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成熟化する生保市場での生き残り戦略

2013年8月27日(火曜日)

1. はじめに

生命保険業は、世界的に見ると直近10年で保険料収入は170%に拡大している成長産業ですが、日本国内に限ると93%と縮小傾向にあり、実際に保有契約高は16年連続して減少しています。(*1)さらには、市場の閉鎖性を指摘されTPP交渉のテーマの1つに挙げられるなど、内に成熟市場での熾烈な競争、外から自由化圧力という、内憂外患の厳しい状況下にあると言えるでしょう。

今回は、改めて日本の生保業界の状況を整理するとともに、保険会社の取り組みの方向性について述べます。

2. 生保業界の現状と課題

保険自由化以降の15年間を振り返ると、日本の大手“漢字”生保会社は、あまりにそれ以前の成功体験が煌びやかだった結果、その後の変化に対し、一貫して“守り”の姿勢で取り組んで来たように見えます。それは、銀行窓販全面解禁に抗して何年も掛けた段階的なアプローチを行ったことや、構成員契約にかかる規制を維持していることなどに表れています。

一方で、その間、生保を取り巻く外部環境が大きく変わってきたことで、それに合った新しいビジネスモデルを持ち込む外資系生保や損保系生保会社は、10年前に比べて大きく成長しました。

【図1】日本の生保収入保険料の生保会社種類別推移

【図1】日本の生保収入保険料の生保会社種類別推移

その成功モデルは、プロフェッショナルのライフプランナー(以下LP)や募集人が最適な保障プランを提案する募集方法と、通販や来店型代理店などで徹底的に分かりやすく単純・安価な商品を訴求する方法に二極化しています。

こうした傾向の中で、専門的なスキルをすべての人が持っているとは必ずしも言えない営業職員は、ここ10年で20%以上も数を減らしています。さらに、それらを主チャネルとする保険会社は、将来的には大きく以下の3つの変化への対応が課題となってきます。

1つは、上記のように競合チャネルとの差別化要素が見つからず、さらに銀行チャネルや他業界からの参入も含め、直販、来店型チャネルが増加する競争環境への対応です。

2つ目は、契約者の、「もっと分かりやすく情報を収集したい」、「検索・比較して判断したい」というニーズ拡大への対応です。目に見えるモノを買う際にはインターネットで情報収集するのは日本でも当たり前になりましたが、欧米の保険業界では、アグリゲーターと呼ばれる比較サイトを経由した加入プロセスが損保では既に一般的になって来ています。

3つ目に、期待されるサービス拡大への対応です。死亡保障から生きるための保障分野へのシフトが進んでいますが、保険だけでより良く生きるサポートができる訳ではありません。先の金融審議会においても、介護や葬祭サービスなどを生保会社が現物支給できる方向性が示されています。

3. 営業職員を幹とした顧客深耕型マーケティングの実現

最近の調査によると、営業職員チャネルが他に比べて契約者に評価されている点は、「定期的な訪問がある」「マナー・態度が良い」などの項目となっています。(*2)

これら長所を伸ばし、前述の課題に対応していくためには、2つのキーワードが重要と考えます。1つは、顧客ロイヤリティの向上、つまりは“お客さまとの相互理解の深さ”の拡大と、そのための“お客さまとの適切な接点と厚み・幅”の拡大です。

【図2】大手生命保険会社の取るべき戦略の方向性イメージ

【図2】大手生命保険会社の取るべき戦略の方向性イメージ

そのためには、営業職員一人ひとりが個で活動するスタイルから、営業職員を中心に位置づけつつITを駆使して複数のチャネルでお客さま対応していく新たなビジネスモデルを、いち早く構築していくことが重要となってきます。

そして、そのモデルには、複数チャネルの情報統合と、それを横断したプロセス・コントロールの実現が必要な機能となります。

実は米国の小売・流通業界では昨年来、「オムニチャネル・リテイリング」という概念が提唱されてきています。

【図3】Evolution of Customer-Retailer Touch Points

出所:NRF Mobile Retail INITIATIVE, 「Mobile Retailing Blueprint V2.0.0」(*3) 【図3】Evolution of Customer-Retailer Touch Points

これは、デジタルとリアルをシームレスにつなぎ、顧客ロイヤリティを高めていくという考え方です。従来、保険会社で進められて来た「マルチチャネル」は、単にお客さまがアクセスしやすいそれぞれのチャネルの用意にとどまっていますが、それをすべて統合し、つなぎ合わせていくという点が異なっています。

保険会社が様々なチャネルの大量データを統合・分析し、適宜・適切なタイミング、接し方を適切なチャネルに球出しするオムニチャネル・マーケティングにおいて、その役割をきっちり果たせる対面チャネルは営業職員が最適であると考えます。なぜなら、フルコミッションのLPや乗合代理店では、他チャネルと連携する業務スタイルがなかなか馴染まないことが想定されるためです。

適宜・適切なコンタクトにより顧客ロイヤリティを高めていく生保オムニチャネル・マーケティングを実現する上で重要な技術要素は、各チャネルや入手可能なソーシャルデータを組み合わせて顧客毎に管理する統合的な顧客データ管理と、予め設定した標準業務プロセスの効果を常に把握した上で再構築するデータ分析技術となります。

4. おわりに

保険自由化以降、守勢に回ってきた営業職員を主チャネルとする保険会社は、ビッグデータ活用技術やソーシャル・ネットワーク、各デジタルチャネルの進化を背景に、それらを統合し、改めて営業職員を中心に据えることで、新たな保険募集スタイルを構築するチャンスを迎えています。

ただし、このビジネスモデルの要諦は、常に最適化を目指してデータに基づきプロセスの仮説検証を繰り返し続ける点にあります。積極的に変わり続けるという文化の変更に、いち早く取り組んだ会社が、新たに日本起点の生保募集スタイルを構築できるのです。

私ども富士通総研では、技術要素や他業界事例を参考にしつつ、このビジネスモデルの確立にお役に立っていきたいと考えています。

注釈

(*1)スイス再保険, sigma report
※世界市場は米ドル建て、日本の市場規模は円建てで換算

(*2) : 生命保険文化センター, 平成24年度 生命保険に関する全国実態調査

(*3) : NRF Mobile Retail INITIATIVE, 「Mobile Retailing Blueprint V2.0.0」
http://www.nrf.com/modules.php?name=Pages&op=viewlive&sp_id=1323

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桑崎喜浩

桑崎 喜浩(くわさき よしひろ)
株式会社富士通総研 金融・地域事業部 シニアマネジングコンサルタント
1993年 富士通株式会社入社、同年 株式会社富士通システム総研(当時)へ出向。
保険会社向け業務改革構想策定支援、新販売チャネル企画支援、契約管理システム再構築PMOなどに従事。