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  4. “Another Aspect”(1)イオンアグリ創造株式会社様 農業の見える化による「DREAM」実現に向けて

“Another Aspect”(1)

イオンアグリ創造株式会社様 農業の見える化による「DREAM」実現に向けて

2014年2月7日(金曜日)

ICT事例の多様な価値を伝える“Another Aspect”

ICTは単なる「業務効率化の道具」から、「新たなビジネスや社会サービスを支える欠かせないインフラ」へと位置づけがシフトしてきています。企業が新たなビジネスや社会サービスを通じて価値を創造するには、そこに携わる一人ひとりが取り組みの背景や個社の事情を理解し、試行錯誤しながら共に作り上げていくことが、より重要になるのではないでしょうか。そこで、本コーナーでは、富士通や富士通総研の事例のみならず、広く世の中の先進的なICT事例をシリーズで取り上げ、その価値をご紹介します。各事例は、公開情報や取材を通じて明らかにした事例の概要と成果に、富士通総研の解釈“Another Aspect”を加えることで、試行錯誤や意識変革などの創意工夫や顧客や社会へのインパクトなどのICT事例の多様な価値をお伝えします。

イオン株式会社様のプライベートブランドの農作物を提供するイオンアグリ創造株式会社(以下、イオンアグリ創造)様では、ICTを活用し、農業を「見える化」することで、全く新しい農業スタイル確立に取り組まれています。

1. イオンアグリ創造の事業概要

牛久農場(2013年5月)

 牛久農場(2013年5月)
 出典:イオンアグリ創造株式会社様ご提供資料

イオンアグリ創造は、2009年7月10日に設立。イオンが生産から店頭まで一貫して責任を持つ、プライベートブランドの農作物を提供しています。現在は、直営12農場の運営と、イオンアグリ創造の農業の仕組み・考え方を共有する農家への生産委託を実施しており、地域の方々とともに農業を通じてふれあいながら、日々の農業事業に取り組んでいます。

2. 会社設立時に設定した課題

会社を設立した当時、農業従事者の高齢化が進むといった農業を取り巻く環境変化を踏まえ、これまで小売として培ったノウハウや最新技術を活かした生産性の高い近代農業を実現し、「安全・安心な商品を合理的な価格で購入したい」というお客様のニーズに応えること。そして、これによる地域における次の農業の担い手の育成、雇用創出。生産現場に入り込み生産原価を詳らかにすることでイオングループのバイヤーの育成につなげるため、個人世帯で農業を営む従来の農家ではなく、企業が農業を行う「企業農業」を、以下の課題を設定し、開始しました。

【イオンアグリ創造が取り組むべき課題として設定した課題】
  • 農産商品のプライベートブランド化を実現し、安全・安心で合理的価格の商品を安定的に供給することで、お客様満足を増大
  • 地域における農業の担い手の育成、雇用創出を通じ、地域社会の活性化に貢献
  • 直営農場で最新技術や小売の科学を活用した生産性向上に取り組むことで、収益性の高い近代農業を実現
  • 生産現場に入り込み、製造原価を詳らかにすることで、イオングループのバイヤーの育成につなげる。また、店舗担当者やお客様対象に農場視察を実施し、生産現場への理解を深め、販売に役立てる。

このように課題を設定したものの、設立当初は設定した課題に取り組む以前に、企業農業を実施するための環境整備から取り組まなければならない状況でした。

3. 全員素人で始めた企業農業の道のりと見える化のきっかけ

参入前の牛久の耕作放棄地(2007年冬)

 参入前の牛久の耕作放棄地(2007年冬)
  出典:イオンアグリ創造株式会社様ご提供資料

イオンアグリ創造は設立当初、イオンの店舗で家電を販売していた販売員等、農業に関して全く素人のメンバーが集まり、耕作放棄地を借り受けて耕作をスタートしました。農場運営は、茨城県牛久市で開始しましたが、開始当初から、困難に直面。「従業員がトイレや食事をする場所もなく、農業を行うどころではなかったのです。」と、イオンアグリ創造代表取締役社長福永庸明氏は振り返ります。

通常、農地は農家の自宅の近くにあるため、トイレや食事をする場所等に困ることはありません。企業農業においては、まずこういった施設を用意し、従業員が農業に専念できる環境整備が必要とされたのです。しかし、行政によっては、農地にトイレを置いてはいけないというところもありました。そこで、粘り強く交渉を重ね、企業農業に対する制約を1つひとつクリアして環境整備を進めていきました。さらに、今後の事業拡大も見据え、グローバルG.A.P(*1)を取得し、世界標準に沿った環境を整備したのです。

イオンアグリ創造では、環境整備だけでなく、地域コミュニティとの連携の重要性も実感。農業を一度断念されたシニアの方等から耕作放棄地を提供いただくだけでなく、農業事業に参加いただくといった形で地域社会の活性化に貢献しつつ、徐々に事業を拡大していきました。

このように、一歩一歩、企業農業の歩みを進めてきたイオンアグリ創造で、初めてキャベツができました。ここまで苦労を分かち合ってきたみんなで感動していた矢先、草取りの際にキャベツの葉に傷ができ、そこから雨水が入ったことが原因で病気が蔓延。感動から一転、キャベツの収穫を諦めざるを得ませんでした。

「これを機に、イオンアグリ創造では、勘と経験の無い素人が農業を行うにはデータを積み上げるしかないと考えました。」と、福永氏は見える化のきっかけを語られます。そして、兼ねてから、イオングループのバリューチェーン基盤構築を一緒に進めてきた富士通とICTを活用した農業の見える化の検討を始めたのです。

4. 企業農業の見える化の意義と実践

イオンアグリ創造では、過去の苦い経験を踏まえ、以下の4つの見える化に順次取り組んでおり、現在は、「経営」と「生産」の見える化を富士通のICTを活用し、実施しています。

  1. 「経営の見える化」
  2. 「生産の見える化」
  3. 「品質の見える化」
  4. 「販売の見える化」

「経営の見える化」は、農作物の収穫量や出荷情報(出荷先・販売金額など)、作業実績(播種、農薬・肥料の散布、収穫など)を、従業員がパソコンやスマートデバイスで記録することにより、圃場ごとの生産コストや利益を算出・管理しています。「生産の見える化」では、従業員がスマートデバイスのカメラを利用し、圃場の様子を写真で登録。リアルタイムに確認するだけでなく、スマートデバイスのGPS機能により、写真を撮った場所の情報を自動的に記録して分析に活用しています。

【図1】見える化を実現する農業クラウド
【図1】見える化を実現する農業クラウド
出典:イオンアグリ創造株式会社様ご提供資料

「見える化の中でも産の見える化に関しては、スマートデバイスを活用するか否かは別として、イオンアグリ創造以外でも多く実施されていますが、経営の見える化によって、キャベツ1個分のコストを算出できるのは、イオンアグリ創造のみとなっています。」と福永氏はおっしゃいます。

この「経営の見える化」実現にあたっては、まず、農場における生産サイクルの業務をPlan、Do、Check、Actionで定義しました。業務の中でも、種苗や資材を多く発注してしまうことで発生する「保管」や「廃棄」「仕分」といった作業を負の作業として定義。これによって、「資材を余分に発注することによって、仕分け作業や保管といった業務が増えること」や「苗を植えようとしても天候のために保管しなければならない場合もある」といったことを認識することで、無駄な人件費や作業の抑制につなげています。

【図2】農場における生産サイクル
【図2】農場における生産サイクル
出典:イオンアグリ創造株式会社様ご提供資料

また、これまでの一般的な農業では、Plan、Doを実施するばかりで、「できてよかった」で終わってしまうことが多かったのですが、ICTを活用し、各農場から様々な情報を取得することによって、収量分析を実施しています。これによって、何が原因で収量が取れなかったのかということもわかりますし、各農場で作る農作物を判断するのにも使うことができています。例えば、小松菜の場合、10a(=10㎡の面積)当たり最低1トン採らないと収益が上がらないのですが、この数値を下回っている農場があれば、土壌の状態等を考慮し、小松菜ではなく、ほうれん草を作るようにするといった判断を行うことができるのです。

さらに、一般的には肥料の単価や人件費、誰が、いつ、どこまで収穫したのか等の情報を入力することはないため、キャベツ1個のコストを把握することはできませんが、イオンアグリ創造では、これらの情報も入力することで、収穫の時期等に応じたキャベツ1個のコストを把握することができるようになっています。もちろん、キャベツ1個のコストを把握できたからといって、台風が来たら作物はすべて駄目になってしまうこともあるのですが、台風の後、もう一度そこで育て直すか、他の農場で育てた方が効率的なのか、といった判断材料にも使えるのです。

このように、経営、生産の見える化を愚直に実施し、農場における生産サイクルのPDCAを回すことで、今では生産性、効率性が高い上に、プロ並みの農作物が作れるようになってきています。

5. DREAM実現に向けて

イオンアグリ創造では、見える化の取り組み以外にも、イオングループである強みを生かし、様々な取り組みを実施しています。

  • 店舗配送網を活用した物流コストの削減
  • イオンの従業員食堂での3R(*2)への取り組み
  • イオンという販売店舗を持つことによる、生活者のニーズや生活の実態情報を農場にフィードバックした生活者が求める農作物の提供

今後は、イオングループの販売、加工、金融、物流といった様々な事業とイオンアグリ創造の生産(農業)をICTでつなげることで、グループの強みをさらに生かしていきたいと考えています。

「私は、夢ははかないもの、かなわないものといった意味合いが強い日本語ではなく、あえて、夢をかなえるという意味を込めてDREAMという英単語を使うようにしています。」と、福永氏はおっしゃいます。

「イオンアグリ創造は、今後もイオングループの強みとICTを活用した企業農業の見える化をベースに、イオンアグリ創造設立時に設定した取り組み課題や農地の確保が難しい、収入が不安定、スキルが不確実、ビジョンが無く単に生活のために働くといった就農の壁を壊す、全く新しい企業農業スタイルの実現というDREAMに向けて邁進していきます。」と、力強く語ってくださいました。

“Another Aspect”

生産・小売業の社会的使命としての新たな農業スタイルの確立
2005年9月に規制緩和の一貫として、株式会社による農地リース方式が認められ、これまで小売業を中心に行われていた農家への委託形態ではなく、株式会社が農業の経営にまで踏み込んだ管理が行えるようになった。これを機に、民間企業による本格的な農業参入が進んだが、すべての企業が成功しているわけではない。中には、参入したものの農作物の安定的な供給やコスト管理の難しさに、物流等の不備も加わり、農業事業を断念せざるを得ない企業もあった。そのような中、イオンアグリ創造も、農地をリース方式で借り入れて従業員自らが直接農業を実施するという、時間や手間がかかる形態をとった。実際、福永氏が説明しているように、キャベツに病気が蔓延して収穫が全くできなかったというような苦労を重ねている。
あえて手が掛かるアプローチをする背景には、イオングループがPB製品の開発やITを駆使した独自のサプライチェーンの仕組みづくりに取り組み、小売業の社会的使命である「消費者代位機能」として流通過程の合理化によるコスト削減や商品価値の最大化を自らの手で推進してきたことがあるのではないだろうか。さらに、イオンアグリ創造が農作物の生産に携わることによって、イオングループは、小売業の社会的使命にとどまらず、若者や農業を一度諦めたシニアの方々が生産者として農業事業へ参画できる扉を開き、地域の活性化にも貢献するようになっている。

今後、イオングループは、イオンアグリ創造を発展させる形で、政府が推進する農地の大規模化、見える化による合理化と若者やシニアの参加による地域の活性化によって、農業ビジネスの新たなスタイルを確立するのではないかと考える。

【図3】一般法人の参入形態
【図3】一般法人の形態
出典:三井住友信託銀行 調査日報を参考

注釈

(*1)G.A.P : Good Agricultural Practices 農業生産の環境的、経済的および社会的な持続性に向けた取組みであり、農業生産活動の各工程の正確な実施により、安全で品質の良い食用および非食用の農産物をもたらすもの。

(*2) 3R : REDUSE(減らす)、REUSE(繰り返し使う)、RETURN(戻す)。通常の3Rでは、「RECYCLE」が使用されているが、イオンアグリ創造では「RETURN」を使用。

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柴田 香代子(しばた かよこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 ビジネス調査室 シニアリサーチアナリスト
通信・ハイテク業のお客様を中心とした新規事業・サービス企画、システム企画構想に従事。