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  4. 中国企業の台頭は持続するのか

中国企業の台頭は持続するのか

2013年7月19日(金曜日)

1. 中国企業の実力への疑問

中国企業の台頭は、米国『フォーチュン』誌が世界企業の売上高(ドルベース)に基づき、毎年発表している「フォーチュン・グローバル500」というランキングに表れている。1996年にランクインした中国企業は2社しかなかったが、2001年のWTO加盟後、ランクインする企業が増え続け、近年増加のペースが速まってきている。2013年(2012年の経営実績に基づく評価)は85社に達した。しかし、世界有力企業の収益性ランキング、研究開発支出/売上高比ランキング、労働生産性ランキングを検証すれば、量的指標(売上高)に基づくランキングほど、中国企業の台頭は見られない。例えば、EU委員会の調査(2011年)によると、世界のR&D投資最大企業1,400社のうち、中国企業は19社しかランクインしておらず、米国487社、EUの400社、日本の267社より遥かに少ないし、台湾の50社、韓国の25社にも及ばなかった。

もっとも、『フォーチュン』誌のランキングは同時に、企業の利益総額、純資産・総資産、利益率、企業の地域分布なども公表されているので、このランキングで公表されたデータを分析することによって世界の成長地域や、企業の成長性、収益性、安定性などが読み取れる。また、政府主導の経済運営を行っている中国では、企業の資本構造や産業政策も企業経営に大きな影響力を持っており、プラスかマイナスの効果を与えている。中国のマクロ経済のトレンドやランクインした中国企業の公表データを検証することで、中国企業の台頭が持続するかどうかが見えてくる。

2. 大企業数:日中逆転から米中逆転も?

1995年に開始された「フォーチュン・グローバル500」にランクインした米国企業の最高記録は2002年の197社であった。日本企業では、1995年の149社が最高記録となった。両国ともピークに達した後は、後退の一途を辿った。

【図表1】が示すように、ランクインするその他の国々の企業は小幅な変化に止まっているが、唯一の例外は中国だった。2012年にはランクインする企業数が12社も増えて69社となり、日本の68社を超えた。2010年には日中GDPの逆転が生じたが、2012年にはミクロレベルの大企業数についても日中逆転が生じた。

2013年の評価では、中国企業は16社も増えたが、米国企業数は足踏み状態で、日本企業は6社も減った。また、世界大企業トップ10内に中国企業は3社(4位、5位、7位)入った。日中間の差は広がっており、米中間の差は縮まってきている。一部のメディアやコメンテーターは、中国経済が深刻なハードランディングをしない限り、あと2、3年でランクイン企業数で米中が逆転する可能性もあり得るという予測も出ている。

しかし、中国国内の経済・経営環境が悪化しており、上述の予測は楽観視過ぎるため、米中企業数の逆転は短期的ではなく、長期的な仮説となろう。

【図表1】「フォーチュン・グローバル500」における主要国・地域の企業数変化(社)
出所:「フォーチュン・グローバル500」Web
 米国   中国   日本  ドイツ  韓国   台湾  インド ロシア ブラジル
2013年 132 85 62 29 14 6 8 7 8
2012年 132 69 68 32 13 6 8 7 8
2011年 133 58 68 34 14 8 8 7 7
2010年 139 43 71 37 10 8 8 6 7
2009年 140 34 68 39 14 6 7 8 6
2008年 153 26 64 37 15 6 7 5 5
2007年 162 22 67 37 14 6 6 4 5
2006年 170 19 70 35 12 3 6 5 4
2005年 175 15 81 37 11 2 5 3 3

3. 前提条件となっている高度成長の終焉

中国企業の量的拡大が実現できたのは、マクロレベルで中国経済の量的拡大が続いてきたからである。それは、これらランクインしていた企業がエネルギー・資源(19社ランクイン、以下同)や鉄鋼・有色金属(9社)、金融(13社)、自動車(6社)、社会インフラ・エンジニアリング(10社)、総合商社(5社)、通信(3社)、防衛(3社)などの規制分野や上流産業、装置産業に偏っており、国内市場に大きく依存しているからである。通信機器メーカーである華為技術やパソコンメーカーであるレノボのようなグローバル企業は少数に止まっている。これから「フォーチュン・グローバル500」の候補企業も内需企業が多く、経済成長が大きく低下すれば、これら候補企業の規模拡大の見通しは消滅してしまう可能性が高い。

【図表2】が示すように、中国では、30年にわたり年平均10%前後の高度成長が実現できたが、様々なリスクも伴った。実際、これらリスク環境は改善されることなく蓄積され、新規リスクの内容も加わり、その深刻さはむしろ増してきている。例えば、汚職問題、地域・所得格差問題、エネルギー・環境問題、食品安全問題、コスト上昇問題、生産年齢人口減少と高齢化問題など中長期的に取り組まなければならない諸問題が横たわっている中、サブプライム危機対応のために採った超金融緩和政策の下で行われた大規模投資は、超過剰生産能力や収益の見込めないインフラを形成させてしまっている。世の中に溢れた流動性資金は不動産市場に流れ込み、バブルを大きく膨らませた。

頂点に達した矛盾を解決するために、中国当局は、経済成長のペースをスローダウンさせて7.0%前後の安定成長を維持しながら、構造改革を実現しようとしている。つまり、中国企業は成長率の低下の影響を受けざるを得ない。当局も量から質への戦略転換を図っている。こうして、中国企業の急速な台頭を支えるマクロ的な高度成長という前提条件はすでになくなってきている。中国経済の高度成長はもう終焉しているのだ。

【図表2】リスクと並存した中国経済の高成長 【図表2】リスクと並存した中国経済の高成長

4. 過剰投資、高いレバレッジ経営モデルの行き詰まり

中国企業が量的拡大できたもう一つの背景は、負債経営、つまりレバレッジ比率(総資産/株主資本)を高めてきたことであろう。『フォーチュン』誌によると、2013年のフォーチュン・グローバル500企業のレバレッジ比率は8.35倍であるのに対して、中国企業は8.67倍、米国企業は6.65倍であった。また、金融業を除いた場合に、中国企業は4.42倍であるに対して、米国企業は2.79倍しかなかった。つまり、2008年の金融危機以降、米国企業ではデレバレッジ(Deleverage)が進んでいたが、中国企業は高いレバレッジ経営モデルを改めてこなかった。

もっとも、【図表3】が示すように、中国企業がすべて過剰負債経営を行っているわけではない。むしろ資本蓄積の少ない一部新興企業が高レバレッジ経営を行っている現状が見て取れる。ただし、中国では、個々の企業よりも「合成の誤謬」による国全体の過剰投資状況が非常に深刻になってきている。例えば、化学製品の酢酸エチレンについて中国の国内需要は70万トンしかないが、生産能力は243万トンを超えている。この生産能力はアジア全体の需要である132万トンの2倍以上となっている。

世界経済の成長が冷え込んだ状態で、中国の深刻な過剰投資や高いレバレッジ経営モデルは行き詰まっており、中国当局もデレバレッジ政策を掲げ、流動性管理に乗り出している。過日の中国のインターバンク市場での短期金利の急上昇は流動性管理の結果の表われであると言えよう。ただし、過剰設備の解消、デレバレッジのプロセスは企業成長を抑制する効果があり、中国企業の非健全な「膨張」の終焉を意味するに違いない。

【図表3】日中大手企業のレバレッジ比較
出所:「フォーチュン・グローバル500」Web
中国 売上高
(億ドル)
レバレッジ(倍) 日本 売上高
(億ドル)
レバレッジ (倍)
銀行
中国工商銀行 1,336 15.59 三菱UFJ 574 26.2
通信
中国移動 969 1.72 NTT 1,289 2.36
保険
中国人寿 737 41.48 日本第一生命 636 63.36
石油精製
中国石油化工 4,282 3.07 JXホールディング 1,195 3.84
鉄鋼
宝鋼集団 457 2.18 新日鉄住金 529 3.21
江蘇砂鋼(民間企業) 346 4.86 JFEホールディング 384 2.73
自動車
上海汽車 762 2.59 トヨタ 2,657 2.92
吉利汽車(民間企業) 246 9.67 ホンダ 1,190 2.71
ICTハード
正威国際(民間企業) 296 2.00 パナソニック 879 4.27
レノボ集団 339 6.33 NEC 370 3.69

5. 打破される「独占的」な経営環境

さらに、前述したように「フォーチュン・グローバル500」にランクインした中国企業の大部分は、社会インフラや上流分野の規制産業に属しており、競争の度合いが弱く、「独占的」な利益を享受している企業が多い。中国では、1993年から「社会主義市場経済」を掲げ、規制緩和を進めて市場競争を促す政策を採っている。しかし、【図表4】が示すように、ランクインした企業は国有企業(中央政府あるいは地方政府所管を問わず)が大多数を占め、民間企業は7社しかない現状からもわかるように、政府と国有企業が二人三脚で経営運営を行っている現体制の中では、規制緩和による民間資本の参入も容易なことではない。つまり、ほとんどの産業における民間資本の参入に制度的な制約はなくなっているが、運営上は「ガラスの天井」が存在し、民間市場の参入を妨げてきたのである。

世界金融危機後、内需主導の経済運営を余儀なくされた中国当局は、民間資本による経済活性化政策のさらなる推進を掲げ、金融、通信、インフラなどの規制分野における「民間資本投資促進規則」が数多く制定された。2013年3月に登場した習・李政権では、「宏観穏住、微観放活、社会托底」(マクロ政策の安定、ミクロレベルの自由化、社会政策の充実)政策の下で構造改革が進められている。その基本は、競争環境の整備と民間活力の誘発にある。すでにエネルギー分野の民間進出、民間銀行の設立が容易になっている。

今後、企業の成長は基本的に、政府の保護よりも市場競争によって進められることになるため、実力で台頭してくるのは、より時間のかかるプロセスとなろう。

【図表4】「フォーチュン・グローバル500」にランクインした中国企業  
(注)中央は国務院国有資産監督管理委員会の管轄する中央企業、直轄は国務院直轄の企業、金融は財政部・中央匯金公司の管轄する金融関連企業、混合は、国有と民間資本がともに過半数に達していない形態。
*は2013年に新規ランクインした企業。
出所:「フォーチュン・グローバル500」Web、各社のWebなどにより筆者作成。
【図表4】「フォーチュン・グローバル500」にランクインした中国企業

以上の状況を総合すると、これまでのようなペースで中国企業が台頭してくる可能性は低くなり、華為技術のように実力で成長する企業は台頭の見込みがあるが、数はそう多くない。この意味で、英フィナンシャル・タイムズ紙の言う「他社技術依存」の中国経済は世界を買えない」には一理があり、中国企業の台頭をより平常心で見る必要があると考える。

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【調査・研究】


金 堅敏(Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。