り組みができる土台となり、滋賀県における観光振興を下支えしている。さらに言えば、この共創の「場」は、観光だけにとどまらず、他分野の企業や組織・個人の参入を促すことで、地域のブランド力を高める、地域のコトづくりのプラットフォームとして機能していくことも期待できるのではないか。この「場」をさらに活用することで、様々な地域の「モノ」を「コト」に変化させ、滋賀地域のさらなる発展が遂げられる可能性があると考える。

注釈

(*1)地域密着型金融(リレーションシップバンキング) : 金融庁が推進している金融機関の経営手法の1つで、長期的に継続する取引関係の中から、金融機関が借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て融資を実行するということ。

(*2) 着地型観光 : 地元住民を地域外の観光地に送客する従来の「発地型観光」とは異なり、地域が、自分たちの持つ観光資源を活用して、新しい旅行ニーズを生み出し、観光誘客を図る仕組み。観光庁も推進している。

(*3) AR(Augmented Reality、拡張現実) : ディスプレイに映し出した画像に、バーチャル情報を重ねて表示することで、より便利な情報を提供する技術。例えば、場所や物の説明を文字や音声で行うなど、現実を拡張する手段として使用される。

ICT事例の多様な価値を伝える“Another Aspect”

ICTは単なる「業務効率化の道具」から、「新たなビジネスや社会サービスを支える欠かせないインフラ」へと位置づけがシフトしてきています。企業が新たなビジネスや社会サービスを通じて価値を創造するには、そこに携わる一人ひとりが取り組みの背景や個社の事情を理解し、試行錯誤しながら共に作り上げていくことが、より重要になるのではないでしょうか。そこで、本コーナーでは、富士通や富士通総研の事例のみならず、広く世の中の先進的なICT事例をシリーズで取り上げ、その価値をご紹介します。各事例は、公開情報や取材を通じて明らかにした事例の概要と成果に、富士通総研の解釈“Another Aspect”を加えることで、試行錯誤や意識変革などの創意工夫や顧客や社会へのインパクトなどのICT事例の多様な価値をお伝えします。

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(1) イオンアグリ創造株式会社様 農業の見える化による「DREAM」実現に向けて

(3) 診療情報ネットワークの位置づけを変える島根県様「まめネット」の取り組み

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渡邉 優子(わたなべ ゆうこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 ビジネス調査室 シニアリサーチアナリスト
自治体や中央省庁における計画策定支援および行政経営改革や地域経済活性化に関わる調査・研究に従事。