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第5回米中戦略・経済対話を読む

2013年7月18日(木曜日)

2013年6月7-8日に米カリフォルニア州で行われた米中首脳会談は、世界の注目を集めたが、同7月10-11日には両国の主要閣僚が揃って参加した第5回「米中戦略・経済対話」がワシントンで行われた。日本の主要メディアは、両イベントに対して実質的な成果の乏しい内容であったと冷やかな見方をしているが、会談あるいは対話のプロセス、双方のスタンス、公表されたコミュニケーションなどをより詳細に検討していくと、日本にとっても無視すべきではない情報が内包されている。ここでは、米中戦略・経済対話を検証してみる。

1. 「共同閣僚会議」となった「米中戦略・経済対話」

ブッシュ政権2期目に始まった「米中戦略対話」と「米中戦略経済対話」を統合した「米中戦略・経済対話」」(U.S.-China Strategic and Economic Dialogue:SED)は、毎年開催され、2013年7月10~11日に5回目がワシントンで開催された。両国の重要閣僚を含む、それぞれ15名の閣僚ないし閣僚級が参加したので、米中「共同閣僚会議」とも言える恒例の重要イベントとなっている。

この対話で、堅調な経済回復を見せた米国と、バブル退治等で経済成長の鈍化を余儀なくされている中国とは、これまでの立場が逆転したような雰囲気に包まれた。全体として、戦略的な意味を強調し、協力を重んじる中国と、相違を引き合いに譲歩を攻め、目に見える成果を求める米国、両国のスタンスの相違が見られた。また、これまで重要なイシューとなっていた人民元切り上げ問題や人権問題などのプライオリティが低下し、両国間で緊張が高まっているサイバー攻撃問題、中国国内で顕在化した「影の銀行」問題、シリアなどの地域不安定問題をはじめ、米中二国間や地域間、ないしグローバルな新イシューが生じ、対話の領域も拡大された。

2日間にわたる「共同閣僚会議」に見合った意味のある対話になったかどうかについて、メディアでは実質的な合意が少ないと冷めた評価が多く見られたが、両国政府は対話の成果を強調している。共同で発表された対話の成果は、戦略分野と経済分野に分かれるが、戦略分野では、91項目にも及んだ。これは、第4回の50項目、第3回の48項目から倍増した。また、経済分野では、70項目の成果が発表され、第4回の67項目、第3回の64項目を超えた。

成果としての項目を見る限り、具体的な分野で中国の政策譲歩を引き出した米国の「成果」が勝るが、地域間、グローバルイシューを「対等」に話し合えたのは、「新しいタイプの大国関係」を構築しようとする中国の意に沿った形となった。

2. 戦略分野の最大成果:温暖化対策連携とサイバー分野のルール協議

戦略分野の成果は、以下の7つの分野に集約された。

  1. ネット安全、両軍交流、人権対話、大量破壊物質の非拡散、テロ対策、法律の厳格な施行、海上安全などの分野における二国間協力強化
  2. 朝鮮半島、イラン、シリア、アフガニスタン、アジア太平洋地域、中東地域、気候変動、平和維持活動などの地域・グローバルイシューへの共同対応
  3. 州政府や地方公共団体間の交流強化、グリーン協力計画の推進
  4. エネルギー政策対話、民間原子力エネルギーの研究開発や太陽光発電などを含むクリーンエネルギー協力強化
  5. 大気や水質保護の行動計画、森林管理、野生動物保護などを含む環境保全分野での協力
  6. 悪劣気候のモニタリング、農業技術開発などを含む科学・技術分野と農業分野での協力強化
  7. ヘルスケア分野での協力

戦略分野で最も成果を上げたのは、温暖化対策での連携とサイバー分野でのルール協議であると評価される。温暖化対策分野では、作業部会を立ち上げ、5つの分野を絞って協力を進めようとしている。国際的な取り組みが遅れた米中両国は、主導権を取り戻し、ビジネス分野での先行利益を確立しようとしている。また、メディアでは、サイバー分野での米中対立を強調する向きがあるが、むしろ両国間で協議されたルールはサイバー分野におけるグローバルルール制定の草分け的な役割があり、世界基準になっていく可能性がある。

3. 経済分野での最大の成果:高水準の投資協定交渉開始

2012年の米中間の貿易総額は5,360億ドル、米中にとって中国は米国の第2の貿易相手、米国は中国の第1の貿易相手となっている。また、米国の対中直接投資は700億ドル、中国の対米直接投資は200億ドル、対米証券投資は約1.3兆ドルに達している。したがって、米中関係において貿易投資イシューは常にプライオリティの高い存在となっている。

第5回米中戦略・経済対話における経済対話は、以下の4つの分野に集中された。

  1. 国内マクロ経済政策での相互点検・協調
  2. 貿易と投資自由化の促進
  3. グローバルレベルでの協力と国際ルールの制定・履行における協力
  4. 国内・グローバル金融システムの安定や制度改革

経済対話分野で最大の成果は、米中が高水準の投資協定交渉開始を進めることで合意したことである。「高水準」とは、「投資前の内国民待遇」(Pre-establishment National Treatment)と「ネガティブリスト方式」(Negative list)を原則とする約束を指す。中国は、WTOでの約束や150以上の二国間・地域間投資協定において「投資前の最恵国待遇」(Pre-establishment Most Favored Nations Treatment)は与えているが、内国民待遇については「投資後」(post-establishment)しか与えていない。また、中国は、外国直接投資に対して一部の産業を除いた産業の自由化(「ポジティブリスト」)しか交渉していなかった。「ネガティブリスト」を受け入れたことは、全産業への投資可能が基本で、リストに載せる分野だけが例外とすることを意味する。つまり、中国は、日本のTPP参加議論で言うところの「聖域なき投資自由化」(オン・ザ・テーブル)に同意したのである。

高水準の投資協定交渉開始合意に関して、ルー米財務長官は、中国が「投資前の内国民待遇」と「ネガティブリスト」を前提とする交渉に同意したのは重大な突破となったと、歓迎する声明を出したが、米業界も歓迎すると口を揃えた。他方、中国のメディアやアナリストも総じて前向きな評価を表し、ハイレベルの投資自由化は、WTO加盟と同じように「外圧」となり、中国国内の経済の効率性や競争力の強化のドライブになり得るとし、構造改革による経済・産業の高度化を最重要課題として取り組んでいる習政権の政策と軌を一にしていると見ている。

思うに、中国は、2013年6月末にTPP参加への可能性を検討すると発表して世を驚かせた。その後、中韓FTA交渉や中国豪州FTA交渉についても「高水準」の協定締結を言い出している。これは、これまで漸進的自由化に拘るスタンスを改め、前提条件を付けずに交渉テーブルで渡り合うことを決心したというシグナルではないかと考えられる。この意味で、米中投資協定における中国の取り組みが1つの試金石となろう。これは注目に値する。

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【調査・研究】


金 堅敏(Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。