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超高齢社会の鉄道運賃を考える

2013年11月6日(水曜日)

繁忙時の値段を閑散期より上げる価格戦略は常識だが…

ラッシュ時には車両基地を訪れても、それほど多くの車両を見かけることはないが、日中に鉄道の車両基地を訪れると、多くの車両が並んでいる。鉄道ファンにとってはたまらない風景かもしれないが、ピーク時を意識して設備投資が行われている結果、鉄道車両という設備の稼働率が下がっていることを顕著に示している風景でもある。

多くの産業において、需要が日時によって大きく異なるという事態に対して、繁忙時の値段を閑散期の値段より引き上げるという価格戦略は世間で広く認められている。ビジネスホテルは平日の値段を高く、リゾートホテルは週末の値段を高くしている。カラオケボックスは昼と夜とで値段が倍以上異なるケースも多い。携帯電話の通話料金に至っては、日中は無料というケースさえある。交通機関を見てみても、航空運賃などは時期・時間帯によって大きく運賃が異なることは、もはや当たり前である。

一方で電力や鉄道は季節によって値段を変えることはしても、時間帯によって値段が異ならないことは当然のことのように思われてきた。確かに一昔前であれば、誰がどの時間帯にどの程度利用したのかを区別することは技術的に困難なため、時間帯で値段を変えることはそもそも不可能に近かったと思われる。しかし、IT化の進展によって、時間帯別に料金・運賃を変えることは容易になったと思われる。

ここで、本稿では鉄道運賃を取り上げることとしたい。鉄道運賃はここ10年以上、物価全体がデフレ基調にあることも手伝って、大幅な改訂は行われてこなかった。一方で、IT化の進展は鉄道にも影響を与えており、「自動券売機で切符を買い、自動改札機に入れる」というスタイルから「ICカードを自動改札機にタッチする」というスタイルに大きく変わった。その結果、技術的にも時間帯別運賃を導入することが可能になったのである。

高齢化の影響で首都圏郊外では通勤客が減少する

一方で、需要面からも時間帯別の運賃が望まれるように社会環境が変化している。そもそも鉄道にラッシュ時が存在するのは、特定の時間に通勤・通学客が集中するからである。しかし、労働人口の減少や少子化に伴い、通勤・通学客は減少すると思われる。一方で、沿線では高齢者が増えることが予想されている。首都圏郊外の代表的な市の人口構成をグラフ化したものをご覧いただきたい。ここで挙げた郊外のベッドタウンでは、30年間で高齢者の人口が1.5倍程度と大幅に増加するが、もともとこれらの人々の多くは、自宅には夜帰るだけで日中は東京の会社に勤めていた人であろうと思われる。そうした人たちが退職し、通勤客が減少するのである。

  【図1】埼玉県越谷市の人口予測
出典:各市の人口予測は国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』(平成25年3月推計)による【図1】埼玉県越谷市の人口予測

  【図2】神奈川県海老名市の人口予測
出典:各市の人口予測は国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』(平成25年3月推計)による【図2】神奈川県海老名市の人口予測

  【図3】千葉県市川市の人口予測
出典:各市の人口予測は国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』(平成25年3月推計)による【図3】千葉県市川市の人口予測

現に私が話を聞いた鉄道会社では、今後の通勤客の減少や沿線の高齢化には危機感を抱いている。一方で、こうした郊外に住む高齢者に話を聞くと、よく「都心に行きづらい」という話が出てくる。現役時代には定期券が会社から支給され、休みの日もその定期券で都心に通ったが、それがなくなると都心に行くことに対するコストは金銭的なものだけでなく、心理的にも高いという。

高齢者ターゲットのピークシフト割引制度で三方一両得

そこで提案であるが、時間に拘束されない高齢者などをターゲットに、ピークシフトを意識して、日中の時間帯や休日・土日については、大幅に運賃を割り引く制度を導入してはどうだろうか?

確かに、多くの鉄道会社で日中や土曜・休日の運賃を割り引くことは回数券では行われている。しかし、関東の多くの大手私鉄では、通常の回数券では10枚分の運賃で11回利用可能であるのに対して、時差回数券(平日の10時~16時、土日・休日・年末年始のみ利用可能)では10枚分の運賃で12回利用可能、土・休日回数券では10枚分の運賃で14回利用可能と、割引率は限られている。また、ICカードを利用したものではポイント制度などと組み合わせて特定の時間帯や土・休日の利用を促しているケースも存在するが、1回乗車するごとに付与されるポイント数はせいぜい10円以下のケースが多い。(富山地方鉄道では、高齢者向けのICカードで日中に乗車した場合、200円の運賃を100円に割り引いているが、これは例外だろう。)

鉄道の自動券売機は五円玉や一円玉には対応してこなかったため、これまで運賃の改定は10円単位で行われるのが通例であった。しかし、来年春の消費増税時の運賃改定は、どうやら違うことになるようで、国土交通省もICカードについては1円単位での運賃改定を認めることになった。

国土交通省では今回の運賃改訂に際して、「ICカード運賃が現金運賃より高くならないよう現金運賃の「切り上げ」を認めつつ、事業全体で108/105以内の増収に収まるよう、定期運賃等他の券種により調整」するとしている。

しかしながら、鉄道輸送への需要が社会の超高齢化などによって大きく構造変化し得ることを考えると、運賃改定に際して、ラッシュ時を相対的に値上げし、日中は運賃の値上げを抑制するといった時間帯別の運賃制度の導入を本格的に検討するべきではないだろうか? このような時間帯別の運賃制度を本格的に導入することにより、ラッシュ時の利用者にとっては混雑緩和が期待できる。また、時間に自由が利く人(高齢者など)にとっては、より安く移動が可能となり、鉄道会社にとっては、需要を平準化して設備の稼働率を向上することが可能になるという“三方一両得”が期待できよう。

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河野顔写真

河野 敏鑑(こうの としあき)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
2006年 (株)富士通総研経済研究所入社。
2010年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。
現在、東京大学ジェロントロジー・ネットワークに参加。
専門領域は公共経済、社会保障・医療経済。