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日本経済の先行きは短期楽観、長期悲観?

2014年1月14日(火曜日)

安倍政権の誕生から1年余りが経ちました。金融市場では、2012年11月の衆院解散頃から、安倍氏の「大胆な金融緩和」発言を歓迎して大幅な円安、株高が進みましたし、その後、多少の波乱はありましたが、最近は再び円安、株高方向の動きです。景気は回復傾向にありますし、物価もはっきりとプラスになって来ました。さらに、2020年の東京オリンピック開催まで決まり、国民の表情にも自信と希望が戻ってきたように感じられます。そういう意味で、この1年間の安倍政権の成果には大きなものがあったと評価しています。

1.金融緩和で何が起きたのか?

とは言え、いわゆるアベノミクスで日本経済に何が起きたのかは、もう少し冷静に見る必要がありそうです。例えば、多くの人は、「大胆な金融緩和で円安、株高が進み、株高による個人消費の堅調、円安に伴う輸出の増加が景気回復のリード役となっている」と思っているのではないでしょうか?

しかし、現実のデータが示すのは、そうした理解とは異なった姿です。まず景気回復が始まったタイミングですが、2012年のミニ景気後退の「谷」は11月でしたから、景気回復は安倍政権の成立前からスタートしていた訳です。このため、景気回復が株価上昇を促す面はあったとしても、円安や株高が景気回復のきっかけとなったという解釈には無理があります。

次に、個人消費については、ここ数年堅調なのは間違いありませんが(【図1】)、グラフを素直に見ると、必ずしも安倍政権になって急加速した訳ではないことが分かります(シニア消費の活発化といった、もう少し長期の要因を考える必要があるのでしょう)。確かに、2013年前半は特に好調でしたが、家計の株式保有の少ない日本では、資産効果だけで消費が伸び続けることはできません。結局、賃金上昇に先立つ物価高で実質賃金はマイナスとなり、2013年7~9月の個人消費は微増程度に減速してしまいました(もっとも、これには「出来過ぎ」の反動の面もあり、消費腰折れの心配はありません)。

【図1】実質GDPと個人消費の推移(08/Ⅰ=100) 【図1】実質GDPと個人消費の推移(08/Ⅰ=100)

さらに、輸出の動きはもっと残念な結果になっています(【図2】)。2012年夏から秋の世界的な在庫調整局面と比べれば、さすがに少しは上向いていますが、通常、為替レートの輸出に及ぼす影響はかなり大きいことを踏まえると、今回は大幅な円安の割に輸出の伸びは著しく鈍いという評価になります。やはり、(1)海外経済の回復テンポが鈍いことに、(2)多少の円安でも日本企業の海外生産拡大の流れは変わらないこと、(3)電機など一部の産業では競争力自体に劣化が見られることが加わって、輸出が伸びにくい環境にあるのでしょう。

【図2】実質GDP、輸出、設備投資の推移(08/Ⅰ=100) 【図2】実質GDP、輸出、設備投資の推移(08/Ⅰ=100)

ついでに設備投資も見ておくと、こちらもようやく回復の動きは始まっていますが、まだまだ低い水準に止まっています(【図2】)。円安の効果もあって、輸出産業中心に企業収益はかなり良くなっているのですが、設備投資の回復は鈍いままです。結局、企業の内部留保だけが溜まっている状態ですから、首相らが賃金引き上げを企業に求めるのも分かるような気がします。

2.景気のリード役は「第2の矢」

では、今回の景気回復のリード役は一体何なのでしょう? 実は、先の個人消費の着実な伸びに加え、足もとは公共投資が急増しているのです(【図3】)。公共事業は、小泉政権で大幅に削減されましたが、リーマン・ショック後の相次ぐ景気対策で少し盛り返しました。その後、民主党政権は「コンクリートから人へ」と再び公共投資を抑制したのですが、東日本大震災に見舞われ、震災復興事業を行うこととなりました。そこへ、安倍政権が昨年度の補正予算を大きく積み増した結果が公共投資の急増になっているのです。

【図3】実質GDPと公共投資の推移(08/Ⅰ=100) 【図3】実質GDPと公共投資の推移(08/Ⅰ=100)

こうした個人消費、公共投資主導型の景気回復の特徴は、日銀短観にも映し出されています。その1つは、非製造業中小企業の健闘です。確かに、ここ1年程の景況感改善は、円安の恩恵を受けた製造業大企業で最も顕著なのですが、DI(業況判断:「良い」-「悪い」、%)の水準を見ると、製造業大企業ではリーマン・ショック前のピークを未だ下回っている一方、消費関連や建設業の多い非製造業中小企業は、なんと20年以上振りにプラスを記録しました。また、地方の景気が良いのも大きな特徴でしょう。実際、地域別にDIを見ると、北海道、東北、九州の良さが目立っています。これは、小泉政権の頃に始まった「いざなみ景気」の時期、関東、東海、近畿といった都市部の景気が良く、不況感が強い地方との格差が拡大したのと対照的です。

それでは、「第3の矢」=成長戦略はどうなっているのでしょうか? 一口に言えば、今のところ、ここ数年毎度繰り返されてきた成長戦略と「異次元」のものは出ていないということです。少なくとも、雇用、農業、医療などに掛かる「岩盤規制」への挑戦は見送られました(だから、「成長戦略実行国会」と言われた先の国会でも、成長戦略はほとんど話題にならなかったのです)。安倍政権の成長戦略の特徴をあえて言えば、「官が前に出る」点でしょうか。企業に賃上げを求めるとか、女性の幹部登用を求めるとか、その意図には賛成ですが、法的根拠なく政府が要請するのは異例です。また、産業競争力強化と銘打って、役人が事業再編などに口を出そうとする姿勢も気になります。「民にできることは民に任せる」という構造改革の基本思想に反するように感じられるからです。

3.当面の景気は「短期楽観」

景気の先行きとなると、消費税引き上げの影響が注目されるのですが、それほど心配はないと思います。こう言うと、「前回の消費税引き上げで景気が失速し、デフレの引き鉄となったのではないか」と問われるでしょうが、97年の景気失速は、(1)消費税引き上げだけでなく、社会保障負担増や特別減税廃止、公共事業削減があったことに加え、(2)年央からアジア通貨危機が始まり、(3)秋には山一、拓銀の破綻など、国内で金融危機が勃発するといった不幸が重なった結果です。

これに対し今年は、確かに世界経済の成長テンポは引き続き緩やかでしょうが、アジア危機のような破局的な事態(米国政府のデフォルト、ユーロ解体、中国バブル崩壊?)が起こる確率は低いと思います。また、バブル崩壊に伴う不良債権を抱えていた当時と違い、現状、日本の金融システムは安定しています。ということで、もともとあまり心配するには及ばなかったところに、5兆円を上回る景気対策が実行されるのですから、当然「短期楽観」になる訳です。

なお、民間エコノミストの中心的な成長率予測(ESP調査、昨年12月)は、13年度が2.6%、14年度が0.8%となっており、「大幅減速」の印象を与えると思います。しかし、4月から消費税が上がる時に「年度」で成長率を見るのは不適切であり、これは言わば数字のマジックです。例えば、駆け込み需要とその反動で13年度のGDPが0.5%分増え、14年度が0.5%分減るとすると、成長率は13年度が0.5%上昇、14年度が1%低下で、成長率の落差はそれだけで1.5%になるのです。そう考えれば、民間見通しの落差も大きくはありませんし、国際機関などは「暦年」の見通しを出すため、例えばOECDの最新見通しは13年1.8%、14年1.5%と、文字通り「大差ない」数字となっています。

4.「長期悲観」を避けるには?

このように当面の景気見通しは明るいのですが、それは、金融緩和で長期金利の上昇を押さえ込みながら、財政支出を拡大しているからであって、ある意味当たり前です。成長戦略に関しても、国民(の一部)に痛みを強いるような構造改革は行っていません。皮肉な見方をすれば、だからこそ小泉構造改革とは対照的に、アベノミクスには大きな反対も無く、幅広いサポートが集まっているのかもしれません。

しかし、ギリシャ以上に財政事情の悪い日本で、こんな政策をいつまでも続けることはできません。「消費税引き上げを決めたではないか」と思う人もいるでしょうが、消費税率を10%にして名目3%成長を続けても、「2020年のプライマリー・バランス黒字化」の目標を達成できないというのが、政府自身の試算結果です(しかも、消費税引き上げは前から決まっていたことで、首相が新たに決めたのは5兆円超の景気対策の方です)。そこへ大胆な金融緩和が本当に功を奏してデフレ脱却が近づくなら、長期金利が上昇する結果、利払い費を含めた財政赤字は急拡大します(この問題は、金融緩和からの「出口」の難しさと併せて、以前のオピニオン「アベノミクスの先に待つ課題 -金融緩和の後始末と財政再建-」で詳しく述べました)。そう考えれば、どうしても「長期悲観」にならざるを得ないのです。

では、「長期悲観」を避けるにはどうすれば良いのでしょう? これも、別のオピニオン「岐路に立つアベノミクス:構造改革の道を進め」に書いたことですが、結局、財政依存を控える一方、構造改革を進めて潜在成長率を引き上げて行くほかに選択肢はありません。もちろん、これは国民に痛みを強いる道ですから、これまでのような「全員賛成」状態の維持は難しくなります。しかし、安倍首相には、東京オリンピック招致成功という幸運にも助けられて築き上げた大きな政治資本(political capital)があるのですから、勇気を持って改革を進めてもらいたいと思います。

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早川 英男(はやかわ ひでお)
経済研究所エグゼクティブ・フェロー
1954年愛知県生まれ。1977年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。1983~1985年米国プリンストン大学大学院(経済学専攻)留学(MA取得)。調査統計局長、名古屋支店長などを経て2009年日本銀行理事。日本銀行在職期間の大部分をリサーチ部門で過ごした後、2013年4月より現職。