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2014年の中国経済の行方

2014年1月15日(水曜日)

2013年の東京築地市場の初競りでマグロ1本の最高値は史上最高の1億5000万円を突破した。それに対して、今年の初競りでその最高額はたったの736万円だった。それは日本の景気を反映したものというよりも、中国方面の需要が落ち込んだ影響の方が大きいと思われる。

もともと刺身を食べる習慣のなかった中国では、今は富裕層を中心に刺身を食べるようになり、マグロなどの高級魚に対する需要は年々高まっている。特に、企業経営者が政府の幹部を接待するとき、一般的な中華料理よりもマグロの刺身や寿司が好まれる。不動産バブルを背景に、高級な飲食業もバブル化している。もちろん、企業経営者と共産党幹部の贅沢三昧に対する国民の不満と怒りは年々高まっている。2013年3月、習近平政権が誕生し、幹部腐敗の撲滅に力を入れている。その結果、主要都市の高級レストランでは、かつてのような繁盛が見られなくなり、その一部は閉店を余儀なくされている。中国国内の贅沢な消費が下火になった影響が東京の築地市場にも及んだのである。

これまで中国経済は10%成長が当たり前だった。ここに来て、経済成長は急速に減速している。では、なぜ中国経済は急に減速したのだろうか?

オーソドックスな近代経済学の枠組みで中国経済を考察しても、その急な変化を説明することはできない。そもそも中国経済のファンダメンタルズは言われているほど悪化していないはずである。供給サイドをみると、労働の供給と資本ストックのいずれも大きな落ち込みは確認されていない。短期的な景気変動を説明するには、需要サイドを考察する必要があり、一般家計の消費が盛り上がっていないことは確かである。輸出についてはアメリカ市場を中心に先進国の消費が徐々に回復していることから、中国にとって外需はそれほど弱くないはずである。中国経済成長の内実を解明するには、それを詳しく考察する必要がある。拙稿では、まず中国経済の構造問題を考察したうえで、2014年の中国経済を展望することにする。

1. 景気変動と政府の恣意的な市場介入

中国は歴史の古い国だが、市場経済に移行してから、わずか20年程度である。中国経済の特徴は、成長する潜在性は強いが、そのボラティリティ(変動)が大きい。中国のポリシーメーカーにとっての一番の悩みは、いかに安定した成長を実現するかである。景気がハードランディングを繰り返すことは投資家にとって大きなリスクとなる。景気がハードランディングを繰り返す原因は、政府による市場介入にあると思われる。

振り返れば、計画経済では、政府は企業経営と市場取引を直接コントロールしていた。「改革・開放」政策により、政府は直接市場をコントロールできなくなった。今、国有企業を含めて企業の仕入れ、生産と販売は、いずれも企業自身の責任で決めることができる。もちろん、製鉄所や発電所の新設といった大きなプロジェクトについては、政府の許認可を得る必要がある。35年に及ぶ「改革・開放」政策を紆余曲折も経ながら模索したのは、政府の市場介入を減らし、市場メカニズムが機能する市場環境を整備することである。

2013年11月に開かれた共産党中央三中全会で採決された決議では、「市場メカニズムが機能するように改革を深化させる」と明記されている。この意味深い決議は、中国では市場メカニズムが依然十分に機能していないことを裏付けている。ここで、政府が恣意的に市場介入を行っているから市場メカニズムが機能しないのか、それとも、市場メカニズムが機能しないから政府が市場介入を行わざるを得ないのか、をはっきりさせる必要がある。

中国政府寄りの保守派エコノミストは、市場の失敗を未然に防ぐために、政府による市場介入が必要不可欠であると主張する。政府・共産党も、今の社会体制について社会主義市場経済と性格付けして政府共産党の指導を誇示する。こうした中で国有企業の存在は日増しに強まっている。本来ならば、市場経済に移行する中国経済において、国有企業は電力や水道といった公共性の高い産業分野に限定されるべきである。1998年、江沢民政権のときに進められた国有企業改革の指針では、国有企業の規模を縮小することがすでに確認されていた。しかし、胡錦濤政権(2003-12年)になってから、国有企業は逆に肥大化してしまった。決して極論ではないが、「改革・開放」政策は計画経済へ逆戻りしているのである。このことこそ中国経済の安定成長の障害になっているのである。

2. 改革元年になるのか

習近平政権にとって2013年はウォーミングアップの年だったのかもしれない。中国社会の現状を調査するために、習近平国家主席と李克強首相は地方を見て回った。11月に開かれた三中全会で改革を深化させる決議が採決され、12月に開かれた経済工作会議では、改革の深化が再確認された。三中全会の決議は、いわば向こう10年間の制度改革のロードマップのようなものである。経済運営に関する習近平政権の基本的なスタンスは、一時的な経済成長を犠牲にしても、改革を深化させなければならないということだ。この1年間の政権運営について、中国国内のリベラルな研究者でも、不満は残るものの、その前の胡錦濤政権の10年間の成績を凌駕するものだったとポジティブに評価している。

ただし、習近平政権が取り組んでいる改革について国民の目線から見ると、依然、確信はできていない。1つは、改革を深化させる公約が本当に実現するかどうかが疑わしい。もう1つは、習近平政権が国民に呼びかけている言葉が毛沢東時代のスローガンばかりで国民の賛同を得られていない。もちろん、このままでは、中国社会がさらに不安定化してしまうおそれがあり、改革を先送りすることができないことは明々白々である。

問題はどのようにして改革を深化させるかにある。

これまでの35年間、中国政府は経済成長を優先にしてきたが、制度改革について最も無難な分野を先に改革する代わりに、デリケートな改革をできるだけ先送りしてきた。中国のリベラルなエコノミストは、このような改革を絆創膏のような改革と揶揄している。すなわち、改革は全般的なグランドデザインに基づいたものではなく、絆創膏のような応急措置でしかなかった。最高実力者だった鄧小平は自らが推し進めた「改革・開放」政策を、渡り石を探りながら川を渡るようなものと分かりやすく表現している。しかし、市場経済の構築という橋があるのに、それをまっすぐ突き進まず、社会主義市場経済という渡り石を探る改革の意味はどこにあるのだろうか?

そもそも市場経済を資本主義のものと社会主義のものに色分けすることに建設的な意味はないはずである。資本主義の市場経済では、市場の見えざる手による調節機能を発揮させ、資源と所得を分配する。政府は監督者としての役割を果たすが、できるだけ直接介入を避けるべきである。それに対して、社会主義市場経済の中国では、政府はレフェリーであり、プレーヤーでもある。国有企業の市場独占が政府によって保護されていることで市場規律が歪められている。来たる3月初旬に、全人代が開かれる予定であるが、そこで党中央の三中全会の決議の実施に向けて法整備などが討議されると思われる。この意味からすれば、2014年は習近平政権の改革元年になるかもしれない。

3. 急がれる構造転換

これまでの35年間、名目GDP伸び率をインフレ率で割り引けば、実質GDP伸び率は年平均約10%の成長だった。しかし、外部不経済の環境負荷の悪化を算入すれば、実際の経済成長率は実質GDPの半分程度と思われる。それに所得格差の拡大、社会保障制度の未整備と幹部腐敗の蔓延を考えれば、中国社会の幸福指数はこの10年来マイナスだったに違いない。

胡錦濤政権では、中国社会の矛盾を意識して、「和諧社会」(調和のとれた社会)の構築を目標に掲げた。同政権期間中に開通した高速鉄道のすべての車両が「和諧号」と命名されている。しかし、皮肉なことに実際には、中国社会は年を追うごとにますます調和が取れなくなり、矛盾が突出するようになった。それを裏付ける指標の1つは「群体事件」(集団的抗議デモ事件)が年間18万件起きていると言われていることである。アメリカの地政学者イアン・ブレンマーは、このムーブメントを政治正当性の危機と呼んでいる。すなわち、政治家指導者の足場が脆くなっており、政治正当性の基盤が揺るがされていることから、うまくリーダーシップを発揮しにくい状況に追い込まれていると言われている。

そもそも共産党はプロレタリアートの政党であるはずだが、今、労働者と農民は政府共産党の統治に不満を感じ、それへの対抗を強めている。わずか35年間で政府共産党は自らの縁故や親族を優遇する「クローニー社会主義体制」を確立している。権力に無縁の労働者と農民はそれに不満を募っている。資源と所得分配の公平性を担保できない社会は調和が取れない。権力の分配が不公平であることは所得格差の拡大を意味し、それは社会不安をもたらす最大の原因である。

長い間、中国政府は外需依存の経済成長を内需依存のものにシフトする構造転換を呼びかけている。そのプロセスで専ら規模の拡大を追求する経済成長に代わって効率の向上を図ろうとされている。その問題意識は正しいが、その目標は未だに実現していない。結論的に言えば、政治改革を行わなければ、社会の公平性が担保されず、国民の大多数を占める低所得層の消費が盛り上がることはあり得ない。したがって、習近平政権の改革と構造転換の一丁目一番地は政治改革であり、それに本気に取り組むことができなければ、経済の持続的な成長どころか、社会はますます不安定化してしまう。

4. 2014年の経済成長

近代経済学の理論的枠組みから見れば、中国経済のファンダメンタルズは良くはなっていないが、急速に悪化しているわけでもない。心配されているのは目先の経済成長ではなく、今の成長がいつまで持続できるかである。世界経済にとって中国経済の減速は大きなリスクになる。

【図】中国の実質GDP伸び率の推移(1978-2014年)
【図】中国の実質GDP伸び率の推移(1978-2014年)
(注:2013年と2014年は推計値  資料:中国国家統計局)

2014年の中国経済を展望すれば、すでに回復に向かっている米国経済と危機を脱したEU経済を念頭に考えれば、中国の国際貿易は回復する可能性が高くなると思われる。一方、国内経済については、習近平政権はderegulation(規制緩和)とdecentralization(地方分権)を推し進めると宣言している。政府の許認可手続きが簡素化すれば、成長を押し上げる即効性が期待される。もちろん、地方分権は専制政治において必ずしも望ましい結果につながるとは限らない。なぜならば、地方政府に対するモニタリングが弱いため、地方政府のやりたい放題の姿勢は顕著になり、地方債務問題をさらに深刻化させるおそれがあるからである。

習近平政権は不動産バブルに対する懸念を繰り返し表明しているが、それを潰そうとしていない。13年下期になって主要都市の不動産価格は再び上昇に転じている。14年、不動産市場のバブルはリスク要因として管理する必要があるが、すぐさまバブルが崩壊するとは考えにくい。このことは不動産開発が引き続き経済成長をけん引するエンジンの1つであることを意味する。

ここで心配されているのは消費の動向である。経済成長を持続するには、消費を盛り上げる必要があるが、一般家計の貯蓄性向が高いままであるため、消費性向が押し下げられている。習近平政権は幹部腐敗を撲滅するキャンペーンとして贅沢禁止令を出している。その結果、ハイエンドの消費とローエンドの消費のいずれも盛り上がらない。中国経済の潜在成長率を考えれば、14年の経済成長率は8%を超えた成長を期待できないが、7%以下になる可能性も低い。おそらく7.5%前後の成長になると予想される(【図】参照)。

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柯 隆

柯 隆(カ リュウ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】:1994年3月 名古屋大学大学院経済学修士取得。 1994年4月より (株)長銀総合研究所国際調査部研究員。1998年10月より現職。専門領域は開発金融と中国経済論。
【著書】:「中国が普通の大国になる日」日本実業出版社 2012年10月、「チャイナクライシスへの警鐘 2012年中国経済は減速する」日本実業出版社 2010年9月、「2010年中国経済攻略のカギ」PHP研究所『Voice』編集部 2010年1月、「華人経済師のみた中国の実力」日本経済新聞出版社 2009年5月、「中国の不良債権問題」日本経済新聞出版社 2007年9月