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「エネルギー基本計画に対する意見」に寄せて~原発の真の必要性とは何か?~

2013年12月24日(火曜日)

2013年12月13日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において、「エネルギー基本計画に対する意見」が了承された。これは、エネルギー政策基本法に基づいて、政府が3年ごとに策定することになっている、エネルギー基本計画(基本計画)の土台となるものである。これを基に、基本計画が閣議決定されれば、福島第1原発事故後は初めてとなる。

2010年の現行基本計画は、2030年の電源構成における原発比率を50%に増大させるものであった。原発事故を経て、2012年9月に民主党の野田政権は「革新的エネルギー・環境戦略」(エネ・環戦略)として、いわゆる脱原発を掲げた。これを基に新たな基本計画が策定されるはずであったが、その直後に政権交代が起きたため、自民党政権はエネ・環戦略を「ゼロベースで見直し」、「責任あるエネルギー政策を構築する」と主張してきた。それに向けた審議会での議論の結果が、今回の「意見」である。

1. 脱原発から原発推進へ

最大の注目点は、原発の扱いがどうなるかであったが、原発推進へと大きな政策転換が明記された(【表】)。安倍政権は、かねてより原発の重要性を指摘しており、今回の「意見」は、これに忠実に沿った想定通りの内容と言える。民主党政権の政策だから「原発ゼロ」を否定したというよりも、過去の自民党政権時代の原子力政策や安全保障上の価値観、経済界との緊密な関係などに基づき、原発推進を明確にしたのであろう。

【表】原発推進への政策転換
政権 民主党・野田政権 自民党・安倍政権
決定時期 2012年9月 2014年1月?
政策名 「革新的エネルギー・環境戦略」 「エネルギー基本計画2013」(予定)
原発の位置づけ 「2030年代に原発稼動ゼロ」 「基盤となる重要なベース電源」
再エネの位置づけ 「グリーンエネルギー」の最大限導入 「様々な課題が存在する」エネルギー源
国民的議論 公聴会、討論型世論調査

その理由として、原発は「準国産エネルギー」(エネルギー安全保障)であり、「運転コストが低廉で変動も少なく」(経済性)、「運転時には温室効果ガスの排出もない」(環境適合性)ことから、いわゆる3つのEを全て満たすとの、従来からの主張が展開されている。特に今回の「意見」では、電源の化石燃料への依存度が9割になり、それに起因する輸入燃料費の増加が3.6兆円(2013年度試算)に達するなど(*1)、電気料金の上昇やエネルギー自給についての危機感が強調されており、これらの解消のためには、経済性に優れた原発が不可欠と指摘されている。

他方、各電源の数値目標となる、2030年時点などの電源構成は示されなかった。これについては、「原子力発電所の再稼動、固定価格買取制度に基づく再生可能エネルギーの導入」などが、不透明だからと説明されている。しかし最大の理由は、原発依存度を3.11以前の状態に戻し、さらに増加させる選択肢を消さないためであろう。

昨今の小泉元首相の発言に対するメディアの反応を見ても、脱原発支持が少なくない国民感情を慮れば、原発依存度を「可能な限り低減させる」という、選挙などで訴えてきた旗を降ろすわけにはいかない。「意見」の中では、「可能な限り低減させる」とのフレーズはあるものの、その具体的な方策や計画は示していない。現時点では増やすとも減らすとも明確なことを約束せずに、政策決定を先送りし、もう少し時間をかけて国民感情や国際動向を見極めてから、より積極的に原発推進に舵を切りたいのではないか。「基盤となる重要なベース電源」として、「必要とされる規模を確保する」と、定性的に表現すれば、新増設の可能性も含まれており、政治的には十分ということなのだろう。

2. 再生可能エネルギーの優先順位の低下

これとは対照的に、3.11後、高い期待の声が高まっている再生可能エネルギー(再エネ)については、その優先順位が大いに低下した。原子力、石油、天然ガスが、「重要な」電源・エネルギー源と表現されたのに対し、再エネは、「様々な課題が存在する」「有望な」エネルギー源と定義されたことは、象徴的である。「今後3年程度」導入を加速、「経済性等とのバランスのとれた開発」、「更なる技術革新が必要」など、3.11以前の期待度に戻った感がある。

その最大の理由は、総合的に見たコストの高さのようだ。太陽光は、「中長期的に」「コスト低減が達成され」ても、「昼間のピーク需要を補」う位置づけに過ぎない。風力は、「大規模に開発できれば」「火力並」だが、「系統の整備」、「蓄電池の活用」などの「経済性も勘案し」なければならない。地熱も、「開発には時間とコストがかかる」と、コスト上の課題が詳細にわたって指摘されている。

このような認識を受けて、今回の「意見」では、再エネの固定価格買取制度について、「エネルギー基本計画改定に伴いその在り方を総合的に検討し、その結果に基づいて必要な措置を講じる」と明記されている。要するに、全体としてのエネルギー・コスト低減のために、再エネへの支援策を縮小することを示唆している。世界的な再エネの導入ブームの中で、長らく日本は大きく取り残された状況にあったが、ようやく3.11後に再エネ特措法が制定され、2012年7月から固定価格買取制度が開始された。それが早くも、3年間の集中導入期間(再エネ特措法附則3条)すら終わる前に、逆方向への布石が打たれたのは、想定外であった。

このような政策転換は、昨年来盛り上がりつつある再エネ分野への投資意欲を冷ますには十分であろう。欧州では、政府のコミットメントとなる再エネ導入目標を設けることが一般的だが、これに踏み切らなかったことも、ブームの鎮静化に寄与するだろう。この1年間で、日本ではメガソーラーなどへの新規参入が相次いでいたが、一方で再エネ事業者からは、どこまで政府が本気か分からず、投資拡大を躊躇する声が上がっていた(*2)。将来的な電源構成を明示しなかったのは、原発新増設の明確化を先送りするだけでなく、再エネ推進政策を曖昧化する効果もあったのではないか。

3. 電気料金と原発のコスト

確かに、電気料金の抑制は極めて重要な問題である。今回の基本計画の改定に当たり、政府は、エネルギーの安定供給とコスト低減を特に重要なポイントとすると表明してきた(*3)。「意見」の冒頭で、固定価格買取の負担について詳しく解説してある通り(*4)、例えば再エネの導入には賦課金というコストがかかる。しかし、「意見」を全体として見れば、再エネは高く、原発は安いといった解釈に基づいているようだが、これは必ずしも正しくない。なぜなら、昨今の電気料金の上昇の多くは、原発が主因だからである。

原発が過酷事故を起こし、ドミノ式に停止しているから、それを補うための燃料費がかさんでいる。原発は1基当たりの設備容量が大きく、一度停止すると長期間稼動できないことが多いため、財務的に不安定な電源である。2007年の中越沖地震の影響で、東京電力の柏崎刈羽原発が長期間にわたって停止したように(*5)、過酷事故でなくても同様の事態は近い将来、起こり得る。

では、再稼動すれば問題は解決するかと言うと、事はそう簡単ではない。そのための追加安全対策は、既に1.7兆円に達したとされ、「今後もさらに膨らむのが確実」という(*6)。これまでにも電気料金から、毎年1000億円以上の交付金が、「電源立地地域対策」として立地自治体に支払われてきたが、3.11を経て地元の了承は難しくなるだろうし、その対象が「被害地元」として拡大する動きも見られる(*7)。無事稼動できたとしても、損害賠償保険が全く足りないことが、今回明らかになった(*8)。事故に備えて何兆円もの保険金を用意するには、多額の保険料が必要になるが、その「一般負担金」も新たに総括原価方式の料金原価の対象となった。

そして過酷事故が起きれば、そのコストは等比級数的に跳ね上がる。福島原発の事故賠償費用として、既に3兆円以上が政府から東京電力へ支給された。数兆円単位で発生する除染費用についても、1兆円といった国費を投入するという話がなされている。これらの上に、以前から見通しのついていない放射性廃棄物処理まで加えれば、原発の真の経済性が極めて低いことは疑問の余地がない(*9)

4. 原発の経済性に対する内外の認識

原発が高コストで経済性が低いことは、少なくとも先進国では常識である。だから、自由化が進んだアメリカでは過去30年間、イギリスでも20年間、原発の新設はない。何十年も前に造った減価償却が終わった原子炉を、いかに安全に動かし続けるか、あるいは止めるべきかという議論をしているのが、先進国の原発政策の実態である。そして、フランスやフィンランドといった数少ない新設を進めている国では、安全対策の強化による建設コスト増と作業の遅れが問題になっている。

それでもイギリス政府は、エネルギー安全保障や地球温暖化対策の観点から、3.11後も原発を推進すると決断した。そのため新規の原発を固定価格買取の対象とし、15.7円/kWhで35年間という長期間の事業者収入を保証しようとしている(*10)。その決断には賛否両論があり、イギリス国内でも議論となっているが、それだけのコストを払わなければ原発を維持できないというのが、原発推進派を含めた共通認識なのである(*11)

原発が安いという日本の「神話」に対して、3.11後に経済学者などから強い批判が寄せられた(*12)。民主党政権の国家戦略室にはコスト等検証委員会が設置され、火力や再エネも含めた多数の電源を対象とし、外部性を含む真のコストについて抜本的な議論が行われた。もはやコストに関する「神話」は崩壊したかと思っていたが、今回の基本政策分科会では、原発の真の経済性について本質的な議論がなされた形跡はない。その結果、「意見」では、あれだけ電気料金の上昇の問題について力説しながら、ただ原発は「運転コストが低廉」(強調筆者)と、表面的な指摘で素通りしている。確かに文字通りの運転部分に限定すれば、原発は安いと言えるかもしれない。しかし、それ以外の外部コストが莫大であることを分かっているからこそ、このような表現をしたのであろう。

それ以上に筆者が注目したのは、次の一文である。「電力システム改革によって競争が進展した環境下においても、原子力事業者がこうした課題に対応できるよう、海外の事例も参考にしつつ、事業環境の在り方について検討を行う」。この分かりにくい文章が意味するところは、今後大量の廃炉や安全対策、放射性廃棄物処理のため、原発には莫大な追加コストが発生する。それらは、自由競争下に置かれることになる原発事業者に大きな負担となるため、別途イギリスのような支援策を講じるということだ。実際に政府は、原発資産の一括償却や廃炉費用の積み立て不足(*13)について、総括原価方式の電気料金から長期的に賄えるよう、電力会社の会計規則を変更した。原発を続けるには市場ベースでは賄い切れないコストがかかることを、実は政府も重々認識して、予め手を打っているのである。

5. 原発の真の必要性とは?

政権交代したのだから、政策が大きく変わることはやむを得ない。むしろ、民主的な政治プロセスの結果とすら言えるかもしれない。従って、日本もイギリスのように、例えば地球温暖化のために原発を推進するという議論はあっても良い。重要なのは、原発の真の必要性を政府が明確に国民に説明するとともに、それに伴う負担も明らかにすることである。双方が分からなければ、国民は判断のしようがない。

このように考えた時、今回の審議のプロセスには大きな問題があると言わざるを得ない。即ち、未だに原発は安いという「神話」を持ち出し、電気料金を下げるためには、経済成長のためには、原発は不可欠という理屈で正当化しようとしている。短期的な問題である再稼動であれば、表面的には電気料金の抑制に寄与する可能性もあるが(*14)、そもそも基本計画とは、「長期的、総合的」(エネルギー政策基本法12条)なものであり、20年、30年後が議論の対象である。このように不安定でハイコスト・ハイリスクな電源を、「基盤となる重要なベース電源」と位置づけるのは、「責任あるエネルギー政策」と呼べるのだろうか。

それでも原発には、推進するだけの必要性があるかもしれない。「意見」の中でも、「エネルギー安全保障の強化」や「温室効果ガス排出の抑制」といった点が触れられている。しかし、これらの点をあまり強調し過ぎると、再エネの優位性が高まってしまう。原発は「準国産」と言われてきたが、核燃料サイクルを実現していない段階では、「純国産」である再エネに太刀打ちできない。また環境適合性については、温室効果ガスの問題とは別に、放射能汚染という多大なる負荷が明らかになってしまった。再エネを否定しつつ原発を復権させることを目的として逆算すれば、「コスト低減」や「安定供給」(出力の非変動性)を前面に出す必要があったのではないか。

福島原発事故の最大の反省点は、国民が必ずしも与り知らないところでエネルギー政策が決められ、いくつもの「神話」が形作られたことであった。特に政府が推進しようとしている原発については、国民の信頼の回復が極めて重要な条件となることは、「意見」でも指摘されている通りである(*15)。だからこそ民主党政権下では、審議会の議論を基にして、いわゆる3つの選択肢を提示した上で、全国各地で公聴会を行うとともに、討論型世論調査も試みた。これですら不十分との批判があったが、今回の基本計画については、来年1月に閣議決定すると言われており、定例のパブリックコメントを除けば、国民的議論が行われる予定はない。「意見」の最後に、「エネルギーに関する国民各層の理解の増進」という節を付けただけでは、「エネルギー政策の立案のプロセスの透明性を高め、政策に対する信頼を得ていく」ことは、とてもできないだろう(*16)

最近の国政選挙で与党が圧勝したという事実だけで、十分な争点にならなかったエネルギー政策について、大きな方向転換を正当化できるのだろうか。あるいは、「動機付けとリスクに関する正しい理解を得」た時、本当に国民は今回の内容に沿った基本計画を支持するのだろうか。これから安倍政権のエネルギー政策の進め方が、そして我々国民の判断が、本格的に問われることになる。

注釈

(*1) : ただし、想定されている発電量は3.11以前の数値であり、3.11後の節電を踏まえた実績値をベースにすれば、焚き増し量は3分の2程度に減少する。また、化石燃料の輸入総額の増加には、燃料単価の高騰(原油および粗油が31.2%、LNGが38.7%:2010年度比の2012年度の数値)の影響も大きい。アベノミクスによる円安が効いていると思われる。

(*2) : そのため、例えば自然エネルギーの普及に熱心な自治体や関連企業などの集まりである自然エネルギー協議会は、かねてより政府に対して「自然エネルギーの導入目標設定」を求めてきた。

(*3) : 例えば、2013年2月28日の安倍総理による施政方針演説、5月15日の参議院予算委員会における茂木経産大臣の答弁。

(*4) : 現在の年間の負担は、「国全体で3500億円」であり、さらに「今後増加していく」。

(*5) : その結果、東京電力は1776億円の当期純損失(単独:2008年3月期)を計上した。2009年3月期も、安全対策の遅れなどにより1131億円の純損失であった。

(*6) : 日本経済新聞(2013年12月1日)。当初想定が10か月間で倍増したとのこと。

(*7) : 例えば、2013年4月に滋賀県は、関西電力などと原子力安全協定を締結した。福井県に立地する大飯原発などが対象となっている。

(*8) : 1961年に制定された原子力損害賠償法では、最大で1200億円の保険金が支払われるが、福島原発事故後に新たに原子力損害賠償支援機構法が制定され、最大で5兆円が交付されることとなった。これでも不足する見込みであるため、上限を9兆円に引き上げることが検討されている。

(*9) : コストが高いというだけでなく、それが最終的にいくらになるか分からないという点も、経営上は致命的である。

(*10) : 英エネルギー気候変動省の発表によれば、2018年度時点の買取価格として、陸上風力は15.3円/kWh、大規模太陽光は17円/kWhに設定されている。ともに買取期間は15年間である。これに対して、原発の15.7円/kWhは2023年度時点の予定価格であり、今後のインフレなどによる価格調整も行うという。すべて、£1=170円で換算。

(*11) : 固定価格買取の対象となる予定の、原発事業者EDF Energyに対する筆者のインタビューによれば、原発はコスト高であるため、政府がここまで保証しなければ新規建設に参入できないとのこと。

(*12) : 例えば、大島堅一『原発のコスト』(岩波新書)を参照のこと。

(*13) : 経産省の試算によれば、国内の全原発を即時廃炉にすると、4.4兆円の特別損失が出るため、複数の電力会社が債務超過に陥るという。

(*14) : 短期的にも、現状の電力会社の会計上そうなるだけであって、事故賠償保険料の負担や放射性廃棄物処理の負担を正確に反映すれば、即ち、総合的な国民負担を考えれば、エネルギー・コストが下がるか疑わしい。

(*15) : 例えば、「東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた広聴・広報」として、「原子力の経済性、国際動向など、科学的根拠や客観的事実に基づいた広報を推進する」と明記されているが、その具体策はない。

(*16) : 2013年12月13日の第13回基本政策分科会において、消費生活アドバイザーの辰巳委員は意見書を提出し、特に原発についての「国民の意見」が「全く反映されてはいない」と、審議プロセスを批判している。

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高橋 洋(たかはし ひろし)
【略歴】1993年 東京大学法学部卒、ソニー(株)入社、1999年 タフツ大学フレッチャー大学院修了、2000年 内閣官房IT担当室主幹、2007年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、2009年より(株)富士通総研経済研究所主任研究員。専門は電力・エネルギー政策。経済産業省総合資源エネルギー調査会委員、 内閣府参与、大阪府・市特別参与などを歴任。
【著書】『イノベーションと政治学 情報通信革命〈日本の遅れ〉の政治過程』勁草書房 2009年、『電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生』日本経済新聞出版社 2011年、「国民のためのエネルギー原論」日本経済新聞出版社 2011年、「『政治主導』の教訓~政権交代は何をもたらしたのか~」勁草書房 2012年、「自然エネルギーQ&A」岩波書店 2013年